まずは足を手に入れよう
翌朝、8時半に起きた亜沙は9時からの1限に間に合うために急いでいた。
あーもう2回も遅刻しているのに落単しちゃう。
亜沙は急いで歯を磨き、着替えをする。朝ごはんは食べたいが時間がないので仕方がない。潔く朝ごはんを諦めてパックのコーヒー牛乳でお腹をごまかすことにして亜沙は大学に走った。
先に着いていた皐月の横の席に滑り込み亜沙はなんとか遅刻を回避した。
「セーフ」
亜沙は小声で言った筈だったのだがしっかりさつきには聞こえていた。
「めっちゃギリギリだったけどね。」
「そこは言ってくれるな。」
なんだかんだ楽しく話していると教授が入ってきて授業が始まった。
その日も皐月とおしゃべりをしたり、バイトで怒られたりしながら普段通りに過ぎていった。
そしてその夜、亜沙は昨晩の夢の続きを見た。
建物の上を飛び移って敵を撒きつつ合流地点に達したとき、花音とさつきが何処かから強奪してきた車に乗っているのが見えた。しかし、一台しか車がない。二台ないと逃走には燃料切れやパンクなどの不安が残る。
そう考えた私は2人に「後で合流する」というサインを出し屋根から屋根への飛び移りを開始しながら乗れそうな車を探した。何回めの飛び移りの後であろうか手頃な車を見つけた。もうそろそろ手を引いている女の子の体力も限界だったのでちょうどいいタイミングだ。
「きみ、これ掴まっていられる?」
よくわからないであろう女の子に焦る気持ちを抑えてできるだけ分かりやすいように伝える。
「あそこの車が見える?」
女の子が頷くのを確認して更に続ける。
「今からあの車に飛び乗ろうと思っている。まず、きみをあの車の中に降ろす。それから私が飛び降りる。だから君はこの縄に掴まって、そのまま車の中でじっとしていて欲しいんだ。できる?」
じっと女の子を見る。
「できる。」
「よし、じゃあ掴まって!」
女の子が縄に掴まったのを確認した上で更に縄を腰に巻きつけていく。このくらいかと思ったところで女の子を屋根の端に座らせ、ずり落とすようにそろそろと降ろしていく。
最後の1mくらいは手荒になってしまったがこのくらいは多目に見てもらおう。
追手が迫ってきているので私も急いで準備する。何よりあの子を1人にしておくのが不安だ。
縄をもう一度回収し輪っかにした部分を出っ張りにかけ、もう一方の端を自分の腰に適当に巻きつける。
車に着地した後で縄を軽く揺すると輪っかの部分が外れて縄全体が降ってくる。女の子を助手席に乗せ走り出す。
この子には縄をもう一度巻き直していてもらおう。そう思ったが先に声をかけられた。
「ねえ、お姉さん。あなた誰?」
そういえば自己紹介がまだだったな。
「私は更科亜沙。見ての通り日本人だ。軍属だけどな。で、君は?」
なんだろうこの沈黙。
「もし私が名前を言ったら守ってくれるの?」
この子、こんな小さいのに何を言っているんだろう。
「君の名前が何であっても最初に会ったとき私は君の手を引いたし、その気持ちは今でも変わらないよ。だから安心して。君はもう私の仲間だよ。絶対見捨てない。」
女の子が何かを決心するように小さな拳をぎゅっと握る。
まだ続きます。この子が今回のミッションの鍵です。