Data.25 SKILL EVOLUTION
私のスキルの中でも最強の【猛牛ブーメラン】に次なる段階が!
これは期待できる!
――SKILL EVOLUTION!
――進化スキル【昇龍回帰刃】EVOLv1:発現!
ネーミングが4000年の歴史を持つ中国武術みたいになってきた。
しかし、強そうなのは確かね。
ドラゴンにはドラゴンを。
天へ昇る龍の一撃、食らわせてやるとしましょう。
そう思った矢先、私とアチルを覆っていた雷が無くなった。
雷の守護者が与えてくれた雷属性付与の効果時間が終了したみたい。
彼自身に何かあったわけではないと思うけど……。
「うぅ……マココさん……」
アチルが意識を取り戻した。
その顔にはかなり疲労の色が見える。
「大丈夫、アチル?」
「はい……でも、ちょっと体が動かなくて……。薬草ありますか?」
私は腰の袋から薬草を取り出そうとする。
「あっ……」
雷による瘴気の遮断が無くなったせいで、残りわずかな薬草類がすべて腐っている。
「うわぁ……流石の私もこの薬草は食べられませんね……。私のことはいいですから、ドラゴンゾンビを……」
「……わかったわ。でも、これは持ってて」
私は『超電磁ブーメラン』をアチルに渡す。
「雷の円陣を使えば、雑魚ぐらいからなら身を守れるわ。これで少しの間ガマンしててね」
「で、でもこれは……」
「大丈夫、私にはもう一つブーメランがあるわ!」
「それはもう……」
私は『目覚めのブーメラン』を軽く握りしめる。
たび重なる戦闘でもう流石にボロボロになってきた。
思えば『守護者の眠る廃神殿』でゴーレムの魔石をガンガン削ってたのが響いてるわね。
アンデッド系のゾンビやスケルトンは脆いから、あれがなければ結構持ったかも。
まあ、あのダンジョン攻略は必須だったから後悔はしてない。
『超電磁ブーメラン』を貰えたのもそうだし、何より雷の守護者がパーティにいなければここまでたどり着けなかった。
「……最後を決めてくるわ」
私は新スキルの詳細も確認せずに駆けだした。
ドラゴンゾンビが再生中の今、一秒でも時間が惜しい。
それになんとなく効果は察せる。
私のスキルはいつもわかりやすい名前だからね。
標的のドラゴンゾンビは首と胸の穴が埋まりつつあった。
脆いけど再生する。相変わらずアンデッド系はいやらしい。
でも、それもここまでだ。
「これで本当に最後! ドラゴンッ……ブーメラーーーーンッ!!」
全力で『目覚めのブーメラン』を投擲する。
その瞬間、ブーメランは紅い龍を纏い、ドラゴンゾンビに突撃を始めた。
現れた龍はいわゆるアジア的な長くとぐろを巻く『龍』だ。
ブーメランの通り過ぎた後にも長い体がうねり、雑魚ゾンビを消し飛ばしていく。
そして、龍は竜に噛みついた。
「グオオオオオォォォォォーーーーーッッ!!!」
この咆哮はドラゴンゾンビのものではない。
私が生み出した紅い龍が響かせているんだ。
進化スキル……いろいろ規格外なようね。
噛みついた龍はドラゴンゾンビの腹を食い破り、後ろへ抜ける。
ここからこのスキルが真価を見せる。
「ヤァ!」
私は体を動かし、映画や漫画なんかで見るなんちゃって中国拳法、またはカンフーの様なポーズをとった。
それに連動して龍は軌道を変え、再びドラゴンゾンビへ喰いかかる。
そう、このスキルは軌道を制御できるのだ。
それでいて威力は【猛牛ブーメラン】よりも上とみえる。
ここまでだと完全上位互換スキルのように思えるけど、そうとも言い切れない。
大きなデメリットはやはりこのポーズ!
大きく向きを変えるたびにポーズも変える必要がある。
事情を知らない人から見たらちょっとマヌケかも……。
それに意外と体力を持っていかれる。
ゆっくりとした動作で、そこまで体に負担のかからないポーズをとっているはずなのに、体が熱くなり汗ばむ感じがする。
スキル持続時間は私次第ってことか……。
「くっ……スキルに耐えられそうにないから、本体の私をつぶそうって事かしら」
雑魚ゾンビたちが私の方へ群がってきた。
このポーズを解くと【昇龍回帰刃】も解かれる。
そして、【猛牛ブーメラン】と同等かそれ以上のリキャストタイムが待っているはずだ。
ここは無理して軌道を変える!
「んぐぐ……ハッ!」
紅い龍は瀕死のドラゴンゾンビから一時離れ、私の周りをぐるりと一周した。
これで雑魚はいなくなった。
「喰い尽くせ!」
私は両手を前にグッと伸ばして叫ぶ!
「グオオオオオォォォォォーーーーーッッ!!!」
一際大きな咆哮を上げ、紅い龍はドラゴンゾンビの正面に回り込む。
そして、大きな口を開けその黒き巨体を飲み込み、消滅させた。
その際に千切れ飛んだ二つの翼にノイズがはしり、形を変えていく。
――レベルアップ!
――スキルレベルアップ!
――名を冠するモンスター『【腐食再生】ドラゴンゾンビ』の討伐を確認!
――もっとも勇気ある者は『マココ・ストレンジ』!
終わったのね……。
ポーズを解くと同時に紅い龍は天に昇り、そして砕けた。
その衝撃で周辺の瘴気が吹き飛び、日の光が大地に射す。
『邪悪な龍を討ちし聖なる心を持つ者たちに、その邪なる力のカケラを……。聖と邪、併せ持つことが強さになると信じて……』
脳内に声が響く。
システムボイスとは違う。
『死して蠢く者の洞窟』で腐り堕ちた聖賢者を倒した時にも聞こえた声だ。
「なんだ? 急に瘴気が薄まり始めたぞ?」
「ゾンビ共の動きも鈍くなってる。おい、何か見えないか?」
「まだ何も見えませーん!」
こちらは普通に耳で聞き取れる声だ。
まだ瘴気が残る遠くから聞こえてくる。
この方向はおそらく……東の都市『オーステン』のある方だ。
人が来るならそちらの方向しかない。
私が新たな人物の登場に疲れた体で身構えてる時、ドラゴンゾンビの翼から構築された物が飛んできた。
腐り堕ちた聖賢者撃破のパターンと同じで、それは装備品だった。
でも今回は武器、それも新たなブーメラン。
『邪悪なる大翼』。
黒と濃い紫の毒々しい色合いも目を引くけど、何より巨大だ。今までのブーメランとは比べ物にならない。
私の身長と同等、いや超えている?
どちらにしろデザインも荒々しく、その威力は恐ろしいものになりそうだ。
「む! 瘴気を抜けるぞ!」
「やっとか! 遂にドラゴンゾンビと対峙するときが来たんだな……!」
「えっ、私後ろに下がりたいです!」
声の主たちは瘴気を抜け、姿を現した。
白い鎧に磨かれて光を反射する剣、そして恐るべき存在に挑むというのにあまり緊張感のない表情。
間違いなくプレイヤーだ。
そして、装備からしてこの人たちが『シャルアンス聖騎士団』!
……の下っ端。
「よし! 辿り着いたぞ! やけにひらけたところだな……」
「なんだか、ネームドモンスターがいる場所にしては明るいな!」
「うーん、相変わらずゾンビしか見当たりませんが……あっ」
三人いる騎士団のメンバーの中で一人、ふちの大きな眼鏡をかけた女の子と目が合った。
「……うーん?」
その子は私の存在がすぐ理解できない様で、目を凝らして見つめてくる。
なんか少し恥ずかしい。
「……あの、あそこになんか変な人がいますよ」
彼女は目を丸くしてポツリとつぶやいた。




