Data.51 ダンジョン封鎖
◆現在地
ヴォルボーの村
さてと……今日の目標は『ヴォルヴォル大火山洞窟』の突破だ。
前回は『GrEed SpUnky』と戦ってすごいことになったから一度探索を断念した。
冷静に考えれば装備もなんか復活してたし、回復アイテムも温存してあったから、探索続行してても良かったかも?
なんてのは、休憩して調子が戻ったから思えることね。
「さて、メンバーは揃って……ないわね」
「アイリィがまだ来てへんなぁ……っと噂をすれば来たわ」
こちらに向かってくるのはアイリィだけでなく『GrEed SpUnky』の全員だ。
「やぁ、こんにちはマココさん。前はお世話になりました! おかげでいい反応がたくさんもらえましたよ!」
「結構荒れてたように見えたけど……」
コメントが『ざまぁwwww』とか『ざっこ』とか『引退しろ』で溢れてたわ。
「むふふっ、それも良い反応なんですよこれが!」
とりあえず注目されることが楽しいタイプね、ヴァイトは。
こういうタイプを精神的に負かすのは不可能に近い。
「まっ、それはいいんですよ! ただ、あの現象についての情報は全然集まりませんでしたね……」
「この武器の入手先自体がレアだったから、他に似たような武器を持ってる人がいなくても仕方ないか……」
『邪悪なる大翼』は名を冠するモンスター『【腐食再生】ドラゴンゾンビ』を討伐した際にドロップした武器だ。
つまり、同じような【心】のスキルを持ったアイテムは、かなり難しい入手条件をクリアしないと手に入らないと予想できる。
一応私はトッププレイヤーだし、純粋に他に持ってる人はいないのか。
それとも、そんなレアものを入手できるようなプレイをしてる人間が、簡単に情報をネットにばら撒かないだけか……。
どちらにしろ、自力で制御方法を探した方が早そうね。
「それに関しては残念でしたが、関係ないところで面白いことが起こってますねぇ!」
「……なんのこと?」
「あれっ、ご存じない? 掲示板はもうその話題で持ちっきりですよ?」
「はー、マココはん知らんかったんか。今日も普段通りやからすごいなぁーと思ってたんやけど」
え?
そ、そんなにすごいこと起こってるの?
ログアウト時、ずっと掲示板は常に張り付いてるわけじゃないからなぁ……。
「で、何が起こってるの?」
事情を知ってる組は顔を見合わせる。
そして、ヴァイトが代表して口を開いた。
「一言でいえば『ダンジョン封鎖』ですよ。ダンジョン1Fの入り口付近に陣取って、入ってくる他プレイヤーを狩る……そんな戦術がいま実行されているのです」
「……遂にそれを実行する奴が出てきたのね」
「おっ、やっぱり考えついてはいましたか」
『数量限定の賞品』『三つのダンジョンをクリア』『ダンジョン内で攻撃可能』。
この三つのルールから考えれば、一つのダンジョンを仲間と協力して封鎖、他のプレイヤーをクリアできなくすれば確実だ。
しかし、実行するには飛び抜けた戦力と長い間ログインできる環境を兼ね備えたプレイヤーが必要。
そんな奴らがいればこのゲームのトップに立っているだろう。
つまり……。
「あいつら……。シャルアンス聖騎士団がやってるのね」
以前戦った事のある者たちの名を口にする。
下っ端は雑魚だったけど、幹部連中はウワサ通りそれなりに強いようね。
「うーん、50点です!」
「えっ、違うギルドがやってるってこと?」
「それじゃ50も与えられませんよ! 正解は……AUOにおけるナンバー2ギルドと手を組んで『水底の大宮殿』と『大嵐の螺旋塔』を封鎖している、です!」
「二つもか……」
確かにこれは予想外。
「そのナンバー2ギルドってどんな集団?」
「ホント他のプレイヤーのことにあんま興味ないみたいですね……」
「今は自分で遊ぶのが楽しい時期だし」
「まあ、いいや。そいつらは『グローリア戦士団』っていって、シャルアンスほどの数はいなくても、一人一人の戦闘能力が高い」
「下っ端みたいのがいないってことね」
「そうっす。戦士長以外全員同じの立場の集団です。生産とかよりダンジョン探索とか未開のフィールド探索とかを好む奴らで、今回のイベントでも注目されてましたね。なんせトライダンジョンっすから。それがまあ、騎士団と組んでるとはねぇ。対抗馬として期待されてたのに……」
口調は残念だが、顔はとても楽しそうだ。
「騎士団の動きが鈍かったのも、こいつらのとの打ち合わせが長引いたからとかかな? なんせ裏切られると失うものは大きいっすからねー」
「せやけど、封鎖って他プレイヤーを妨害できても自分らに得がないとおもいまへんか? 結局そのダンジョンをクリアせーへんと『証』は手に入らんワケやから」
ベラが純粋な疑問を口にする。
「そりゃ、ダンジョン攻略組と封鎖組を分けて、クリアしたら役割を入れ替えるんじゃないですか。どちらのギルドも強い! だから、多少数の不利があっても問題なし! それにこのギルドに戦いを挑もうとしたら、すでに陣取っているダンジョン内に突撃しないといけない。つまり、地の利も完全に攻める側が不利!」
「ふむ、確かに厄介ね。だけどまずは『ヴォルヴォル大火山洞窟』をクリアしてから考えようと思う。ここはまだ封鎖されてないみたいだけど、いつ何が起こってもおかしくないし、まずは一つ。一歩一歩進みましょう」
「あたしもそれに賛成や!」
「わ、私も……」
「うちは命令に従うよぉ~」
パーティ四人全員特にダンジョン封鎖を気にしていない様だ。
どこかで騎士団や他のパーティとも戦うと思ってたし、動きが掴めないより『このダンジョンにいる』とわかっている方が動きやすい。
「……流石マココ・ストレンジ! そのマイペースはあなたの武器だ! ご武運をお祈りしていますよ」
そう言うと、ヴァイトは【悪魔の魔翼】発動させた。
黒く大きな翼が背中から生えてくる。
「では、私は北の主要都市にでも行って、ダンジョン内での活躍を鑑賞させていただきます!」
ヴァイトは空へ飛びあがる。
「アイリィ! くれぐれも気をつけて、後頼みましたよ!」
「仕方ないなぁ~」
アイリィの返事を聞くとすぐに彼は南へ飛び去った。
ここはセントラルから北にあるので、一番近い『イベントシアター』は北の都市『ノルーデン』が近い。
「じゃあ、行こうか。こんなにたくさんで冒険した経験は、他ゲームでもあんまりないけど……よろしく」
「なに初心者みたいなこと言うてますねん! いつも通りでええって!」
「頼りにしてます……」
「あなたはキャラ作らないで良いと思うよぉ~。そのままで面白いし、結構しんどいから……」
「そ、そうよね」
私たちはいつも通りダンジョンへ向かった。
が、ダンジョンはいつもの様子と違っていた。
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「あっ、来たぞ!」
「マココだ!」
「俺たちはプロゲーマーチームの……」
「よし! 戦闘準備だ! 良い戦闘を撮るぞっ!」
「これ以上は目立たさねぇ!」
『ヴォルヴォル大火山洞窟』の地下1Fには、うじゃうじゃプレイヤーがいた。
これは必然だったのかもしれない。
普通のプレイヤーではトップ集団に太刀打ちできないので、せめてイベントを進めたいと思えば唯一封鎖されていないここに集まる。
それに『GrEed SpUnky』のような動画クリエイターもイベント攻略に関われないとなれば、次に話題の私に向かってくることは予想できたかも。
てか、掲示板でその流れになってたり?
「ねえ、みんな。掲示板でここに人が集まってるみたいなレスなかった?」
「すんまへん。一番勢いのあった騎士団と戦士団の愚痴で埋まったスレしか見てませんでしたわ……」
「私も時間がなくて目立ったスレしか……」
「……ごめん、うちは知ってた。でもヴァイトが知らないならその方が面白いからって……。ほらさ、これでもエンターテイメントファミリーの一人だからねぇー」
アイリィは決めポーズの時不服そうだったのに、チーム愛はあるようね……。
「……蹴散らすしかないわね!」
「よっしゃ!」
「私の符がどれぐらい通用するでしょうか……」
「ファミリーのため、向かってくる人には派手に散ってもらうよぉ~」
私たち四人は、人が増えて暑さの増した洞窟のなかで、それぞれの武器を構えた。




