Data.66 大斧のオリヴァー
大斧のオリヴァー……この人まだ私の存在に気付いてないよね?
それなのにこれだけ熱くしゃべってるのか……。
出来れば関わりたくない。このままそーっと距離をとって逃げたい。
でも、倒さないといけないよねぇ……。
本来なら今ここにいないはずの存在だけど、何らかの方法を使って海の中に居座り、ログアウトしたと見せかけていたんだ。
目的は明らかに私たち。ならば、結局どこかで私が相手をしなければならない。
……不意打ちしよ。
私は黙って超電磁ブーメランを投げた。
使うスキルは【塵旋風】。一撃とはいかなくても突然の攻撃は十分ダメージになるはず。
荒れ狂う風はそのままオリヴァーに激突した。
「このブーメラン、吹き荒ぶる風……もしや、キミがマココ・ストレンジか!?」
なにっ!?
上からオリヴァーの声。
見上げると天井に張り付いている彼を見つけた。
どうやって【塵旋風】から逃れたのか、どうやって天井に張り付いているのか。
いろいろ疑問はあるけれど、一つ分かったのはこの男が強いということね。
「何という運命! 俺はてっきりもう宮殿の奥深くへ探索へ出てしまって、探すもの一苦労だと憂鬱になっていたところだというのに!」
あれのどこが憂鬱だったの!?
「それにしてもさっきの攻撃……ぬるかったぞぉ! キミの力はあんなものではあるまい! 本気を見せたまえ! 黒い巨大なブーメランはどこだ!」
「それは俺だよ」
黒いブーメラン本人が問いに答える。
オリヴァーは声のした方向を見て固まる。
「……。……マココくん! モンスターがいるぞ! 気づかないキミではあるまいて! さっさと倒して、一対一の真剣勝負といこう!」
「いや、これが私の黒いブーメランそのものよ」
「何っ!?」
「クロッカス、形態変化出来る?」
「余裕じゃん」
クロッカスは一瞬で今まで見てきた黒い巨大なブーメラン『邪悪なる大翼』の形になった。
「なにっ!? これは驚いたっ! キミも不思議な武器を持っているんだねっ!」
驚きつつもオリヴァーはその大斧を構える。
「しかぁし! 俺の『惑星斧』も負けちゃぁいないぞ! さぁ、行くぞぉ!」
相手は徹底抗戦の意を示した。
ただの熱血バカじゃない。団を率いるリーダーなだけあって自分のやるべきことがわかっている。
向こうからしても私の存在は危険。一番強いリーダーが仕留めるべき存在か!
「クロッカス! しばらくブーメランのままでお願いね!」
この斧を受け止めるのに他の武器じゃ心ともない。
それに戦い慣れたスタイルの方がお互いやりやすいでしょう。
「とぉうっ!」
大斧が私めがけて振り下ろされる。
私は最低限の動きでそれを避ける。
空を切った刃は宮殿の床を派手な音を立てて砕く。
一見刃に穴が開いていて軽量化されていそうな斧だけど、そうでもないようね……。
しかし、重いということは小回りが利かないということ。
同じ大型武器使いだからわかる。
「うおりゃ!」
「きゃっ!」
地面にめり込んでいた斧が凄まじい速さで振り上げられた。まるで弾かれるように。
なんてばかヂカラなのよ! 思わず女の子みたいな声が出たわ。
少し距離を取って対応すべきね。こっちは投擲武器なんだから。
「邪悪なる火炎! いけっ!」
私はオリヴァーから距離を取ってから炎を纏ったブーメランを投げた。
(マココ! 今のうちに魔力を回復しとけよ!)
飛んでいくクロッカスが私にテレパシーをとばしてきた。
そうだった。私は魔力が無くなりかけているんだ。
今の【邪悪なる火炎】もクロッカスの魔力を使って発動したみたいね。
考えつつも袋からポーションの入ったビンを取り出し飲む。
今回は深海の水のおかげでキンキンに冷えている。悪くない。
「これがキミの本気か!? 正面からハジキ返して見せようっ! うおおおおおおっ!!」
オリヴァーは思いっきり斧を振り抜き、巨大な黒い翼にぶつけた。
金切り音のような甲高い音、火花が飛び散る。
「うううううう……ぬんっ!!」
競り合いに打ち勝ったのはオリヴァーだ!
『邪悪なる大翼』は上へと打ち上げられた。
こうなると、あの斧を受け止められる武器の無い私が危険な状況に……。
「ぐおおおおおおーーーっ!! あつぅい!」
そのまま私に向かってくると思っていたオリヴァーが燃えている。
正確には装備の毛皮とかが邪悪な炎で燃えている。
彼はそれをポーションをかけて消している。贅沢な使い方だ。
「ふぅ……ひとまず消火完了! なるほどっ! あの炎は推進力としての機能もあったのか! 弾き飛ばすタイミングをずらされてしまったよ」
「それはお互い様じゃん?」
クロッカスも空中で一度カラスに変形。私の下へ舞い戻ってきた。
「どういうこと?」
「確かにあの斧は重い。攻撃力も高い。あの男自身の能力も高い。が、それだけじゃない。カチ合ってた時、俺を弾き飛ばすような力があるタイミングで増えた。アイツもすでにスキルを使ってやがるぜ!」
「はっはっはっぁ! その通り!」
オリヴァーは親指を立てる。何がグッドなのだろう……。
「答えを教えてあげよう! その身を持ってよぉく知るといいっ!」
斧を振り下ろす直前の態勢をとるオリヴァー。
まだ私との距離はかなりあるのになぜ……。
ズズッ……ズッ……
そういうことか!
オリヴァーの斧のスキルは『引力』!
今、私が彼に引き付けられている。
だから輪っかの付いた惑星みたいなデザインだったのね。
って、そんなこと考えてる場合じゃない!
引き付ける力はどんどん強くなる。足で踏ん張るのも限界に近い。
どうするどうする……。
いや、これはチャンスだ!
相手も今は動かない。ならば、【昇龍回帰刃】を直撃させるのは容易。
引力の力を借りればブーメランも加速する。威力も上がる。
ここが勝負どころ!
「ムムッ! 何やら危険なにおいがするぞ!」
野性の勘か。それともブーメランを構える私を見た結果の判断か。
オリヴァーは斧の構えを解こうとする。
問題ない。今から動いても【昇龍回帰刃】なら追いかけられる。
「るおおおおおおっ!!」
「なっ! くっ……」
投げてきた!
戦闘の要ともいえる『惑星斧』を!
【昇龍回帰刃】は中止せざるを得ないけど、苦し紛れに投げた武器程度、どっしりと構えて武器を振れる状況なら簡単に弾き飛ばせる。
そうして丸腰になったオリヴァーを追撃する。
「それっ!」
ブーメランをふるい、大斧を正確に打ち据える。
再び金きり音と火花が散る。
……重い!? いや、違う!
この斧がはじき返す力を放っている!
「ぐ、ぐうううっ!!」
何とか大斧を弾くも、私自身も体勢を大きく崩しオリヴァーへの追撃の機会を逃した。
「……引き付ける力だけじゃなくて、弾き返す力『斥力』もあるのね」
素早く立ち上がり、斧を拾い上げたオリヴァーにブーメランを向ける。
「そうだ! それにしてもキミも良いカラダしてるねっ! おおっと、セクハラじゃないぞ! 腕っぷしが強いってことさ!」
素なのかわからないけど、まだ余裕がありそうだ。
「『引力』と『斥力』! それが俺と『惑星斧』のストロングポイント! マココ・ストレンジ! 悪いとはまったく思わないが、倒させてもらうぞ! グローリア騎士団の団長として! そして、いち漢として!」
「言われてるぜマココ。それにしても熱い男じゃん。炎の力を強化した俺でもキツイぜ」
「まったく」
追い詰めればこの熱苦しさもマシになるのかな。
さっきまで肌寒かったのに今は焦げ付きそうよ。




