Data.8 次なる冒険に向けて
「あぁ……生きて帰れました……」
「運が良かったわ……」
変異モンスターであるビッグシールドビッグゾンビを倒した私たちは、そのドロップ品である盾と不思議な宝箱を持ち、素早く帰還の魔法円で外へ脱出した。
ステータスもまだ確認していない。
盾は重くて運ぶのが大変ったけど、その頑丈さは知っている。何かの役に立つ日が来るだろう。
不思議の宝箱というのは金や銀の宝箱と少し違うけど、その二つよりレアとも言い切れないまさしく不思議なポジション。
普通の宝箱は落としたモンスターに関係するアイテムが入っているけど、不思議の宝箱は関係ないアイテムが入っている。
ただし、レアとは限らない。
落としたモンスターと関係ないだけで、どこでも手に入る低レアアイテムが入っている場合も多いらしい。
今回はアタリだと良いけどね。
「ここからどうやって盾を運びましょうか」
「……私が引きずるしかないわねぇ」
「置いて行ってもいいんじゃないですか……?」
まあ、彼女からしたら自分を一度殺した盾なわけだから、近くに置いときたくないのはわかる。
でも、貧乏性の私にレアモンスターのドロップ品を捨てる勇気はない。
何としても村へ持って帰る!
「宝箱の中に何かいいアイテムが入ってるかも。開けてみましょう」
私は不思議な宝箱に希望を託した。
直訳すると『ストレンジ・ストレージ』なワケだから、同じ名を冠する私に力を与えてくれるはずだ。
……自分でも理解できない謎理論よ届け!
――ストレンジドロップ獲得『クロスガンレット』!
――ストレンジドロップ獲得『黒い大骨』!
――ストレンジドロップ獲得『黒い大骨』!
――ストレンジドロップ獲得『黒い大骨』!
――ストレンジドロップ獲得『黒い大骨』!
――ストレンジドロップ獲得『黒い大骨』!
骨多いな!
もともと五本落とすモンスターがいるのだろうか。
それとも私の奇妙な運か。
どちらにしろ、結構軽くて頑丈そうだから防具にでも使えると思う。
問題は『クロスガンレット』。
「クロス」というアイテムに縁がある日だなぁ。
◆防具詳細
―――基本―――
名前:クロスガントレット
種類:ガントレット
レア:☆12
所有:マココ・ストレンジ
防御:15
耐久:18
―――技能―――
【クロスボウ合体】
※残りスキルスロット:2
―――解説―――
クロスボウと合体することが出来るガントレット。
素の性能も決して低くはない。
合体とは良い響きね。
アニメとか漫画でよく見る腕に仕込んだクロスボウになるって事かな?
調べてみよう。
◆スキル詳細
【クロスボウ合体】
クロウスボウとの合体を可能にするスキル。
『クロスガントレット』の場合、合体により装備者の意志をトリガーとした射撃が可能となる。
ほー、これは持っているアイテムや人によって効果が多少変わるスキルの様ね。
でも効果はほぼ想像通り。
これもアチルにあげるとしよう。
「アチル、これクロスボウ用のスキルが付いてるからあげる」
「まっ、またもらっちゃっていいんですか?」
「いいよいいよ、私使わないし。それにこれからも頑張ってもらうから」
「これから?」
「倒すのよ、道を塞いでるドラゴンゾンビを。一緒に戦ってくれる?」
「も、もちろんです! 私もその為に鍛えている訳ですから!」
ふんっふんっと鼻息の荒いアチルは『クロスガントレット』を受け取ると、装備した。
そして、右手の方に『ロットゥンクロスボウ』合体させる。
「クロスボウ合体!」
その瞬間、二つの装備が輝き、一つになった。
「か、かっこいい……」
私もそう思う。
あー、【ブーメラン合体】を持った装備ないかなー。
「ステータスを確認してみますね」
アチルが一つとなった装備のステータスを表示する。
◆武器防具詳細
―――基本―――
名前:ロットゥンクロスボウGT
種類:クロスボウ+ガントレット
レア:☆22(10+12)
所有:アチル
攻撃:22
防御:15
耐久:13(8+18/2)
―――技能―――
【腐矢】Lv2
【クロスボウ解除】
※残りスキルスロット:1+2
―――解説―――
『クロスガントレット』と合体した『ロットゥンクロスボウ』。
本来の耐久の低さを補うことに成功している。
うおぉ……合体武器っぽいごちゃごちゃステータスだ。
レアリティは純粋にプラスされてるみたいだけど、耐久は足した後割っているようね。
デザインも『ロットゥンクロスボウ』の方に合わせて、使い込まれた木製家具の様な味わい深いものになっている。
合体前は普通に鉄製のような光沢があったので、見た目からも耐久が下がっている事がわかる。
あと【クロスボウ解除】はそのまま合体を解除するスキルだったわ。
「カッコいいし、取り回しもしやすくなりました!」
新たな装備を構えてポーズをとるアチル。
使い込まれたローブや靴と相まって歴戦の戦士のようだ。
「でも、これじゃアイテムを持って帰る役には立ちませんね……」
「そうよね……」
うーん、村から荷車でも借りてきたらよかったなぁ。
「おーい! アチルー!」
「あっ、おばさん!」
村の方角から荷馬車に乗って、私にアチル救出を依頼したおばさんがやってきた。
「二人が遅くて心配してたら、婆さんが荷馬車で迎えに行けって言ってねぇ。無事でよかった……」
おばさんはアチルを抱きしめようとしたけど、その装備に驚いて動きが止まった。
「あんたそれどうしたんだい?」
「ふふっ、もう私か弱い女の子じゃないですから」
アチルは胸を張りステータスを開いた。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:アチル
レベル:8
レイス:人間
ジョブ:射手
―――装備―――
●武器
ロットゥンクロスボウGT:☆22
●防具
朽ちきったローブ:☆4
村人のシャツ:☆1
村人のスカート:☆1
古革のブーツ:☆3
―――技能―――
【弓術】Lv2
【クロスボウ術】Lv4
レベルが5から一気に8になっているので、BSBゾンビの経験値は入っているようだ。
【クロスボウ術】のレベルも4と、出会ったころに比べて見違えるように強くなっている。
「確かに強くなったようだけど、こんな危ないことはやめとくれよ。今回だってマココさんの助けが無かったら危なかったんだろ? 服がボロボロじゃないの……」
「うぅ……ごめんなさい……」
アチルも流石に反省しているようだ。
何とか生きて帰れそうだし、一件落着ね。
「マココさんもありがとね。あんたのおかげでまたアチルに会えたよ」
「いえいえ、私もいい経験になりました。その荷馬車に戦利品を乗せてもよろしいでしょうか?」
「きっと、そのために婆さんも用意させたんだと思うよ」
私たちは協力して荷車にドロップ品を乗せ、その後で私たち自身も乗り込んだ。
クエストは帰るまでがクエスト。私は周囲の警戒を怠らない。
日は落ち始めているので、早く帰らなければ夜になってしまう。
夜は昼より強力な魔物が湧くらしい。いま戦いたくないな。
そういえば、私自身のステータス確認してない。
私は馬車に揺られつつステータスウィンドウを開いた。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:13
レイス:人間
ジョブ:狩人
―――装備―――
●武器
木のブーメラン:☆1
目覚めのブーメラン:☆15+1
●防具
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
白革のグローブ:☆7
蜘蛛の腕輪:☆8
質素な靴:☆1
―――技能―――
●任意
【塵旋風】Lv2
【ブーメ乱舞】Lv1
【回帰する生命】Lv1
●常時
【ブーメラン術】Lv8
【解体】Lv6
【回復魔術】Lv1
やっぱり『魔力の目覚め』の効果が出ている!
回復まで覚えてしまったから、まさに万能武器。
魔法名は少しアレだけど……。
◆スキル詳細
【回帰する生命】
魔力で作られたハートのブーメランが失われた命を取り戻す。
レベルが上がるほど蘇生時のHP量、効果範囲がアップする。
また、発動に必要な魔力がダウンする。
リキャストタイム:0秒
アチルを助けたスキルであり、アチルのおかげで目覚めたスキルでもある。
あの状況がプレイヤー同士で起こったのなら「こいつを相手にするのはまだ早かったですかな?」「あはは、そうですな」で終わってしまう。
NPCのアチルといたからこそ、『狩人』に合わない回復と蘇生スキルに目覚めたのだ。
しかし【回帰する生命】は消費魔力が多くて、リキャストなしでも連発できない。
魔法職ではないから仕方ないね。
それにしても実りのある冒険だった。
それと同時に課題も見つかった。
次からはそれを解決し、今度は『死して蠢く者の洞窟』をクリアしてみせる!
その後、私たちは無事に日が落ちる前に村にたどり着いた。
ドロップ品はダンジョンに行く前にも利用した預け屋さんに頼んだ。
そして、アチルとまた明日会う約束をし、今日のところは別れる。
「今日は頑張ったわ。さぁ一度休憩を挟むとしますか。あと情報取集も!」
私はウィンドウを呼び出し、ログアウトを選択した。
ちょっと駆け足ですけど一日目(?)の冒険終了です。
次回は掲示板回の予定です。