Data.14 芽吹きのX射手
今回もアチル(あと少し婆さん)視点です。
次回からは普段通りのマココ視点に戻ります。
アチルはどうやら選ばれたようじゃな。
あの草は『目覚めの魔草』。
とある希少なモンスターが落とすレアアイテム。
ゴブリンの中にも、稀にゴブリンウィザードと呼ばれる魔法を使用する個体がいる。
他と比べて知能も高く、厄介な存在なのじゃが、数は多くない。
その理由は『目覚めの魔草』による魔力の変化に体が耐えられないからじゃ。
そもそもゴブリンに魔術の適性はない。
ただ、『目覚めの魔草』の効果と貴重さ、それを落とすモンスターのことは本能的に知っているようじゃ。
強さを求める群れのオスたちが探し求め、死も恐れずそれを食す……。
「あたしとしたことが、アチルが食べる前に止められなかったとはね……。結果的に生き残ったから良かったものを……鈍ったもんだねぇ」
まぁ、アチルのことだ。
『目覚めの魔草』の効果を知ったら、むしろ食べさせろと言ってくるかもしれんわい。
あの子もまた強さを求める戦士じゃ。
「にしても、木魔術が目覚めるとはねぇ。もっと攻撃的な火とか雷が発現すると思ってたよ。やっぱりアチルは計り知れないところがあるのう」
さて、その力……どう使うか。
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私が魔法を!?
ステータスには【木魔術】と【弾丸豆のなる木】の表示がある。
さっき食べちゃった草になんかの効果があったのかな?
それにしても木魔術って地味なイメージ……。
【火魔術】で【炎の矢】とか、【雷魔術】で【雷の矢】とかの方がカッコいいなぁ。
そもそも豆って何よ。矢ですらないじゃん!
でも、クロウスボウって意外といろんな物を撃ち出せるって聞いたことがあるわ。
さっき撃ったのも、このツタにできた『弾丸豆』なのかしら?
私は右手のツタと豆を触ってみる。
ツタは『ロットゥンクロスボウGT』の内部まで入り込んでるみたい。
豆は深緑色で金属の様な光沢がある。美味しくなさそう……。
さやには入っていなくて、豆がむき出しになっているタイプだ。
「中に入っているツタに豆が出来て、それを撃ち出してるのかな?」
少し混乱したけど、本質は【腐矢】みたいな生成スキルと似ている。
撃てるものの種類が増えたとだけ理解しとこう!
「今はまだ戦闘中なのよね!」
私はスキルに関する思考を放棄し、戦闘モードに切り替える。
ゴブリンどもはなぜか、先ほどよりも私を警戒しているようだ。
この変化の意味を知っているのかな?
まっ、どっちにしろ言葉は通じないし、教えてもらえないわ。
「はあっ!」
まずは攻撃力が高く危険な<アックスゴブリン:Lv8>を距離があるうちに撃ち抜く。
私が攻撃を再開すると同時に、ゴブリンアーチャーも矢を放つ。
その矢を撃ち落としながら、本体も順次撃っていく。
弾丸豆は腐矢より小さいけど頑丈で威力は高そうだ。
しかし、生成に魔力を必要とするのは同じ。
ゴブリンどもが落とす『マリョク薬草』も順次食べる!
ただ色は前よりもよく確認してね。
「グギャギャギャギャッ!」
特異な鳴き声と共に、木でできた杖を振りあげているのは<ゴブリンウィザード:Lv12>。
その前には、ゴブリンの身長ほどある火球が生成されている。
「グギャーーーーーーッ!」
叫びを合図に火球が私に向けて撃ち出された!
一応、火球に豆を撃ってみたけど、流石に撃ち消せないわ。
こういう時は……逃げる!
私は大盾の後ろに逃げ込んだ。
ゴゴゴォーーーーッ!!
火球は大盾にぶつかり、消えた。
この盾ほんと頑丈ね。流石、この私を殺しただけのことはあるわ。
「さあ、反撃してやる!」
盾から顔を出し、次の火球が来る前にゴブリンウィザードを仕留めようと狙う。
……あれ、いない?
どうやら、先ほど火球に向けて撃った弾丸豆は、すぐには燃え尽きず後ろにいたゴブリンウィザードを撃ち抜いたみたい。
そして、他のゴブリンにも何発か当たっていたようで、火がついて転がりまわっている奴もいる。
「よし、粗方片付いたわね」
残りの下っ端ゴブリンを撃ちつつ、私は辺りを見渡す。
いや、いる。デカいのが一匹来た!
そいつは巨体と手に持っているあるモノが原因で足が遅いのか、今群れに合流したようだ。
名前は<ビッグシールドビッグゴブリン:Lv16>……またか!
盾のデザインは違うけど、これまたでっかいシールドねぇ……。
でも、私は以前とはひと味もふた味も違うわ!
「グギギギィィ……!」
BSBゴブリンは仲間を倒され怒っているようだ。
その両手の盾をぶんぶんと振り回し始めた。
BSBゾンビと違って体も頑丈だから、腕が千切れることはなさそうね。
でも、盾を動かしてくれてありがたい。
私はむき出しの脚に向けて弾丸豆を撃つ。
流石に1発2発ではダメージにならないけど、同じところに集中攻撃するのには慣れた。
ひたすらに足の腱を狙う。
数秒後には、もうBSBゴブリンは自力で立っていられなくなった。
盾を地面にめり込ませ杖のようにしつつ、必至に耐えている状態だ。
でも、油断はしないわ。
前も死ぬ寸前に盾を投げられて死んだんだからね。
私は魔力を補給しながら、BSBゴブリンの手首を撃った。
これでもう盾を持つことは出来ない。
最後に正面から頭に弾丸豆を集中させ、倒しきった。
その巨体が崩壊し、宝箱を構築する。
――レベルアップ!
――スキルレベルアップ!
「ああっ……私、勝ったわ! 村を守ったのよ! 父さん、母さん……早く会って自慢したい! ふふっ、もう子ども扱いさせないんだから!」
さーて、気分が良いところだけど、後始末も大事よね。
ドロップ品を集め、しっかり確認しないといけないって言われてたわ。
「でも、その前にステータス見ちゃお! さっきは混乱しててよく見えてなかったしー」
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:アチル
レベル:15
レイス:人間
ジョブ:射手(※)
―――装備―――
●武器
ロットゥンクロスボウGT:☆22
●防具
朽ちきったローブ:☆4
ブラックボーンシールド:☆18
村人のシャツ:☆1
村人のスカート:☆1
古革のブーツ:☆3
―――技能―――
●任意
【弾丸豆のなる木】Lv3
●常時
【弓術】Lv2
【クロスボウ術】Lv9
【視力強化】Lv5
【木魔術】Lv4
発現したばかりだけど、使いまくったから【弾丸豆のなる木】と【木魔術】のレベルが良い感じに上がってるわね。
あれ、【視力強化】っていつ発現したっけ?
レベルもそこそこあるから、戦闘開始からすぐに発現してたのかな?
必死すぎて覚えてない……。まあ、いいか!
他スキルや私自身もいい感じに……おっ、なんだこの※マーク。
――ジョブチェンジが可能です。
――『X射手』にジョブチェンジしますか?
こ、これはっ!
遂に私もその先へ行けるのね!
「するする! ジョブチェンジする!」
――ジョブチェンジ認証完了!
――特典として新スキル【高速連続射撃】が発現しました!
特典新スキルだって!? 確認確認!
◆スキル詳細
【高速連続射撃】
スキルを所持するものが持つ射撃武器もしくは射撃機能を強化し、高速かつ連続で矢や弾の射撃を可能とする。
レベルが上がるほど、威力や射撃速度がアップする。
最大持続時間:20秒
リキャストタイム:60秒
ほー、私の戦闘スタイルにぴったりのスキルね!
狙ったところを集中攻撃できるし、逆に手を動かしながら撃つことで範囲攻撃も出来そう。
ただ、20秒ぶっ通しで矢や豆を生成しながら撃つとなると、魔力がちょっと心配だけどね……。
「まあ、また強くなる理由が出来ただけよ」
地面に突き立てられた四つの大盾を眺めながら、私は胸を張って言った。




