Data.11 猛牛の突撃
◆現在地
守護者の眠る廃神殿:地上9F
ひー、やっとここまで来たわ。
今、私の目の前には大型で派手なデザインの魔法円がある。
おそらくこれがボス部屋へ通じる魔法円だろう。
このダンジョンは10Fで終わりみたいね。
短いような気もするけど、正直ありがたい。
やっぱり硬い敵は今のブーメランでは相手にしにくい。
魔法が効くタイプよ、ゴーレムとかは。
それにしても、道中出会った<ブロンズゴーレム:Lv13>は強かった。
弱点の魔石は両肩という分かり易い所にあったけど、上半身の動きが機敏で何発か殴られてしまった。
タイリョク薬草で何とかなるダメージだったから良かったけど、脚まで速かったら大変だっただろうなぁー。
二体目以降はダッシュでスルー出来たから助かったわ。
「装備は今のところ壊れてないわね。タイリョク薬草も森で拾ったのが結構在庫がある。ステータスは……」
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:16
レイス:人間
ジョブ:戦狩人
―――装備―――
●武器
木のブーメラン:☆1
目覚めのブーメラン:☆15+1
●防具
牛角のカチューシャ:☆2
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
白革のグローブ:☆7
蜘蛛の腕輪:☆8
質素な靴:☆1
―――技能―――
●任意
【塵旋風】Lv3
【ブーメ乱舞】Lv4
【回帰する生命】Lv1
●常時
【ブーメラン術】Lv9
【解体】Lv7
【回復魔術】Lv1
【腕力強化】Lv3
ここに来るまでに、私自身のレベルと【ブーメ乱舞】が1つずつ。
そして【腕力強化】が2上がった。
元のレベルが低い時はすぐ上がるから楽しいよね。
しかし回復系が上げにくい……。
「このダンジョンの最大レベルは20……。つまりボスは20レベル。私と4レベル差か……。まともに戦うと苦戦待ったなしねぇー」
雑魚ですら恐ろしく硬かったんだし、ボスはその上をいくはず。
ちょっと憂鬱だけど、頑張る。
守護者というぐらいだから、負けを認めれば「オマエニハ、マダ、ハヤイ」とか言って帰してくれるかもしれない。
気楽にいこう。
私は自分にそう言い聞かせ、魔法円を発動させた。
> > > > > >
◆現在地
守護者の眠る廃神殿:地上10F(最終階層)
そこは巨大な円形の部屋だった。
壁や天井には細かな装飾がなされている。
そして、中央に大きな銀色の像が鎮座していた。
それは<シルバーゴーレム:Lv18>……あれ?
20レベルじゃないぞ!?
確かに表示は最大レベル20だったし、ここは最終階層であることも間違いない。
パターン的に上はゴールデンゴーレム?
出会いにくいレアモンスターでレベルは高いけど強くなくて、倒すと大金が手に入るパターン?
「……異世界より舞い降りた救世主よ……その力を私に示してみろ……」
カタカナっぽい発音がどこからともなく響く。
私をプレイヤーと認識しているようね。
じゃ、力を示してあげようじゃないの!
私はブーメランを構える。
その瞬間、シルバーゴーレムの指先がこちらに向き、そこから銀の弾丸が発射された。
咄嗟に木と目覚め、二つのブーメランでそれを受ける。
キンッキンッパキパキッ
「ぐぅ……」
『目覚めのブーメラン』は何とか大丈夫。
でも『木のブーメラン』は今まで受けていたダメージも相まって、完全に壊れてしまった。
初期武器とはいえ、なかなか頑張ってくれたものだ……。
防ぎきれなかった弾丸がいくつか体をかすめた感覚を味わいながら、私は急所である頭と胸をガードする。
このまま連発されると耐えきれる自信はないが、敵は追撃する気配を見せない。
もしかして、私の動きに反応して攻撃してるのかも。
ゆっくりならバレなかったりして……。
私はゆっくりとブーメランを振りかぶった。
……反応は無し。
ゆっくり動きつつ相手の弱点を探ろう。
すり足でシルバーゴーレムに接近を試みる。
まず魔石の位置を確認して……。
キュウィーン……
ん?
バババババッ!!
「うっ……」
飛び退きそうになったところを抑え、ゆっくりと体を退いた。
どうやら一定の距離まで近寄っても撃って来るらしい。
困った……。
数分後――。
解決策が見つからない……。
この位置からボディに投擲してもダメージはないだろう。
雑魚のアイアンゴーレムですらほぼ効いてなかったし。
硬い物を壊す……そういえば大盾持ってたゾンビは、背後が脆いから倒せたのよね。
私はゆっくりシルバーゴーレムの背後に回った。
……背後も正面と同じデザインだった。
こりゃ後ろも硬いし、問題なく撃ってくるだろうな……。
うーん……。
そういえば外で戦ったストームブルならこいつにダメージが入るのかな?
角はかなり硬そうだったし、勢いは凄かった。
硬さと勢い……。
「猛牛の突撃の様な直線への強烈な一撃……それだ」
私としたことが、あまりの楽しさに本来の目的を忘れていた。
アチルにもブーメランの雑魚狩り能力を自慢する始末。
……「だが、強敵は苦手だろ?」。
今思い出すと、お婆さんには煽られていたみたいだ。
範囲攻撃の【塵旋風】。
思い入れのある【ブーメ乱舞】。
レアな蘇生手段の【回帰する生命】。
どれもいいスキルである事には間違いない。
しかし、今は強大な敵や硬い敵にも通用するブーメラン……それを見せよう。
「うおおおおおおぉぉぉーーーーッ!!」
私はゆっくりとブーメランを構え、全力で投げた!
反撃など気にしない。
バババババッ!!
――新スキル発現!
銃弾の発射と同時にそのスキルは現れた。
凄まじい回転から生まれた残像によってほぼ円形に見えるブーメランの周りに、牛の様なエフェクトが現れた。
それは弾丸を弾き飛ばし、シルバーゴーレムに突進する。
ミシッ!
キィィィィィィッ!
金属がへこむ音と切断される金切り音が響く。
そして、その音が聞こえなくなった頃にはシルバーゴーレムの姿は無く、魔石と宝箱が転がっているのみだった。
――レベルアップ!
――スキルレベルアップ!
まだ耳はキンキンしてるけど、アナウンスは脳内に響くので聞き取れた。
「……やったわ」
スタミナを消耗しているのがわかる。
体もだるいし、【腕力強化】をもらえてなかったら危なかったわね。
……あれ、何か忘れてる?
そうだ、ブーメランを受け止めないとね。
投げたブーメランは戻って来るまでが大事。
ブーメランは直線を描き、壁際まで飛んでいった後、一瞬静止した。
そして、今度はバネに弾かれたように私の方へ戻ってきた。
流石に猛牛のエフェクトは消えているけど、なかなかの勢いだ。
私は両手で受け止めた。
いつもは勝手に手に収まる感じだったけど、今のは少し体が仰け反った。
私自身が切れる事がないとはいえ、意識して受け止めないと落としてしまいそうだ。
「ふー、何とかなった……」
私はその場にへたり込み、とりあえずステータスを確認する。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:18
レイス:人間
ジョブ:戦狩人
―――装備―――
●武器
目覚めのブーメラン:☆15+1
●防具
牛角のカチューシャ:☆2
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
白革のグローブ:☆7
蜘蛛の腕輪:☆8
―――技能―――
●任意
【塵旋風】Lv3
【ブーメ乱舞】Lv4
【猛牛ブーメラン】Lv1
【回帰する生命】Lv1
●常時
【ブーメラン術】Lv10
【解体】Lv7
【回復魔術】Lv1
【腕力強化】Lv4
あれ、靴がなくなってる?
足を見てみると、完全にただのくたびれた革になった(元)靴が散らばっていた。
ブーメランを思いっきり投げ切った際に、破れてしまったようだ。
目立たなかったけどよく頑張ってくれた。
残骸は一応麻袋に入れておく。
「さてと……私のレベルが2上がって……ブーメラン術と腕力強化が1ずつ、そして……」
「よく試練をクリアした……。異世界より舞い降りた救世主よ……」
頭上から声が響いたかと思うと、天井の一部が分離し、私の前に降りてくる。
その上には<雷の守護者:Lv30>がいた。




