Data.5 じゃじゃ馬娘のお願い
「塵旋風!」
私は最近覚えたてのスキルを放つ。
DPゾンビは知能がそこそこ高いようで、突然現れた私と旋風を警戒し後ずさった。
これが狙い。
その隙に私はアチルを引きずり、曲がり角の向こう側に隠した。
他のが寄ってくる可能性もあるから、手早く仕留めよう。
塵旋風の効果終了と同時にブーメランも手元に戻る。
再び構え直し、塵旋風を発動しようとした。
――【塵旋風】はリキャスト中です。残り28秒。
そうだったそうだった。
このゲームには再充填のシステムがあるのだ。
簡単に言うと、一回スキルを使った後に再び使えるようになるまで時間がかかるという事。
強力なスキルも再充填時間が長いから連発できないなど、バランス取りの為に使われている。
このゲームは不平等と言っているから、そこら辺のバランスを越えていくことも可能かもね。やり込めば。
とりあえず設定していなかった再充填時間の表示設定を1にしておく。
視界の隅に透過する文字と数字で表示されるタイプだ。
【塵旋風】のリキャストタイムは30秒。
範囲攻撃に目くらましと強力なスキルなのに早い。まさに風の様ね。
「とにかく通常攻撃で時間を稼ごう」
私はブーメランを投げる。
DPゾンビはレッサーゾンビに比べると機敏だが、まだ私にはまるで及ばない。
ブーメランを避けようとするも避けられず、腕が吹っ飛んだ。
「グガガガ……ッ」
腕が無くなったことを特に気にしていないのか、DPゾンビはこちらに向かってきた。
私はもう一度ブーメランを投げ、もう一本の腕も切り落とした。
「グギ……ッ! グギ……ッ!」
どうやら遠距離戦は不利と見て、なりふり構わず突っ込んできたようだ。
確かに近づかれると【塵旋風】は使いにくい。
しかし残念、ブーメランは遠近両用の万能だ。
「ハァッ!」
私はブーメランを振り下ろす。
すると、DPゾンビは意外にもそれを避けた。
「あれっ!?」
そのままDPゾンビは私に噛みついてくる。
私はそれを『白革のグローブ』を装備した左手でガードした。
なるほど、腕を捨てたことで動きが早くなったのか。
噛みつきを振りほどき、何度か切りかかってみるも、避けられてしまう。
「こうなったら、かつて私が他の世界で企画に応募した……じゃなくて、編み出したスキルを使う」
私はそのスキルを思い起こす。
――新スキル発現!
「ブーメ乱舞!」
私はブーメランを距離にお構いなく投げた。
当然噛み付けるほど近いDPゾンビには当たらず、後ろへ飛んでいく。
これでいい。
予備の『木のブーメラン』を掴み、再び切りかかる。
勘のいい人はここで理解する、このスキルを。
切りかかる私の攻撃を避けた時、後ろから戻ってきた『目覚めのブーメラン』にその身を切り裂かれる。
そして、戻ってきたブーメランに軽く触れ、再び回転を加える。
これを繰り返し踊る様に敵を切り刻む。
「グッ……ガ……アァ……」
なかなかタフだったDPゾンビも、もう立っているのがやっとのようだ。
「とどめ!」
私は縦に敵を切りおろし、そのまましゃがみ込む。
次の瞬間、頭上を『目覚めのブーメラン』が通り抜けDPゾンビは十字に切り分けられていた。
――レベルアップ!
――スキルレベルアップ!
「……ふー、今を思うと使いどころが難しいスキルね。これを公式の企画に送るなんて、若気の至りってやつかな」
ネーミングといい、動きといい、少し恥ずかしいものがある。
まあ、このゲームでも生み出したという事は気に入ってるんだろうけど。
って、そんなことよりアチルの治療をしなければ。
幸いモンスターは寄ってこなかったようで、彼女は無事だった。
「今助けてあげるからね」
私は『解毒粉』をアチルの口に入れ、そこに『HPポーション』を注いだ。
「……んんっ! ぐっ!」
苦いのか吐き出そうとした彼女の口を無理矢理おさえ、飲ませる。
アチルも観念したのかゴクッとそれを飲み込んだ。
これで毒と傷もある程度回復するはず。
にしても彼女の装備のボロボロ具合は酷いね。
服は穴だらけで下着が見えているし、手に握られてる弓の弦は切れ、矢も持っていないようだ。
「うぅ……はぁはぁ……」
彼女の呼吸はマシになってきたけど、キズがところどころ残っている。
私はもう一本『HPポーション』を取り出し、傷口に直接かける。
すると、傷口がみるみる塞がり、綺麗な若い肌に戻った。こういう使い方もできるようね。
「あ、あなたは……」
「私は旅人のマココよ。村の人にあなたを連れ戻す依頼を受けたの」
「そうですか……。でも、私はもっと強くならないと……」
「でも、危なかったでしょ?」
「うぅ……じゃあ私と一緒に来てください! もう少し進んだらどこかに帰還用の魔法円があるはずです。そこまで一緒に進んでください!」
――エヴォルクエスト発現!
――『じゃじゃ馬娘のお願い』
――このクエストを受けますか?
エヴォルクエスト。
クエストの進め方によって現れる、さらに発展したクエストだ。
一般的にエヴォル前のクエストより難易度が高くなるとされている。
どうしたものか……。
「……武器がもう無いようだけど、それで何か出来るの?」
彼女の弓はもう使いもにならないし、矢も無い。
パーティを組んでも、何もしなければ経験値は入らないと言われている。
このままでは彼女の自分を鍛えるという目的は果たせない。
「そ、それは……この先で拾います……。なんでも使おうと思えば使えますから……」
ふーむ、彼女を抑えるのは大変そうだ。
入り口直帰用の魔法円は大体きりのいい階層にある。例えば5Fとか10Fとか。
10Fまで行くのは少し怖い。5Fならいいかな。
「じゃあ、5Fまで行きましょう。そこに帰還用の魔法円が無かったら来た道を引き返す。いいね?」
「はい! ありがとうございます!」
――エヴォルクエスト受領!
――『アチル』がパーティに加わった!
「さて、まずはあなたのステータスを確認して……」
「マココさん! さっきのデッドリーポイズンゾンビが金の宝箱を落としてますよ!」
「なにぃ!?」
金の宝箱というのは、そのモンスターがドロップするアイテムの中で、最高レアリティの物が入っているとされる宝箱だ。
DPゾンビは階層の割に強い奴だったから、中身も期待できる!
「まってまって、私が開けたい!」
何度体験してもドロップ品の確認はワクワクする。レアとなればなおさらだ!
私は確認作業を投げ出し、宝箱の前に跪いた。
「開けるよ……っ!」
勢いよく宝箱を開く。
――ゴールドドロップ獲得『ロットゥンクロスボウ』!
ロットゥン……「rotten」だから「腐った」という意味か。
ゾンビからドロップする武器として完璧な名前ね。
見た目は渋くて結構カッコいいし、軽くて扱いやすそう。その代わりにかなり脆そうだけど。
宝箱には他にも低レアのアイテムが入っている。
毒モンスターらしく親切に『解毒粉』が二つ。
防具らしき『朽ちきったローブ』に『古革のブーツ』。
いやぁ大漁、大漁!
今欲しいものが大体入っていた神ドロップだった。
よく確認して、装備していくとしよう。
自分のレベルも上がったし、アチルの能力も気になるところね。