Data.92 守護者の力
虫の大群にはさまざまな種類の虫がいる。
例えば……うっ、まじまじと見ると気持ち悪いもんねこれ。
えーっと、多少マシなのは蝶っぽいモンスターかな。巨大化した翅は使わず、六本の足で大地を闊歩している。
「マココさん、蝶のようなモンスターには気をつけてくださいよ!」
「どうして?」
「あの翅は飛ぶためのものではなく、状態異常を引き起こす鱗粉をまき散らすものなんです! まともにくらえば何がどうなるかわかりませんし、今あるアイテムで回復できるとも限りません」
「なるほど、それは厄介ね……」
状態異常を起こす粉をまくとはいよいよ虫モンスターって感じの戦いになるわね。
「幸いここは風上なので接近されるまでは問題ないと思います」
「つまり遠距離攻撃で仕留めるべき……ね」
ブーメランを構える。
範囲攻撃という意味では【塵旋風】が一番か。しかし、なんかいろいろヤバいもんが飛び散りそうだな……。
そんなことを考えていると、背後から爆発音のような物が響いた。
私もアチルもエリカも思わず振り返る。
音の正体はサイクロックスだった。
腕の大砲から煙が上がっている。
そして、少し遅れて正面から地響き。ロックの放った物が大群の真ん前に着弾し、燃え上がる。
「これは新スキル!」
そういえばさっきバッタを撃ち落としていた。
レベルは35。まだ5のロックにとっては大物なのは間違いない。
炎を浴びた虫は暴れ、他の虫にぶつかる。そして、さらに燃え広がっていく。
そこへさらに追撃の砲弾が撃ち込まれる。今度はマンネンだ。
いつもの【徹甲羅弾】とは違い、今撃っている弾は散弾のようだ。
広範囲の弱った虫を仕留めていく。
「こりゃ、そこまで出番ないわねクロッカス」
「ホントに寝てても良かったかもなぁ……なんつって」
二体の砲撃主の攻撃を潜り抜けてきた小型のモンスター(それでも通常の虫よりデカい)やタフさに自身アリのモンスターのみを集中的に狙い、今回の戦闘は終わった。
「ロックやマンネンに感謝ね」
「まったくです! でも汚名返上はまた今度ですね」
「せっかくカッコよく成長した私を見せようと思ったのに~」
丸太の壁の内側に帰還する。
すると、ミボボがふわふわ近寄ってきて、戦闘中に出来たちょっとしたキズを治してくれた。
虫には意外と飛び道具を使う奴が多い。針とか棘とか飛ばしてくるので小さな傷は増えていく。
今回は毒とかは無かったようで助かったけど、これから気をつけないとね。
「まっ、病み上がりには良い戦いだったな」
「クロッカスも炎が使えるから有利に戦いを進められそうね」
「そういうマココも何か属性魔術を習得したらどうだ? 回復魔術だけじゃ戦いにくいだろ」
確かにエリカの雷とかアチルの木とか、魔術スキルを武器スキルと組み合わせると更に戦術の幅が広がりそう……。
何がいいかなぁ、やっぱり風とか?
「あっ! お兄……じゃなくて、えっと……」
キツツキ形態のクララがクロッカスを見つめる。
会ったことはなくても兄のように思っていた存在との初対面。
何か気の利いたことを言ってあげなさいよ!
「……ん? お前、誰? 俺と少し似てるじゃん?」
んー、率直な感想ではありますが、これは失敗に近いですねー……。
「ば、バカ! なんでもないわ! ボロボロになってた奴の情けない顔を拝んでただけだもん!」
「あっ! クララどこ行くの!」
アチルの呼びかけにも答えず、クララはどこかへ飛んでいってしまった。
「もー、クロッカスったら……」
「な、なんか今のでまずかったのかよ……」
忘れているようなのでクララの出自を説明する。
二人とも元はドラゴンゾンビのドロップアイテムだ。
「あー、そういえば……な。身内みたいなもん……なのか」
「後でフォローしときなさいよ」
「そういうの苦手なんだがな。しゃーない、拗ねられて後ろから撃たれてもアレだからな」
クロッカスもクロッカスで素直じゃないなぁ。
「あら、どうやら一戦あったようね」
マンネンのハッチからサイクロックスの手を借りシュリンが降りてくる。
「ロックもずいぶんと成長してるわ。より炎の力が強まってる」
いつもの車イスに乗り、ステータス画面を眺めるシュリン。
「もう体調は大丈夫なの?」
「ええ、この子の中は快適ね。おかげでぐっすり眠れたわ」
マンネンのボディを撫でる。
「この子の相棒のテイマー……ベラ、いいセンスしてるわ」
はにかむシュリンの顔は血色が良い。
「それはそれとして、あなたも守護者たちの状態を確認しておきなさい。特にロックのはね。これからの防衛ではキーになるわ」
私自身あの強さは気になっていた。サイクロックスに近づきステータスを確認する。
「どれどれ……」
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:サイクロックス
レベル:30
レイス:ゴーレム・独自種
ジョブ:架け橋の守護者
―――装備―――
●武器
なし
●防具
なし
―――技能―――
●任意
【岩砲】Lv10
【火山岩砲】Lv15
【炎石連射砲】Lv7
●常時
【蛇の目】Lv12
【土魔術】Lv18
【火魔術】Lv18
【猛毒無効】
グワッっとレベルが上昇して、スキルも増えている!
【火山岩砲】が開幕ぶっぱなした新スキルね。炎を纏った巨大な岩を撃ち出す。
そして【炎石連射砲】は燃える小石を連続で撃ち出すガトリング砲。射程は短いけど小回りが利く。
後は【蛇の目】か。これはよくわからないし調べてみますか。
◆スキル詳細
【蛇の目】
①スキル所持者の視力、暗視能力などを強化する。
レベルが上がるほど効果がアップする。
②視線を合わせたものを一時的に怯ませる。
レベルが上がるほど怯み時間がアップし、高レベルの対象にも効果を得られるようになる。
この効果は任意で発動する。
いつの間にかスキル詳細の表示変わった?
まあ、それは置いといて……強力なスキルねこれは。
遠距離攻撃を得意とするロックに視力の強化はバッチリ噛み合っている。これも素材に使った『火の蛇の目』のおかげかな。
暗視能力も夜間の索敵に大いに役立ちそうだ。
「もう戦力として十分考慮できるわね」
「そうね。流石に一体だと撃ち漏らしが気になるけど」
ステータスウィンドウを閉じ、シュリンに向き直る。
「これから夜になるけど灯りとかどうする? 松明に出来そうな木を集めとく?」
「今夜はおそらく月夜になる。火の灯りが必要ないぐらい明るいと思うけど、これからの為に用意しといてくれると嬉しいわ。あっ、あんまり丸太の壁の近くに置かないでね、燃えるから」
「それぐらいわかってるわよ!」
冗談はさておき、松明に出来そうな木材をいくつか森に集めに行く。
特にモンスターに出会う事もなく、すんなり砦(の建築予定地)に戻ってくるとベラとユーリが戻ってきていた。
「おー! マココはん! どうやら一戦あったようですなぁ」
「ええ。まっ、マンネンとロックが頑張ってくれたから楽勝だったけど」
「へへっ、そう言ってもらえると相棒冥利に尽きますわぁ」
マンネンを撫でるベラ。
「マココさんも一度向こうの世界に戻ってみたらどうですか? いろいろ他の防衛ポイントの情報も出てきてましたよ」
むっ、他の防衛ポイントの情報かぁ……確かにそれは大いに気になるなぁ。
「ありがとうユーリ。そうしてみるとするわ」
「はい。ここの守りは任せてください」
「大船に乗ったつもりでいてや!」
こう言ってくれてるし、一旦戻るとしましょうか。
「あら? 帰っちゃうの?」
シュリンが上目づかいで袖をつかんできた。
冗談だとわかっていてもなんだか申し訳ない気持ちになってくるしぐさだ。
「ちょ、ちょっとだけね。絶対戻ってくるから心配しないで」
「ふふっ……わかってるわよ。じゃ、またね」
「うん、またね」
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すぐに私は光に包まれ、フェアルードの地を後にした。




