Data.27 彼女は突撃テイマ―
彼女はベラ・ベルベットと名乗った。
前髪がかなり短いパッツン黒髪ショート。キレ長い目は少し挑発的な印象を与える。
装備は鎧の様な重装ではなく、半袖半ズボンのサファリジャケット(よくタレントがジャングルを探索するときに来てる服)の様なものを身に付けている。
しかし、色が派手だ。
本来のサファリジャケットはベージュやグレーなど地味な色合いが普通だけど、彼女の着てる物は黒い。
それだけならいいけど、ボタンや縫い目の部分に金が使われている。
黒と金、これだけで変わり者の匂いを隠せない。
手のグローブ、足のブーツも同じ色合い。
頭には昔の飛行機乗りが着けてそうな大きなゴーグル。
それに黒いハイソックスを履いているので、露出している一部の肌の白さが引き立っている。
極め付けは首の赤いスカーフ。
黒金白の中に紅一点。それはもう目立つ目立つ。
これだけ派手なんだけど、身長は低めなのが面白い。
モンスターに乗ったりする事を考えて体重を減らしたのかな?
でも、誘惑に負けたのか胸だけは不釣り合いに大きい。
……変わり者の匂いは『確信』に変わった。
「はよ、認めてくれへんか?」
「あ、はい」
とりあえず味方のようだし増援として認めておこう。
「よーし! じゃあ後はあいつらを蹴散らしてお宝を持って帰るだけやな!」
ん?
まあ……後でいいや。
「あなたテイマーってことは、その大きなカメで戦うの?」
「大きなカメ『と』戦うや! こいつは私の相棒の『マンネン』! そこらへんの雑魚モンスはもちろん、生半可なプレイヤーも相手にならへん怪物やで! そりゃあもう必死で仲間にしましたわ」
やはり彼女が掲示板で語られる『突撃テイマ―』で間違いなさそうね。
相棒のマンネンも機械と生物が融合していて、彼女の目撃情報があった『機械獣の密林』に住んでいそうだ。
私の予想通りテイムは成功していたみたい。
「お、お前は……! 隠れて動いていたようだが、騎士団の情報網は掴んでいるぞ……。タンクタートルを使役し、高レベルモンスターを狩る事で一気にレベルを上げ、スーパージョブにまでたどり着いたベラ・ベルベット!」
「だ・か・ら、そう言うとるやろ! あたしがベラ・ベルベット! スーパージョブ『機械獣使い』のベラ・ベルベットや!」
彼女も私がさっき辿り着いたスーパージョブなんだ。
という事は進化スキルも習得しているはず。
レベル上げの方法は寄生に近いけど、まあ独自のプレイングの勝利ね。
「俺たちに歯向かうか!」
「下っ端共が偉そうによーいうなぁ! せいぜい幹部連中ぐらいにならんと準備運動にもならんわ!」
青髪の男とベラは勝手に盛り上がっている。
さて、今のうちに戦力分析でも。
相手は同じような装備をした団員が青髪含めて13人。
金髪メガネの子は戦線から離れたところでこちらを見ている。
消し飛んだ黒髪を含めて、総勢15人でドラゴンゾンビ討伐を計画したわけだ。
これだけいればドラゴンゾンビも討伐できたかな?
……いや、追い詰めるまでは出来ても自己に対する【腐食再生】でジリ貧になって、いずれ全滅してたと思う。
このゲームのボス討伐は手数より一撃の火力が重要みたいだしね。
「くっ、こうなれば戦いで決着をつけようじゃないか!」
「そもそも今も決闘中やろ。まっ、決闘というのもおこがましい卑怯な戦い方やけどな!」
決闘再開でまとまったようだ。
ベラは頭に乗っけていたゴーグルを装着する。
「ほな、マココ……はん。さっさと蹴散らして、ゆっくりお話でもしましょうか」
「あれっ? 私名乗ったっけ?」
「あぁ、このゴーグルには低レベルやけど【ステータス鑑定】のスキルがついてましてな。一言で言うと、ステータスを覗けるんですわ。【ステータス隠蔽】のスキルや装備で妨害されることもあるんやけど、まあ便利やで」
へー、ステータスを覗くスキルね。
あっさり説明されたけど、情報が命なこのゲームじゃ結構重要スキルじゃない?
そのスキルが割と簡単にゲット出来るものなら、早く【ステータス隠蔽】を持った装備を見つけたいわね。
「はははっ! その顔は隠蔽装備が欲しくなった顔ですなぁ。ここを切り抜けたら、そういう装備が手に入りやすいダンジョンに行きましょ」
私のステータスを見てからベラの口調が多少丁重なものになった。
同じスーパージョブだから一目置いたのか、レアな装備やスキルがあったから入手先を聞こうとしてるのか。
まあ、なんか嬉しそうな顔してるし、悪い事は考えていないでしょう。
今は戦闘に集中だ。
「仲良くお話してる余裕があるのかな!?」
全身を鎧で覆ったアーマーナイトが数人が迫ってきた。
一応騎士団らしくフォーメーションを組んでいるようね。
硬い相手は好きじゃないからベラに任せたいけど……。
「マンネン! 火炎の息吹!」
ベラはハッチから体を外に出したまま指示を出した。
それに応じてマンネンの口が開き、そこから炎が溢れ出す。
「ぐわあああっ! あっちぃ!」
動きの素早くないアーマーナイトは炎を避けられずモロにくらい、焼かれている。
ちなみに痛覚も設定で調整できるので、本当に焼け死ぬ痛みを感じている訳ではない。
ただ、『痛み』というのは体の危険を素早く伝えてくれる機能なので、体感型ゲームにおいてはある程度鋭くしておくプレイヤーも多い。
私も多少強めに設定している(それでも現実よりはだいぶ軽減)。
「今助けます! ウォーターベール!」
後衛の魔法使いっぽい人々が水魔法を放ち、炎を消していく。
うむ、やはり下っ端でもトッププレイヤー集団の一員。
前衛がのたうち回っていても陣形を崩さず、自分の仕事に集中している。
「マココはん! マンネンの主砲を撃つには、敵が近すぎますわ! お願いしていいでっか!」
水魔法の膜に遮られ、火炎の息吹は効果を発揮していない。
といっても、魔法使いたちは魔法の維持に必死なので今は動けない。
そこを狙えという意味ね。
「このブーメラン、投げるのは初めてね」
『邪悪なる大翼』は巨大だけど、一応片手で投げられそうだ。
私は誰と言った標的を作らず、とりあえず陣形の中心に向けて投げてみた。
ブウゥゥゥンッ!!
風を押しのけて黒い影が敵陣形へ襲い掛かる。
「なんだ!? あの黒い影は!」
「ずっとあいつが持ってただろ! ブーメランだ!」
「後衛にあたるぞ! 叩き落とせ!」
斧やメイスといった重い攻撃を得意とする武器の使い手たちが、ブーメランの軌道に立ち塞がる。
叩き落とされるとは思ってないけど、新装備に少し傷が付きそうな使い方は不用意だったかも。
新しい物って少しの傷も気になるのよね……。しばらくすると雑に扱いだすけど……。
「スキルを使えよ!」
「お前こそ!」
「ハァーーーッ!! 大地わ……」
ギリギリまでブーメランを引き付けて叩こうとしていた人たちが、上下真っ二つに切れ消えた。
……アタリ判定が詐欺気味なんだ、これ。
おそらく投擲された『邪悪なる大翼』の周りには見えない斬撃波が発生している。
ギリギリまで引き付けたり、間一髪で避けようとすると問答無用でぶった切られるのだろう。
流石はあの『【腐食再生】ドラゴンゾンビ』が落とした武器だ。
別方向でいやらしい……。
ブーメランは思うがままの軌道を描き、魔法に集中していた後衛たちもぶった切って、こちらに帰ってくる。
なんだか申し訳ない気もするけど、仕掛けたのはそちらだから仕方ないと思って欲しい。
まあ、私自身喧嘩を売られて不快ではないけどね。
「魔石を持って帰らないとお金の関係でギルド内でぇ~」と人間関係のギスギスをアピールされて泣き落としよりは、ぶっ飛ばした方が気分も良い。
この戦いに挑んだ勝利への執念とプライドだけは認めよう。
あっ、そろそろ『邪悪なる大翼』が戻ってくる……わ。
私はとっさに大きく後ろに仰け反り、ブリッジの姿勢をとる。
その上ギリギリを邪悪な黒い物体は通り過ぎていく。
上下のアタリ判定は普通で助かった……。
「ん? なんやマココはん。取るタイミングを間違えたんかいな?」
水の魔法が無くなり、残った団員を平然と燃やしているベラがきょとんとした表情でこちらを見ている。
「違う! あいつ勢いが減衰しないし、なんか手にも収まりそうにないの!」
「暴れとるんですかい!?」
「そんな感じ!」
私は地面にうつ伏せになったまま言う。
すると、『邪悪なる大翼』は地面すれすれを飛んで、まるで地面に張り付いている私を狙うかのように迫ってきた。
「ええい!」
私は素早く立ち上がりジャンプ。
何とかそれを避けた。
が、また大きく弧を描きながらこちらに戻ってきそうだ。
「マココはん伏せて! マンネンが止める!」
ベラはハッチの奥へと消え、同時にマンネンの背中の大砲が細かく動き始めた。
「よし、調整完了! 食らえ! 徹甲羅弾!」
マンネンの大砲が巨大な弾丸を放つ。
それは見事高速で動くブーメランに直撃し、それを地面に突き刺した。
遅れて爆音と爆風が辺りに広がる。
「荒っぽいけど、これしかなかったんですわ。すんません。せっかくの超レア武器を……」
「いいえ、むしろありがとう。私もよく確認もせずに突っ込む癖を直さないとね」
おそらく呪い装備的なデメリットスキルが付いているのだろう。
でも、その強さは本物。
いずれちゃんと制御してみせるわ。
「ん? これは……」
『邪悪なる大翼』が再生している。
先ほどまで弾丸の直撃をくらい、焦げとキズが目立ったというのに、だんだんマシになっていく。
……後でちゃんと調べよう。
今はまだ一人残っている。
「おう、おう! どうやら決闘はあたしたちの勝ちのようやな! 大人しく降参せい!」
青髪の男が偶然残っていた。
運が良いのか悪いのか。
「くそっ! ベラ・ベルベット……お前さえいなければ! それにその黒い翼もそうだ! ドラゴンゾンビが落とした武器を制御も出来ないくせに使いよって……っ! ベラがいなければ自滅していただろうに……」
痛いとこついてくるなぁ……。
ブーメランは戻って来るまでがブーメラン主義の私としては、叩き落としてしまったのは結構屈辱だ。
「……せやろか? 私がおらんくてもマココはんは余裕で勝ってたと思うで」
「なにぃ? 何を根拠に……」
「聖X邪ノ矢!!!」
私とベラの間を突き抜け、白と黒の矢が螺旋の様に絡み合いながら青髪の男に突き刺さった。
「な、なにがあぁぁぁーー………………」
矢の勢いは衰えず、男を宙へと持ち上げると彼方へ飛んでいった。
「アチル! 大丈夫なの!? 魔力は……」
「大丈夫ですよ! あの人が薬草を持ってきてくれたんです!」
「フェアルードの大地は強い。たとえ腐り、やせ細っても、日の光を浴びれば蘇っていく。薬草もだ」
雷の守護者だ。
装甲の一部が溶けたり錆びたり無くなっていたりしてるけど、自動で回復するのもあって元気そう。
「おほっ、こりゃまたすごいお仲間さんがそろったなぁ。では、これにて一件落着ぅーー!!」
ベラが楽しそうに大笑いする。
確かにドラゴンゾンビは倒したし、騎士団もみんな帰してあげたし……。
あっ、木の陰から金髪メガネの子がこちらを見ている。
彼女は視線に気づくとスッと隠れてしまった。
あの子には何もされてないし、ぶった切る気はないけど、騎士団の内部情報は話してもらいたいところね。
また、喧嘩ふっかけてくるかもしれないし。
まだいろいろやる事はあるけれど、とりあえずドラゴンゾンビ討伐は大成功!




