Data.44 灼熱のモンスターたち
◆現在地
ヴォルヴォル大火山洞窟:地下3F
「ええい……っ!」
目の前に立ちふさがる人型の炎の塊<フレイムマン:Lv25>を切り伏せ、私は額の汗をぬぐう。
雑魚の数はそこまで多くないけど、質はいい感じね。
ゾンビ共とは全くの逆だ。
動きも機敏で接近されると面倒だし、なにより炎を纏ってる奴ばっかりだから熱い!
「喉が渇くわ……」
モンスターからダメージはさほど受けていないけど、ダンジョンにいるだけで体力が削られていく。
ポーションをこまめに飲みながら進まないと厳しいわね……。
「しかし、あんまり飲みすぎるとなくなってまいますわ。どこかに涼めるとこでもあったらええんやけどなぁ……」
「まだ地下3Fか……。階の数によっては引き返す時のことも考えないとね。まぁ、まだまだ行けるけど」
ダンジョンのどこかには入り口まで一気に戻ることが出来る帰還の魔法円がある。
特に最終階層には基本的にあると言っていい。
しかし、このダンジョンにもあるかはわからない。
というのも、ルール的に『証』を手に入れた後、死なずに脱出することも重要とされているからだ。
最後の試練とやらがボス討伐として、それを達成した後に一気に外へ帰れてしまったらこのルールが必要ない。
だから、帰りも来た道を引き返す必要があるんじゃないかと私は考えている。
このダンジョンが20Fとしても、行き帰りなら40Fだ。
……この予想、裏切ってくれるとうれしいな。
「あたしの予想では、このダンジョンはそれほど長くないと思いますわ。あと『水底の大宮殿』も。あくまで気休めの予想やけど……」
「それはまたどうして」
暑さを紛らわすために、ベラの前向きな話に乗っかる。
「三つのダンジョンのテーマや特色と言いますか、バランスと言いますか。それを考えると『ヴォルヴォル大火山洞窟』は特色は『一階層の広さ』と『環境の厳しさ』やと思いませんか?」
「その通りね。一つのフロア広すぎ、そして熱すぎ」
「そこでバランスですわ。そこらへんが大変な代わりに、何かしら他二つのダンジョンと比べて楽な部分も特色になってるはず……というワケやな」
理想がかなり入ってるけど、信じたいものね。
私もこの運営が三つのダンジョンを『高難易度』にしても、『ただいじわるな難易度』にしているとは思えない。
どこかしらつけ入るスキはあるはずだ。
「その予想に当てはめると、他のダンジョンはどこら辺が大変だと思う?」
「見たこともないから、あくまでこれも想像なんやけど……。『水底の大宮殿』は『ダンジョンに入ること』自体が難しいと思ってます。なんせ『水底』やからな。湖か、海か、どこかに潜ってその水の底に辿り着く必要があると思ってますわ」
「水の底か……。確かにこのダンジョンより入るのは難しそうね。ここは近くに村まである親切設計だし、道中モンスターも大していなかったわ。もし水の中のモンスターが宮殿を守ってたら、どう戦えばいいのかしら……」
「あくまで想像やけどね……。それでも、この予想が当たってればマンネンが大活躍するんでありがたいんやけどな」
マンネンは水中戦は得意なようね。
流石、亀。
「もう一つの塔のダンジョンはどう見る?」
「『大嵐の螺旋塔』は、『大嵐』の部分が目に付くんやけど、あたしは『塔』の部分に注目して『長いダンジョン』やと思ってます」
ふーむ、塔だから長いか。
確かにゲームで『塔』といえば、やり込み要素でドンドン登りどこまでいけるかを試すものもあるわね。
厳しい環境ではないけど、純粋に長い。
それはそれで飽きてめんどくさくなりそう……。
「なんだかんだ、このダンジョンが最初で良かったかもね」
「そう信じて頑張りましょ」
私たちは汗を流して、さらに進んでいく。
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◆現在地
ヴォルヴォル大火山洞窟:地下4F
「はぁ……はぁ……。何とかなったわね」
「4Fでこれかいな……。いや、逆にこれはあたしの予想を裏付けてるとも言えますな……。モンスターの最大レベルが45やのに、ここでもう35が出てきた。ダンジョンの真ん中あたりまで来てる……とええなぁ……」
今、5Fに通じる魔法円を守るように佇んでいたモンスターを倒した。
<フルフレイムスケルトン:LV35>。
燃え盛る炎を纏った骨の剣士だった。私、スケルトンと縁があるわね。
レベルの高さもさることながら、炎の刃を発生させて剣の攻撃範囲を広げてくるのが非常に厄介だった。
剣術スキルも高いようで、『邪悪なる大翼』の攻撃を何度か受け流された。
しかし、このブーメランを受け続けること自体が間違い。
切り結んでいるうちに発動させていたスキルで剣を腐食させ砕いて、そのまま武器を失った敵を倒した。
なんか武器の差で押しきった感じがするけど、あっちも燃えてたしおあいこだ。
炎があっついのよ!
「ポーションも残り少ないけど、飲むしかないわね」
「せやなぁ……」
流石のベラもお疲れの様子。
私たちは熱でホットになったポーションを飲む。
冷えててもそこまで美味しくないのにホットはもう……。
【アイテムボックス】があれば、もっとたくさんの数を美味しさそのままで運べるんだろうなぁ……。
イベント攻略中も【アイテムボックス】の存在を意識させる創造神の手腕には驚くわ……。
「5Fでなにも無かったら一度引き返しましょうか……」
そういえば『死して蠢く者の洞窟』も初探索は5Fで帰ったような……。
嫌なクセになちゃいそう、5Fで帰るの。
「……しゃーないけど、そこが退きどころやな。じゃ、最後のフロア、気合い入れていきましょか……」
私たちはポーションの残りを再度確認し、魔法円を発動させた。
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◆現在地
ヴォルヴォル大火山洞窟:地下5F
……そこはまた広間だった。
「はぁ……またこれかいな。もう見飽きたで……」
「いや、これは違うわ!」
広間は広間でも、いわゆるボス部屋の構造。大きな円形の広間だ!
その証拠に壁には通路となる横穴がない。
私はそれをベラに簡単に伝える。
「なんやてマココはん! ここがボスの部屋かいな! ってことはこの階層で終わりか!?」
「それはわからないわ。中ボスの可能性もある。でも、前のダンジョンで中ボスはちょうどダンジョンの真ん中にいた……」
5Fがダンジョンの真ん中、つまりこのダンジョンが全10Fの可能性が出てきた。
それならまだ次の探索で頑張れそうだ。
「とにかくここに出て来るボスを倒せばええんやな!」
「話はそれからよね」
私とベラは広間の中央へと一歩踏み入れた。
すると、中央に刻まれていた炎を模した紋章から火柱が吹き上がった。
その火柱は数秒間吹き続け、それが消える時、中から黒い鎧が現れた。
<フレイムリビングアーマー:Lv40>。
『リビングアーマー』というのは、要するに独りでに動く鎧だ。
霊の力だったり、魔法の力だったり、動力はまちまちだけど、今回の奴は炎を動力にしているようだ。
空っぽだった鎧の中に炎が現れ、それがどんどん広がり鎧の隙間から吹き出し始めた。
「これは……また硬そうやな……」
「ベラはサポートに回って、私が奴の攻撃を受ける」
私は前に、ベラは後ろに下がる。
その間にリビングアーマーは手を地面にかざすと、そこからまた火柱が吹き上がり、中から黒い岩でできた巨大な剣が現れた。
その剣もまた炎を纏っている。
黒いボディに赤い炎が映えて非常にカッコいいけど、これは強敵ね。
そう考えながらも、私は先手必勝で敵の間合いに踏み込んだ。
「イヤァ!」
振り下ろした『邪悪なる大翼』と炎の黒い大剣とぶつかり火花を散らす。
流石に頑丈そうだけど、腐食させていけば……。
「邪悪なる突風!!」
私は腐食の風を発生させ、大剣を腐らせにかかる。
「…………」
風の効果に気付いたのか、リビングアーマーも大剣に炎の渦を纏わせ対抗してきた。
炎の渦にぶつかった紫の風が散らされていく。
「なかなか……ッ! やるわね……」
腐食させるのは上手くいかなさそうだ。
しかし、武器としての格はやはり『邪悪なる大翼』が上。
このまま武器同士を打ち合わせていれば、いずれ相手の武器は壊れるだろう。
しかし、私の体力が持たなさそうだ。
大きいブーメランを振り回すだけでも疲れるのに、加えてこの暑さだ。
根性比べでは負ける!
あいわらずボスモンスターは環境に合わせた戦闘スタイルを身に付けてるわね……!
勝機があるとすれば、奴の関節を狙うことだ。
炎が噴き出してくるぐらいだから、鎧には隙間がある。
その隙間の一番大きいところが関節部分だ。
関節部分……特に腕回りを切り落とし、剣を持てなくすれば勝ちも同然。
でも、なかなかそれが難しい。
敵も『邪悪なる大翼』による大振りの脅威を学んだようで、威力より手数の剣術を展開してくる。
素早い斬撃は威力は低くとも素早く、私に大きく武器を振り上げる隙を与えない……!
「あかん……硬い敵になるといつも足手まといや……。んっ、足手まとい……」
ベラが何かつぶやいている。
しかし、彼女の攻撃スキルでは、比較的脆い鎧の関節を砕くことすら難しいはず……。
気にせず大人しくしてくれればいい。私が何とかする……。
その時、踏み込んで斬撃を与えようとしたリビングアーマーが前のめりに倒れた。
私は驚きつつバックステップで後ろに下がった。
良く見てみると、リビングアーマーの脚には紐のようなものが絡まっている。
これは……。
「はっはっはっ! 上手くいったで!」
ベラだ。
彼女の手から放たれたムチが、敵の脚を絡めて転ばせたのだ。
感謝の言葉を述べたいけど、今はやる事が先にある!
「うおりゃあッ!!」
私は残った力を振り絞り、リビングアーマーの肩の隙間に『邪悪なる大翼』を振り下ろす。
鈍い音を立てて鎧が歪んだかと思うと、続いて金属が切断される音が聞こえ、【斬撃波】によってその腕が切り落とされたことがわかった。
リビングアーマーもその段階で敗北を認めたのか動かなくなり、数秒後には光の粒子になった。
私……いや、私たちの勝ちだ。
「やりましたなマココはん!」
ベラが満面の笑みで近寄ってきた。
「ありがとう。とっても助かったわ……」
「いやぁ、それほどでも……あるで!」
苦手とするタイプのモンスターに一矢報いたので彼女は上機嫌だ。
「今までムチで攻撃することばっかり考えとったけど、こういうトリッキーな動きこそこの武器の本質やと気づきましたわ。一歩成長やな」
ベラはその手に握られたムチを見つめる。
武器を理解し、愛着を持つのは良い事だ。
「……あっ、ボスの光の粒子が何かを作り出そうとしてるわ」
「おっ! レアドロップか!」
私たちは光の粒子の塊を見つめる。
できればこの暑さを軽減できる装備が欲しいなぁ……。
「……中ボス討伐オメデトウ! 力ある者たちヨ!」
「ん? マココはん何か……言ってへんよな?」
「うん……」
その声は光の粒子から聞こえてくる。
「私は迷宮の妖精! ダンジョンフェアリーだヨ! 力ある物にすばらしい特典を与えよう!」
光の粒子がはじけたかと思うと、中から小さな妖精が現れた。
髪は赤、服も赤、その羽も炎のように赤く揺らめいている。
「さぁさぁ、くるしゅうない、ちこうよれ。敵じゃないヨ」
なんかすごく胡散臭い……。
でも『すばらしい特典』は大いに気になる。
とりあえず話を聞いてみるとしましょうか。




