Data.50 リターン トゥ マココ
……あっ、戻ってるわ!
でっかいコウモリみたいのが迫ってきてたから、【昇龍回帰刃】を発動しないとって強く思ったら、何とかこちらに戻ってこれた。
【昇龍回帰刃】の着弾点を確認すると、ヴァイトはいない。
おそらく直撃をくらって死んだんだわ。
つまり、なんだかんだ私の勝ちだ。
勝利を確信すると、疲れがどっと押し寄せてきた。
あのブーメラン……人のボディを雑に使って無様な戦いを……。
「マココはーん!」
「あっ、ベラ……」
黒い旋風はすっかりなくなっていたので、ベラが普通に駆け寄ってきた。
「いろいろ聞きたいことはあるんやけど、一体あの状態は……」
「私にもハッキリとはわからないわ」
「意識を持っていかれてたんでっか!?」
「最初はそう思った。だって感覚が徐々に弱まって、視界もブラックアウトして、一瞬気絶したような『無』があったから」
あの時は焦ったわぁ……。
【悪魔の悪戯心】ってそういう事かと。
実際、悪魔の力を使い過ぎたから悪魔に魂を持っていかれるというのは不自然ではない。
このゲーム、やっぱりヤバいものなんじゃ……って思った。
しかし、実際は……。
「でも少しの間をおいて、視界や音声は戻ってきた。ヴァイトと悪戯心の戦闘は見ていたわ。ちょうどFPS(第一者視点)ゲームのプレイ動画を見ている感じよ」
「はー、体の操作を奪われただけやったんやな。良かったわぁ……」
「良くはなかったわ。あんな臨場感のある下手くそプレイを特等席で見せつけられて、私はムカついてるところよ」
実際今までその視点で体を動かせてたのに、それを出来なくされるのはストレスが溜まる。
そのうえなんなのよあの動き!
大口叩いてたから、なんかスゴイ動きを見せてくれるんじゃないかと思ってたら、まさかの通常攻撃すらままならないとは!
実際に体を動かす通常攻撃が下手なら下手で、スキル攻勢に打って出ればよかったものを。
いろいろスキルも変化して強くなってたんだし。
結局【DustDevil】をナメプで使っただけだったわ。
私があの状態を操作出来ればなぁ……3分で片が付いたのに。
今はすっかり普段のステータスに戻っている。
まあ、ここまで文句ばっかだけど、私にも悪い部分はあるわね。
【悪魔の悪戯心】に語りかけられた時は、遂にこのスキルの真の力が目覚めたと思ったし。
それにあの変化がなければ、ヴァイトがわざわざ隙の大きいスキルを使わなかっただろう。
となれば【昇龍回帰刃】を直撃させる隙もなかった。
騎士団の時もそうだけど、下手にケンカを買うのも控えた方がいいわよね……。
でも、このイベント中は仕方ないか。
私が避けようとしても、攻略を進めれば進めるほど妨害も増えるだろう。
なんせ【アイテムボックス】は数量限定だ。
「とりあえず、一度ダンジョンを出ましょか。他のプレイヤーに狙われるとも限らへんし」
「そうね……。その前にポーションで回復するわ」
「あっ! そういえばポーションもってましたやん! なんで二人とも回復しなかったんや?」
「回復してる隙に相手も回復して戦いがグダグダになるか、回復の隙を突かれて回復量以上のダメージをもらう可能性が高いからかな。あいつも職業柄それがわかってたみたいね。なかなかの強敵だったわ」
「はー、プロ同士の暗黙の了解ってやつでっか……。あたしもまだまだ勉強が足らんなぁ」
「まぁ、状況によっては回復も大事だけどね」
あいかわらず灼熱のダンジョンのせいで温かくなったポーションを流し込む。
美味しくないけど、体の傷は癒えていく。
……でもなんか体に違和感があるわね。
この状態で戦闘は避けたい。早くダンジョンから出よう……。
「……あっ」
GrEed SpUnkyの残り二人、アイリィとスリッパーと目が合った。
なんだか二人とも申し訳なさそうに笑っている。
「あはは、ごめんねー。でも、良い映像が撮れたから感謝してるよー」
「うん……うん……」
「それはいいんだけど、あなた達はこれからどうするの? このままダンジョン探索? それともリスポーン地点のリーダーと合流?」
「うちらもダンジョンを出て、リーダーと合流しようと思ってるよー」
「そう……する」
「じゃ、先に行ってもらえるかしら」
「あっ、だよねぇー。うちらに背中は向けられないよねー。気が付かなくてごめんね」
二人はダンジョンの入り口に向かう。
しかし、スリッパーは純粋に動きが遅い。
アイリィは私に背中を見せるのが怖いのか、かなりの頻度でこちらを振り返ってくる。
あんたのとこのリーダーも背後から襲わなかったんだから、私もそんなことしないのに……。
アイリィの素の性格はかなり心配性なのかもね。
「んが……っ!!」
完全に気を緩めていた私の耳に、突如としてスリッパーの悲鳴が響いた。
彼は正面から攻撃を受けたようで、その巨体がゆっくりと後ろに倒れてくる。
その体には見覚えのある物が『刺さって』いた……・
これは……符だ。それも【斬下の符】!
「ユーリストップ! もう戦いは終わったわ!」
『霧がくれの山』で出会った巫女で本職も巫女のユーリ・ジャハナだ。
なぜ彼女がここに来たのかは置いといて、このままではアイリィもやられてしまう。
私の予感は的中し、すでにアイリィに向けて符が放たれていた。
「はぁー!」
アイリィは手持ちの槍をぐるぐる回すと、飛んできた符の全てを打ち落とした。
やはり彼女もなかなかの手練れ。
GrEed SpUnky全員で私に挑まれたら負けてたわね。
「マココさん! 無事でしたか!」
両手に複数の符を構えたままユーリが語りかけてくる。
長い青髪、長身、紅白の巫女服の存在感はあいかわらず強い。
そして、長老様から貰った『霧の羽織』も良く似合っている。
「うん、大丈夫よ。だから攻撃をやめて」
「いいんですか。この人たち殺さなくて。また邪魔してくるかも……」
見た目も相まって少し病的なセリフだ……。
「そうしないって約束したうえでの戦いだったの。だからもう心配ないわ。来てくれてありがとう」
「そうですか……」
ユーリは魔力で出来た符を引っ込めると、普段の大人しい彼女に戻った。
「私……少し時間が出来たので一緒に冒険したいなーと思って、ネットで調べてマココさんの位置を掴んでヴォルボーの村でログアウトしておいたんです。それで今日ログインしてみたら、他のプレイヤーさんがダンジョンでマココさんが3対1でボコボコにされてると言ってて……」
少し間違った情報ね……。
「元から合意の上での決闘みたいなもんだったのよ。まぁ、色々あったけど勝ったところよ」
「ほっ……良かった……。でも、すいません。一人殺してしまいました……」
スリッパーは頭部や胸部に的確な攻撃を受けて、すぐ消滅してしまった。
やっぱりユーリも『巫女』と言いながら戦闘特化っぽいよね。
【斬下の符】の威力も高いし……。
「ああー、気にしなくていいよー。どちらにしろこのイベントの戦闘にスリッパーはついてこれなかっただろうしぃ、リーダーと一緒に他で遊ぶと思うからー」
アイリィが特に何も感じていなさそうに答える。
イベントダンジョン内で死亡&リスポーンしてしまったので、ヴァイトとスリッパーは3日間(72時間)は三つのイベントダンジョンに入れない。
「ただ……うちはもう許して……。うちまで死んじゃったらGrEed SpUnkyがイベントに関われなくなっちゃうよー……」
アイリィは槍を地面に突き刺すと、両手を上げて降伏のポーズをとる。
「いや、そんなことしないから! 私、怒ってないから別に! さあさあ、もうダンジョンを出るわよ!」
収拾がつかなくなりそうなので、みんなの背中を押したり、腕も引っ張ったりしてダンジョンから強制的に連れ出した。
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「おっ、やっと出てきましたねぇ! 遅いからまさか先に進んだんじゃないかとビクビクしてましたよ!」
ダンジョンを出ると、装備がボロボロのヴァイトが入り口付近で待っていた。
リスポーン後、町からそのまま来たのだろう。
「まだ何か御用で? あの変化については私もよくわからないわよ」
「いえいえ! もちろんそれも知りたいのですが、今回は違います! 先ほどの戦闘を動画にする許可が頂きたくて参りました。そして、収益などの配分も……」
「戦いを受けた時点で許可したも同然よ。収益も別に分ける必要ないわ」
「……ほっ、本当ですか? 結構ヤバい映像でしたけど、カットした方が良いシーンなどは……」
「むしろ、暴走シーンをピックアップして、あの現象を知っている人がいたら情報を提供するようにお願いして。それで得た情報を収益の代わりに受け取るわ」
あの黒の状態を私の意思で制御できれば、もうワンランク上の強さが手に入る。
その為にはとにかく情報がほしい。
「いやぁ! ありがたい! 必死に撮った映像がボツになることほど、悲しいことはありませんからねぇ! では、私は町に戻ってログアウトし、その後編集作業に入りますので!」
「あっ、待って! 私視点であの戦闘を動画にしてアップロードしてもいいかしら? 本当にやるかはまだ考え中だけど」
「もちろん構いませんよ! その際は私の動画へのリンクをぜひ貼っておいてください! 私も見つけ次第そちらへのリンクを貼りますので! ではお疲れさまでしたー!」
「お疲れ様でした」って本当に撮影みたいじゃない。
私は役者か。
……まあ、ある意味プレイヤーはみんなリアルと違う人を演じる役者よね。
「ちょっとちょっとー! うちはどうすればいいのー!」
飛び去ろうとするヴァイトをアイリィが呼び止めた。
「マココさんと協力してイベント攻略を目指してくれ! イベントに関してはお前だけが頼りだ! 細かい方針はまた後な! とにかく俺はいま動画を投稿したい! 反応が見たい!」
「編集一人でできるの?」
「簡単なのなら覚えてるよ! じゃあな!」
ヴァイトは心ここに有らずといった感じで、飛び去ってしまった。
「……マココさん、うちは何すればいいかなぁ?」
アイリィは真顔で尋ねてきた。
いや、少し怒りが見て取れる。
「私はなんかボディに違和感があるから、一度ログアウトするわ」
「じゃあ、うちもそうしようかなー」
「あの……アイリィさんは、この火山のダンジョンをどこまで攻略したんですか?」
ユーリが小さな声でアイリィに話しかける。
「1Fで待ち伏せしてただけだから、何にも進んでないよー」
「じゃあ、今から私と地下5F目指して探索しませんか? アイテムや装備は整えて来てるんです……」
「おおっ、それは名案やな! マココはんがログアウトしてる間に二人も『手形』を手に入れておけば、今度は4人で6Fから攻略出来るで! そうと決まれば、モンスターの特徴や『手形』ついて説明するで!」
ベラはその場でペラペラと流暢な説明を始めた。
ちなみに彼女自身はもう一度1Fから5F間を攻略するのは嫌なので、一緒に行かないらしい。
ユーリとアイリィの二人で大丈夫だろうか……。
戦闘力的には余裕だろうけど、コミュニケーションの方が少し心配。
二人とも癖があるからねー。
でも、味方にいてくれれば頼もしいのは事実。
何とか攻略がうまくいってくれることを祈っておこう。
……それにしても、なんだか酔ったみたいな違和感がある。
ボディを乗っ取られてる時に見えてたのは、あくまでボディが見ていた場所だ。
つまり、私はこっちを見たいのに、ボディは勝手に他の方向を見ようとするのだ。
だから違和感がすごくて酔うのも仕方ないか……。
こういう時はリアルで好きなことをしてリフレッシュね。
私がゲーム以外で好きな数少ないもの……それを食べに行きましょう。
投稿遅れてすいません。少し苦戦しました……。
ミスがないと良いのですが、あれば気軽にご指摘ください。




