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Data.35 霧がくれの山

「はっ! ストレイトウィップ!」


 ベラの放ったムチは真っ直ぐに<ゴーストスモッグ:Lv12>を打ち抜き、それを消滅させた。


「やった!また倒せたでぇ!案外慣れてくると楽しいもんやなぁ」


「お早い心変わりで」


 初めは薄暗く先が見えない山の道にビクビクしていたベラもその風景に慣れてくるといつもの調子が出てきた。

 それにしても霧が濃く、太陽の光すら結構遮られている。ポンチョを着ていても肌寒い。

 しかもこの霧の一部が突然塊となり、今のゴーストスモッグのように襲いかかってくるのだから、一人で山に入りたくない気持ちも納得だわ。


 てか私こういうホラー風味の場所ばっか探索してるわね……。

 常に霧に覆われ山、そしてその中にあるという噂の山村。

 完全に和風伝奇ホラーの舞台だ。


「なんやマココはん寒そうやな。腹巻きはそのまま持って来たんやろ?」


「温度的にというよりも、雰囲気的に肌寒いのよ」


 私の装備は、イスエドの村の婆さんに『風来の狩人シリーズ』をもらったことでかなり変わった。


 ◆ステータス詳細

 ―――基本―――

 ネーム:マココ・ストレンジ

 レベル:34

 レイス:人間

 ジョブ:回帰刃狩人(ブーメランハンター)

 ―――装備―――

 ●武器

 邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング):☆50

 超電磁ブーメラン:☆30

 ●防具

 牛角のカチューシャ:☆2

 鉄包帯のはらまき:☆10

 風来の狩人のポンチョ:☆25

 風来の狩人のベスト:☆18

 風来の狩人のシャツ:☆15

 風来の狩人のハーフパンツ:☆15

 風来の狩人のグローブ:☆12

 風来の狩人のブーツ:☆12

 ●装飾

 聖なる首飾り:☆25

 ―――技能(スキル)―――

 ●任意

 【塵旋風(ジンセンプウ)】Lv9

 【ブーメ乱舞(ランブ)】Lv8

 【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】EVOLv2

 【回帰する生命ブーメラン・オブ・ライフ】Lv1

 ●常時

 【(シン)回帰刃(ブーメラン)術】EVOLv2

 【解体】Lv13

 【回復魔術】Lv1

 【腕力強化】Lv12


 このように『風来の狩人シリーズ』を軸にする代わりにいくつかの装備は外し、それをオーステンの町に預けてきた。

 『目覚めのブーメラン』と同じく開始時のガチャで入手し、アンデッドの毒から私を守り続けてくれた『白革のグローブ』も、流石に防御耐久面が不安になったてきたので預けた。

 手の防具は場合によっては『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を受け止めなければならないので、そういう意味でも純粋に防御に勝る『風来の狩人のグローブ』を装備に選んだ。


 オシャレ装備の『牛角のカチューシャ』は特に被る防具もなかったのでそのまま。

 見た目も割と気に入ってるしね。


 『鉄包帯のはらまき』はシャツの上に巻いている。

 『風来の狩人のシャツ』は意外と大きめなので、体から浮いた感じがするのだ。

 そこを腹巻でしめる。

 純粋に防御力も上がるし、お腹がしまってるとなんとなく体に力を入れやすい。


 『聖なる首飾り』は純粋にレアで強いので常に首に付けている。

 今までまったく見た目の組み合わせを気にしてなかったけど、シリーズ装備をそのまま取り入れたおかげでいい感じにまとまったわね。


 ちなみに最後のステータス確認(ドラゴンゾンビ討伐後)以来どのレベルも上がっていない。

 『霧がくれの山』で出会ったモンスターは今のところ全部ベラが狩っているからね。

 まぁ純粋に低レベルモンスターが多いから、私が狩ったとしてもレベルが上がるか微妙だけど。


「むむっ! マココはん足音がしますで! これは……獣の足音か?」


「私には聞こえないわ。対処お願いね」


「まかしとき!」


 ベラはすっかり手に馴染んだムチを構え、ある方向を向いた。

 モンスターはそっちか……私もそちらを向いてブーメランを構える。


 ガタ……ガタガタ……


 ん、これが足音かな?

 どっちかというと硬いものが揺れ動く音のように聞こえる。


「なんやマココはん。そないガタガタいうほど怖いんですか」


「いや、確かに震えることをガタガタと表現するけど、こんな派手に音が鳴るわけじゃないから!」


「ナイスツッコミ! ……で何の音です?」


「これが足音じゃないの?」


「はい」


「ブギィィィィィィーーーッ!!」


 私がガタガタ音の正体ですと言わんばかりに、岩だと思っていたものがイノシシに変わる。

 その瞬間<ロックボア:Lv16>という表示が出現した。

 背中に岩石の様なものが生えているイノシシだから、寝転んでじっとしていると霧も手伝って岩にしか見えない。


「ストレイトウィップ!」


 ベラが素早く反応し、ロックボアにスキルを放つ。


 ペシィ!


 音は派手だけど全然ダメージはないみたい……。


「マココはん、あかん!」


「私がやるわ!」


 私はベラとロックボアの間に割って入り、そのまま突進してくる敵に『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を振り下ろす。

 すると、一撃でロックボアは真っ二つになり消滅した。


 前はゴーレム系の魔石を砕くのにも苦労していたけど、『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』はそんなのレベルではないみたいね。

 やすやすと砕くというか、岩でもスパッと切ってしまった。


「はー、ああいう硬い奴はめんどくさいですなぁ……」


「そうよね。武器も傷つきやすいし」


「その黒くてデカいブーメランは、そういう相手も得意みたいで良かったですわ」


「まったくよ。硬い敵を無理やり相手して寿命を縮めちゃった武器が……。そういえば、足音は聞こえなくなった?」


「……まだ聞こえますなぁ。それも、大きくなってる気がしますわ……」


「グオオォォォォーーーーッ!!」


 もう割と聞きなれてきた獣の咆哮(ほうこう)だ!

 霧をかき分けて現れたのは<ミストベアー:Lv20>。

 霧のクマの名の通り、その体は霧でできているようで(かす)かな風にも揺らめいている。

 それに巨体だ。見た感じ十メートルはあるんじゃないの!


「グオオッ!」


 ミストベアーはその右手で私を引き裂きにかかる。ちゃんと爪は鋭利で硬そうだ。


「ええいっ!」


 迫ってくる右手に私は『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を振り上げてぶつける。

 すると、ぶつかったミストベアーの右手が消滅した。


 どうやら霧だから物理攻撃無効なんてことはないようね。

 それに力も大して無い。

 おそらく空気をうまく含んで体を大きく見せているだけで、本来それほど体格に優れたモンスターではないのだろう。


「そうとわかれば正面から相手してあげるわ」


 『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を(かか)げ、私は敵の懐に飛び込んだ。

 ミストベアーはその体を柔軟に変化させ、私の攻撃をいくつかかわすも徐々に追い詰められていく。


 新たなブーメランも手に馴染んできたわ。

 投げなければイタズラする気配もない。


塵旋風(ジンセンプウ)!」


 ときおりもう一つのブーメラン『超電磁ブーメラン』で旋風を起こすスキル【塵旋風(ジンセンプウ)】を発動し、霧を払い足場を確認する。

 これをやらないと木や岩にぶつかったり足をとられる。


 そんなこんなでミストベアーとの戦いは数分で決着がついた。

 最後は『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を上から下へズバッと振り下ろして真っ二つだった。

 攻撃範囲を地味に広げる【斬撃波】もギリギリで回避を試みるミストベアーに相性が良かったわね。


「それにしても『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』を使った戦闘も慣れてきたわ。あとは上手く投げても制御できるようになれば、私自身やベラ、もちろんマンネンを傷つける可能性もなくなりそうね」


 ……ベラがいない。

 戦闘に熱中するあまり彼女のことを忘れていた……。


「おーい! ベラーーーーッ!!」


 ……返事がない。

 この霧が音を吸収してしまったかのような錯覚を受ける。


 視界はあいかわらず悪い。

 【塵旋風(ジンセンプウ)】でも広範囲の霧をはらいきる事は出来ない。

 一人になると、もうこの山から出られないのではないかとすら思える孤独感を味わわされる霧だ……。


 いや、私が弱気になってどうする!

 この状況で一番怖いのは霧だけでなくモンスターも怖いベラの方だ。

 早く探してあげないと……。

 とはいえ、アテも無く彷徨(さまよ)うのは得策ではない。

 せめて一時的にだけでも視界を広げられれば……。


 【昇龍回帰刃(ドラゴンブーメラン)】……は確かに霧すら飲み込めそうだけど、ベラにあたったら目も当てられない。

 後は……そうだ!

 『邪悪なる(カース・オブ・)大翼(ウイング)』が【邪悪なる(カース・オブ・)突風(ブラスト)】という突風を起こすスキルを持っていた。

 この突風には状態異常を引き起こす効果があるけど、ドラゴン直撃よりはマシだろう。


 でも、出来る限り当てないようにブーメランを高く上に掲げる。

 ベラは身長が低いから、これなら当たらないかも。


邪悪なる(カース・オブ・)突風(ブラスト)!」


 その瞬間、黒いブーメランから濃い紫の突風が噴出した。

 魔力がある限り噴出を続けるスキルだ。私は数秒で解除し、渡りを見渡す。

 正直この瘴気も見にくいけど霧よりはマシだ。

 ベラはどこに……。


「……あっ!」


 私はあるモノを見つけた。

 それは木の幹のようだけど少し違う。

 イスエドの村でも見た丸太の壁だった。

 つまり人によって作られてたもの……ということは。


「先に『霧がくれの山村』を見つけちゃったみたいね……」


 瘴気が無くならないうちに私はその丸太に触れ、確かに存在するものだと確認した。

 もしかしたらこの山村の中にベラが逃げ込んでるかも。


「とにかく入り口である門を探そう……」


 私は壁伝いに霧の中を歩き出した。

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