Data.42 二人の作戦
イベント詳細発表後、なんとなく騒がしくなったような気がするAUOの世界『フェアルード』。
私たちはその世界の大陸の真ん中にある都市『セントラル』から、少し離れた場所にいた。
都市内で放送を見なかった理由は、他プレイヤーからパーティにめっちゃ誘われると考えたからだ。
なんたって、私がドラゴンゾンビを討伐したことは割と知れ渡っている。
イベント内容的に戦闘能力が高い私と組みたい人も多いだろう。
ただ、そこまで大所帯でワイワイするのは好きではない。
ここは基本ベラと二人で挑ませてもらうわ。
ダンジョン内部で出会えば多少助け合ったりするかもしれないけど、今回は他プレイヤーへの攻撃が許されている。
助ける相手も選ばないといけないってのが大変よね……。
「マココはん、『ヘルプ』に今回のイベントに関する『Q&A』が追加されてますで!」
ベラの言葉を受け、私もウィンドウを操作しそのページを開く。
情報量はかなり多いから、必要なものを選んで読み込む。
その結果、いくつか重要な情報を得られた。
まずは三つのダンジョンの位置。
『ヴォルヴォル大火山洞窟』はセントラルからまっすぐ北に行ったところにある。
『水底の大宮殿』はセントラルからまっすぐ南西に。
『大嵐の螺旋塔』はセントラルからまっすぐ南東に……。
「これは……ダンジョンを線で結ぶと、セントラルを中心とした正三角形になるのね」
「なかなか粋な演出ですなぁ」
今、私たちから近いのは『ヴォルヴォル大火山洞窟』かな?
まあマンネンの足なら少しの距離の違いは誤差みたいなもんだけど。
次の情報は『証』正体だ。
さっきほどの放送では『証』がアイテムなのか、装備なのか、わからなかったけど、その正体が『Q&A』にはちゃんと書いてあった。
証とは、体に浮かび上がる『模様』である。
私は左手の甲を見つめ、念じる。
すると、そこが光を放ち、タトゥーの様なものが浮かび上がった。
装備の上にも問題なく表示されるこれは、『証の跡』と呼ばれるもので、大きな三つの円が三角形に並んでいる。
そう、この三つの円は三つのダンジョンにそれぞれ対応している。
赤い上の円は『ヴォルヴォル大火山洞窟』。
青い左下の円は『水底の大宮殿』。
緑の右下の円は『大嵐の螺旋塔』。
ダンジョンを攻略すると、対応した円の中に『証』が刻まれるという仕組みだ。
そして、全ての『証』その手に刻めばクリア。
クリア後、イベント終了後に跡は消える。
「重要なのはこんなもんやろな。マココはんは、なんか他に気になるもんありますか?」
「そうね……。このダンジョン内の映像がリアルタイムで見れるっていう『イベントシアター』は少し気になるわね」
『イベントシアター』は主要都市にあり、リアルタイム映像はそこでしか見れない。
つまり、ダンジョン内で映像を見ながら探索というのは不可能だ。
全体の状況を確認したいなら、一度町まで引き返す必要がある。
それと、『イベントシアター』には映像以外にもう一つ情報を得られる。
それはプレイヤーが入手した『証』の数。
どの証がいくつ入手されているかを知ることが出来るみたい。
また、証の所持数別プレイヤー分布も見れる。
これは要するに証を3つ持ってるプレイヤーは何人で、2つは何人、1つは……みたいな感じで、『何人のプレイヤーがクリア済みなのか』や『2つ持ってるプレイヤーが増えてきたから急ごう』とか、これもまたダンジョン攻略の計画作りに大いに役立つものらしい。
人のプレイを見るのも好きだし、一回立ち寄ってみたいものね。
ちなみにこの映像を通して【ステータス鑑定】は行えないらしい。本当にただの映像だ。
「ほー、イベントシアターかぁ……。確かに一度立ち寄って、使い勝手や他のプレイヤーの動向を探るのもアリっちゃアリやけど……ここはスタートダッシュを決めたいとも思うなぁ」
「でも、いきなりダンジョンに突っ込むのは危険じゃない? 各種回復アイテムの準備は出来てるとはいえ、モンスターのレベルやダンジョンギミックもわからないし……」
「それはそーなんやけど、逆に一番のチャンスであることも事実なんですわ。今なら様子見でダンジョンに行く人も少ないやろうし、普通に攻略できる難易度やったら大きく先に行ける……そう思いまへんか」
「……それもそうかぁ。うん、じゃあ行こう。てか、私たちで先に進めないようなダンジョンなら、他のプレイヤーにも無理。だから失敗しても問題ない……そう思いましょう」
「その意気ですわマココはん! なんたってドラゴンゾンビ討伐の立役者! 今、マココはんにケンカを売るプレイヤーはそうおらんやろうし、そういう方向では安全ですわ」
一応はトッププレイヤー(と他の人に思われている)であろう私にいきなりケンカをふっかけて、72時間のペナルティをもらいに来る奴はいないか。
そうよね。傍から見れば私『が』恐ろしい存在よね。
「で、どのダンジョンに行く?」
「位置的にも近いし、何より名前的に他のダンジョンよりかは内部が想像しやすい『ヴォルヴォル大火山洞窟』にしようと思ってますわ」
「私もそれに賛成」
今まで挑んだダンジョンとフィールドはどれも背筋が寒くなるような場所ばかりだった。
そろそろ熱いダンジョンも良い頃合いよね。
「よっしゃ! ではマンネン発進や! マンネンによる移動の速さも他プレイヤーより優れてる点ですわ!」
ベラはモニターの前に座り、マンネンに指示を出し始めた。
はたして、どうなることやら。
意外とみんな積極的に攻略に乗り出してたら、ダンジョンが混雑なんてこともあり得る。
まあ、それもイベントらしくていいんだけどね。
そんなことをぼんやり考えながら、私たちはダンジョンへ向けて爆進していた。
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◆現在地
ヴォルボーの町
そこはヴォルヴォル大火山のふもとから少し離れたところにある町だった。
主要都市ほど大きくないものの店は一通り揃っているような見え、石造りの家々も立派だ。
また、火山の近くということで温泉施設のようなものも見受けられる。
「ダンジョンの近くにちゃんとした町があるとは親切設計やなぁ。リスポーン地点に登録しときましょ……って、リスポーンしてもうたら3日間はここに用がありまへんな! ははは!」
笑えるようで笑えない冗談だ。
先に動くということは、それだけ様子見の他プレイヤーにその行動を晒すことになる。
無様な敗北だけは避けたいわね。
見栄を張りたいわけじゃなくて、笑われるのは私も人並みに嫌なだけだ。
「この大きさの町ならモンスターを預かってくれる店もありそうや。じゃ、マンネンを預けてくるで!」
ベラはそそくさと私から離れようとする。
何かおかしい……。
「ちょっとまって。マンネンを預けるの早くない? ダンジョンも『大洞窟』なわけだから、普通に一緒に動けるくらい広いだろうし。もしそうでなくても、マンネンで移動して広さを確認してからまた預けにくればよくない?」
『霧がくれの山』でレベルアップして多少マシになったけど、それでもマンネンのいないベラは戦闘力大幅ダウンだ。
「それが……マンネンは暑いところが苦手やねん……」
「えぇ……」
「水の中とかも平気やし、重いから嵐でもふきとばへんけど、暑いのはどうもなぁ……」
金属部分が熱されると、それに接している肉体部分が焼けてしまうとか?
火は吐くのに……。
どちらにしろ冗談でこんなこと言わないだろうし、受け入れるしかないわね。
「やから、今回はマココはんとあたし自身でダンジョンに挑もうかなぁと……。その為に、早めに行動を起こしたんですわ。雑魚モンスターならまだしも、戦闘特化のプレイヤーとは分が悪そうやと思ってな。それにイベント進んで競争が激化してきた時のために、マンネンが入れるダンジョンを後にしといた方が楽やなーとも」
初めからどこかしらでマンネンなしの単独戦闘が求められる事態を想定していたみたいだ。
一番目のダンジョンに『ヴォルヴォル大火山洞窟』を選んだのにはそういう理由もあったのね。
ベラが真剣に考えた作戦なら心配ないわ。
「まあ、もしもの時は私が何とかするわ。ベラは生き残ることだけを考えて」
「ほんま、すんません! 頼りにさせてもらいます!」
「そんな気を遣う必要はないって。私もベラとマンネンにはいつも助けられてるしお互い様よ」
私たちは町を出て、ダンジョンへの道を歩いて進みだした。
その道中に人影はない。やっぱり、みんな様子見なのかな?
どちらにしろ、私のやることは一緒だ。人に見られてるとか気にせず、マイペースに行こう。




