Data.41 明かされたルール、始まるイベント
『霧がくれの山』から下山して二日後……。
つまり、今日が第一回イベント『アイテムBOX争奪トライダンジョン』の開催日だ。
「いよいよやな、マココはん!」
「そうね。一応準備もしてきたけど、それでもなんだか緊張するわね……」
隠蔽装備を手に入れてから、私たちは二人でレベル上げや、素材集めをした。
素材というのは今着けている防具が傷ついたとき、それを修理するために必要なものだ。
『素材』と『スキル』によって傷ついた装備もある程度よみがえる。
しかし、私たちはその『スキル』を持っていない。
なので、そこは町にいるNPCの職人に頼っている。
AUOの世界には歴史が設定されており、熟練の職人というのはスキルもプレイヤーより成長しているのだ。
その分仕事は確かだけど、お金は結構持っていかれる。
でも、私たちにはドラゴンゾンビ討伐の時に手に入れた魔石の稼ぎがあるので、特に気にならないというワケだ。
こういうところも名を冠するモンスター討伐者の特権ね。
「おっ、そろそろ時間や!」
私とベラはステータス画面を開き、イベント特設ページを開く。
ここに映像が全プレイヤー同時に再生され、イベント内容の発表が行われるとのことだ。
「……っ! きたでっ!」
「ホントだ!」
それぞれのウィンドウに同じ映像が表示された。
生放送扱いのようで、『停止』や『早送り』のようなボタンもない。
『――あー、てすてす』
画面に現れたのは、テレビのニュース番組で使われるような大きなモニターの傍らに佇む黒い服を着た女性だった。
『AUOの世界を冒険するプレイヤーの皆様方。はじめまして、私はBlack3……通称クロさんです』
「この女の子、マココはんの前に急に現れた白い管理AIの子ににてますな。というか、顔立ちはそのまんまやで」
確かに現れたBlack3はシロさんの服や髪を黒くしただけの色変えキャラに見える。
『では、今回開催される第一回イベント「アイテムBOX争奪トライダンジョン」の説明を行います』
その言葉と同時に彼女の横のモニターも起動した。
情報が明かされると同時に、その詳細がモニターに表示されるようだ。
『まず、何よりみなさんが知りたい「イベントクリア特典」の説明からです。その特典とは……物を魔法の空間に収納できる……ス・キ・ルです』
かなりもったいぶってその言葉は放たれた。
クロさんも確信犯のようで悪戯っぽく笑っている。
黒いってそういう……。
まあ、そこは今気にするところじゃない。
一つ大きな情報は、アイテムボックスという『アイテム』ではなく『スキル』という事だ。
これなら壊される心配も奪われる心配もないので安心ね。
『【アイテムボックス】は任意スキルであり、常時スキルでもある特別なスキルです。『取り出す』『入れる』は任意ですが、常時アイテムは仕舞われているわけですから当然ですね』
彼女はそれを実演する。
右手を横に突出し、魔法陣を出現させると、そこから大きな黒い杖を取り出した。
『どれほど物が入るかなどは手に入れてからのお楽しみ。だって、出し入れするところを見せるだけで人気者になれそうですから、ここで私が全部見せない方がありがたいですよね?』
確かにアイテムボックスを一番に入手して、その効果を解明する動画なんてあげたら大人気間違いなし。
私はあまりそういう速報的な動画はアップしないけど、勢いと伸びがあるのはそういう動画だ。
自らの知名度を上げるために奮い立つプロゲーマーは多いだろう。
『これほど強力なスキルをどうやったら入手できるのか……。皆様方、それが知りたくて小さなウィンドウにかぶりついているのですよね?』
管理AIがプレイヤーを煽りよる。
『ええ、そうですよね。お教えしましょう。とはいえ、このゲームにログインするほどの知能を持っている方々ならば、大方予想はついていると思いますが……』
ここでクロさんは一呼吸置く。
『この【アイテムボックス】は……三つのダンジョンをクリアし、三つの「証」を手に入れた者に与えられます。その三つのダンジョンとは……「ヴォルヴォル大火山洞窟」「水底の大宮殿」「大嵐の螺旋塔」の三つ……』
「どれもヤバそうなダンジョンやなぁ……」
「うん……そうねぇ」
でもこう並べると名前的に『死して蠢く者の洞窟』も負けてないわね。
『それぞれ階の数はまちまちですが、最終階層の試練をクリアすることにより、証が手に入る事は同じです』
シンプルなルールね。
過酷なスタンプラリーみたいなものだ。
『基本ルールはこれで終わりです。三つのダンジョンに潜って最後の試練をクリアして戻ってくる……それだけです』
「……それだけじゃ終わらんのやろうなぁ」
「同感」
『しかし、これではあまりにシンプルすぎると考えたので、いくつか競争を生むシステムを追加してみました』
「余計なことを……」
「余計なことを……」
と言いつつ、お互いどこかワクワクを感じているのがわかる。
難易度が高いイベントほどクリアした時嬉しいものだ。
『一つ。この三つのダンジョン内部では……他プレイヤーに対する攻撃が「罪」になりません。もちろんキルしてもオッケーです』
「はぁ!?」
「なんとまぁ……」
『二つ。「証」を手に入れた後、生きた状態でダンジョンから出られた場合、その「証」が失われることはイベント終了までありません。しかし「証」入手後、ダンジョンから出る前に死亡状態になり、蘇生できずにリスポーン地点に戻されてしまったら、そのダンジョンで入手した「証」は失われます。他のダンジョンで手に入れ、入手が確定した「証」は失われませんのでご安心を』
「安心できるかいな! 要するに『証』を手に入れてダンジョン引き返してくる奴を攻撃すれば、妨害できてまうって事やろ? しかも攻撃は罪にならない。これもう半分『妨害しろ』って運営がそそのかしとるで!」
ここまでしてくるとは……AUOの創造神様は流石ね……。
『三つ。ダンジョン内部には定点カメラが設置されていて、主要都市にある施設「イベントシアター」にてプレイヤーはそのカメラのリアルタイム映像を無料で見ることが出来ます。攻略の順序や作戦の組み立てにご活用ください』
「ほー、ダンジョン内での行動は常に他プレイヤーに晒されるわけやな。ルール上問題なくても、あくどい事をし過ぎると自分に返ってくる可能性が出てくるわけか。これなら下手に暴れられへんし、良い抑止力になるなぁ。なかなか考えとるやん!」
ベラが運営に対して手のひらを返す。
妨害ばっかしてるとこがバレたら、逆に自分が恨みを買って危険な立場になりそうだもんね。
『毒をもって毒を制す』みたいな豪快な対策だけど、このゲームらしくて面白いわ。
『四つ。三つのダンジョンのいずれかで死亡し、蘇生が間に合わずリスポーンとなった場合、その時点から三つのダンジョン全てに「3日間」つまり「72時間」入ることができません』
「えっ」
「えっ」
一度死んだら72時間もイベントに参加することが許されないなんて、緊張感を出すためとはいえシビアじゃない?
イベント対象外のダンジョンには問題なく入れるとはいえ、その72時間はもやもやするだろうなぁ……。
『五つ。このイベントで配布されるスキル【アイテムボックス】は数量限定です。初のイベント、そしてこれからAUOを盛り上げていこうということで「GO!GO!AUO!」にちなんで、先着55名までとなっております』
「……」
「……」
先着55名……。
このゲーム、最低でも数十万人は遊んでるはずよね……?
『これにてイベントルールの説明は終了です。何かご不明な点がありましたらお問い合わせください。では……イベントスタートです』
「始めよったで!」
「いやぁ……なんといえばいいのか……」
もったいぶるだけあってぶち込んでくるじゃない。
説明の仕方から見ても【アイテムボックス】はこのイベント限定アイテムではない。
いつかは他の手段で入手できるかもしれない。
とはいえ、その『次』がいつかはわからない。
ならば、あんな便利なスキル……みんな『今』欲しいに決まっている!
「マココはん! このイベントは……」
「ええそうね」
前に思った通り……。
「戦争や!」
「戦争よ!」
※追記
タイトルを少し変更(『戦い』→『イベント』)。
また文章や表現を何か所か整えました。




