Data.26 遭遇!シャルアンス聖騎士団
目の前に現れた三人パーティは男二人、女一人の構成だ。
先頭を歩くリーダーっぽい男は黒髪短髪で両手で大剣を構えていた。
防具は銀色の鎧や小手でガッチリ固めている。
これは力自慢のガチガチ前衛タイプね。
もう一人の男は濃い青髪で長い槍を持っている。
装備は大剣男と変わらず前衛仕様。おそろいと言ってもいい。
槍の長さを生かして敵と距離をとりつつ、前線を維持するタイプとみた。
最後に私を「変な人」と言ったメガネの女の子。
薄い金色……いや、クリーム色と言ってもいいかも。それぐらい薄めの髪色に左目を隠すような長い前髪。
あれで前が見えてるのかしら……。
武器は片手剣。細くて真っ直ぐで扱いやすそうだ。
反対の手には丸い盾を着けている。これもコンパクトで取り回しやすそう。
防具は他の二人と少し違って、茶色い革の装備が目立つ。
胸当てやクツ、グローブの一部に銀の金属が使われているけど、やっぱり他の二人とは雰囲気が違う。
よくゲームの装備で○○シリーズみたいな統一装備があるけど、男二人は武器も含めそんな感じね。
「だ、だれだ? おい、知ってるか? ここにいるって事は団員の誰かか?」
「いや知らない。それに俺たちがオーステンに着いてから腐り竜の渓谷に向かう奴は全員チェックしてたが、みんな引き返してくるか、ボロボロになってリスポーン地点に戻されてたはずだ」
「じゃ、どこから来たんだ?」
「オーステンからここまでは平原だから、町を通らずに渓谷に辿り着くことは理論上可能だ。おそらく他ルートから来た物好きなソロプレイヤー……か。というか、聞けばいいじゃないか。相手はおそらくプレイヤーだぞ」
「ああ、そうか。おーい、そこの人!」
物好きなソロプレイヤー……私が呼ばれている。
「物好き」なのは確かだけど、ソロではない。いや、プレイヤーは一人だから合ってるのかな?
とりあえず無難に返事だ。
「なんでしょう」
「あんたもドラゴンゾンビ討伐に来たのか?」
「そうですが」
「一人じゃ無謀だぜ! 俺たちと一緒に来ないか? なかなかドラゴンゾンビが見つからねーけど」
まあ、一人じゃ無謀なのも確かだけど……。
それよりやっぱり言わないといけないわね。
ちょっと言いにくいけど……。
「あのー、ドラゴンゾンビは今倒したところです」
「……は? もう一回言ってくれ」
「ドラゴンゾンビは倒しました」
「……」
「……」
「……」
三人は私の言葉がすぐ理解できないようだ。
ぽかーんと口を開けている。
「しょ、証拠はあるのか!?」
黒髪の男が立ち直って質問してきた。
証拠か。さっきの声とか討伐アナウンスは聞こえていないだろうし、うーん。
「このブーメランとかですかね?」
私は手に入れたばっかりの『邪悪なる大翼』を見せる。
このデカくてゴツいブーメランはそこらへんで手に入るものには見ないでしょう。
「……そ、装備ならダンジョンから手に入る事もあるし、それが見かけ倒しな可能性もある!」
まあ、意気揚々と倒しに来たレアボスが、紙一重で他プレイヤーに倒されたなんて信じたくないよね……。
でも、倒したものは倒してしまった。
「えーっと、あ! あの大漁の魔石とかどうです? 質の良い物も混じってますし、こんなフィールドのまん真ん中に無意味に置いてるはずないでしょう? あれはドラゴンゾンビ撃破時にドロップしたものよ」
私は魔石の山を指差す。
説明した通り、ドラゴンゾンビが落としたものだ。
魔石は換金可能なので、他のゲームでいうと魔物が落とすお金のポジションね。
それを見た三人組は私に背を向け相談し始めた。
「……ほ、本当だと思うか?」
「いや、ソロでは無理だろ……。だが、ドラゴンゾンビが何らかの原因で撃破されたことは信じるほかない」
「お仲間がいるとかじゃないですか?」
「そうだな……。その可能性を忘れていた」
三人は私に向き直る。
「な、何人で討伐したんだ? 他の仲間はどこへ?」
うーむ、どう説明すればいいものか……。
一人は体力の限界だし、もう一人はまだ戦ってるかもしれない。
そうだ。早くみんなの無事を確認しないと。
「私を含めて三人よ。他の二人は傷ついてるけど、まだ無事で他のところにいるわ。もし、瘴気で腐っていない薬草があったら私に譲ってくれないかしら? 魔石と交換させてもらうわ」
あの三人はこの瘴気を抜けてきた割に怪我や体力の減少が見られない。
おそらく私たちとは違う方法で薬草を保存しているのだろう。
譲ってもらえればアチルが動けるようになるし、雷の守護者を見つけて村に帰れる。
そして一度村で体勢を立て直してからオーステンに向かい、出稼ぎの村人たちと合流。
再び村に戻れればイスエドの村の冒険は終わる。
「……」
三人組はまた作戦会議を始めた。
「どうする……? このまま手ぶらでは帰れないぞ……。回復アイテムを譲って少しでも魔石を分けてもらうか?」
「足りんだろ。今回の討伐の為に生産部から装備やポーションを作ってもらったんだぞ」
「へー、その装備プレイヤーが作ったものなんですね」
「じゃ、どうするってんだ」
「いいか、よく聞け……」
ごにょごにょと男二人が耳打ちしている。
それに聞き耳を立てているメガネの女の子は団員じゃないのかな?
「えー!! そんなことしちゃダメですよ!」
「仕方ないだろ! 俺たちはお前と違っていろいろギルド内で立場があるんだ!」
青髪の男は血相を変えて叫んだ。
女の子はビクッと震えた後黙ってしまった。ただ、私を申し訳なさそうな目で見ている。
「薬草と言わずポーションを譲ってもいい。ただし、あの魔石の山は俺たちにくれ!」
黒髪の男が割と大声で言った。
「は?」
なかなかふっかけてきたわね。
戦いばかりだった私も、流石にあの魔石の山とポーション数本が釣り合うとは思えない。
「それはちょっと価値が釣り合わないんじゃないですか? 少し多めにあげてもいいですけど、全部はダメです。あれは私一人で手に入れた物じゃないんで」
「……そうか。ならばお前に決闘を申し込む! 一対一、装備破壊無し、勝利条件は相手を死亡状態にする事! 私が勝ったらあの魔石はもらう! お前が勝ったらポーションも私の装備もやる! どうだ!」
私の目の前にウィンドウが表示された。
決闘への同意書のようだ。
「おい。装備までやる必要ないだろ」
「負ければ一緒だ! それにこれでも正直釣り合わん!」
青髪の男はあきれた表情を作る。
それに対して決闘を申し込んできた黒髪の男は真剣な表情だ。
本当はこんな勝負受けるもんじゃない。
相手の情報もほとんど無しで、相手からの誘い。つまり、相手の土俵で戦うという事だ。
戦士としては避けたいシチュエーションね。
でも今は回復アイテムがほしいし、話し合いで解決しない事情もありそうだ。
やってやりますか。これが一番早いと思うし。
「いいわ、その決闘受けてあげます。でも、恨みっこなしで」
「もちろん!」
同意と同時にウィンドウの画面が変わり、カウントダウンが始まる。
そして0になる瞬間、男からこちらにツッコんできた!
「俺はそこらへんの剣士とは違う! 大剣士の放つ一撃受けてみよ! 大斬ィィィーーーーッ!」
大剣士はジョブ。大斬はスキルかな。
私は……って、そうだった。
『目覚めのブーメラン』は砕け、『超電磁ブーメラン』はアチルに預けている。
今手元にあるのは初めて扱う『邪悪なる大翼』だけだ。
いろいろ未知数だけど、大層な見た目に見合う性能だといいわね。
私はその大きなブーメランを男と同じく大剣のように振り下ろした。
軽くはないが、重すぎる事もない。
【真・回帰刃術】【腕力強化】がサポートしてくれている。
ギィィン!
と音を立てて武器同士がぶつかる……と思っていたけど、その予想は外れた。
『邪悪なる大翼』は強すぎた。
銀色の大剣とぶつかった瞬間、邪悪なる大翼はそれを粉々に砕き、持ち主まで一瞬で真っ二つにした。
「ぐわぁぁぁぁーーーー!!」
黒髪の男がノイズとなり消えた。
そして、その装備と持っていたポーションが地面に落ちる。
もちろん、死んではいない。
決闘だから特にデスペナも無くどこからか復活するだろう。
真剣に挑んでくれたのに想像以上にアッサリ終わってしまった。
まあ不利な条件押し付けられたのだから罪悪感を感じる必要はないか。
「あの……ポーションいただきますね」
私はそう言い、地面に落ちているビン入りのポーションを拾おうとする。
「……待ってくれ。俺とも戦ってくれないか?」
青髪の男が私に語りかけてきた。
「勝つ見込みは薄そうだが、何もせずに引き下がるよりはいい。ルールはさっきと同じだ。あ、装備の箇所だけ変えさせてもらった。私は後のことを考えると装備までは渡せない。さぁ、すぐ始めよう」
男はすでに槍を構え気合十分のようだ。
さっきは叫んだりかなり焦っていたようだけど、流石にブーメランの力を見て諦めがついたのだろう。
「わかったわ。でも手加減しないよ」
「……こちらもさ」
決闘開始のカウントダウンが終わると同時に男は……後ろへ引き下がった。
何故?
槍の射程の関係か。いや、流石に遠い。
それにここからならブーメランは届く。
相手には私の武器が大剣にでも見えたのかな?
「よし! かかれ!」
青髪の言葉と同時に、岩や木の陰から騎士団の装備をしたプレイヤーがおどり出る。
残った瘴気に隠れつつここまで来たのだろう。
ドラゴンゾンビ討伐に向かった団員は三人ではなかったのね。
って!
なんで今そいつらが私の方に向かってくるの!?
「ルールを少しいじらせてもらった。一対一なのは確かだが、決闘者のどちらかが認めれば増援として他プレイヤーを参戦できるようにさせてもらった」
だから私と戦う気になったというわけか。
しかし、それで勝てるとまで考えたのならば甘い!
団員は10人以上いるようだけど、何人が『邪悪なる大翼』に耐えられるか試してやろう。
割と攻撃的な考えとともに、私がブーメランを構えたその時、特徴的な声が渓谷に響いた。
「性根の腐ったアホどもがーっ! ゾンビはお前たちや! このまま帰んのもなんやし、ドラゴンゾンビの代わりに成敗してやる! 赤い髪のおねーさん! あたしを増援として認めてー!」
騎士団員たちの後ろから何かが迫って来ている。
この声も素の声ではなく、拡声器を通したような声質だ。
一体何が……。
それは亀だった。
しかし、ただの亀ではない。
四つの足はキャタピラになっていて、甲羅には大砲が付いている。
ところどころ機械的な部分が見える奇怪な亀だった。
その亀は騎士団員を轢きかねないギリギリのコースを通り私に接近。
急ブレーキをかけてその体を回転させ、騎士団員の方に向き直りながら、私の横で止まった。
休む事なく次の驚きが来る。
亀の甲羅の側面がハッチのように開き、中から人が現れた。
「初めましてやね。あたしはベラ。ベラ・ベルベット。人はあたしのことを『突撃テイマー』と呼ぶ! 主に掲示板で好き勝手にな!」




