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Data.75 白い翼

 おかしなことではないんだ。

 他にも【心】を持つ武器を所持しているプレイヤーがいても。

 それがトップ中のトップとなれば何もおかしくない。


「キミの相棒も見せてくれませんか?」


 頭にシロムクを乗せたアランは余裕の笑みで話しかけてくる。


「……クロッカス」


「おうよ!」


 『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を地に突き刺し、手から離す。

 すると黒い炎が噴き出し、それが消える時にはカラス形態となったクロッカスがいた。


「うわぁ! カッコいい! 黒い武器って男の子ですよね~」


「ふっ……醜い色だな」


 クロッカスに対して正反対の反応を示す二人。


「何だコイツら。さっきまでボコボコにされてたくせに、そこの白いのが出てきた途端余裕ぶってやがるじゃん」


 クロッカスが疑問をぶつけつつ煽る。


「口のきき方に気をつけろ下衆が!」


 雑な挑発なのに効果てき面。

 シロムクは相当プライドが高いみたいね。


「まぁまぁシロムク落ち着いて……」


「私も気になるわね。なぜそんなに余裕を感じさせているのか」


「別に余裕なんてありませんよ。本気を出してもあなたには勝てないと今でも思ってますよ」


「今までは本気でなかったと?」


 私の問いにアランは困った顔をする。


「……まあ、そういう事です。か、勘違いしないでくださいよ? 別にマココさんを舐めてたとか下に見てたとかじゃないんですよ。ただ『本気』というものはそう気軽に出せるものでもなく、出していいものでもないというのが持論でしてね。リスクもありますし」


「リスク……?」


「あなたに『新たな可能性』を与えてしまう……」


 何とも要領を得ない会話だ。


「よくわからないけど、今はその『本気』を出す状況じゃないの? 私は全然かまわないんだけどね」


「あー! 待って待って! 出します出しますよ! 見せたくなかったとっておきの奥の手をね。いくよシロムク!」


「このような奴らにはもったいない力ではあるが……仕方あるまい」


 アランとシロムクの体が白く発光し始める。


「ハートリンク!」

「ハートリンク!」


 二人の声が重なり、直視できないほどの光がほとばしった。


「うっ……!」


「なんだ!? 目くらましか?」


 再びブーメラン形態となったクロッカスがアランと私の間に入り光を遮ってくれた。


「攻撃なの? ダメージは?」


「いや、攻撃ではないぜ。全くダメージはない」


「じゃあ、なんなのかしら? 本当に目くらましで逃げるつもりで……」


「流石にあれだけ大見得(おおみえ)切って逃げ出したりはしませんよ」


 アランの声。

 同時に光が消え、そこにいたのは……。


接続形態(リンクフォーム)……。これが【心】を持つモノの真の力」


 ダメージを与えたはずの鎧は再生しているどころか進化している。

 分厚く装飾も派手になっていて、後ろには鳥の翼のような物も生えている。

 そして白色の中に青いラインが追加されたことで全体的に引き締まった雰囲気がある。


 顔はアランのままだ。

 若干顔の周りに飾りが追加されいるぐらい。


 剣……増えている。二本に。

 白色に金を散りばめた物と青色に銀をあしらった物。

 どちらも同じく長い。


「どうですか? これが僕たちの奥の手です。強そうでしょ?」


「……前に私も似たような姿になったことがある」


 忘れもしない『ヴォルヴォル大火山洞窟』でのヴァイトとの戦闘。

 私はクロッカスに体を乗っ取られ暴走した。

 その際、体は黒く染まり他の装備にまで影響を及ぼしたよいう。

 さらに戦闘能力も爆発的に高まる。


「『似たような姿』ですか、そうですよね。僕も知ってます……」


 アランが残念そうな顔を作る。


「はぁ……。マココさんが不完全な接続形態(リンクフォーム)になっていたことは動画で知ってました。この形態を始めて仲間じゃない人に見せるなら、何も知らずに驚いてくれる人が良かったなぁ……」


「アランや。無駄話はいい加減よさぬか」


 シロムクの声もアランの方から聞こえてくる。


「あぁ……。『な、なんだその姿は!?』とか『バ、バケモノか!?』とか驚く顔を見たかった……。本当はシロムクのフクロウ形態も知らない人に見せたかったけど、もうクロッカスくんの姿が一部で広まっちゃってるからこれは微妙か……」


「アラン!」


「はいはいわかったよ! 戦えばいいんでしょ戦えば!」


 勝手に不機嫌になってる……。


「あっ、そうそう。この白と金の剣が『白の太陽(ホワイト・サン)』です」


 アランが左手に持った長剣を軽く振る。


「んで、こっちが『青の月光(ブルー・ムーン)』です」


 右手に持ったこちらの剣もアランが軽く振る。


「……ぐあッ!」


 左肩に痛み……!

 切れたの!?


「ちぃ!」


 光をさえぎるためにブーメランになって地に刺さっていたクロッカスを引き抜き、アランから距離をとる。


「うーん、やっぱり回避も反応が良いですね。今使った【見えざる刃(インビジブレード)】は僕からも見えないんで当たるかいっつも不安なんですよねぇ~」


 見えない刃か。シンプルに厄介なスキル。不用意には近寄れないわね。

 しかし、ブーメランは遠近両用。離れた位置からでも戦える。


「別に僕も遠距離戦はできるんですけど、剣を使ってるわけですから接近戦のが良いですよね」


 私がまばたきをするほんのわずかな間でアランは目の前にまで迫ってきていた。


加速する輝き(アクセルフラッシュ)……からの!」


 アランが両方の剣を振り上げる。


照らし出(イルミネート・)される罰(パニッシュメント)!」


 左、右と順に剣が振り下ろされ、光り輝く×(バツ)の斬撃が私を切り裂く。

 あぁ、罰と×がかかってるのね……。


「きゃあああああああああッ!」


 妙に落ち着いている精神とは裏腹に体は悲鳴を上げている。

 アランとシロムクの本気……強い。

 オリヴァー以上なのは間違いない。あの時と違って何か賭けに出るための材料もない。

 ただ……ただ、一つ賭ける必要も無く確実なことがある。


「クロッカス!」

「マココ!」


 ぶっつけ本番。でも考えは一致していた。

 体が黒い炎に包まれる。


「……だからあなたには見せたくなかったんですよねぇ。マココ・ストレンジさん」


 アランのため息交じりの声が遠くから聞こえる。


「あなたに『新たな可能性』を与えてしまった」

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