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Data.22 腐食再生の脅威

 『腐り竜の渓谷』は『イスエドの村』から見て西にある。

 渓谷から更に西に行くと、大陸西部一番の都市『オーステン』がある。

 普通のプレイヤーがドラゴンゾンビ討伐に挑む場合、このオーステンを拠点とすることになる。

 だから、移動中に私たちパーティが他のパーティと出会うことはないはずだ。

 あるとすれば、渓谷中央にいるとされるドラゴンゾンビとの戦闘時ね。


 ネトゲには慣れてるけど、AUOで他プレイヤーと出会うのは初めてになる。

 他のゲームなら装備やスキル構築、職業なんかは調べれば大体わかるし、真似するのもまあ簡単。

 多少入手難易度が高い装備や取得に時間のかかるスキルも、根気よく遊んでいれば誰でも入手できるのが普通だ(期間限定コラボアイテムとか、何かのシリアルコードで入手するアイテムとか例外はあるけど)。


 しかしAUOは違う。

 ジョブなんてこれ相当種類あるというか、「そのうち一人一人独自職になるんじゃない?」みたいな勢いだ。

 スキルもポイントを振れば習得できるわけじゃないから、なかなか好きなのを選ぶのは難しい。


 装備に関してはまだ未知数ね。

 プレイヤーによって生産された装備の方が強いゲームもあれば、敵ドロップを集めてどんどん強くなり、更に強い敵を討伐してドロップを狙うゲームもある。

 ただ、私の勘だとAUOは後者ね。


 あのニュースでシロさんが書いていたように、このゲームでは情報が結構大事だ。

 初めて出会うプレイヤーが、変に私の情報を探ってきたりしない事を祈ろう。

 そういう絡まれ方は好きじゃないし。


 まあ、装備強奪狙いのPK(プレイヤーキラー)とかならむしろ清々しくて、全力で返り討ちにしてあげるんだけど。

 「強いプレイヤーさんと仲良くしたいですぅ~」みたいなのは悪意がない分、気を(つか)うのでしんどいのだ。


「むっ、そろそろ魔石を補給してくれぬか」


「えー、さっき補給したばかりですよ……」


「もともと遅い脚を無理やり速くするのだ。それなりの魔力は使う」


「でも思ってたより速くないんですけど……」


「我の通常移動速度に比べれば十分速い」


 アチルが不満を述べながら、雷の守護者に魔石を補給している。

 補給の仕方は背中のあたりの装甲が開くので、そこに魔石を流し込む感じだ。


「……よし。移動を再開する」


「はーい。じゃあ西に向けて……あっ!」


「どうしたのアチル?」


「紫色の雲の方向から敵の群れみたいなのが来ます! ゴブリン……じゃないです! ゾンビですよ!」


 アチルの指差す方向を私と雷の守護者も見る。

 ……うん、うっすらと(うごめ)く物体が確認できる。

 アチルが言うにはゾンビらしい。

 今までは住処を追われたゴブリンがこちらに来ていたけど、いよいよ完全に支配されたという事ね。


「どうしますか!」


「このままその群れの方へ向かって移動するわ。お願い雷の守護者!」


「了解だ」


 私たちは真っ直ぐ群れに突っ込む。

 こいつらを村の方へ通すわけにはいかない。


「っ! これは……」


 近づいてみるとそいつらは『ゴブリン』でもあった。

 住処を守るために戦うも敗れた者たち。ゴブリンゾンビの群れだ。

 こういうモンスターの発生の仕方もあるのかと感心しつつも、少し気味悪さも感じる。

 まあ、こいつらも増えれば人に襲い掛かるのだから、(あわれ)みはしないけど。


「ど、どうしましょうマココさん……」


「私が狩るわ。アチルは魔力を温存しといて」


 (さいわ)いゴブリンゾンビ達はバリエーションも含めて全てレベル10以下の低レベルだったので、【塵旋風(ジンセンプウ)】で一網打尽にした。


「出発を急いだのは正解だったな。これからはこのようなアンデッドどもがドンドン湧いて、周辺に広がっていくだろう」


「このままじゃいろんなモンスターがゾンビになっちゃいますよ! 普通のモンスターも嫌ですけど、ゾンビ化したモンスターは気持ち悪くてもっと嫌です! さっさと親玉を倒しましょう!」


「そうね。先へ進みましょう」


 私たちは決意を新たに濃紫の雲の下へ突撃した。




 > > > > > >




 ◆現在地

 腐り竜の渓谷


 濃い紫の雲のせいで太陽の光が(さえぎ)られて、少し薄暗いフィールド……私はそんな想像をしていた。

 全然レベルが違った。まさに環境が変化している。

 やせ細った木々が生え、吸えば毒になりそうな紫の瘴気が満ち、よたよたとゾンビが徘徊する。

 ここが腐り竜の渓谷……。


「……つ、ついにここまで来たんですよ! あとちょっと……ドラゴンゾンビを倒して、さっさと帰りましょう!」


 流石のアチルも度肝を抜かれて、村にいた頃の威勢が無くなっている。

 彼女は元のサベント渓谷の風景を知っているのかもしれない。

 元々を知っていると、この光景の衝撃は計り知れないだろう。

 それでもドラゴンゾンビを討伐する意志が折れていない辺り強い子だ。


「よし、電磁包囲網(エレクトロシージ)を展開する。これを少しずつ動かして進んでいくとしよう」


「いまさらですけど、電磁包囲網(エレクトロシージ)って囲ってから動かせるんですか?」


「ああ、範囲調整は出来るので、それを応用することで可能だ。あまり素早く動かす事は出来んがな」


 私たちは雷の守護者の移動速度に合わせて移動する。

 無論、ゾンビたちは寄って来るのでどんどん狩っていく。

 まだ数が少ないうちは私一人で、増えてきたらアチルも加わって倒す。


「あっ、あのゾンビが魔石を落としました。取ってきましょうか?」


 遠くから向かってきていたゾンビをアチルが撃って倒したみたい。

 確かにそこそこ大き目の魔石が落ちている。


「捨て置け。確かに魔石は貴重だが、あの位置まで移動するのは危険。その上、まだこちらに気付いていない敵にまで見つかる可能性もある」


「それもそうですね」


 アチルも納得し、ゾンビ退治に戻った。

 ちなみにこの電磁包囲網(エレクトロシージ)は味方を判別できるらしい。

 なので、雷の守護者が味方と認識した私とアチル(ついでに村に残ってる人たち)は触れても感電しない。


「……結構、奥まで来ましたね。もうそろそろ渓谷の真ん中に近づいてきているはずです」


「敵も多くて強くなってるし! そのよう……ね!」


 ブーメランで電磁包囲網(エレクトロシージ)に引っかかったゾンビを狩りつつ、アチルと会話する。

 敵は倒しても倒しても増えるばかりだ。

 【塵旋風(ジンセンプウ)】や【高速連続射撃(ガトリングショット)】の使用回数も多くなってきた。


 こうなってくるとリキャスト中に【聖属性付与(エンチャントホーリー)】が使えるのがありがたくなってくる。

 通常の投擲(とうてき)に聖属性を付与するだけで、ずいぶん威力が違う。

 『目覚めのブーメラン』もサクッと敵を切り裂けるので本体への負担が減っている。

 でも私自身への負担が少しづつ増えている。


「はぁ……はぁ……流石にそろそろ勝負を決めたいところよね」


「全くですよ!」


 一体一体大したことないのに、こうも数が多いとね。

 いくらなんでも減らなさすぎじゃないの!


「……ムッ! そうか……敵は再生しているのだ。新たなモンスターとして!」


 雷の守護者が何かに気付いた。


「どういうことですか!?」


「ある意味私……ゴーレムと同じなのだ。完全消滅したゾンビが落とした魔石を命にして、消滅寸前のゾンビが復活、再び向かってくる。これではなかなか数が減らないのも仕方ない。しかも、それだけではないようだ……」


 その時、ズシンッと地響きがした。

 揺れの来た方向へ目を向けると、そこには<ゾンビゴーレム:Lv25>が二体。

 何体ものゾンビをくっ付け、巨大なボディを構築している。


「質の良い魔石は何体ものゾンビを再生し、それを体として新たな命を得る。しかし、フィールドでゴーレムを生み出すにはスキルが必要だ。ダンジョンならまだしも、ここで勝手に発生するものではないはずだが……」


「きっと……これがドラゴンゾンビのスキルなのよ」


 【腐食再生】。

 その名は伊達(だて)じゃないようね……!

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