Data.1 メインウェポンはブーメラン
「――Ancient Unfair Onlineの世界へようこそ。これから規約の確認とキャラメイクを行います」
真っ暗の空間の中に青いウィンドウが浮かび上がる。
そこには細かい文字でびっしりと規約が書かれていた。
こういうの全部読んだことないなぁ……。
私は流し読みしたのち、規約に同意する。
「――確認しました。改めて、AUOの世界へようこそ。まず、プレイヤーの名前を設定してください」
私は『マココ・ストレンジ』と入力。
名前はいろいろ考えてたけど、結局は自分の本名『貝木真心』から取らせてもらった。
マココは真心から。貝木は『怪奇』を英語にしてストレンジ。
我ながらいいセンスしてるなぁ。
「――登録しました。次にプレイヤーの見た目を設定してください」
目の前にキャラモデルとたくさんのウィンドウが現れた。
設定項目はかなり多い。
私はためしに『全てランダム』を選択。
パッパッパッとキャラモデルの見た目が変わり、目の前に赤髪ロングのキリッとした女性が現れた。
これだけ設定の数が多いのに、ランダムでこうも纏まるとは……。
運命を感じるし、コレでいこう。
……胸は少し盛っとこ。
「――登録しました。お疲れ様でした。これで基礎設定は終了です。次は職業やスキルの設定となりますので、係りの者と交代します。良い冒険を……」
ここからが本番だ。
空間に明かりがともり、白髪に白服の若い女性が現れた。
「あ、あー、コホン。えっと、AUOの世界へようこそー。私はこれからの案内を務めるWhite3です。みんなはシロさんって呼んでるよ」
シロさんはイスに座り、手に持ったパッドの様なものを見ている。
「では、まず職業ですね。何か希望はありますか?」
「ブーメランを使える職業がいいです」
「……好きなんですか? 投げたら帰ってくるヤツですよね?」
「そうです」
ブーメラン――。
それは非常に歴史のある狩猟武器で、もっとも大きな特徴は投げたそれが大きな弧を描き、手元に帰ってくること。
私はこれが昔からなぜか好き。
でも当然現実ではなかなか使う機会が無い。
だから、今までいろんなゲームで使ってきた。
……しかし、これがどれも微妙性能。
範囲攻撃なら魔法職の方が人気があるし派手だしで、たいてい優遇されている。
物理の範囲攻撃としても、弓の広範囲スキル(【矢の雨】とか)や剣の範囲攻撃(【大回転切り】みたいなの)に比べると劣っている事がほとんどだった。
あとブーメランは手に持つことで近接武器にも使えると思っているのだけど、バランスの為か投擲しかできないゲームもあった。
「はー、そうなんですか。それでこの世界を選んだのですね」
その通り。
このゲームはタイトルに不平等と入れるだけあって、自由度が高いと宣伝されている。
ならばブーメランの力を存分に発揮できるはずだ。
「では初期職として狩人なんてどうでしょうか」
「じゃ、それで」
実は私自身狩人以外にブーメランが似合う職業が思いつかない。
せいぜい勇者ぐらいか。
「はい。ではマココさんは『狩人』に決定!」
シロさんの宣言と共に私の隣にウィンドウが出現する。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:1
レイス:人間
ジョブ:狩人
ステータスの基本情報部分のようだ。
レイスは種族のことね。
「で、次は装備なんですけど、メインウェポンは……」
「ブーメランで」
その言葉を待っていたかのように、すぐウィンドウが更新された。
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:1
レイス:人間
ジョブ:狩人
―――装備―――
●武器
木のブーメラン:☆1
●防具
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
質素な靴:☆1
「この装備は……」
「全部プレゼントしますよ。レアリティは最低クラスですけど」
むー、流石に初めから良い武器はもらえないか……。
まあタダなんだから文句は言えない。
「まあまあ、落ち込むのは早いですよ。とりあえず武器スキルも追加しときますね」
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:1
レイス:人間
ジョブ:狩人
―――装備―――
●武器
木のブーメラン:☆1
●防具
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
質素な靴:☆1
―――技能―――
【ブーメラン術】Lv1
基本、装備、スキル……全てのステータスが揃った。
初期はこんなものかな。
「ふふっ、強い装備や新しいスキルが欲しくなりますよね?」
「そりゃあもう頑張って集めますよ」
「えっ、あー今手に入れる方法があるんですよねー」
「ど、どうやってですか!?」
「もーやっと食いつきましたね。ではっ!」
シロさんが手をかざすと、そこにスロットが現れた。
「ガチャガチャターイム! 武器ガチャと防具ガチャ、そしてスキルガチャを合計で三回まわすことが出来ますよ。スキル三回も良し、一回と二回で分けても良し。さぁ、どう……」
「武器を」
「わかってましたー。ちなみに初めに選んだ武器、この場合はブーメランしか出てこないので安心してください」
ありがたい配慮だ。
これで超レアな剣を引いたりしたら、決意が揺らいでしまうかもしれなかった。
必死に冷静を装ってるけど、新しいゲームを始める時はソワソワして仕方ない。
「スタートとストップコールを!」
「スタート!」
スロットがぐるぐる回り始める。
目押しは不可能になっているようだ。
ならもう……。
「ストップ!」
「はい!」
そこに表示されていたのは……『目覚めのブーメラン』!!。
「おぉーーーー!! なかなかの良武器が飛び出しましたね。特に開始時はありがたいですよ!」
「ホントですか! か、確認したいです」
「それは始まってからのお楽しみ! さぁ、次はどうします? もう一個ブーメランいきます?」
はやる気持ちを抑えて一度冷静になろう。
『目覚めのブーメラン』が開始時にありがたい武器なら、他のはすぐ装備しないと思う。
ここはスキルか防具を狙おう。
「スキルをお願いします」
「はーい!」
武器ガチャと同じ手順を繰り返し、出てきたのは……【解体】?。
「ほー! 良い運してますね! これも狩人を鍛えていけば入手できるスキルなんですけど、初めから持ってるとすごいアドバンテージを得られるスキルですよ」
なかなか物騒な字面だけど、アタリのようだ。
じゃあ、後は防具でいいかな。
良い武器も良いスキルも命あって初めて意味を成すからね。
「最後は防具を回します」
「よろこんでー!」
出てきた物は……『白革のグローブ』。
黒革はよく聞くけど、白革か。なんかカッコいい……。
「おー。先ほどまでの引きに比べれば大人しいですけど……あっ、いやそんなこともなさそうですね。では最終ステータスを表示します」
◆ステータス詳細
―――基本―――
ネーム:マココ・ストレンジ
レベル:1
レイス:人間
ジョブ:狩人
―――装備―――
●武器
木のブーメラン:☆1
目覚めのブーメラン:☆15
●防具
質素なシャツ:☆1
質素なズボン:☆1
白革のグローブ:☆7
質素な靴:☆1
―――技能―――
【ブーメラン術】Lv1
【解体】Lv1
もう割とカッコいいかも!
やる気が湧いてくるわ。
「さて……名残惜しいですが、そろそろお別れの時間です。ちなみにスタート地点はランダムですけど、95%はいくつかある主要都市からのスタートですからご安心を」
「えっ、残りの5%は……」
「即死して遊びにならないという事は絶対ありませんよ」
「あ、ならよかった」
「それで安心するんですか……。面白い人ですね。あなたの冒険に幸あれ!」
シロさんの最後の言葉と同時に、私はその空間からAUOの世界『フェアルード』に飛び出していった。