突入!
基地に戻った優香と私は仲間と合流するのもそこそこに軍曹に作戦の結果を報告しに行った。
もちろん主に話すのは優香に任せる予定だ。
「篠留軍曹!只今帰還いたしたました!」
声を張るのは私の役目だ。
「報告を。」
落ち着いた声で軍曹が続きを促す。
「はっ!こちらの子供が説明致します。」
「ほう。」
篠留軍曹が興味深そうに優香に顔を向ける。強面初めて会う軍曹に目を向けられ優香は緊張した面持ちで一歩前に踏み出す。
「私は7歳の頃、あの組織に拉致されそこでそしてのために情報を集める役割を担わされてきました。私があの組織について説明します。その代わりに私がここで生活することを許可して頂けないてしょうか。」
優香は一息に言いきり篠留軍曹を挑むように見上げた。
篠留軍曹は頷いて口を開く。
「それは君が提供してくれる情報次第であるし、君のことを全面的に信用することはできない。それは分かるだろう。さあまずは報告をしてもらおうか。」
軍曹の言葉を受けて優香は話し始めた。
「あの組織は何処かから、多分アメリカ辺りだと思いますが、武器を仕入れて中国の商人に高値で売り捌いています。他の組織が別ルートで武器を中国に売ると値が下がってしまうのでもし他の組織が介入してくると私や他数名が派遣されて潰していました。」
私も補足を加える。
「また、仕入れているのは武器だけではありません。マリファナと思われる麻薬も例の店に大量に置かれていました。麻薬は売り捌く他にその組織内でも使用されていると思われます。」
私たちの報告を受けて篠留軍曹は決断したようだった。
「では、その組織を潰す段階に入る。武器の輸入経路も探れ。お前の名は?」
軍曹に尋ねられた優香は先程私がつけた名前を答えた。
「優香です。」
「馬鹿者!名字を答えろ!お前は礼儀を知らないのか。」
私がフォローする前に優香が答えた。
「私には名前がありませんでしたので更科につけて頂きました。名字はありません。」
結局、軍曹との話し合いの結果、優香の待遇はこの作戦での彼女の働きを見て決定されることになった。
夜、休息をとりつつ他の4人に優香を紹介する。私は既に優香についてよく知っているので自己紹介には余り口を挟まないようにしながら明日組織を潰すための作戦を練っていた。みんな妹ができたみたいで嬉しいのだろう。優香を構い倒している。さつきに至っては優香の頬をぷにぷにして嫌そうに手を押しやられている。そこまで拒否反応の示されてやめないさつきもどうかと思う。自己紹介がひと段落したところで明日の作戦について説明する。今回の作戦は優香の協力で敵の本拠地が分かっているからたてやすかった。その夜、私は寝て起きた。
朝起きたとき亜沙は自分が夢の中にいるのか現実にいるのか分からなかった。そしてその夜また夢を見た。
私たちは組織に乗り込むための準備を整え、ジープが来るのを待っていた。その間に手筈を確認する
「桐原と兼田が建物の周囲で一斉に爆発を起こす。中から人が出てきたら殺せ。昨日優香が言っていた組織のボスはできるだけ殺すな。行動不能にして武器の輸入経路を突き止めたい。以上だ。質問は? ………ないな。よし、優香と私は右の入り口から乗り込もう。服部と伊坂は裏口から潜入しろ。」
全員ばらばらになりそれぞれの配置に散った。2200が襲撃開始である。あと一時間ここで待ってから突入である。
突入の時間になった。1時間見張っていた感覚と昨日優香から聞いた情報を合わせて考えると中に入っているのは40人程度である。裏口から入ったさつき達が引きつけてくれているので大体20人を相手すればいいのか。
背後に爆発音を聞きながら中に突入する。喚きながらナイフを振り上げてくる男の手を突き上げナイフを持った手を外向きに捩じり上げる。そのまま肘をちょっと押すと肘の関節が壊れる嫌な音がした。横を見ると優香が別の男を転がしていた。強いなこの子。後ろに敵はいなさそうなので物陰に隠れつつ更に奥へ進む。
曲がり角でライフルを持った6人くらいの男たちが飛び出してきた。弾ける銃声。私と優香は物陰に飛び込みタイミングをはかって反撃をする。前が見えない状態で撃っているのでなかなか当たらない。じわじわと敵がこっちに近づいてきているのが分かる。このままじゃジリ貧だなと思ったとき爆発音とともに天井が降ってきた。助かった……けど危ない!私と優香まで巻き込まれそうになる。花音たちに居場所を連絡していないから適当に熱量の多いところを狙ったのだろう。体の小さな優香が埋もれているのを瓦礫のなかから引っ張りだして先に急ぐ。奧へ奧へ進んでいたとき、優香が呟いた。
「あっここ。なんか見覚えがある。」
「この部屋?」
「うん。ボスのとこへ行くときにここに入った気がする。」
敵の親玉がこの先にいる。そう思うと私の中に以前追手を殺したときの高揚感が蘇った。
「開けるよ!」
小声で優香に言い銃を構えながら部屋の中に入った。だがそこには誰もいなかった。銃を下ろさずに部屋の中に慎重に入った。殺風景な部屋には殆ど家具がなく木製の机と椅子が1つづつ置いてあるだけだった。全体的にコンクリートで固めて塗装もしていないようなこの建物には余り似つかわしくなかった。机の上には一世紀昔かと思うような羽根ペンが置いてあった。その横には2,3枚紙がちらばっていた。
調べたがこの部屋にはクローゼット以外隠れられる場所は無くそのクローゼットの中に隠れている様子もなかった。
「優香?そもそも人がいないみたいだけど。」
振り返ると優香は部屋の隅の方で何かブツブツ言いながら考えこんでいた。
「ここから……下がって……曲がったような………」
「どうした?」
聞くと現在の状況を把握して失敗したという顔をする。
「ここから下に降りた気がするんだけど降り方がわからないから思い出そうとしてた。」
なるほどね。ここは隠し部屋への通路ってわけなんだね。優香が思い出している間に私は部屋の中に何か手掛かりがないか調べることにした。
優香、嘘は言ってないです。