Data.40 霧の装備と次に向けて
「よくぞ子どもたちを無事に取り戻してくださった……」
山賊退治後、私たちは三人は特にアクシデントも無く『霧がくれの山村』へ帰還した。
ベラによると、子どもたちも大人しくついて来てくれて楽だったそうだ。
私は先頭を歩き、迫ってくるモンスターを狩った。
視界は悪かったけど、『邪悪なる大翼』が敏感に敵の気配を察知して私を誘導するように動いてくれたから、こっちも楽だった。
「あの山賊たちは一応全員退治したと思いますが、この村が隠れて悪事を働く場所として有効なのは変わりません。ぜひ外の町や人と関わりを持って、いざという時の避難、救援を求められるようにすることをお勧めします」
ユーリが長老様へ助言する。
この霧の中で行動するめんどくささは痛感した。
山でアジトを作るならこの村を乗っ取るほかないのは間違いないわ。
だからこそ、もっと村の防衛力を高めないとね。
「……この村は長い間、こちらから外の者たちに関わりに行くことをしていませんでした。それが村を守ることになると思っていたのじゃ……。しかし、こもってるだけではいけませんのぉ! これからは少しずつ外の世界と関わっていくとしましょう」
「せやせや、それがええと思うで。この村は静かやし、霧も見てる分には情緒がありますわ。宿屋でも開いたら、心が休まるって評判になるとちゃいますか?」
「ほっほっほっ……それも良いかもしれませんなぁ……」
子どもたちは戻り、村の復旧作業も進んでいる。
長老様自身もケガが良くなっているようだし、上機嫌だ。
「お三方はこれからまた冒険に出るのじゃろう? 今、用意したお礼をお持ちしましょう……」
長老様はそう言うと、近くに控えていた使用人に合図を送り、ある物を持ってこさせた。
「これがお主たちが求めていた【ステータス隠蔽】スキルを持った『霧』の名を冠する装備じゃ」
私たちの目の前に並べられたのは、三つの装備だ。
一つは円形の盾。
白、灰、銀と地味目な色が目立つけど、装飾は細かで美しく、堅実さも感じる。
一つはマント。
白、灰、銀を基調とした迷彩柄だ。地味な色合いの中にワイルドさも見え隠れする。
一つは羽織。
白地に日本画風の銀の雲が迫力いっぱいに描かれている。和風な感じだ。
誰がどれをもらうべきか大体わかるわね。
「私は『羽織』を頂こうと思いますが……」
「あたしはこの『マント』や!」
「まっ、私が『盾』よね」
私たち三人はそれぞれの装備をその場で装備し、性能を確認する。
◆防具詳細
―――基本―――
名前:霧の盾
種類:盾/ブーメラン
レア:☆40
所有:マココ・ストレンジ
防御:60
耐久:60
―――技能―――
【ステータス隠蔽】Lv10
※残りスキルスロット:2
―――解説―――
真実を隠す霧の力を宿した円形の盾。
軽く扱いやすいため、投擲武器としても使用可能。
【ステータス隠蔽】のレベルが10あるのもありがたいけど、驚いたのは『ブーメラン』であることだ。
確かに盾を投げてブーメランのように使っている作品を見たことがある。
あと純粋に盾としても頑丈で信頼できるし、いやぁわかってるね長老様は。
「おおっ、このマントええな! ステータスもええし、軽くて着けてる感じがせえへん!」
「こっちの羽織もまるで霧を纏っているようですよ!」
ベラはともかくユーリのテンションが高いのがこの装備の良さを表している。
軽いけど頼れる感じがとても装備してて安心できる。
「よろこんでもらえたようで何よりじゃ。あっ、そうそう。マココ様、先ほど渡した『ペンデュラム』はこの村でも貴重品なので、返してもらえるとありがたいのですが……」
「もちろんお返ししますよ」
私は首にかけていたペンデュラムを外し、長老様に手渡す。
「……ほお、キズ一つついていませんな。山賊どもは手練れなので、ペンデュラムが破壊されるほどの激しい戦いも覚悟していましたが……」
「んー、まあボス以外はあっさりでしたね。いや、ボスもあっさりかな?」
「あの山賊のお頭はん、人質もおるのに焦ってマココはんの手から『邪悪なる大翼』を離させようとしとったなぁ。怯えてたと言ってもええで。それだけヤバい武器に見えたんやろうか……いや、誰でも見えるか!」
仲間を倒されて動揺してたというのもあるけど、確かに『邪悪なる大翼』を恐怖の対象として見てたわね。
……まあ、誰でも見るか!
デカいし黒いし勝手に動くもの。私にもまだ恐怖の対象よ。
「ほぉ……『邪悪なる大翼』とはその黒く大きなブーメランのことですか。その存在感は『霧』の装備と正反対ですな。使いこなすのが大変そうじゃのう」
「まあ、確かに大変なんですけど、最近少し『心』が通じてきたかなとも思うんです」
「それは良いことじゃ。物にも心が宿ると言われとる。大事にするに越したことはない。しかし、持ち主である自分を大事にすることも忘れず覚えていてくだされ」
「わかりました。いろいろありがとうございます」
「いえいえ、これしきのことは村を救っていただいたことに比べればまだまだ。また機会があれば村を訪ねてくだされ。歓迎いたしますぞ」
私たちはそれから少し話をしたのち、助けた子どもたちに見送られ村を後にした。
山のふもとまでは村の戦士が案内してくれたので、登る時より数倍速く目的地に辿り着けた。
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「さーて、イベントまで一番やるべきやったことは終わったし、残った時間は地道にレベル上げでもいきますかいな」
私たち三人はマンネンを預けていた『霧がくれの山』から一番近い町まで戻っていた。
「ユーリも私たちと一緒にイベントやってみる?」
「私、そのぉ……プロではないので、足を引っ張りそうで……」
「なにいうてんねん! 山でのあんたの活躍はトッププレイヤー気取ってる奴よりずっとスゴかったで! 自信もちーや!」
「ひっ! ごめんなさい……」
ベラに一方的な作戦を押し付けていたユーリは鳴りを潜め、今は完全に気圧されている。
「実力というより……時間の問題なんです……。私、リアルでの本職も巫女なので……」
「えっ、そうなの! すごいわね。結構な人気職でしょ」
この時代、全世界的に神への信仰というものは薄れたけど、もともと日本人はあまり信仰心に厚くないし(個人差はあるけど)、前時代とあまり変わらぬスタイルだ。
神社などの歴史と美しさのある建造物は観光の名所として人気で、お祓いやお祈りも気分的にも何か救われるということで根強く残っている。
好きな仕事をやっていても、神に祈りたくなることはあるしね。
そんな場所で働く巫女さんは『歴史』や『伝統』を守り『神聖な雰囲気』を生み出すクリエイターであり、人の心を救うエンターテイナーなのだ。
「まぁ私は下っ端で、一週間に数日お守りを売る係をやったり、掃除をしたり、祭りごとの準備をしたり、観光客に写真をお願いされたりするぐらいです……。楽しいですけどね」
「うーん、そう言われると無理に誘えへんな」
「すいません……せっかく誘っていただいたのに……」
「全然いいのよ。好きなことを好きなようにやればいい。人のプレイスタイルに文句は付けないわ」
「でも、一緒に冒険したくなったらまた言うてや! いつでも待ってるで!」
「あ、ありがとうございます!」
ユーリは何度も礼を述べた後、私たちと別れた。
残された私とベラは自然と彼女の話を始める。
「ゲームのジョブとリアルのジョブを同じにするってすごい子ね」
「いろんな遊び方がありますなぁ。あたしたちは現実で出来ないことをやりたがるタイプやけど」
「時間のことを言われると、少し心が痛いわね」
「『ゲームばっかりやってたらアカン!』っていう前時代的な考え方が、遺伝子に刻まれとるんやろうなぁ……」
「……私たちも一度休憩入れましょうか? 一区切りついたし」
「せやな!」
私の使っているゲーム設備は最新型だから肉体に負担は少ない。
でも、精神をずっと使ってるとやっぱりなんとなくダルくなる。
良いパフォーマンスを維持するために適度に休憩!
これが私の流儀……なんてね。
私とベラは次の行動の打ち合わせをし、お互いログアウトした。
次回からルールも明かされ、イベント編に入る予定です。




