ボスと会っちゃった
よくよく見ると、机の上に置いてあるページの隅に小さな文字が書いてあった。なんでもいいから手掛かりが欲しかったので、手にとって読む努力をしていた。しかし、文字が小さ過ぎて読めない。紙を透かすように見ていると優香が寄ってきた。
「何しているの?」
意識の半分は紙に向けたままで答える。外では銃声がなっているので組織の人間がこの部屋に向かってくるのは時間の問題なのだろう。
「この文字読める?」
「読めるよ。貸して。」
あっさりと言う優香に驚きつつ手に持っていた紙を渡した。
「p…h……u…s だと思う。」
p,h,u,sか。焦る気持ちを抑えながら意味を考える。わかった。
「pushだ!」
どこかを押せば何か仕掛けが見つかるはずだ。目に付くものを全て押してみた。困った。
そのときだった考え込んでいた優香がこちらに顔を向けて口を開いた。
「机の上に紙が乗ってたんだから、机に何かあるんじゃないかな。」
確かに一理ある。
なんでその可能性をもっと早く試していなかったんだろう。少しばかり自責の念に駆られながらも机にボタンや仕掛けがないか調べてみた。しかし、なんら手応えもなく何の変化も起こらなかった。
そういえば、この場違いな羽根ペン。何か変だ。羽根ペンを抜こうとしても抜けない。そうかpushだ。私は羽根ペンを上から押し込んだ。
鈍い音がして机の上の板が前にスライドし、下に音を立てて落ちる。凄い音だった。板が床に落ちた衝撃で留め具が外れたらしい。机の足の間にちょうど人が1人通れる程度の穴が開き、地下に通じる階段が現れた。一か八か賭けてみようとしたとき、頭に銃口があてられた。手を挙げながら後ろ後ろを振り返ると銃を向けていたのは優香だった。想定内のこととはいえ、やはり衝撃は大きかった。そんな私に対して優香は低い声で命じた。
「手を挙げたままでその階段を降りて。」
銃を突きつけられているので、逆らうという選択肢はなくおとなしく階段を下る。
階段を下ると大きな広間に出た。
がらんとした大広間で人の気配はない。ボスがいるのかと覚悟していただけに拍子抜けの感は免れない。
「そこの犬の銅像に手を掛けて押して。」
言われた通りに押すと何もないと思っていた壁が上に上がっていった。
その先に人影が見えた。あれがボスなのだろう。
「ボス、日本人の兵士を連れてきました。」
扉をくぐってすぐのところで優香が立ち止まり報告する。それにかぶさるようにボスが唸った。
「そいつを早くこっちに連れてこい。」
「はっ!」
素早く返事をした優香に腕を引っ張られボスの前に連れられていった。ボスは品定めをする目で私を見ていた。
ごめんなさい。だいぶ不定期です。