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Data.34 ベラのステータス事情

「さぁ、着きましたで! ここが『霧がくれの山』や!」


「うわぁ……こりゃ名前負けしてないわね……」


 オーステンの町より南。

 目の前に広がっているのは、全体が白い霧で覆われた山だ。

 遠目で見てもその存在は確認できなかった。ふもとに広がる樹海の前に来て、初めてそれが山だと認識できる。


「ここは特殊なフィールドでなぁ。目の前の樹海や山とか霧に覆われた範囲には不思議な箱が出現して、そこから【ステータス隠蔽】のスキルを持った装備が出てくるんや」


「全部の装備にそのスキルが付いてるわけではないのよね?」


「そうやね。そもそもその箱の出現がレアで、そこから良い装備が出て来るかも確率しだいや。モンスターもたまに装備を落とすから、そっちも並行して狙いましょ」


「この霧の範囲内に箱が出るのなら、範囲ギリギリで箱が出るのを待つってのはどう?」


「ふっふっふっ、実はそれはあたしがもう実行しましてなぁ。この首に巻いてる『鮮烈の赤スカーフ』がそれで手に入れたもんですわ」


 ベラは自らの首に巻かれた赤いスカーフを指差しアピールする。


「ただ、このスカーフはずいぶんと低レアリティ装備でして……。スキルも【ステータス隠蔽】Lv1のみ。オシャレ装備としての側面が強いんですわ」


「へー、すぐ見つかって運が良かったのか、悪かったのかわからないわね」


「あたしもそう思うてましたねん。そこまでええ防具ちゃうけど、すぐ出会ったのも運命やし、見た目もええし、まあ気休めとして使っていこうか……ってな感じで。でも後々この山の仕組みというか、カラクリを耳にしましてな。もう一度この山に行かんとなぁーと思ってた矢先にドラゴンゾンビ騒動! そして隠蔽装備の無いマココさんに出会い、こりゃちょうどええなというワケですわ」


 ベラはドラゴンゾンビ騒動に首を突っ込む前は、各地を回って情報を集めていたようね。

 話は長いけど、興味深い部分があるわ。


「その山のカラクリってのは何なのかしら?」


「よくぞ聞いてくれました! ……というほどスゴイことやないんですけど、この山に現れる箱は山頂付近に現れる物ほどええもんが入ってるという話ですわ」


 要するにダンジョンの深い階層の方が、レアアイテムが見つかるっていう法則と同じことか。

 確かにありきたりな仕組みだけど、よくこの山がその法則に当てはまると確認した人がいたものね。

 何個も箱を空けて中身を確認しなければ、法則が正しいと言い切ることは出来ないのに。


「あっ、マココはん難しい顔してはるな? その情報がどこから出たものかとか、そうやって確認したのかとか考えてはるでしょう?」


「むっ、そうよ……」


 心を読まれた……。

 いや、顔に出過ぎたみたいね。


「情報の出どころはわかりまへんが、その法則を知った方法ってのがまたおもろいんですわ。なんでも、この山のどこかに『霧がくれの山村』という場所があって、そこに住む人……もといNPCが教えてくれたという話やねん」


「『霧がくれの山村』……確かにそれっぽい」


「な! 『箱を何個も空けて中身メモって調べました!』とかいう情報よりなんとなく信用できる気がするやろ? ということで早速いきましょか!」


「そうね」


 私たちは歩き出した……あれ?


「ベラ、どうしたの? いつもは前を歩きたがるのに」


「いやぁ……久々にマンネンのいない戦闘になりそうやから、少し慎重なだけやで。背中は任せてくださいな!」


 そう、今回の冒険にマンネンはついてこない。

 山の近くの小さな町まで運んでもらって、そこの預け屋さんに預けてきた。


 理由は山の環境。

 木が多すぎるし、岩もそこそこ転がってる。

 その上に柔らかい土の斜面だし、マンネンのキャタピラと相性が悪い。


 あと霧で視界が悪いからカメラも機能せず、敵の情報も得にくい。

 その巨体ゆえ、いざという時隠れられないマンネンは不利との判断だ。


 ベラは強がって「たまにはあたし自身の強さを見せつけてやるとしようか!」などと意気込んでいたけど、実際は山の雄大さに飲まれ(ちぢ)こまっている。


「大丈夫? 武器はちゃんと構えられる?」


「そ、そんなん当然ですわ……。ほら、見てみーやこのムチ(さば)き……あっ!」


 引きつった笑顔で振るわれた黒いムチはポロッと手から零れ落ちた。

 ベラはこのムチがメインウェポンだ。

 ステータス的に一応ね……。


 ◆ステータス詳細

 ―――基本―――

 ネーム:ベラ・ベルベット

 レベル:32

 レイス:人間

 ジョブ:機械(マシン)獣使い(ビーストテイマ―)

 ―――装備―――

 ●武器

 黒金虎のテールウィップ:☆35

 ●防具

 見通しのゴーグル:☆15

 黒金虎のジャケット:☆25

 黒金虎のハーフパンツ:☆25

 黒金虎のグローブ:☆20

 黒金虎のブーツ:☆20

 鮮烈の赤スカーフ:☆5

 ―――技能(スキル)―――

 ●任意

 【テイムビーム】EVOLv2

 【ストレイトウィップ】Lv3

 ●常時

 【(むち)術】Lv5

 【相棒(パートナー)との絆】EVOLv3


 これがベラのステータスだ。

 まず目を引くのは『黒金虎シリーズ』というべき装備群。

 これは彼女がマンネンをテイムし、初めて共に狩ったレアモンスター『ブラックゴールドタイガー』から取れた素材を使って作られたものらしい。


 なんでも、彼女が『機械獣の密林』に何度も挑んでいる際に登録していたリスポーン地点の村にいた爺さんが、テイム成功を祝って無償で作ってくれたそうだ。

 イスエドの村で私が出会った婆さんのように、ベラも自分を導いてくれる存在に出会っていたのね。


 まあ、そこまではいいのよ。

 装備に問題はない。

 問題はスキルだ。


 進化(エヴォル)スキルは二つ。

 一つは【テイムビーム】。

 ベラの説明をそのまま引用すると……。


「このスキルのもとは【テイムオーラ】っていうテイマーの基本スキルだったんですわ。オーラを武器に纏わせたりして、テイムしたいモンスターにぶつけるんやな。でも、あたしは何度も繰り返すうちに、毎回わざわざムチに纏わせるのがめんどくさくなってな。『そのままこのオーラが飛んでけ!』と思ってたらビームになって飛んでくようになった……というわけや。あっ! もちろん戦闘にはつかえへんで!」


 要するに何度も高レベルモンスターのテイムに挑んでいたベラの手間を省くために生まれたスキルなのだ。

 でも、それで低レベルの内に進化(エヴォル)スキルを生み出すんだから、ある意味すごいと言うしかない。

 ただこれは戦闘には使えないスキルみたい。


 もう一つは【相棒(パートナー)との絆】。

 これはベラとテイムモンスター(マンネン)が共にいることでお互いの能力が全体的に強化されるスキルとのこと。

 つまり今は発動していない……。


 こうなると頼れるのは武器系スキルね。

 彼女はあまり鍛えていないのか、【鞭術】のレベルは5止まり。

 さらに必殺技的な任意スキルは【ストレイトウィップ】のみ。


 この【ストレイトウィップ】自体は非常に良いスキルだ。

 ムチというのは基本、上から下や右から左に振って当てる必要があるけれど、【ストレイトウィップ】は手首のスナップをきかせて真っ直ぐにムチの先端を打ち出す。


 ムチを見て真っ直ぐ攻撃が来るとは思わないので敵の意表をつけるし、スキルを使う側も当てる部分が予測しやすい。

 それでいて威力は上々。

 ベラにしては珍しい……って言ったら悪いけど、素直で応用の利くものに仕上がっている。


 それに『黒金虎のテールウィップ』には二つの攻撃系スキルを持っている。

 影のように地を這い敵を奇襲する【ブラックウィップ】。

 ムチの先端を金塊に変えてその重さで打撃の威力を上げる【ゴールドウィップ】。


 使いやすいもの、奇襲するもの、威力を上げるもの。

 こうしてみるとバランスよく最低限のスキルがそろっている。

 でも、ベラには実戦の経験が少ない。

 操作方法が身についていないと、どんな強キャラもその性能を発揮できないのよね……。


 まっ、何かに特化すればどこかに苦手は出てくる。

 彼女の場合はテイムに特化したから、単独戦闘が苦手になった。

 これから一緒にカバーしていけばいいわ。


「ははっ……正直言うと、あたし自身戦うのは苦手なんでぇ……そのぉ、目を離さんといてくれたら嬉しいなぁ……なんて。前に来た時『鮮烈の赤スカーフ』で妥協したのも、本当は一人で山に入るのが怖かったんですわ……」


「わかったわ。カバーするから私から離れないようにね。そういえば、もう一体モンスターをテイムする気はないの? マンネンは強いけど、あの大きさじゃ一緒に冒険できないところも結構あるでしょうし、もう一体ぐらいいてもいいんじゃない?」


「それはそうなんやけどなぁ……。今はマンネンを相棒にして燃え尽きたというか、少しテイムする事から距離を置きたいというか……。そのうちなんか『仲間に欲しい!』と思えるモンスターが出てきてから考えますわ」


 そういえば彼女は高レベルモンスターをテイムするために何度も死を繰り返していたんだった。

 そりゃしばらくやりたくないか……。

 楽に仲間にできそうな低レベルモンスターで妥協することも、彼女の美学が許さないだろうし。


 とりあえず、今持ってる力で『霧がくれの山』での目的を果たすとしましょう。

 ベラの話によるとそこまでモンスターの数も多くなく、レベルも高くないらしい。

 落ち着いていけば、ベラの戦闘訓練にもなりそうね。


「イベントまで時間はあるし、ゆっくり行きましょう」


「はい、たのんます……」


 腰が引けてるベラを連れ、私は『霧がくれの山』足を踏み入れた。

 彼女のことだ。

 今は経験が少ないから不安なだけで、戦闘に慣れればすぐいつもの調子に戻るわ。

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