Data.29 亀と成長と悪魔と
「ささっ、そこらへんでくつろいでくれてええよ」
ベラの相棒モンスター『マンネン』。
タンクタートルと言われるこのモンスターには人が乗り込める場所があり、私とベラとアチルは今そこにいる。
広さは……こじんまりとした隠れ家的空間って感じ?
金属製の壁に覆われていて、もちろん窓はない。
その代わりにモニター画面のような物がいくつか設置された区画がある。
中心には木製の質素な机とイス。
先ほど積み込んだ魔石は、ベラが用意していた木箱に詰め込んで部屋の隅に置いてある。
天井には照明もあるので非常に明るい。
「す、すごいですね……。モンスターの中にこんな部屋があるなんて……」
「そうやろ~? なんせ私が選んだモンスターやからなぁ。そりゃあもう強くて便利で人懐っこいで!」
私も大変驚いているけど、口には出さないし顔にも出さない。
ベラがそれはもうすごい顔で自慢してくるからだ。
本題が進まなくなる。
「このモニターが集まったところが普段の私の定位置や。座席も他と違うやろ? これは私が持ち込んだんやなくて、そもそも備え付けられたもんやねん」
ベラがおそらくマンネンの頭の方向にあるモニター群の前の座席に座る。
こう見るとロボットのコックピットのようね。いや、戦艦のオペレーターが座るところかな?
「このモニターはマンネンの目で見てる物を映してる物もあれば、甲羅にあるカメラの映像を映している物もあるんや。でも、マンネン自身は顔にある目でしか物が見えへん。やから、普段あたしはここに座って周囲を警戒。何かマンネンの死角に異変を見つけたら知らせてあげるって寸法やな」
「へー、すっごい……」
アチルはあまり理解できていないようだ。
戦闘センスはいいけど、そのセンスは感覚で生み出されている。
複雑な物の仕組みは苦手みたいね。
ちなみに私も苦手だ。
「映像以外には……ほらここ! マンネンのシルエットが表示されとるやろ? 今は緑やけど、ダメージを食らうとその部分の色が変わるねん。被害状況が一目でわかるわけやな。マンネンにも痛覚はあるけど、強いから無視して何の反応もしないことがあるんや。やから、代わりに私がその原因を調べて、対処を考える。敵やったら迎撃……みたいな感じでな」
「へー」
アチルの目が泳いでいる。
よし、この話はここで終わりにしてもらおう。
結構興味あるけど、早く町に行ってあげてほしい。
「ベラ。そろそろ町に向かいましょう」
「あっ、すんません。説明に集中してしまいましたわ。じゃ、出発しんこーう!」
アチルはモニターの前の座席に座ったまま、右腕を突き上げて叫んだ。
「道は平たんやし、マンネンの脚というかキャタピラも速いからすぐ着きますわ。それまでゆっくり休んでてくれたらええですよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
私とアチルは木製の机の前のイスに座る。
たまに揺れが伝わって来るけど、乗り心地はすこぶる良い。
いやー、すごいわねホント。
「マココさん、マココさん。ステータス気になりませんか?」
うきうき顔でアチルが語りかけてきた。
そういえば、レベルだけをちらっとドラゴンゾンビとの闘い中に確認しただけで、しっかりステータスをチェックしていない。
「気になるわね。そういえばアチルは新しいスキルを使ってたけど……」
「ですよね! 今見せます!」
勢いもそのままアチルがステータスを見せつけてきた。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:アチル
レベル:30(↑7up)
レイス:人間
ジョブ:聖X邪射手
―――装備―――
●武器
カースドクロスボウGT:☆57
セイントクロスボウGT:☆42
●防具
朽ちきったローブ:☆4
ブラックボーンシールド:☆18
白銀の装甲片:☆15
村人のシャツ:☆1
村人のスカート:☆1
古革のブーツ:☆3
―――技能―――
●任意
【聖X邪ノ矢】EVOLv1
【聖矢】Lv5
【邪矢】Lv5
【腐矢】Lv5
【弾丸豆のなる木】Lv11(↑3up)
【高速連続射撃】Lv8(↑3up)
●常時
【弓術】Lv2
【クロスボウ術】Lv16(↑4up)
【視力強化】Lv11(↑2up)
【木魔術】Lv12(↑3up)
青髪の男にはなった黒と白の矢はやっぱり進化スキルだったのね。
そして、レベルも30になった事によりスーパージョブ『聖X邪射手』にジョブチェンジした。
「いろいろ言いたいことはあるけど、まず何のスキルが聖X邪ノ矢に進化したのか教えてくれる?」
進化には進化元のスキルがあるはずだ。
でも、今のアチルのステータスには前からあったスキルがすべてある。
「それはですね。ドラゴンゾンビの腕をくらって、体力も魔力も無いけど戦いたいと思ってた時に、消費魔力量が極端に少ない【木矢】ってスキルが発現したんです。私が普段、魔力節約の為に使ってたあの矢を生み出すスキルですね。それで、それを撃とうとした瞬間、すぐ進化の時が来たんです!」
発現してすぐ進化ねぇ。
つまり進化するスキルの選ばれ方は、レベルが条件ではないのね。
「それで聖X邪ノ矢が発現して、よしやるぞ! ……って時にスーパージョブも急に来たんです。ジョブチェンジ特典はこの三種の矢スキルでした」
【聖矢】【邪矢】【腐矢】。
うち二つは良く知ってるわね。もう一つはおそらく新たなクロスボウ『カースドクロスボウ』に付いているスキルだろう。
「これで私自身がいろんな矢を生み出せるようになりました! なんか遠いところまで来た気分です……」
アチルは遠い目をしている。
実際、プレイヤーですら一部しか辿り着いていない境地に彼女はいるんだ。
あのゾンビ一体に負けてたアチルがねぇ……。
「ところで、そのカースドクロスボウの詳細を見せてくれない?」
その武器の出どころは、私の『邪悪なる大翼』と同じドラゴンゾンビなのだ。
これもまた暴走する可能性をスキルに秘めているかもしれない。
「了解です! 一度合体を解いってっと……どうぞ!」
◆武器詳細
―――基本―――
名前:カースドクロスボウ
種類:クロスボウ
レア:☆45
所有:アチル
攻撃:50
耐久:40
―――技能―――
【小悪魔の悪戯心】
【邪矢】Lv6
【邪悪なる魔手】Lv6
【邪悪なる煙幕】Lv6
※残りスキルスロット:3
―――解説―――
邪悪な力を宿した漆黒のクロスボウ。
獲物を確実に仕留めるための能力を持っている。
【小悪魔の悪戯心】!
こいつだ!
スキル名は可愛いけどやってる事はえげつなさそう……。
他にも見覚えのある凶悪スキルを宿しているヤバい武器ね。
『腐り堕ちた聖賢者』が使っていた【邪悪なる魔手】で相手を捕まえたり、【邪悪なる煙幕】は瘴気で相手の視界を奪ったり、自分の姿を隠したりできる便利なスキルだろう。
まあ、アチルなら全て扱えると思うわ。
「この【小悪魔の悪戯心】の詳細も表示してくれない?」
「お安い御用です!」
◆スキル詳細
【小悪魔の悪戯心】
アイテムに宿り、アイテム装備者の意志に反してスキルを発動したりと悪戯する。
いくつかの条件を満たす事でスキルの発動をコントロールして、メリットに転じさせる事も出来る。
小悪魔なのでまだかわいい方だ。
予想通りの説明だけど、開き直った最後の捨て台詞は何だ。
「小悪魔なので」ってことは……嫌な予感がする……。
「ありがとうアチル……。ちょっと私もステータス開くわね……」
「はい! どれぐらい強くなってらっしゃるのか楽しみです!」
私は少し怖いわ……。
まあ確認しないと始まらないか。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:34(↑8up)
レイス:人間
ジョブ:回帰刃狩人
―――装備―――
●武器
邪悪なる大翼:☆50
超電磁ブーメラン:☆30
●防具
牛角のカチューシャ:☆2
鉄包帯のはちまき:☆6
質素なシャツ:☆1
鉄包帯のはらまき:☆10
質素なズボン:☆1
白革のグローブ:☆7
蜘蛛の腕輪:☆8
村人のクツ:☆1
●装飾
聖なる首飾り:☆25
―――技能―――
●任意
【塵旋風】Lv9(↑3up)
【ブーメ乱舞】Lv8(↑2up)
【昇龍回帰刃】EVOLv2(↑1up)
【回帰する生命】Lv1
●常時
【真・回帰刃術】EVOLv2(↑1up)
【解体】Lv13(↑3up)
【回復魔術】Lv1
【腕力強化】Lv12(↑4up)
「わー! 進化スキルがもう二つも! 流石マココさん!」
「ありがと、これも頑張ってくれたみんなのおかげよ」
「謙虚ですねー。憧れちゃいます」
「それほどでもないわ」
こんな気取ったやり取りしてる場合ではない。
『邪悪なる大翼』の正体を暴く!
「詳細表示!」
◆武器詳細
―――基本―――
名前:邪悪なる大翼
種類:ブーメラン
レア:☆50
所有:マココ・ストレンジ
攻撃:88
耐久:66
―――技能―――
【悪魔の悪戯心】
【自動修復】Lv5
【斬撃波】Lv6
【邪悪なる火炎】Lv6
【邪悪なる突風】Lv6
※残りスキルスロット:3
―――解説―――
邪悪なる竜の翼がブーメランへと形を変えた。
意思を持ったかのような挙動をしめす事もあり、並みの使い手は逆に傷を負わされる。
だが、その意思を理解した使い手は圧倒的な力を手にする。
こっちは『小』じゃなくて本当の悪魔だぁ!
◆スキル詳細
【悪魔の悪戯心】
アイテムに宿り、アイテム装備者の意志に反してスキルを発動したりと悪戯する。
いくつかの条件を満たす事でこのスキルの発動をコントロールして、メリットに転じさせる事も出来る。
悪魔は気まぐれ。
否定するだけではいけない。
ただ従順に接してもいけない。
スキル詳細の半分がポエムになってる!
このゲームの本領発揮って感じね……読んでも読んでもよくわからない。
わかる部分を良く見てみよう。
基礎ステータスはバケモノね……。
デメリットスキルがある分、そこを高くしてバランスをとっているのだろう。
実際下手すると自分にぶち当たってくるのだから、油断ならない。
【自動修復】は暴走をとめる際にマンネンの【徹甲羅弾】を当てた後、勝手にキズや焦げがなくなっていた原因ね。
完全にぶっ壊れない限り勝手に修復されていくから、理論上半永久的に使い続けることが出来そうだ。
他のスキルは魔力を消費している間、斬撃波や炎、風を発生させるものだ。
【邪悪なる火炎】【邪悪なる突風】には相手を腐食させたり猛毒にする追加効果もある。
派手な名前の割に扱いやすそうで良かった……。
ただ、このスキルたちは【悪魔の悪戯心】が勝手に発動させて、私の魔力を枯渇させてくる可能性もある。
抑え込むにはどうすれば……。
「あっ、そういえばアチルはそのカースドクロスボウを使って、何か変なことは無い?」
「んー、特にありませんけどねー。強くて使いやすい方ですよ」
アチルはもうコントロール条件を満たしてるのかな?
確かにジョブからして邪悪なる物を扱うことを前提にしてる感じあるもんねー。
「もしかしたら、こっちのセイントクロスボウがある程度抑えてくれているのかもしれませんね」
左手のセイントクロスボウをアチルが示す。
うーむ、聖なる装備で悪魔を大人しくさせている可能性もあるか。
でも、私も『聖なる首飾り』を装備している。
レアリティに倍の差があるから抑え込めないのか……。
うぐぐぐぐ、わからん!
「お客さんたち! 盛り上がってるところ悪いけど、もうすぐオーステンに着くで! 難しいこと考えるのは、目的を果たしてからにしましょうや!」
ベラの目の前のモニターには大きな町が映されていた。
これが東の都市オーステン……。
「あら? なんか人多いな。私がいち早く駆けつけた時には閑散としてたんやけどな~。もしかして、こいつらドラゴンゾンビを見に来たんか? まあ運営自身が宣伝したからしゃーないか。もう終わらせてしもたけど!」
ベラは少し嬉しそうだ。
目立つ事が好きなのだろう。服も行動も派手だし。
「いやぁ~、目立ってまいますでマココはん。なんせドラゴンゾンビ討伐の立役者なんやから!」
「え? 私も?」
「そりゃそうですわ! せっかくここまで来た奴等にそのヤバい武器を見せつけてやりましょ!」
うーん、そこまで派手に目立ちたくはないんだけど、もうすでに何人かには知られてるのよね。
おしゃべりそうな騎士団員の事だ。すぐに広まってしまうだろう。
だから、たまには自分で広めるのも悪くないか。
「じゃあ、このまま正面から町に入りまっせ!」
マンネンはスピードを落としながらオーステンの門へ向かった。
投げない限り暴れないとは思うけど、街中では大人しくしててよね悪魔さん。
久々の成長確認回で長くなりました……。
何か誤字や間違いがあれば気軽に指摘していただけるとありがたいです。
※6/12追記
マンネン内部の広さ描写の修正と『邪悪なる大翼』に【自動修復】のスキルを追加しました(Data.27でキズが勝手に直るシーンがあったのにスキルとして書くのを忘れていました……)。




