Data.37 山賊退治と隠蔽装備
「よく来てくれましたのぉ……。村の民も救って貰ってようで、長としてとても感謝していますぞ」
長老宅は他の家より少し大きいぐらいで、豪華というワケでもなかった。
でも、落ち着く雰囲気で住みやすそうではある。
「お主の聞きたいことはわかっておる。山賊どもを打ち倒し、この村の危機を救うためにやつらの根城が知りたいのじゃろう?」
「えっ、いやぁ……」
山賊退治はしようかなと心の片隅で思ってはいたけど、こう当然のことの様に言われるとビックリする。
「そうじゃのそうじゃの。まず何故ここが狙われたかを話すとしよう」
「お願いします……」
「山賊どものボスは何らかの装備、あるいはスキルでこの霧の中を見通せるようじゃ。そして、それを頼りに奴らは山頂付近までやってきて、そこにアジトを作り始めた。この霧は特殊な『何か』がないと、ほぼ迷ってしまうからの。隠れて悪さをする拠点を作るのにはもってこいな環境なのは認めざるを得んのじゃ……」
「それで山賊どもは、この村が目障りになったとか?」
「それもあるが、大きな要因はこの村の中心にある『霧消し石』じゃ。これは山頂にある『霧吹き石』と対になっている。『霧吹き石』の効果でこの山には常に霧が出ているが、『霧消し石』の周辺だけは霧が晴れるようになっておる」
『霧消し石』……それでこの村に入った途端霧がなくなったのね。
「山賊どもは山頂付近にアジトを作ったのはいいが、そのアジト内も霧が満ちるせいで視界は悪く、声も通りにくくなるという事態に陥ったのじゃ。あっ、この霧が音すら微妙に吸収するのは知っとったかね?」
「ええ、なんとなくわかります。つまり、山賊は快適な悪さの準備をする為にこの村を襲ったと?」
「ほっほっほっ、面白い言い方をしますな。まさにその通り。二つの石は重く頑丈で破壊することも移動させることも難しい。賊はこの村の土地を奪うほかないというわけですな……」
より悪さをしやすくするために悪事を働くか……。
うん、やっぱり退治できるならしようかな。
でも、その前に……。
「私、この山に仲間と一緒に来たんですがはぐれてしまって……。私以外に誰か村を訪ねてきた人はいませんでしたか?」
ベラの捜索も大事だ。
今頃、倒せないモンスターに追われて山を逃げ回っているかもしれない。
「おっ、確かいましたぞ。わしたちが襲撃を受けている時、ちょうどやってきて山賊を追い払い、そのまま追撃にうってでたお人が。この村にも戦士はいるのですが、モンスターを相手にしたことはあっても人を相手にしたことはなくてですな。苦戦しておったところに、まさに救世主のごとき登場でありました」
うーん、ベラではなさそう。
でもそれなりの腕を持ったプレイヤーっぽいわね。
「その人の見た目ってわかりますか?」
「そりゃわかりますとも。わしがこの程度のケガで済んだのも、そのお人が前に立ちふさがってくれたおかげですから。えーっと濃い青の長い髪にぃ、鮮やかな赤と白の珍しい服を着ておられましたな」
やっぱり全然違う。
山賊退治もやりたいけど、ベラも放っては置けない。
どうしたものか……と考え込んでいると村長がそれを察して話しかけてきた。
「山賊退治を請け負ってくれるのでしたら、比較的軽症な村の戦士がそのお仲間を探します。わかりやすい特徴を教えていただきたい」
「それはありがたいのですが……。その間に村の守りは……?」
「霧のモンスターは霧の無い場所に出ませんし、それ以外のモンスターも大して脅威ではありません。山賊もこの村から引き上げる際に何人かの子どもをさらっていきました。やつらの数はそれほどでもないようです。村の戦士と戦うことで仲間を減らす事態を恐れ、子どもを人質に土地を明け渡すよう迫ってくる作戦でしょうな……」
ならば山賊がもう一度攻めてくることもない……か。
うーん、この山については素人の私が探すより、住み慣れた村の人に任せた方が確実そうね。
「わかりました。山賊退治、やってみようと思います」
「おぉ……ありがたい。では、これを」
長老様は白色の石で作られたペンデュラムを私にくれた。
「これは?」
「この村の位置と山頂の位置をしめす物です。紐と石をつなぐ金具の部分を回してみてくだされ」
私は長老の言葉に従って、金具部分を軽く回す。
すると石の色が青に変わった。
さらに回すと赤にも変わった。
「青は『霧消し石』の方向を指し、赤は『霧吹き石』を指す。つまり、この村と山頂のアジト付近に迷うことなく移動できるというワケですな」
赤のペンデュラムは斜め上を向いている。
長老の言うとおり、山頂の方向を指しているというわけね。
「先に追撃にでたお人にはこれを渡す間もありませんでした。もし、偶然会うことがあったらワケを話して一緒に協力して山賊どもをこらしめてくだされ……このとおりじゃ……」
長老様は深々と頭を下げた。
初めは変わった爺さんだと思っていたけど、村のことを真剣に考えているようだ。
「いえ、こちらもやりたくてやるのでお構いなく。子供たちも救出してみせますよ。あっ、そうそう仲間の特徴をお伝えしておきます」
私は名前や装備、顔立ちや口調などベラのわかりやすい特徴を伝えた。
直接探してあげられないのは申し訳ないけど、後で事情を話せばわかってくれるでしょう。意外と器は大きそうだし。
探すといえば、先にこの村へ来て山賊を追撃している人も気になる。
途中で敵を見失えば、ペンデュラムを持っていないその人は道に迷ってしまうだろう。
私と合流できたらいいけど、出来なかった場合村と子どもたちを助けられる確率が一番高いのは私だ。
それに山賊に顔がバレてないから、見つかっても子どもたちを人質に使われないかもしれない。
正面から戦闘を仕掛けてくれればこっちのもんだわ。
「重ね重ねお願いいたしますぞ。もちろんお礼もさせていただきます。お主が本当に求めている物、それはあるスキルを持った装備ですな……? この山をわざわざ訪れる者は、皆そうじゃ」
「その通りです。【ステータス隠蔽】のスキルを持った装備を探しにここに来ました。でも、そこまで急ぐ用じゃないので……」
「いやいや、用意させていただきますぞ。この霧の中に生きる民が、霧の中で得られる素材を用いて作った最高の隠蔽装備を……じゃ」
「本当ですか!」
「もちろんじゃ。感謝は惜しみませぬ」
これはとてもありがたい!
そもそもどこに出るかわからない箱を探して開けて、さらにその中に隠蔽スキルを持った装備が入っているかも運次第だったのだ。
良いことをして良い装備が手に入るなら確実だし気分も良い。
困ってる人は助けるものね……っと、まだ助けてはいないんだった。
下手すれば子供たちが危険な目に合うかもしれない依頼だ。
浮ついた気持ちで挑んではいけない。
「では、行こうと思います。仲間……ベラのことは頼みました」
「任せてくだされ。そちらもくれぐれも油断なきよう。山賊は対人戦闘経験が豊富なようじゃからな。先に行かれたお人に出会えたなら、必ず協力してくだされ」
長老様の忠告をしっかり聞き、私は家を後にした。
すると、村人男性が外で待っていた。
「山賊退治を請け負ってくださるそうで……。この山へ来たばかりだというのに、本当に何から何までお世話になります……。せめて、山頂に近い村の門まで案内させてください」
断る理由もないので案内をお願いした。
移動の途中、山村の風景が目に入る。
やっぱり丸太の壁が長く続いていたように、この山村は結構広い。
ここだけで自給自足が出来るように畑や家畜の飼育小屋なんかもあるみたい。
それに地面が斜面になっていない。
おそらく、山がくぼんで水平になっている部分に山村があるからだろう。
これだけ良い立地、山賊も狙うわけよね。
「ここが門で、正しい入り口になります。くれぐれもお気をつけて。奴らは人との戦いに慣れています」
「ありがとうございます。私も人との戦いには慣れてるので大丈夫ですよ」
「えっ! そりゃ……た、頼もしい……」
あら、安心させようと言ったセリフがドン引きされてしまった。
……それもそうか、村の人にとっては山賊も生きている人間。
人と戦ったことがあるって、命の奪い合いをしたことがあるって事なんだ。
そうなると、少しセリフを間違えたわ。
私がしたのは他プレイヤーとの魔石の奪い合い(しかもこっちが奪われそうになった方)だからね。命は奪い合ってない。
まあ、訂正しようもないからそのまま行くとしましょう。
私はまだ引いている村人にもう一度礼を言い村を出た。
Data.29を少し加筆修正しました。
修正箇所はそちらの後書きに書いてあります。




