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Data.30 東の都市オーステン

 東の都市オーステンは石の積み上げられた壁で囲まれていて、村とは違う堅牢さを感じる。

 入り口である門も巨大で「ギリギリマンネンも入るんじゃないかな?」と思わせる程だ。


 そんな門の周りには割とたくさんの人が集まっていた。

 皆それぞれ違う武器や装備を持ち、数人単位で固まっている。

 おそらくプレイヤーね。ドラゴンゾンビのお知らせを受け取り、討伐もしくは見物に来たのだろう。


 何人かのプレイヤーは急に現れたマンネンに驚き、武器を構えたり逃げ出したりしてる。

 運営があれだけアピールしたドラゴンゾンビをすぐ狩ってしまって、ほんの少しだけ罪悪感があったけどそれも無くなった。

 この程度の実力のプレイヤーが『腐り竜の谷』に突撃していたら、ゾンビ共に武器を献上するだけになっていたと思う。


 騎士団はまだマシだ。特効装備の準備と陣形は組めてからね。

 ここにいるパーティは、偶然居合わせたので組んでみたって感じ。


「ささ、みなはん降りますで。マココはんは魔石の入った箱を持ってくれると嬉しいですわ」


「了解」


「わー! ついに町まで来てしまいました!」


 アチルははしゃいでいる。

 私は【腕力強化】のスキルがあるので荷物持ちだ。

 こういう時にも便利なのよねぇ。


「マンネンは一時モンスター預け屋さんに預けてるんで、必要なアイテムは全部持ってっといてや」


「こんな大きいモンスターを預けられるところがあるの?」


 私は素朴な疑問を述べる。

 すると、ベラがニヤッとちょっといやらしい笑顔を作り、近寄ってきた。


「まあ普通はそう思うでしょうなぁ……。それがあるんですわ。ダンジョンに似た構造で、見た目以上に大きな部屋を備えてる建物が。ちなみに経営してるのは身分を隠した凄腕魔導師らしいで」


 ここでベラが私の耳元に顔を寄せてきた。


「もちろんその魔導師はNPCや。この世界にも歴史があって、あたしらより強い奴もおるけど、そういうのは強大な力を使ってバックアップに回ってるわけやな。実際、戦闘するより店経営した方が安全に儲かるやろうし、ほんま上手く考えられとるで」


 この世界の歴史を作りつつ、ゲーム的に遊びやすくなる理由付けをしてるというわけね。

 私は多少ご都合主義でも気にしないけど。


「と、いうことで預けてきますわ! 預け屋の巨大モンスター専用の門がちょっと先の外壁にあるんでなぁ! 待っといてや!」


 ベラはマンネンに乗り行ってしまった。

 言われた通りに待つとしよう。

 私は町から反対の方へ目を向ける。


 そこには今通ってきたサベント渓谷があった。

 もうドラゴンゾンビはいないので、そのうち地名も環境も元に戻るだろう。

 濃い紫の雲ももうない。多少瘴気は残ってるけどね。

 にしても、あれを私がやったんだもんね~。実感がわかなくなってきた。


「あのぉ……さっきの大きな亀は、お知り合いの仲間モンスターですか?」


 私は再び町の方へ向き直った。

 そこにはいかにも「これから冒険します」といった感じの革鎧装備の女性プレイヤーがいた。


「はい。知り合い……そうですね。あの亀のモンスターは知り合いがテイムしたものです」


「す、すごい……っ! あんなに強そうなモンスターをもう仲間にしているなんて!」


 まあ驚くよね。私も驚いた。

 ベラの恐れを知らぬ挑戦心と根気には恐れいる。


「その大きな……えっと、翼みたいなのはどこで手に入れたんですか? ダンジョン? それともフィールドのモンスターですか?」


 こんどは青年風のプレイヤーに声をかけられる。

 ベラに「必要なアイテムは全部持ってっといてや」と言われたので持ってきたけど、案の定注目を集めてしまったみたい。

 さあ、正直に答えようかどうか……。


「もしかして、それがドラゴンゾンビ討伐で手に入ったものなんですか?」


「えっ、どうしてそれを……」


「だって、渓谷の方から来られたみたいですし……」


 そりゃそうか。

 思いっきり渓谷から直進して町まで来たのだった。

 それにあからさまにドラゴンっぽい翼の武器だし、そりゃバレるか!


「うわーすごいなー!」

「それ大剣ですか?」

「あっ、よく見たら服は初期装備じゃないですか! それで倒せたんですか!?」

「その銀色の首飾りもドラゴンゾンビから? 雰囲気違いますね」

「頭の角付いたカチューシャかわいい~」


「いや、ちょっとまって……」


 質問責めが始まった。

 こうなるのは少し予想していたけど、実際そういう状況に置かれるとテンパってしまう……。


「レベルいくつぐらいで倒せました? パーティは何人で?」

「なんか騎士っぽい人たちも渓谷に向かったんですが会いましたか?」

「隣の子の装備もヤバいな……」

「赤い髪と大き目の胸がセクシーでいい相性ですね。キャラ設定センスがあって羨ましいです!」

「なんや! もう囲まれて人気者やないですか!」


 ベラが一人で戻ってきた。

 どうやらマンネンはしっかり預けられたようだ。


「まーまー待ちなはれや、みなみなさん!」


 私と他プレイヤーの群れに割って入り、ベラが仕切りだした。

 こういうところで彼女の舌は役に立つわ。


「いろいろ聞きたいことはあるやろうけど、このゲームにおいて情報は命や! 全てを教えることはできへん!」


 彼女は毅然(きぜん)と言い放つ。

 集団からは多少不満の声が上がるも、みな「仕方ないか……」といった表情だ。


「早まりなさんな。何もかも教えへんとは言ってへん。まず、このお方がドラゴンゾンビを倒したんのは本当や!」


 ベラの言葉に大衆がまた私に興味を持ちだす。


「どう倒したんか……それは一言では言えへん。それはもう壮絶な死闘やった……。あたしも舌には自信がありますが、そのあたしでも言葉が出てこん世界やった……」


 ベラって私がドラゴンゾンビを倒すとこ見てたんだっけ?

 騎士団とのいざこざ中に乱入だった記憶があるけど。


「その死闘の末、ドラゴンゾンビを討ち取って手に入れたんがこの巨大なブーメラン! 大剣やないで! こちらのマココはんはブーメランにそれはもう強いこだわりを持っていらっしゃるから、間違えると……」


「た、大剣と間違えてごめんなさい!」


「いやいや、そんなんじゃ怒らないから……。むしろごめんね」


 ブーメランにこだわりがあるのは確かだけどね。

 でも、それを理解されないから怒ったりはしない。

 独自のプレイとは、理解されなくて当然なのだ。


「後は騎士団とも戦ったで。あたしも微力ながら協力させてもらいましたわ」


「騎士団ってシャルアンス聖騎士団ですよね? 決闘したんですか!? 何十人かいましたけど……」


「ああ、やったよ。何人やったかなぁ……。10……20……もっとか? まあ、正確には覚えてへんねん。なんせ、このブーメランの一振りで全員消えたからなぁ!」


 プレイヤーたちは恐れおののいている。

 私を見る目も恐怖の色が強い。


「ねえベラ、流石に言い過ぎじゃない?」


 私は小声で尋ねた。

 するとベラは……。


「まともな情報ばら撒いても損なだけ。こういうのはギリギリまで話を盛ってしまえば、真実も隠せてええんですわ」


「真実を隠す?」


「例えばあのブーメランのデメリットは騎士団に知られてまいました。敗北の腹いせにその情報がバラ撒かれるかも知れまへんやろ?」


「あいつらはやりかねないわね」


「せやけど、ここでブーメランは圧倒的に強い武器という噂を流しておけば、あいつらは負け組やからデメリットの話は負け惜しみと思われて、こっちの情報が信用されるというわけですねん」


 おぉ……賢い人だ。

 もうここは彼女に任せてしまいましょう。

 人にはそれぞれ活躍すべき場があるのね。


「何やら騒がしいなぁ。渓谷の瘴気が薄まったとは本当なのか? 村に帰れるだろうか……」


 私たちの集団から少し離れたところで、大人の男性の声がした。

 私とアチルは振り返る。


「お、お父さん!」


「ん……? あっ、アチルなのか!? どうしてこんなところに……」


 アチルはお父さんに抱き着いた。

 お父さんの方はまだ事態が呑み込めていない。


「会えてうれしいよアチル。でも、その装備はどうしたんだ?」


「もうっ、こんな時ぐらい素直に喜んでくれればいいのに……」


 プクッと頬を膨らませたアチルは年相応に見える。

 今は戦闘センスにあふれた戦士の風格はない。

 それもいいのだろう。


「ドラゴンゾンビは私とマココさん、それに雷の守護者さんで倒してしまったの! だから早く村に帰りましょう!」


「ま、マココ……さん? 雷のなんだって?」


 ダメだ。お父さんは混乱している。


「と、とりあえず今日いまから荷物をまとめて出発しても夜までに村には着けない。だから今日はオーステンに滞在して、明日出発しよう。それまでいろいろ詳しく話を聞かせてくれるかな、アチルよ」


「もー仕方ないなー。いいよ!」


 話がまとまった後、お父さんは私の方を向いて言う。


「あなたがマココさんですね? 雰囲気で実力者とわかります。アチルがお世話になったようで、お時間があれば少しだけでも話を聞かせていただけますか? 恥ずかしながら過程が理解できないもんで……」


「もちろん、いいですよ」


私たちはとりあえず村の人たちが宿泊している宿に向かうことになった。

ベラにそのことを話すと、集まった人々への話を上手に終わらせ、集団を解散させてくれた。

彼女の話術には本当に助けられたわね。

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