Data.10 守護者の眠る廃神殿
新ダンジョンをめざし、イスエドの村より太陽の昇ってきた方向、つまり東へ進む。
そういえば、最初にAUOの世界に降り立ったところもこっちの方だったかな?
出て来るモンスターにも見覚えがある。
今となってはサクサクと狩れるようになったので、クエストをこなすため蜘蛛系モンスターを中心に狩っていく。
そしてちょくちょく地図を確認。
目印をしっかり確認し、迷うことなく歩く。
「ギュモオオオォォォーーー!」
む、聞きなれない鳴き声だ。
かなり森も奥の方まで来たから、新モンスター登場といったところかな。
私は油断なくブーメランを構える。
バキバキバキィ……ミシッッ!
いきなり目の前の樹木に突撃してきたのは、巨大な猛牛だ。
表示は<ストームブル:Lv11>。
確かに嵐の様な突進だ。
ぶつかった木はミシミシと音を立てながら折れてしまっている。
この突進を受けたら私も無事では済まないな。
しかし、突進の方向を途中で変える事は出来ないようだ。
私に向かってきたところを横に跳んで躱し、通り過ぎたところで脚めがけてブーメランを投げた。
ブーメランはストームブルの後ろ脚を切り裂き、その巨体は地面に倒れ伏した。
「突進だけに特化したモンスターの様ね。防御力は大したことないけど、恐ろしい奴だった。これぐらい正面突破力があったら、ビッグシールドビッグゾンビも正面から倒せるかもねー」
ストームブルにトドメをさしながら呟く。
レベル差はあれど、特化した存在というのは対処を間違えると厄介だ。
「あっ、なんか落ちてる」
どうやらストームブルが一つだけ低レアアイテムを落としたみたい。
どれどれ……。
◆防具詳細
―――基本―――
名前:牛角のカチューシャ
種類:カチューシャ
レア:☆2
所有:マココ・ストレンジ
防御:5
耐久:5
―――技能―――
なし
※残りスキルスロット:2
―――解説―――
牛の角を模した突起が付いたカチューシャ。
オシャレ装備って奴ね。
純粋な性能ではなく見た目を重視した装備。
他のゲームではあまり興味なかったけど、今はちょうど頭装備もないし着けとくかな。
私はカチューシャを頭に装備する。
赤い髪の中に黒々とした角は結構カッコいいと思うし、狩猟民族感でてるかも。
こういう気分転換もたまにはアリね。
「おっと、目印は見失ってないよね……」
私は倒れた木々を避け、再びダンジョンへの道を進む。
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「……地図によると、ここであってるはず」
私は目の前の建物を見上げる。
それは手入れもされずに放置された神殿……といった感じかな。
ダンジョンって洞窟ばかりではないようね。
「うーん、何か眠っていそうなところね」
ぐるりと神殿の外観を見渡す。
神殿自体はそこまで大きくはないけど、ダンジョンは異空間という話だ。
おそらく中は外から見るよりずっと広いはず。
「廃墟って少しワクワクするなぁ」
私は意気揚々と神殿の扉をくぐった。
◆現在地
守護者の眠る廃神殿:地上1F
人に忘れ去られても、守り続ける者のいる神殿。
最大モンスターレベル20。
カッコよくて、それでいて哀愁を感じるダンジョン名ね。
説明文も良い雰囲気だしてる。
最大レベルも『死して蠢く者の洞窟』より10も低い。
それにボスは守護者と予想できる。邪悪な存在ではないのだろう。
なんとなく安心。
ダンジョン内部はツタや苔の生えた石壁の通路が続いていて、たまに広い部屋がある感じ。
自然と文明を感じられて、洞窟に比べると飽きないわ。
ゴゴゴ…………
石壁の一部が動き、そこからモンスターが現れた。
完全にリラックスしてたから結構驚いたけど、冷静に下がってブーメランを構える。
敵は<ストーンゴーレム:Lv7>一体。
『死して蠢く者の洞窟』と違い、敵の数が少ない代わりに一体一体のレベルが高いようね。
ただ、動きが遅いところだけは共通している。
「ハッ!」
私はブーメランを普通に投擲した。
コンッ!
ブーメランの刃はストーンゴーレムのボディを切り裂けず、跳ね返って手元に戻ってきた。
現実だとブーメランがそのまま地面に落ちてしまう状況だけど、【ブーメラン術】のおかげで投げた時の軌道をなぞって手元に戻ってくるのだ。
しかし、ダメージを与えられない状況は変わらない。
でも、こういうのには弱点があるはずだ。よーく、観察しよう。
……む!
ゴーレムの人でいう首のあたりに、周りと少し色の違う石がはめ込まれている。
あからさまに弱点っぽい。
私はためらうことなくその石めがけてブーメランを投げた。
ピシ……ッ!
動きの遅いゴーレムは避けることも出来ず、石が砕けると同時に崩れ去った。
そしてその残骸が『小魔石』を構築した。
魔石はいろいろな事に使える便利なものらしい。
換金に何かの燃料、ゴーレムの様な人によって生み出されたモノの命替わり、など。
集めて置いて損はなさそうね。
『小魔石』を麻袋に入れ、私はさらに進む。
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◆現在地
守護者の眠る廃神殿:地上5F
「おりゃあぁぁぁ!」
私は<メタルゴーレム:Lv10>の中心にはめ込まれた魔石を力いっぱい突き刺す。
魔石は何とか砕け散り、メタルゴーレムも同時に砕けた。
そして『中魔石』をドロップ。
――レベルアップ!
――スキルレベルアップ!
「はぁ……はぁ……。ここのモンスター全然攻撃は遅くて当たらないけど、硬い!」
メタルゴーレムは目立つところに命である魔石がある分、それがドーム状のガラスに覆われていた。
ブーメランを手に持ったまま発動した超至近距離型の【ブーメ乱舞】で何とかガラスは砕いたけど、疲れたわ……。
私は敵がいない事を確認し、その場に座り込んだ。
ステータス確認がてら休憩ー。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:15
レイス:人間
ジョブ:狩人(※)
―――装備―――
●武器
木のブーメラン:☆1
目覚めのブーメラン:☆15+1
●防具
牛角のカチューシャ:☆2
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
白革のグローブ:☆7
蜘蛛の腕輪:☆8
質素な靴:☆1
―――技能―――
●任意
【塵旋風】Lv3
【ブーメ乱舞】Lv3
【回帰する生命】Lv1
●常時
【ブーメラン術】Lv9
【解体】Lv7
【回復魔術】Lv1
私自身のレベル、それに【ブーメ乱舞】【ブーメラン術】【解体】がそれぞれ1ずつ上がったわね。
ん?
『狩人』のところに※マークが付いてる。とりあえずタッチ。
――ジョブチェンジが可能です。
――『戦狩人』にジョブチェンジしますか?
これが初級職の先ってやつね。
戦闘ばっかりしてきたから『戦狩人』なのだろうか。
仮に罠をはってモンスターを捕えたりしていれば『罠狩人』になるとか?
まっ、私は狩猟武器であるブーメランを使うから、このジョブで間違いない。
「ジョブチェンジするわ!」
――ジョブチェンジ認証完了!
――特典として新スキル【腕力強化】が発現しました!
おっ、ジョブチェンジ特典とかあるんだ。
またシンプルなスキルね。
◆スキル詳細
【腕力強化】
レベルが上がるほど腕の力がアップする。
うん! 説明もシンプルだ。
でもカードゲームとかでもシンプルなテキストの方が強いもんだ。
腕の力は物を投げるスタイルの私にとってとても重要。
戦闘以外でも重い物を運ぶ時とか重宝しそう。最近も苦労したばかりだし……。
それに使う機会が多い分、レベルも上がり易そうだ。
これは良いスキルね。
「こういう特典は、人によって必要としてるスキルが選ばれてるのかな。運だと流石にデキすぎてるし。やぁっ!」
新たに現れたストーンゴーレムを倒しながら呟く。
まだ【腕力強化】のレベルは1だけど、なんとなく力が強くなった気もする。
石を砕くのも多少楽だ。
魔石を回収しつつ、私は先を急いだ。
このダンジョンは何階層まであるのだろうか。
10Fぐらいだといいな~。




