Data.36 霧の中に住む人々
「むぅ、意外と大きい村なのかな……」
霧の中で見つけた唯一の道しるべである丸太の壁を伝って歩き数分。
まだ入り口らしきものは見つからない。
「もしかしたら……この丸太は並べて突き立ててるだけで、村なんてなかったりして」
いや、流石にそれはない。
そんな無意味なことは無いと思いたい。
やっぱり、ずっと変わらぬ景色というのは気が滅入るわね。
とにかく足を動かして考えないようにしよう。
……ん、何か霧の匂いが変わったような。
これは焦げたような匂いが混じっているのかな?
もしかして山火事?
こんなに湿気が多いのにそんなことあるのだろうか……。
慎重に歩を進めると、丸太の壁の無い部分が見つかった。
ここが入り口……ではないようね。
辺りに焦げた丸太が転がっている。壁は何かで壊されたようだ。
「これ……こっから入っていいのかな……」
正しい入り口ではないけれど、また霧の中を彷徨うのも嫌だ。
「お邪魔しまーす……」
私はそこから村と思われる場所に足を踏み入れた。
「うおっ!」
思わず声が出た。
急に霧が晴れたからだ。
村に入ったから霧が無くなるというゲーム的なものなのか、それとも他に理由があるのか。
まあ、歩きやすいので良し。村人を探すとしよう。
あたりを見渡すと、丸太の壁と同じように焦げて壊れた木造の家も目立つ。
これは何者かの襲撃を受けたとみて間違いないだろう。
だからこそ、襲撃者が開けた穴を通ってくるのは避けたかったんだけどね……。
「あっ! あんたどこから入ってきた!? お前のあいつらの仲間か!?」
村人らしき中年の男性を見つけた。
というか、こちらが向こうに見つかったような感じか。
男性の反応も完全に侵入者を発見したようなノリだ。
「ち、違います! 私はこの山に出現するという箱を探しに来たんです。入ってきたのはあっちの壁が空いてるところなんですが、怪しいものではありません。ただ、入り口が見つけられなかったので……」
とにかく刺激や不安を与えないに受け答えをする。
「あっ、あいつら……あそこの壁にも穴をあけていきやがったのか!」
その男性は激しく憤っている。
「……確かにあんたは賊どもの仲間ではなさそうだ。目つきも腐っていないし、雰囲気がまるで違う。疑ってすまなかった。言い訳させてもらうと、今とても冷静でいられる状況ではないんだ」
「何か起こったのですね? お手伝いできることがあるなら言ってください。出来ることなら協力させてもらいます」
「手伝いか……。あんた、腕っぷしに自信あるか?」
「ええ、まあ」
私は『邪悪なる大翼』を背中から外し、地面に突き刺した。
【腕力強化】を口で説明するより、実際重いものを持ち上げるところを見せつける方がわかりやすいとの判断だ。
「うおっ……そりゃあすごい。じゃあ、こっちに来てくれ! 村の子どもが賊どもの襲撃で壊れた家の下敷きになってるんだ!」
「わかりました」
命がかかっているとなれば手伝わないわけにはいかない。
私は村人の男性の後ろを急いでついて行った。
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「あそこだ! 下敷きになってる子がいるだろ! 家の残骸は多いし、重くてとても俺たちだけじゃ動かせないんだ!」
私もその子を目で確認した。
残骸と地面の間から頭だけは辛うじて見えている。
確かに家の残骸は多い。
その上、複雑に折り重なっていて、下手に一つ動かすと全部が崩れて下の子がつぶれてしまいそうだ。
これは『邪悪なる大翼』の一振りで、上を全部吹き飛ばしてしまうしかないわね……。
「みなさんは私と残骸から十分に離れていてください!」
「わ、わかった!」
壊れた家の周りに集まっていた村人たちは、突如現れた私に驚きながらも素直に従ってくれた。
準備は整った。
あとは悪戯心が顔を出さないのを祈るのみ。
ここは本当にシャレにならないからね!
「…………どりゃあ!!」
たっぷり間をおいて心を落ち着かせてから、私は『邪悪なる大翼』を横に振り抜いた。
すると、家の残骸は一瞬で吹き飛び、下の子どもだけが無事残った。
いや、まだ無事かはわかっていない。
すぐさま母親らしき女性がその子に駆け寄っていく。
「大丈夫かい!? 返事をしておくれ!」
その子は顔に生気も無く、目覚める気配がない。
「目を開けておくれよぉ……!」
「長老様なら蘇生が出来るのではないか!」
「しかし、長老様もケガを……」
どうやらあの子は死んでいるようだ。
言い方は悪いけど、死んでいるのなら私が何とかできる。
「その子をしっかり抱えておいてください。私が蘇生させます」
「出来るのかい!?」
「ええ、まあ」
久しぶりだけどあのスキルの使いどころだ。
魔力の消費が激しいから失敗しないように……。
「回帰する生命!」
発動と同時にハート型のブーメランが出現し、それが子どもの上を回りながら小さなハートを降らせていく。
私唯一の魔法にして、貴重な蘇生手段だ。
「……んんっ。あれ……ママ?」
「ああっ! 良かった……」
母親はその子をギュッと抱きしめる。
――スキルレベルアップ!
どうやらうまくいったようね。
後は村の人たちが何とか助けようと持ってきていた薬草類で何とかなるでしょう。
にしても【回復魔術】と【回帰する生命】のレベルが一つ上がるのにこれだけ間が空くとわね。
まあ、こんな命が危うい状況に何度も出会っていないことに感謝すべきかな。
あとは悪戯心も大人しくしていてくれた。
こういう真剣な場面ふざけないあたり、イタズラというものをよくわかっているようね。
私は軽く『邪悪なる大翼』のボディを撫でた。
あんまり褒めすぎると調子に乗りそうだからあくまで軽くだ。
「あんたスゴイな! 何と礼を言ったらいいのやら……とにかく、ありがとう!」
初めに会ったあの村人男性が礼を言ってきた。
「いえいえ当然のことです。ただ、もし良ければこうなった経緯や他にもいろいろ聞きたいことがあるのですが……」
もちろんベラのことも「いろいろ」に含まれている。
この騒ぎに首を突っ込んでこないあたり、この村にはいなさそうだけど一応だ。
「ああ、お安い御用さ。長老様のところに案内しよう。おケガはされているが、普段から話すことが好きなお方だから、会話する分には問題ないと思う」
「あのっ、そこのお人……」
村人男性の案内についていこうとした時、先ほど助けた子の母親が私を引き留めた。
「とても言葉だけじゃ感謝し足りないけど……ありがとう、本当に」
「それで十分ですよ」
私は笑顔で返したあと、長老宅に向かった。
大仕事を終えた後の気楽な冒険のつもりが、忙しくなりそうね。
※追記
タイトルが前の話と似すぎてたので変更しました(『霧がくれの山村』→『霧の中に住む人々』)。
あといろいろ文章を整えました(ちょっと今回は乱れ気味でしたので)。




