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Data.33 AUOとプロゲーマー

「いやーお早いログインで」


 まだ人の少ないオーステンの町から少し離れたところに私とベラ、そしてマンネンはいた。

 フェアルードの大地にも朝日が射し始めたので、ここらへんのフィールドに強力なモンスターはもう出ない。


「早めに来てと言われたからね」


「いやぁ、あんな『戦争や!』みたいな告知をされれば、マココさんと組みたい奴らが群がってくると思いますやん? やから早めにログインして町から離れてお話がしたいなぁ、というワケでして」


「お気遣いありがとう。で、話って?」


「それは……あたしとこのイベントを一緒に攻略してほしいなぁ……なんて」


「えっ! 一緒に攻略するつもりなかったの?」


「いやっ、そうわけやなくて、あ、改めてってことですわ。争奪とかいうとるし、お互い何かあっても味方でいてほしいってことやね」


「もちろんそのつもりよ。私も常に一人を好んでるんじゃないし、気の合う人となら一緒に行動することもあるわ」


「そりゃありがたい話で。(あこが)れの『純情の乙女心(ストレンジ・ハート)』さんと組める日が来るなんてなぁ……」


 ……純情の乙女心(ストレンジ・ハート)


「今なんて言った……?」


「マココはん、かつて『Beginning(ビギニング) World(ワールド) Online(オンライン)』で最弱と名高い武器、ブーメランをメインに据えて高難易度クエストを進めてた『純情の乙女心(ストレンジ・ハート)』ってプレイヤーと同一人物やろ?」


「な、何を証拠に?」


「ブーメランへのこだわりはもちろんの事、『ストレンジ』という名前の被りにプレイスタイルもそっくりや! それにこのログイン時間に攻略速度は経験豊富なプロゲーマーやろ? ここまで似てる人はいくらなんでもおらへんて!」


「そうかしら……その『純情の乙女心(ストレンジ・ハート)』って人に憧れて真似てるだけかもしれないわよ」


「そんな無茶な言い逃れはやめてくださいよぉ~。憧れてプレイスタイルまで似せるような人なら、名前が出た時点で食いつきますやん? フルダイブ型VRゲーム黎明期(れいめいき)に現れた有名ゲーマーの中では特殊なプレイスタイルの関係上、マイナーな方なんですわ。やから、語り合えるファンがいたらテンション上がるはずやで」


「くっ……」


 時間が経ったから気づく人いないと思ってったんだけどなぁ……。

 でも、一応プロとしてまだ覚えていてくれる人がいるのは喜ぶべきね。


「なんでそない隠そうとしますん? 流行りや誰かが強いと言った戦法になびくことなく、我が道を行くスタイルは素晴らしいと思うんやけど」


「それがちょっと恥ずかしくなったのよ」


「なんでまた?」


「自分の好きなやり方で戦うのは良いんだけど、昔の私は流されるというか……こだわりのなく人のマネをして、結果だけ求める人たちを見下してる節があったのよ。実際、私と同じような考えを持つ人たちに変に持ち上げられてたというか……。それでなんかある日疲れちゃった」


「はー、そんなことが裏であったなんてなぁ。で、それからは何か『仕事』をしてたんですか? それとも無職で療養?」


「……それがね。笑ってくれてもいいんだけど、正体を隠して他のゲームをやっていたわ。オンラインゲームじゃなくて、それまでの稼ぎで買ったレトロゲームのやり込みプレイ動画とかで細々と」


「別に働かんでも最低限の暮らしは保障されとんのに、物好きでんなぁ」


「自分でもそう思うわ……」


 今の時代、基本的に働く必要はない。

 高性能なAIと機械技術の発達により、人がやるべき仕事はほとんど無くなった。

 もちろん一部必須な職業はあるけど、そういう仕事はやりたい人がやっている。

 特に最新技術の管理と発展に関する仕事は人気で、これに関しては実力と才能のある者が優先的に就く。昔ながらの方式ね。


 この社会システムは初めは反発もあったらしい。

 働かなくても良い環境は、人類を堕落させると。

 しかし、そんなことは無かった。


 最低限を与えられれば、人はそれ以上が絶対欲しくなる。

 綺麗な服が欲しい、もっといい物が食べたい、好きな場所に住みたい……。

 人々は自分の出来ること、やりたいことを探し始めた。

 でも昔のような仕事は少なく、お金がもらえない。


 その結果、爆発的に増えたのがエンターテイナーやクリエイターと呼ばれる職業だ。

 絵を描いたり、音楽を作ったり、スポーツをしたり……機械でも再現はできそうだけど、人がやるからある種の『無駄』が生まれ、それが何とも言えない『味』になる。


 私がやってるプロゲーマーもそうだ。

 クリエイターたちが作ったゲームを遊ぶエンターテイナー。

 完全にやり込むも良し、作った人間が想像もしない遊び方をするも良し。

 見る人が、そして自分自身が楽しいことをすればいい。


 ただ、自分なりのスタイルを確立し、人と違う事をするというのは意外と難しい。

 そういう意味では普通に遊んでいるだけで独自のスキルが発現していく『AUO』は、新時代のゲームと言えるわね。


「それだけゲームをやってるという事は、フルダイブ用の装置もいいもん使ってる感じで? 頭に付ける旧式とかやなくて」


「カプセル型よ。生命維持装置までついてるの」


「え!? もはやゲームやってる方が体にストレスなく健康になれるとまで言われる最新型やないですか!? そりゃ長時間プレイも余裕ですやん! ええなぁ……私はまだそこまで手が出ませんわぁ……」


「好きなことにはお金を使うタイプだから……。他に無駄遣いはしてないわよ」


「やっぱ意識してお金は貯めへんとあかんか……。あたしの住んでるエリアは近くに飲食街がありましてな。そこで売られてるオリジナリティあふれる創作料理をついつい食べてしまいますねん」


「私は良い生き方だと思うわ。いくらでも内にこもれる時代に、人とつながる事にお金を使えるなんて」


「なにいうてますねん! マココさんも人とつながる生き方してますやん。こうやってあたしと話してるし、運営に人を呼び込める遊び方をしてると判断されたんやから! 人を惹きつける魅力があるって自信を持ってや!」


「……そう言ってくれるとありがたいけど」


「というか……名前を微妙に似せてたり、スキルにあの【ブーメ乱舞(ランブ)】があったり、ホンマは昔の自分もけっこう好きなんやないですか? 誰にだってそういう調子乗ってる時期はありますわ。あたしなんか現在進行形や。でも、ええやないですか。その頃の純粋な気持ちを認めても」


「まっ、そうね。あの頃の興奮を忘れられないから、『BWO』と同じ運営である『AUO』の世界に降り立ったのよ。全力で我が道を行きつつ、人の遊び方もリスペクトしていくとしましょう」


「それでこそあたしの憧れた『純情の乙女心(ストレンジ・ハート)』さんや!」


「もうっ、その呼び方はやめてって。今はマココ・ストレンジよ」


「ぶっちゃけ痛さはそこまで変わらんと思うけどなぁ。それにしても純情の乙女心を奇妙(ストレンジ)と表現するセンスには脱帽ですわ……ふふっ」


「ぐっ……いや、少しマシになったから……。まぁその舌と頭の回転を頼りにしてるわ、ベラ・ベルベット。それに……ファンでいてくれてありがとうね」


「こちらこそ、先輩ゲーマーとして頼りにしてますわ! マココはん! おてんとさんも昇り始めたし、行くとしますか! 隠蔽(いんぺい)装備が良く見つかるフィールド『霧がくれの山』にな!」


 私たちはマンネンに乗り込み、イベント攻略への道を進み始めた。

 前も思ったけど、こういう目標に向けて準備してる時間が楽しいものなのよね!

マココと世界観の掘り下げ回になりました。

少し雰囲気が違うのでミスがないか心配……なので気軽にご指摘ください。

次回からはいつものノリに戻ると思います!

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