Data.48 悪魔VS.悪魔
ヴァイトは未だ地に足を着け、飛ぶ様子はない。
【昇龍回帰刃】を誘っているのか。
だとしても、そのリクエストに応えることは出来ない。
仲間との会話の中で彼が飛行できることはわかっているのだ。
【昇龍回帰刃】は軌道を曲げることが出来るから、空を飛ぶ敵を追尾することは可能だ。
しかし、軌道を変えるには特別なポーズを必要とし、スタミナも持っていかれる。
それにここは洞窟だ。広いとはいえ地上に比べれば狭い。
壁にぶつからないように何度も軌道を変えていると、一気に不利になってしまう。
だから【昇龍回帰刃】はトドメまでとっておこう。
出し惜しみではなく、この場面では使えない。
「あなたは見せ場とか演出とかいろいろ気にしてるかもしれないけど、私はそういうの気にしないタイプだから」
「知ってますよ。気にせず全力で私を倒してください」
ヴァイトはニコリと笑う。
それと同時に、私は『邪悪なる大翼』を投げた。
黒い塊は風を切り裂き音を立てながらヴァイトへ向かう。
「おおっ! てっきり何か理由があって投げられないものかと!」
驚いた表情を作りつつも素早く回避行動に移るヴァイト。
その翼を広げ、上に飛ぶ。
「塵旋風!」
そこを狙って『邪悪なる大翼』から強い風を巻き起こす。
風が乱れればうまく飛ぶことはできないはずだ。
「なかなか多彩な攻撃! 食らっていて飽きない! だが、魔翼の暴風!」
塵旋風に捕えられる直前、その翼を大きくはためかせ強烈な風を起こす。
その風が旋風とぶつかり、相殺した。
翼が進化スキルというだけあって、それを用いて繰り出される技もなかなかの威力だ。
しかし、追撃はまだ終わっていない!
「雷の円陣!」
私は【磁力制御】によって体に引っ付けてあった『超電磁ブーメラン』を投擲し、そのスキルを発動した。
使うのは久々。だからこそ有効。
なかなかに勉強熱心で私のことも良く調べているヴァイトだけど、そもそも動画に使用シーンが映っていない武器やスキルにはすぐ対応できまい。
それに避けようとしても、【磁力制御】である程度軌道を変え追尾できるし、暴風も突き抜けられる。
【雷の円陣】だけでは致命打にはならなくても、麻痺により大きな隙を生んでくれるはずだ。
「そのアイテムなんだろうなーっと思っていたのですが、まさか折り畳み式のブーメランだったとはこれは驚き! どこまでもブーメランにこだわるお人だ……。ならば、私も受けて立ちましょう!」
ヴァイトは避けるどころか、『超電磁ブーメラン』の軌道に自ら飛び込んだ。
「私のとっておきの一つ、悪魔の蝙蝠!!」
発動と同時に彼の背中の黒い翼が分解され、無数の黒いコウモリになった。
コウモリたちは雷を纏うブーメランに突撃し、感電しながらもその勢いを殺していく。
ついに『超電磁ブーメラン』はヴァイトに届くことなく地に落ちた。
それを【磁力制御】で回収しようとする私に、残ったコウモリが殺到する。
コウモリはさらに姿を変え、小さな黒い短剣になった。
致し方なく私はそれを体で受ける。
「ぐっ……!」
数が多い分、一個一個が大したダメージにはならないけど、それでも装備は傷つくし痛い攻撃だ。
私が腕のガードを解除すると、視界にこちらに向かってくるヴァイトを捉えた。
しまった……さっきの攻撃は目くらまし、その隙に一気に接近して勝負を決めるつもりだ!
「悪魔の刺撃!」
ヴァイトの爪が黒くなり伸びる。
さっきは翼で腕を覆っていたけど、今回は爪だけだ。
【悪魔の蝙蝠】で翼をコウモリに変え、そのコウモリは雷をくらって消滅もしていた。
つまり今は翼を一部失った状態のようだ。
ならば、威力も下がっているはず……。
と、言ってもこちらは丸腰だ!
私は何とか【磁力制御】で『超電磁ブーメラン』を引き寄せ、その黒い爪の一撃を受け止める。
ピシッ……
衝突の衝撃で『超電磁ブーメラン』にひびが入った。
これは破壊されるのも時間の問題……。
その時、ヴァイトが何かに気付きバク宙で後ろに跳んだ。
私のもとへ戻ってくる『邪悪なる大翼』を避けたのだ。
そのまま喰らっていてくれれば、受け止める心配もなかったが仕方ない。
私の手に収まれ『邪悪なる大翼』!
「……よし」
『邪悪なる大翼』は特に暴れることも無く、私の手に戻ってきた。
やっとその真の力を発揮できそうね。
ブーメランは遠近両用の万能武器だ。
今までの使い方は正直『大剣』と呼ばれても文句が言えない物だった。
「ほー、やはりその武器は投げることに難があったようですねぇ……。しかし、それも解決したようで、私としてもめでたいことです!」
ヴァイトは軽く拍手をしながら笑っている。
その背中の翼も徐々に元の姿に戻りつつあった。
「お祝いとして私も一つ秘密を教えましょう。この悪魔の魔翼は私の魔力で出来ているので、再生が可能です。しかし、制限もあります。それというのも、翼の消費から再生までの時間が短すぎると、ごっそり魔力を持っていかれるのです。逆にたくさんの時間をかければ、ほとんど魔力の消費なく再生できますがね」
いくら自分が押してる状況とはいえ、主力スキルの弱点を晒してくるなんて、まだまだ奥の手があるという事なのか……。
しかし、こちらも『邪悪なる大翼』が完全に制御できそうだ。
まだ……まだ何とかなるわ。
正直に言うと彼の方が対人戦闘力は高いというか、適したスキルを持っている。
攻撃、防御、スピードすべてを強化できる【悪魔の魔翼】
……一体どうやって発言したのか気になるわね。
「……はぁっ!」
まあ、どうであれ勝つために動く。
私は翼を再生中のヴァイトの懐に突っ込む。
『邪悪なる大翼』を投げられるようになったとはいえ、サブの『超電磁ブーメラン』はボロボロ。
つまり、『邪悪なる大翼』を投げたら、戻って来るまで私は丸腰。
必然的にブーメランを手に持って接近戦を仕掛けていくしかない!
「ふっ、流石にスキルのネタバレから深読みして動けなくなるような人ではありませんか。これは……困った!」
そうは言いつつも、ヴァイトは残っている翼を右腕に纏い構える。
「さて、どこまでしのげるかなぁ?」
彼の表情に焦りはない。
もちろん、私にもないけど!
「うおりゃぁッ!」
「グッ……」
翼を纏った腕はやはり強固だ。
しかし、断ち切れずともその質量から生み出される衝撃が体にダメージを与える。
ヴァイトは受け止めることをやめ、受け流す動きに切り替えてきた。
そうなると彼の方が扱いやすい武器なので、私の攻撃が空を切ることが増えてくる。
これも作戦だ。
彼は回避に慣れてくれば、間違いなく攻撃に転じてくる。
その時を狙う。
「ずいぶんっ、こちらも……おっと、動きに慣れてきましたよ!」
来たわ!
次の攻撃を予測し、最低限の動作で回避。
その隙に攻撃を仕掛けてくる。
「邪悪なる突風!」
このスキルは腐食効果を持った風を噴射するスキル。
その風の噴射を加速に使い、攻撃のタイミングをずらす!
ギリギリで回避をしようとしていたヴァイトはこの攻撃を避けられず、とっさに両腕でガードする。
「これでっ! お終いッ!」
私は【邪悪なる火炎】も発動させる。
炎と風の勢いに任せ、私はブーメランを振り抜いた。
「ぬぅっ! ぐああああぁぁぁぁーーーーッッ!!」
一刀両断……とはいかなかったが、ヴァイトはダンジョンの壁まで吹っ飛んだ。
その衝撃で壁にひびが入り、辺りに粉塵がたちこめる。
スリッパーのパンチを食らったあの二人のように、そのまま消えてリスポーンしてくれると嬉しいんだけど……。
「ゲホッ! ゴホッ! ぐぐぅ……流石にダメージが大きい。いやぁ驚いた……。翼が無かった左腕はもう使い物になりませんねぇ……」
ヴァイトはまだ死亡状態にはなっていない。
服はボロボロ、左腕はノイズがはしりまくっていて原形をとどめていない。
しかし、腕を一つ犠牲にした分、翼も残っており戦闘能力はまだある。
「しぶとい……っ!」
「粘り強さも結果を出すためには必要なんでね……」
ダメージは向こうの方が喰らっているけど、私もこのダンジョンの暑さで体力を削られ、『邪悪なる大翼』のスキルをフルに使ったから魔力が枯渇しかけている。
あちらはジョブの特徴か、まだ魔力がありそうだ。
何より翼が残っているのがマズイ。
翼があると、飛行能力のせいで脚がボロボロでも動きが鈍らない。
【昇龍回帰刃】を確実にヒットさせられない。
さっき使った奇策はもう通用しないし、他のスキルも大体試した。
あと少し……何かあと一撃加える方法はないものか……。
「あるじゃん。まだ使ってない俺のスキルが」
「えっ!?」
誰かが私に語りかけてくる。
聞いたことがある声だ。
「【心】の力を解放しろ。それでこの程度の相手一瞬だ」
これ……私の声なんだ!
私の口が勝手にしゃべっている!?
「なんちゃって悪魔野郎に、本物の『悪魔』の恐ろしさを教えてやろうじゃん」
「……あっ……お前は……」
意識……心が……。
…………。
そうだ、これでいい。
俺に全部任せれば、こんなやつあの時の騎士もどきと変わらないレベルじゃん?
あんときは暴れ足りなかったんだよなぁ!




