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Data.23 吹き荒れる紫の風を抜けて

 ゾンビたちは増えていく。

 【腐食再生】の効果もあるけど、純粋にモンスターが多い地帯みたい。

 紫の瘴気(しょうき)も濃くなっていることから、ドラゴンゾンビはもうすぐそこなんだと思う。

 こうなったらやる事は一つよ。


「突撃しましょう。ここで雑魚狩ってても()()があかないわ。まだ薬草や装備が残ってるうちにボスを倒してしまいましょう」


「そ、それは賛成なんですけど! どこにドラゴンゾンビがいるか、わかるんですか!? 近づいてる気はしますけど、正確な位置がわからないと突撃は無謀かと!」


 アチルが両手のクロスボウを撃ち鳴らしながら叫ぶ。


「検討はつくわ。この瘴気少しずつ濃くなってると同時に、流れが速くなっていないかしら?」


「瘴気って……風の流れですか?」


「そうよ。良く見ると一定方向から流れてきてるのよ。そして、渓谷の中央に近づくほど、その流れが速くなっている」


「……あっ、確かに!」


 アチルはキョロキョロと視線をめぐらせ、あんぐりと口を開ける。


「この瘴気自体がドラゴンゾンビのスキルによって生み出されている物だと思うの。この流れに逆らっていけば、発生源に辿り着けるはずよ。もちろん、必ずではないけどね」


「それでも行くべきであろう。このままでは我々の敗走は必至。勝負をかけるならば今だ」


「そうですね! でも、この群れをかき分けて突撃するのは結構難しいですよ」


 それなんだよね……。

 そもそも、私たちも進みたいのに敵が多すぎて進むのが難しくなっているから、早く勝負を決めたくて突撃を提案したのだ。


 しかし、電磁包囲網(エレクトロシージ)を展開しながら移動速度を速めるのはスキルの性質上困難。

 でも壁が無くなると敵が一気に流れ込み、武器的に接近戦を苦手とするアチルが危ない。

 どうしたものか……。


「……我に考えがある。お主たち、一度攻撃を止め、我のもとに集まれ」


「わぁ! まだ何か隠し機能があるんですか?」


 雷の守護者(サンダーガーディアン)はこの状況で冗談を言うような性格ではないわ。

 何か策があるのね。甘えさせてもらうとしよう。

 私とアチルは彼のもとに近づく。


「アチルよ。すまぬが村の電磁包囲網(エレクトロシージ)を解除させてもらうぞ。これからする事には出来るだけ多くの魔力が必要だ」


「……大丈夫ですよ! 村には新しい柵を作ってもらいましたし、私たちが正面から突撃したんです。ゾンビも村には向かわないと思います」


「よし。では、いくぞ! 雷属性付与(エンチャントサンダー)!」


 雷の守護者は手を私たちに向け叫んだ。

 すると、私たちの体に雷が流れ込み、バチバチと発光し始めた。

 同時に私たちを囲っていた電磁包囲網(エレクトロシージ)も消滅する。


「こ、これはどういう事ですか!」


「お主たちに私の魔力すべてを使って雷の力を付与した。これでしばらくの間、アンデッドどもはお主たちに触れることすらできん」


「あなたはここに残るというのね」


 私は彼の意図を察しながらも確認をする。


電磁包囲網(エレクトロシージ)を維持しながらの高速移動は不可能。しかし、守り無しでは突撃はできない。だから、守りつつ突撃を可能とする方法を実行したまでだ」


「じゃあ、一緒に行きましょうよ!」


「それも出来ない。ゾンビゴーレムどもを食い止めねばならん。奴らは我々が倒したゾンビから出た魔石から生まれている。つまり背後から来るのだ。ドラゴンゾンビとの戦闘中に背後を取らせる訳にはいかん」


「でも……」


「むしろ我はお主たちの方が危険だと思っている。我よりレベルが低く、種族として脆さがあり、耐性も完全ではない。それに自動回復スキルも無く、モンスターが落とす魔石による魔力回復も出来ない」


「……」


「すまない……ドラゴンゾンビ討伐は頼んだぞ」


「マココさん! 行きましょう!」


 アチルの心は決まったようだ。

 雷の守護者の覚悟を無駄にしない為にも先へ進もう!


「無事を祈ってるわ!」


「いらぬ心配だ」


 私とアチルは風の流れに逆らって走り始めた。

 途中、振り返ると雷の守護者が四つの大盾をぶんぶん振り回してゾンビたちを薙ぎ払っている姿が見えた。

 私たちには巨大に見えたゾンビゴーレムも、雷の守護者とはそんなに変わらぬ大きさだ。

 「お主たちの方が危険だと思っている」というセリフは嘘でもなんでもないようね。

 私はもう振り返らずに走った。




 > > > > > >




 群がるゾンビたちは私の体に触れる前に雷で焼かれた。

 でも、トドメはささない。魔石をヘタにばら撒かれると厄介だからね。


「風が……どんどん強くなってます……」


「ええ、もうすぐそこよ」


 私たちは更に足を速め、そして辿り着いた。

 黒い壁に。行き止まりだ。


「ま、マココさんどうしましょう……」


「確かに風はこちらから吹いて来てるのに……」


 そう言う間にも後ろからゾンビが迫りくる。


「私が足止めします。その間にマココさんは何か別の策を考えてください」


 アチルはまだ諦めていない。

 『セイントクロスボウ』のスキルである【聖矢】をゾンビたちの足に向けて放つことで倒さずに転ばせ、文字通り足止めする。

 倒れたゾンビに足を取られ、後続もどんどん転んでいく。

 そこへすかさず【弾丸豆の(バレットビーン)なる木(プラント)】をバリゲードの様に張り巡らせ、一時的な安全地帯を作り上げた。


「ふぅ……」


 一気に魔力を使ったアチルは袋から薬草を取り出し、食べようとする。

 その時、壁から強風が吹いた。


「ああっ!」


 薬草の束を何個か風で飛ばされ、アチルが声を上げる。

 しかも、その薬草は瘴気に触れるとすぐに腐ってしまった。

 雷を(まと)っている体の近くにある間は瘴気の影響を受けないけど、離れるとこうなるのね……。


「ますます急がないといけなくなったわね」


「そ、そんなに落ち着いてて大丈夫ですか……?」


「ダメだけど、アイツは見つかったわ」


 私は壁の方へ振り返る。


聖属性付与(エンチャントホーリー)! 塵旋風!」


 聖なる風を纏ったブーメランを壁のやや上に投げる。

 ブーメランは瘴気を払い、その壁の正体を露わにした。


「こ、これは!」


 視界の悪さと巨大さが相まって、壁に見えていたソレの上にボロボロの翼が見えた。

 地面に横たわっているこいつが『【腐食再生】ドラゴンゾンビ』!

 その正体を認識した時、私たちの目にあるモノが表示される。

 <【腐食再生】ドラゴンゾンビ:Lv50>。


「れ、レベル50……。どどど、どうしましょう……」


「いや、これはいけるほうよ。腐り竜の渓谷に来る前の私たちのレベルは20中盤。合わせれば大体50じゃない。それにここに来るまでにもレベルは上がっている。落ち着いて攻撃しましょう」


 まあ、ネームドってのは大体どのゲームでもレベル以上に強いんだけどね。

 ただ、こいつの場合は正面からの戦闘力よりも、再生や瘴気によるいやらしい強さが評価されての名を冠する(ネームド)モンスターだろう。

 そして何よりゾンビ系は雑魚ボス問わず脆い。


 翼の形や向きから推測して、今私たちはドラゴンゾンビの左の胸のあたりにいる。

 出来れば確実な頭を狙いたかったけど、そうすると姿を視界にとらえられ、抵抗される可能性もある。

 それに今はアチルが安全地帯を維持してくれている。

 ここで全力を胸にぶち込む!


聖属性付与(エンチャントホーリー)! 猛牛ブルッ……ブーメラーーーーンッ!!」


 『超電磁ブーメラン』に聖属性を付与し、今私に出せる最大火力をドラゴンゾンビにぶつける。

 真っ直ぐに飛んだブーメランはやすやすとその黒い壁の様な肉体に風穴を開け、手元に戻ってきた。


「や、やりましたかっ!」


「いや、まだよ」


 確かにかなりのダメージが入ったのは間違いない。

 左……竜の頭の方から、苦悶に満ちた怪物の鳴き声が聞こえてくる。

 しかし、これは断末魔の叫びじゃない。


「来るわアチル! 後ろに下がるわよ!」


「は、はい!」


 アチルの【聖矢】を連発し、背後にいたゾンビを聖なる力で消滅させ、無理やり後ろに下がる。

 同時に強風が何度も吹き荒れた後、大きな地響きがした。


「……さあ、あの大きな頭を潰せば終わりよ」


「もう、ここまで来ると怖くありませんね!」


 白く濁った眼がこちらを見ていた。

 焦点が合っているのかも怪しいその目からは、確かな怒りが感じ取れる。

 歯の抜け落ちた口からは、体から発生している瘴気よりさらに濃い瘴気が漏れている。


「グォ……グ…………グウオオォォォォーーーーッ!!」


 (わず)かに空を飛び、体の方向を変え、頭をこちらに向けたドラゴンゾンビが苦しみの混じった咆哮をあげる。

 しかし、私もアチルも怯まない。


「最大の弱点を向こうから差し出してくれるなんて、幸運ね」


 あと一息だ。

 私はブーメランを握りしめた。

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