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Data.70 マココVS.オリヴァー

 ◇side:マココ・ストレンジ


 オリヴァーの持つ大斧『惑星斧(プラネットアックス)』。

 その強さの秘訣は引き付ける力『引力』と弾き返す力『斥力』の相反する二つのスキルによるものだった。


 厄介なのは意外と効果範囲が広いこと。

 斧に対して私はブーメランなわけだから、それなりにオリヴァーとの距離は保って戦っていた。

 それなのに引力につかまってしまった。


 【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】で反撃を試みたのはいい。

 引力で勢いを増したあのスキルなら一撃だったと思う。

 しかし、それもオリヴァーに本能的に察せられてしまった。

 まあ待ち伏せをしてまで倒そうとした敵の最強スキルぐらい把握してるんでしょうけどね。オリヴァーのキャラが素ならわからないけど……。


 何はともあれ、斧のスキルと私のブーメランは相性が良くない。

 私の投げるブーメランは現実よりずっと素直に飛び、物にぶつかってもそれを切り裂いたり、場合によっては跳ね返って手元に戻ってくる。

 しかし、途中で外部から強い力を加えれば戻ってくるのを阻止することも出来る。

 かつて出会ったばかりで暴走する『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』をマンネンの【徹甲羅弾(てっこうらだん)】で撃ち落としたように。


 何度かスキルを喰らったうえでの答えなんだけど、あの引力と斥力はブーメランの戻ってくる力に勝る。

 つまり、考えなしにブーメランを投げるとオリヴァーにそれを奪われてしまう可能性がある。

 かといって、投げずに接近戦を仕掛けるのも危険。

 純粋に斧の方が接近武器としては秀でてるし、引力斥力はその力の発生源に近いほど効果も高いからね。

 うむむ……これ結構つらい状況だわ……。


「ハッハッハッ! どうした! もうブーメランは投げてこないのかい!? ならば……こちらからいくぞォ!」


 オリヴァーが斧で大理石っぽい宮殿の床を砕き、その破片の石を舞い上げる。

 そして、破片は地面に落ちることなく『惑星斧プラネットアックス』の周りを衛星のように回り始めた。


「それッ! それッ! それッ!」


 ぶんぶんと斧をバットのように振り、石をこちらに弾き飛ばしてきた。

 速いけど避けられないほどじゃない。


「ウオオオオーーーーッ!! 追撃のぉ! 斥力斬波(せきりょくざんは)!」


 オリヴァーは周りを回る岩がなくなった斧をさらにぶんぶんと振り回す。

 すると、こちらに飛んできている岩がスパスパっと切れていく。

 目に見えない斬撃か!

 私は反射的に『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を体の正面に突き立て、その陰に体を隠す。

 すぐに斬撃が衝突した音と衝撃がブーメラン越しに伝わってきた。


「イテッ! イテッ!」


 クロッカスの声が聞こえて、私はハッとする。


「あっ、盾に使っちゃた。ごめん、やっぱり痛いの?」


「いや、そうでもないぜ。気分気分、生き物の気分になるためさ」


「ならいんだけど……っていいのかな?」


「いいじゃんいいじゃん。それよりこの斬撃波攻撃が意外と続いてる方が問題だぜ」


 そうなのよね。


「ウオオオオオオーーーーッ!!」


 てっきり牽制程度と思っていたこの石と斬撃波の攻撃がまだ続いている。

 地面に激突したり切り刻まれたりした石の欠片が辺りに舞って土煙になり視界も悪い。


「油断はしてないわ。いつどこから彼が突っ込んでくるかわからないからね」


「さて……どうかな。あいつもマココの龍と炎を相当警戒してるみたいだからなぁ。そう簡単にインファイトの博打を打ってくるとは思えない。こっちも土煙で視界が悪いが、逆にあいつからもこっちの正確な位置が把握できてないしな」


「じゃあ、結局何が目的でこんな無茶な攻撃を続けるのかしら?」


「こっちの出方を見てるとしか言えないな。この攻撃に対してどういう反撃手段を持っているか……なんかを引き出そうとしてるんじゃねぇかな。あと俺がどれくらいの攻撃に耐えられるかとか」


「実際どれくらい耐えられるの?」


「この程度の飛び道具スキルなら全然耐久的に問題ないじゃん。おそらくあいつの魔力やスタミナが切れる方が早い。普通ならな」


「じゃあ、とりあえずこのまま待ってもいいわけか……」


 本当にそうなのかな……。

 他に何か……。


「あっ、この攻撃にもう一つ意味があるかも」


「何だ?」


「時間稼ぎよ。オリヴァーは私を倒すためにわざわざ待ち伏せしてた。だからもしかしたら他にも味方を呼んでるのかもしれないわ。海中ルートではなくて、地下ルートの封鎖班ならすぐに駆けつけることも出来るでしょうし」


「でもあいつの仲間なんて来てないじゃん?」


「地下ルートでも戦闘が起こっていてこっちに来れないとか……その理由は推測するしかないけど、なんにせよ確実に敵を倒すなら数的に有利な状況を作ろうとするのはおかしくないわ」


「熱血バカ野郎に見えて本当は冷静で狡猾な奴だったてか。ありそうな話じゃん」


 まあ熱血バカなのは本当っぽいけど、それと勝利に貪欲なのは矛盾しない。

 それに私も仲間を先に行かせてる状況だし、この後にダンジョン攻略も控えてる。

 だらだら時間を持っていかれるのは良くないわ。


「仕掛けるわ」


 ブーメラン状態のクロッカスを盾にしたまま、私は『超電磁ブーメラン』と『霧の盾』の二つのブーメランを持つ。

 オリヴァーの位置は攻撃開始時から動いてないと予想して……。


塵旋風(ジンセンプウ)! 雷の円陣(えんじん)!」


 『霧の盾』は【塵旋風】を『超電磁ブーメラン』は【雷の円陣】を発動させ、想定したオリヴァーのいる位置に向けて投げた。

 巻き起こる旋風で土煙がかき消される。


「なにィ!?」


 オリヴァーの声とともに石と斬撃波による攻撃が止む。

 今回のブーメランの投げ方は少し工夫をしているため、いつもより標的に向かっていくときに描く『弧』が大きい。

 簡単に言うと、大回りして敵に飛んでいくから正面や側面ではなく、やや斜め後ろからブーメランがヒットする。

 つまり、今オリヴァーは後ろから風と雷二つのブーメランに迫られている状況だ。

 そして……。


「ドラゴンッ! ブーメラーーーーンッッ!!」


 空いている正面に最強のスキルを打ちこむ!

 三方向から迫る攻撃、そう簡単には防げないはず。

 少なくとも【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】は斧を直接ぶつけてスキルを発動しない限り打ち勝てるとは思えない。


 しかし、そうすると他二つのブーメランの直撃を受けることになる。

 ドラゴンの直撃よりかはその方がマシでしょうけど、それでも高レベルの武器スキル所持プレイヤーからの攻撃。モロに受ければダメージは大きい!

 さぁ、どう対処するか私も見せてもらおうかしら。


「……ハッハッハッ、ハァッ! 流石だ! マココくん! 出来れば聖騎士団との約束が穏便に果たされるまで使わないつもりだったが……キミ相手に奥の手を隠して戦うことは不可能なようだ!」


 奥の手ですって!?


「ハッ!」


 オリヴァーが斧を振う。

 狙いは一番初めに投げたので、接近も一番早かった『霧の盾』。

 発動している【塵旋風】をものともせず、ただの一振りでそれを弾き飛ばした。


 これは予想していたパターンの一つ。

 後ろの二つのブーメランを排除してから正面の龍を対処する。

 でも斧は大振りすぎて、多少差があるとはいえほぼほぼ同時にヒットする二つのブーメラン両方を攻撃することはできない。


重力星(じゅうりょくぼし)!」


 んっ?

 斧の近くに黒い球体が現れた。

 そして、それと同時に『超電磁ブーメラン』が動きを止め、地面に落ちた。


斥力星せきりょくぼし!」


 今度は青い球体が現れる。

 そして、また同じくして【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】の動きが多少鈍る。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーっっ!!!」


 龍の動きが鈍ったことにより、叫びと共に放たれるフルスイングの斧の一撃が間に合う。

 二つの強大な力が火花を散らしながらぶつかる。


「ぐ、ぐわああああッッ!! く、しかぁしッ!! うおおおおォォーーッッ!!」


 装備を散らし、ダメージを負いながらもオリヴァーは叫び続ける。

 そして、ついに龍を上空へと弾き飛ばした!

 でも【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】はまだ生きている。このまま動きを制御してもう一度……。


「もう一度受けたら俺は死ぬッ! だから……ここで龍を討つ! こいっ! 引力星いんりょくぼし!」


 さらに現れた球体は赤い。

 これでオリヴァーの斧の周囲には黒、青、赤の球体が回っていることになる。


「力の三ツ星よ! その力で星をも砕く力となれ! うおおおおォォーーッッ!!」


 三つの球体が高速回転を始める。


惑星破壊撃(プラネットブレイカー)ッッ!!!」


 上空から自らを喰らおうとする龍に向かって、オリヴァーは斧を振り抜いた。

 しかし、空振り。龍はまだ少し離れたところから接近している最中だ。

 勝負を焦ったのか……。


 それは違った。

 何かによって【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】はかき消され、その何かによって弾き飛ばされた『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』が宙を舞う。


「クロッカス!」


 きっとまた衝撃波の(たぐい)だ。

 『引力』『斥力』『重力』。この三つの力の波動を絡ませ合い、前面に集中させることによって爆発的な破壊力を生んでいるってところね。

 そしてその威力は【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】以上……。


 とりあえず素早くポーションを飲む。

 そして、クロッカスを拾いに動いた。

 あの威力だ。オリヴァーも魔力の回復など次に同じスキルを放つまでに準備を要するはず。


「悠長に回復など甘いぞぉ! マココくん! 気合を入れれば、もう一発ぐらい本当にギリギリ……何とかなるのだよォ!」


 再び『惑星斧(プラネットアックス)』の三つの星が回転。

 オリヴァーがそれを構え、こちらをよーく狙う。

 走って躱すのはむりか……。


「くそ! 意識がとんでたぜ!」


 カラス形態となったクロッカスが私の両肩を掴み、前へ加速する。


惑星破壊撃(プラネットブレイカー)ッッ!!!」


「きゃああああああっ!!」


 何とか直撃は避けられた!

 しかし、その衝撃も凄まじく私の体は軽々と空中へ打ち上げられてしまった。


「なっ!? 避けたのかいマココくん!? ……仕方ない! 俺も回復させてもらおう!」


 オリヴァーの声が聞こえる。

 今のうちに攻撃したいけど、体の自由がなかなかきかない。狙いが定められない……。


「マココよぉ! どうする?」


「くっ……」


 狙いが定まるころには魔力の回復が終わっていることでしょう。

 正面から【惑星破壊撃(プラネットブレイカー)】に【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】を当てても打ち消され、その背後にいる私も巻き添えをくらって負ける。

 万事休すか……。


 結局、三方向からの攻撃の時が一番勝てるタイミングだったのかしら。

 本気じゃない敵を倒すってのはあれだけど、これが四方向からの攻撃とかなら結果は変わっていたかな?

 でも私のブーメランは三つしか……えっ。


 三方向……四方向……増える……三つの星……四つの……ドラゴン……ブーメラン。


「クロッカス! ブーメランに変形! 魔力もありったけ使ってもらうわ!」


「何か思いついたんだな?」


「出来るかわからないけど、出来たら勝てる!」


「よし!」


 私はクロッカスの力も借りつつなんとか空中で攻撃態勢をとる。

 その時、オリヴァーも準備が完了していた。


「マココくん……これで最後にしようッ!」


 こっちもそのつもりよ、とここでお互い同時に最期のスキルを……では困る。

 小細工の時間が必要だ。


 ――焔影分身(ほむらかげぶんしん)


 新たな力……ここで使う!

 ブーメラン形態のクロッカスから炎が放たれ、三つのブーメランをかたどる。

 パッと見て炎で出来たニセモノとわかる分身だけど、今は見た目は重要じゃない。

 ブーメランがオリジナル合わせてこれで四つあるということが大事なんだ。


「多少一体一体劣化してもいいわ! だから、なんとか私とクロッカスの魔力で……ありったけで……!」


「いくぞォォォ!! 惑星破壊撃(プラネットブレイカー)ッッ!!!」


昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)ッ!」


 見えなくともわかる惑星破壊撃(プラネットブレイカー)のプレッシャーに、まずは()()()()をぶつける!


「何ィ!? 龍が一度に二匹もッ! 分身したとでもいうのかッ!?」


 二匹じゃすまないわ!

 さらに二匹をオリヴァー本人に向かわせ計四匹。

 四匹の炎の龍――いわば合体スキル【四炎龍(シエンロン)】!


「ぐわああああぁぁぁぁーーーーッッ!! 熱いぞぉぉぉぉ!!」


 二匹の炎龍に噛みつかれ炎上するオリヴァー。

 普通ならエグイ光景だけど、彼のキャラがキャラだけに自然発火したようにも見える……。


「か、完敗だッ! 完全に俺の負けだ! 認めよう!」


 オリヴァーがこちらを見据える。


「しかぁしっ! 次は負けない!」


 最期まで熱い男はその言葉とともに砕け散りデータの破片となった。

 『次は負けない』か……この言葉を素直に恐ろしいと感じる。

 負けていても何もおかしくない相手だったわ。

 『大斧のオリヴァー』……いろんな意味でもう戦いたくない……。

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