Data.68 ユーリVS.ドロシー
◇side:ユーリ・ジャハナ
アイリィさんとは完全に分断されちゃったな。
この土壁は破壊しようと思えばできないこともない。
でも、今は……。
「あの……こんにちわ」
「こんにちわだべ」
この子の相手をしないと……。
『土泥のドロシー』……土や泥を生み出して戦うグローリア戦士団の一員。
「戦わないとダメですか……?」
「ダメだべ。右も左もわからなかったあたすを仲間に入れてくれた戦士団の仲間のためにも、役割はしっかり果たすべ。覚悟してくんろ」
ほのぼのした見た目と裏腹に、意外と意識が高いタイプか……。
まあ見逃してくれることはなさそう。
強靭な土に柔軟性のある泥……どちらも符術だけでは苦戦必至。
あれを使うこともやむなしかな……。
でも出来れば隠しておきたいから少し時間を稼いでみよう。
さいわい位置関係上、私とドロシーさんの組が一番入り口の大門に近い。
マココさんが来るかもしれないし、もしかしたらアイリィさんが先に敵を倒して加勢してくれるかも。
逆のパターンは考えない考えない……。
「『右も左もわからなかった』って言ってましたけど、初心者さんですか? それでトップギルドのメンバーなんてすごいですね」
「いやぁ~、それほどでもないだべ~。ギルドのみんながネットとか機械とかゲーム設定の相談にも乗ってくれたから上手くいってっるんだべ」
「え? ネット環境が良くわからないのにこのゲームを買ったんですか?」
「そだべ。都会に出てみたらなんだか人気のゲームだって言われて、借りた部屋に備え付けてあったネットに何とか機械を繋いで、やり始めたんだべ」
都会に出て?
結構どこでもこのAUOは宣伝されていたような気がするけど……。
それにネット関係の知識の乏しさ、この時代ではほぼ義務教育のようなものなのに。
自然回帰主義の家庭の生まれなのかな。
自然回帰主義――あえて便利な文明の利器を捨てて生活する人たちのこと。
この思想は機械による管理が爆発的に加速し始めた時代に、比例するように増えた。
文明の利器を捨てると言っても、原始時代に逆戻りというワケではなくて、人が機械を使っていた時代のまま生活するということらしい。
今は機械に人が使われているというのが彼らの主張だった。
しかし、今となってはこの思想も廃れつつあるって聞いてたけど……。
結局、社会安全の都合上ある程度の機械による管理は強制されるし、変化する時代を知らない次の世代が便利なシステムに触れればそちらに傾く……。
ドロシーさんもそういう人なのかな?
ここまで彼女の身の上は完全に妄想だけど。
ただ、今まで住むところやネット、ゲームに関心がまったくなかっただけの変わった人なのかも……。
「……って、あー! あたすのことなんてどうでもいいんだべ! いざ、尋常に勝負!」
「あっ、もうちょっとお話しませんか……?」
「問答無用! そぉれっ!」
時間稼ぎもここまでかぁ……。
ドロシーは手のひら大の泥団子を投げてきた。
「斬下の符!」
空中で泥団子とお符がぶつかり双方消滅する。
流石にこれくらい符一枚で撃ち落とせないと……。
「今のは防げて当然だべ! 次はどうだべ!」
ドロシーは頭ほどある石の塊を投げつけてきた。
シンプルに凶悪な攻撃。今までの符ではこれを砕くのに何枚も要する。
一枚の破壊力を追求した符……自由時間に編み出した新スキル【爆烈の符】を使う!
「爆烈の符!」
指と指の間に生成された紅い符を素早く、かつ正確に石に向けて投げた。
狙い通り符は石に張り付く。
「烈っ!」
私の合図で【爆烈の符】はドゴォ!という爆音とともに爆ぜた。
石は粉々に砕け、破片がお互いを襲う。
「うわわっ! はぁ、はぁ……。な、なるほどぉ~、硬いものが苦手と聞いてたけんど、しっかり対策してきたということだべ?」
「まぁ……そんな感じですよ」
火山で痛感した炎と硬い敵に対する弱さ。
そして、どちらにも対応できる符が【爆烈の符】。
魔力の消費は全符の中で圧倒的一番。その代わり得る物は大きい……。
「うふふふ……じゃあ、そろそろ準備運動は終わりだべ。はあああああああーーーーっっ!! 岩弾子!!」
ドロシーが片手から生み出した岩の塊は私の上半身ほどある。
当たり前だけどさっきの石より硬そう……。
彼女はそれを当たり前のように投げつけてきた。
これパワーが彼女にとって一番の強さじゃない?
「爆烈の符! 万神願の型!!」
ツッコミは置いといて、私も最強の組み合わせでこれに対応する。
一枚一枚の攻撃力に優れる> 【爆烈の符】を一度に複数枚の符を放つ【符操術式・万神願の型】で撃ち出す。
狭い範囲への集中攻撃としてはこれが符術の中で最強!
岩を砕き、その向こうのドロシーさんもこれで仕留める。
ドゴゴゴゴゴッと連続で爆発音。
岩の破片が辺りに飛び散る、お構いなしに撃つべし撃つべし!
岩石を砕き、その先へ……。
「ほーれ、追加の岩だべ!」
恐ろしいことに、ドロシーがさきほど同サイズの岩を平然と投げつけてきた。それもいくつも……。
「くぅぅぅ…………」
合わせ技『爆烈マシンガン』も負けてはいない……。
岩を追加されても、いまだ押し負けず砕き続けている。
しかし、魔力が持たない。ただでさえ魔力消費量の多い【爆烈の符】を何枚も生成し続けるんだから、おそらくこのままじゃ私が押し負ける。
……使おうか。どうせドロシーにもダンジョンカメラ越しにもこれは見えはしない。
「行きますよ!」
これは射程が短い。そして細かい動きも苦手。
十分に岩を引きつけてから砕かないと……。
「……よしっ、いけ!」
岩へ攻撃を仕掛ける。
威力は何の問題もない。破壊力は【爆烈の符】を上回る。
鈍い音を立てながら岩が粉々に砕けていく。
「んあっ!? な、なんだべ? どうして急に岩弾子が砕けたんだべ!?」
「ドロシーさん……あなた……霊感ってある?」
「へぇ!? な、ないべ……」
「ならば、見ることはできません。私の……」
「私の……?」
いけない。自分からバラすところだった……。
パーティのみんな何も話していない。
私の見えざるスキル【守護霊・幽鬼】のことを。
「と、とにかく、こうなったらもうあなたに勝ち目はありません。大人しく退いてください。私たちのダンジョン探索を邪魔しないのならば、特にこちらからも手出しはしません」
「こ、降参するべ! だから、その力の秘密を教えてくんろ!」
そ、想像以上に素直に降参された……。
「いいんですか? お、お仲間さんはまだ戦ってると思いますけど……」
「いいべいいべ。そもそも元々『封鎖班』のあたすがここでやられて封鎖に戻れない方がマズイんだべ。何よりそんなにもったいぶって隠されると気になるべ!」
仲間意識は強いと思ったけど、好奇心の方が強い子なのかも……。
私もあんまりドロシーさん相手に守護霊のスキルを使い続けたくはないし、ここは会話で解決するが吉かな。
「わかりました。秘密をお教えします。でも、それをネットにばら撒くのだけは……」
「わかったべわかったべ!」
「では……ごにょごにょごにょ……」
ドロシーさんの耳元で小さな声で話す。
傍から見ると呪いをかけてるみたいに見えるでしょうね……。
「ええっ! そんなスキルなんだべか!? そっ、それは普通に戦ってて発現したんだべ?」
「いえ、これはある特殊な儀式によって身に憑けたモノです。ただ、人によって相性もあるようなので、ドロシーさんが同じことをして同じ結果が得られるとは限りません」
「ほーほー……面白いべ……。いろんなスキルの手に入れ方……人型のスキル……あたすの土魔術ももっともっと発展させられそうだべ……」
ドロシーさんはすみっこに座り込んで考え出してしまった。
マイペースな子だ……。出来ればこの土壁を消してほしいんだけど……。
まぁでも……ドロシーさんは変則的とはいえ倒せたんだし、最低限役目は果たせてるか、な?




