Data.3 初クエスト受領!
◆現在地
イスエドの村
村の中に入ったようね。
立ち並ぶ家もそんなに多くなく、人もやけに少ない。
プレイヤーはもちろん、NPCも少ない様な……。
まっ、まずはアイテムを売れる、もしくは一度預けられるところを探そう。
――数分後。
「まさかこの時期に旅人さんとはのう……。今ちょっとトラブルが起こってて、買い取りや販売がままならない状況なんじゃ」
「そうですか……」
「大きな町に通じる唯一の道が、急に現れた魔物に塞がれとるらしくての。村の商人や出稼ぎの男たちすら戻ってこられない状況なのじゃ」
この町に人が少ないのはそういう事か。
プレイヤーもNPCもこちらに来られないとなると、偶然近くにいた私は幸運なのか不運なのか……。
人とゲームをワイワイ楽しみたいなら不運でしかない。
でも、強さを求めるならば悪くない状況。ワクワクするわ。
私は他のゲームでもブーメランを使っていた。
そしてブーメランは大抵、エンドコンテンツや強力なボスを攻略するのに向いていない。
複数の雑魚を狩るのに便利でも、一体の強敵相手には火力不足なのだ。
なので、効率を突き詰めるパーティには入れない。いや、入らなかった。
その結果、ソロプレイが上手くなった。
私以外サポートNPCだけのパーティで高難易度クエストをクリアしてみたり、普通に一人だけで強敵に打ち勝ったこともある。
まったく楽ではないうえ非効率。
しかし、そのおかげで一部には狂じ……ちょっと有名人だったりする。ホントちょっとね。
つまり何が言いたいかというと、私にとってこの状況は日常。
倒してやるわ、その魔物。
「道を塞いでる魔物はどんな魔物なのですか?」
「えーっと……すまぬな。ド忘れしてもうた。もう歳でのぉ……」
この人は道具屋兼あずかり屋さんらしいけど、ずいぶんご高齢だ。
他の人に聞くか、思い出すのを待つかな。
とりあえず先送りにしてた確認作業を急ごう。
まず魔物から手に入れたアイテムは……。
・トゥースラビットの皮
・トゥースラビットの肉
・ウッドウルフのキバ×5
・ウッドウルフの皮×4
・ウッドスパイダーの糸×4
・ウッドスパイダーの毒牙×2
・フォレストベアーの爪×3
・フォレストベアーの肉×2
【解体】のおかげで、倒した魔物の数以上に手に入った素材もある。
ほんと神スキルだわ。
あと拾った物が……。
・タイリョク薬草×5
・シロセイの実
『タイリョク薬草』はその名の通り、体力を少し回復する薬草。
『シロセイの実』もその名の通り、白くて聖なる実らしい。
使い方はわからないけど、綺麗だしお守り代わりに持ってきた。
この二つは持ち歩いておこう。
合計22個のアイテムをステータスウィンドウのメモ機能を使って書き記し、あずかり屋さんに預けた。
これで何か無くなっててもわかる。一応ね。
さーて、ひと段落ついたし一度冒険を中断し、情報を集めるか。
それともレべリングに励むか……。
ステータスを確認しながら考えよう。
「オープン!」
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:7
レイス:人間
ジョブ:狩人
―――装備―――
●武器
木のブーメラン:☆1
目覚めのブーメラン:☆15
●防具
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
白革のグローブ:☆7
質素な靴:☆1
―――技能―――
●任意
【塵旋風】Lv1
●常時
【ブーメラン術】Lv4
【解体】Lv3
私のレベルは1から7にまで上がった。
数字で表示されないけど、私自身のスペックもかなり上がっている。
あと、強いスキルが発現しやすくもなるらしい。
いろいろな事に影響があるけど、一番大きい意味はその者の『強さ』がわかる事だ。
基本自分より高い相手には喧嘩を売らない。これ大事。
後はスキルレベルも上がった。
これもシンプルにそのスキルの能力が上がるのと、派生スキルが発現する条件になっている事もあるらしい。
新しく覚えた【塵旋風】のように。
◆スキル詳細
【塵旋風】
ブーメランで風を起こし、巻き上げた塵と共に敵を切り裂く。
レベルが上がるほど、威力や持続時間がアップする。
風属性物理攻撃。ブーメラン装備必須。
これは【ブーメラン術】【解体】の様に常に発動していて、所持者が発動を命じる必要が無いスキルと違って、発動するという意志が必要なスキル。
その中でも【塵旋風】の様な攻撃スキルは、プレイヤーの間で「必殺技」と呼ばれることもある。
通常攻撃に比べて威力が高かったり、追加効果があったりとまさに必殺技。
レベルを上げることで上位スキルに進化する事もある。積極的に使っていきたいものね。
「ステータス確認はこんなもんかな。ふむ……まだプレイして1時間ちょっとってところだから、レベル上げに行こうか」
独り言を呟きながら歩いていると、視界内にあからさまにあたふたしている女性が映った。
私としたことがうっかりしていた。
私しかプレイヤーがいないのなら、この村のクエストは受け放題じゃないの。
このゲームは突発的なクエストが多く、誰もが同じものを受けられるとは限らない。
なので、先取りや横取りされないこの状況はかなり美味しい。
ちなみにNPCが自力で解決することもあるらしい。高性能AIってすごいわ。
「お姉さん、どうされましたか?」
善は急げ。
私はお姉さん……というには少しお年を召された女性に声をかけた。
「あ、あんたは旅人さんかい?」
「そうです。何かお困りの様で」
「……なかなか強そうだね。聞いてくれるかい?」
「ぜひ」
「私が預かってる知り合いの娘が、一人で近くのダンジョンに突撃しちまったんだ」
ふむ、救出クエストか。
彼女の反応を見るに、私なら十分対応できる難易度のクエストのようだ。
「両親は腕の立つ魔物ハンターなんだけど、娘は体が弱い。でも、血の気の多さだけは受け継いでしまってね。両親の帰宅を妨げるドラゴンゾンビを狩るため、自分を鍛えに行くと言い残して……」
何を「狩る」と申されたか。
……『ドラゴンゾンビ』と聞こえたけど。
「ドラゴンゾンビって……」
「その子が向かったダンジョン『死して蠢く者の洞窟』から這い出てきたバケモンさ」
「く、詳しく聞かせてもらえますか?」
話を要約すると、そのドラゴンゾンビは元ダンジョンボスらしい。
ダンジョンで生まれたモンスターは、ダンジョンで成長する。
そしてダンジョンには、ダンジョン自体のレベルがある。
ボスは最下層にいるそのダンジョンで最も強いモンスター。
しかし、そのボスがダンジョン自体に定められたレベルを超えて強くなりすぎた時、外に出て来る。
今回のドラゴンゾンビのように。
また、ダンジョンボスが外へ出た時、そのダンジョンのモンスターは一時的に弱体化する。
娘さんは考えなしに突っ込んだワケではないようね。どちらにしろ危険だけど……。
「……今ならまだ間に合う。あの子を連れ戻してくれないかい?」
――クエスト発現!
――『じゃじゃ馬娘を連れ戻せ!』
――このクエストを受けますか?
「わかりました。必ず連れ戻してきます」
――クエスト受領!
「おおっ、そうかい……。なら残り少ないけど、これを使っとくれ」
彼女はダンジョンまでの簡単な地図と『HPポーション(小)』を5つ渡してくれた。
ポーションは薬草よりも回復量が多い。私だけでなく、娘さんを守るのにも便利そう。
「では、さっそく行ってきます」
「くれぐれも気をつけてね」
私は村の門へ向けて歩き出した。
ドラゴンゾンビ討伐への第一歩、気合い入れていこうか。