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戦争夢  作者: 魁斗
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「亜沙大丈夫?今日はいつもにもまして寝言が大きかったけど。」

亜沙の心臓の動悸が静まらないうちに友人である皐月が話し掛けてきた。

「うん、平気。」

そっか活動までの間に部室で寝ちゃってたんだ。亜沙が現実に復帰している間に皐月はさっさと亜沙から毛布を取り上げ、着替えに行こうとしている。

「ほら、テニスやったら眠気も吹っ飛ぶよ。そのあとみんなで飲みに行こう。」

亜沙の通う大学はグラウンドが広い。グラウンドの横には更衣室があり、グラウンドを使用する際にはその更衣室で着替えることになっている。

亜沙は皐月に引っ張られて更衣室に向かった。亜沙が寝ていたことで開始時間に少し遅れてしまった2人はいつも通り先輩にしごかれながら練習を終えた。

練習後に行った飲み屋で亜沙は友人たちに先程見た夢の話をしていた。皐月が部室で寝てから亜沙の元気がないことを気にしていたのだ。

「日本が中国と戦争になってて、中国を南から攻撃するためにベトナムに送られるの。妙にリアリティがある夢だったから怖くてさ。」

「夢なのにそんな鮮明に覚えてるって不思議だね。でもさ、今話したから正夢にはならないよ。」

それから話題は今日の練習内容、先輩たちの話に移っていき、飲み会はお開きとなった。

その夜、亜沙は夢を見なかった。次の日も疲れていたのかぐっすり眠った。1週間ほど経って夢の内容はおろか夢を見たことすら忘れかけていた夜、亜沙はまた夢を見た。


篠留軍曹が叫んだ。

「整列!」

私たちは軍曹の前に一列になる。

「いいか、これからの訓練は厳しいがこの訓練を乗り切れないようでは潜入は難しいので心して行うように。」

「はいっ!」

篠留軍曹は満足そうに頷くと明日に備えて夕食を摂り寝るように指示して去っていった。

篠留軍曹が食材が置いてあるといった場所にきちんと一食分の米とパックのカレーが置いてあったのでご飯を食べることにする。そこらへんから枝と落ち葉を拾ってきて飯盒炊爨の用意をする。

米を川で研いで炊くこと30分。カレーも温めてみんなで丸くなって食べた。無言で黙々と食べるのもどうかと思ったので取り留めもない身の上話をすることにした。

「えっ!じゃあ咲は絵が得意なんだね!私は絵が下手だから羨ましいな。」

さつきが嬉しそうに言っている。

「みんな特技があるんだね‼︎すごいね!」

戦場で笑える胆力のあるさつきは本当に尊敬できる。能天気なのか胆力があるのか謎なんだけどね。

出身地はみんな東京だった。私の実家も東京23区ではないが一応東京だ。家族はまだ疎開していない人が多かった。盛り上がったのはそれぞれの特技について話していたときだったり咲は絵が得意、花音は爆弾などの精密機械をいじるのが得意、風香はもともと体操をやっていたらしい。さつきと私は……特技と呼ばれるものがない。なんか肩身が狭い気がする。なんだかんだでみんなのことが知れた夕食だった。

さてどうやって寝るんだろう。

とりあえず5人で話し合い寝る場所を作成する。どこで寝るかについては何も言われていないがとりあえず寝なければ、明日の訓練に差し障りがでる。背囊の中に入っていた覆いのような簡易寝袋を取り出す。各々安全そうなところを探して横になる。

さすがベトナムというべきか上を向くと木の間から綺麗な星空が見える。今は晩夏だから日本だと蛙の合唱が聞こえてくるのだがここでは犬の遠吠えしか聞こえない。

翌朝、私はやっぱり寝坊してしまった。さつきに起こしてもらったので訓練そうそう軍曹に目をつけられることはなかった。多分目をつけられていたら悲惨なことになっていただろう。

訓練は朝の7時から始まった。ここで訓練を受けていて大丈夫なのかと思ったが中国ではないので大丈夫らしい。

午前中は20kgの荷物を持って小休止を挟みつつ走り込み、12時から20分程度で戦闘食を食べて、午後は射撃訓練と格闘技の練習が6時まで続行された。それらの訓練の合間をぬってベトナム語の練習をさせられた。日本にいたときはショットガンでしか練習していなかったが、拳銃を扱う訓練も受けた。潜入するときにライフルは持っていけないからだそうだ。拳銃は弾が8つ入る構造になっていて暗いところでも目標を撃つことができる。格闘技は空手と合気道を合わせた感じのものだった。私は午前中の走り込みでは4人の後ろになんとかついていくという体たらくだったが、午後のメニューは適性があったらしい。ショットガンでの狙撃も得意だったが、拳銃にもすぐ慣れることができた。10mの距離なら命中率は95%。さすがに20mになると命中率は74%程度に落ちてしまうがそれでも5人の中では命中率はトップだった。篠留軍曹も「ほう」と言っていたのでまあまあだったのだと思う。格闘技はそこそこで走り込みほど他の4人についていけていないわけではなかった。そこで30分間夕食のための休憩時間が設けられた。きつい訓練のせいで食欲も減退していた私たちはもそもそと詰め込んだ。昨日とは打って変わって会話もあまりない。

夕食の後は中国語の勉強が待ち受けていた。私たちは兵舎の一室に連れて行かれた。その部屋には捕虜らしき5人中国人が椅子に座らされていた。

「中国語ができずに中国に入ることはできない。これが教科書だ。だが、語学の上達の1番の方法は話すことだ。みんな基本的な中国語は話せると聞いている。目の前にいるのはネィティヴの中国人だ。今から2時間与えるので会話を行うように。」

篠留軍曹が見張っているのでなんでもいいから話さないとしばかれる。大学で習った遠い記憶を呼び起こして必死に話した。30分話して悟った。話すのが難しいのではない。正確に話すことが難しいのだ。しかも半分くらいしか聞き取れない。多分会話が成り立っていないのだろう。相手が不思議そうな顔をしている。2時間の会話は精神が打ちのめされて終わった。

篠留軍曹がたてた厳しすぎる訓練メニューで私たち5人は夜寝るまでには精神も体力も限界に達していた。昨日と同様木の下で各々寝袋に入った瞬間記憶が途切れた。

その夜、殺気を感じて飛び起きると篠留軍曹が私の上にいた。さつき達も立っている。

「貴様ら、眠り過ぎだ。ここが戦場だと忘れたのか?俺が敵だったら貴様らの命は今頃無いぞ。今度起きられなかったら覚悟しておけよ。」

最後に起きたのは私だったみたいだが全員軍曹が求める基準には達しなかったらしい。軍曹の説教に返す言葉もなく、私たちはもう一度すごすごと眠りについた。


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