表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

婚約破棄って大変なのよ?

作者: 桐谷 キリ

さらっと読めるお話です。



バドミントン決勝進出おめでとぉ!!!


8/18

爵位の高さの順が間違っているとご指摘を頂き修正させていただきました。

レイブンド候爵→公爵

セリオーラン公爵→候爵


修正するとき軽く「爵」がゲシュタルト崩壊しましたヽ(´▽`)/

「本日はわたくし、リリアンナ・カナレットのためにお集まりいただき、本当にありがとうございます。先ほどわたくしの婚約の話をカナレット家当主よりいたしましたが…申し訳ございません――――破棄とさせていただきたいのです」



 先ほどまで華やかな雰囲気だった夜会が、彼女の一言で一気に凍り付いたのが、壁の花に徹していた私にも理解できた。片手に持ったワイングラスを揺らしながらも、これからの動向を見つめる。

 どうやら彼女の発言は余興だとかサプライズだとかそういうのではないらしい。隣に座っている先ほど婚約者と紹介されたはずの男性も、その横に控えている両家の当主も驚きを隠せないでいた。なるほど、彼女の独断でとった行動か。

 彼女、リリアンナはカナレット男爵家の次女であり、今回カナレット男爵家は縦のつながりを強めようとしたのか、権力の強いレイブンド公爵家の次男―――ロイドと政略結婚として生涯を添い遂げる予定だった。なんでも箱入り娘だったリリアンナが最初に出会った男性というのが、婚約者のロイドだったらしく、完全な一目惚れだったという。一方ロイドのほうも彼女に恋したというまさに理想のカップルと言わんばかりの仲だったと思ったが…。

 チラ、とそちらのほうを一瞥すると、なんだかそうでもないらしい。ロイドのほうは彼女を信じられないといわんばかりの表情で凝視しているし、カナレット家当主のほうはオロオロとするばかり。反対にレイブンド公爵家は険しい表情で事の成り行きを見守っている。


「り、リリー、いったいどうしたって、」

「私ではだめなのです…っ、私はあなたに、幸せになってもらいたいのです…っ」

「リリー?何を言って…」

「私は知っておりますの!あそこにいらっしゃる、ルーシャ様のことを慕っておられると!!」


 ビシッとまるで犯人を指さすかのように人差し指をこちらに向けてきた彼女に、会場がどよめく…。


 って、え?ルーシャ?

 …ルーシャって、私よ?


「さあルーシャ様、おいでくださいまし!私の代わりにこの方をお支えしてください…っ」


 最後のほうは涙で消えたのか、何を言っているのかよくわからなかった。それが本人にもわかったのだろう。彼女はその場から淑女としてあるまじき、走って逃亡という技をなした。いいな私も連れてってほしいんだけど。

 気づけば私、ルーシャ・セリオーランの周りには人がいなくなっており、人の波が道のようにロイドたちのいるところへ導いていた。え、なんですかこれ。驚きを隠せないままそのまま立ち尽くしていると、ロイドのほうからやってきた。え、なんですかあんた。


「あ、あの…?」

「…申し訳ないが、一度こちらへ来ていただきたい。よろしいでしょうか、父上」

「……構わんが、カナレット男爵、あなたも来ていただこう」

「…ええ、もちろんでございます」


 今夜は華やかな夜会。貿易を主とする我がセリオーラン侯爵家もレイブンド家に呼ばれ、長女である私が出席した素敵な夜会。婚約発表を祝うというのは建前でそろそろ将来のパートナーを見つけようかしらなんて思っていた婚活場な夜会。

 どうやら私は面倒ごとに巻き込まれてしまったらしい。

 いつの間にか片手に追っていたワインは、誰かにとられてしまっていた。





 まず最初に弁解しようと思う。

 私はリリアンナ嬢ともロイド様とも関わったことはないし、それはおろか、カナレット家との交流は一度もなかったはずだ。

 唯一の共通点といえば、同じ王立魔法学園に通っている、ということくらいか。

 彼女の名前くらいは知っている。勉強好きな私はテストで必ず上位10以内に入る。その中に何度かリリアンナ嬢とロイド様の名前を見たことがあった。

 あとはこうやって何度か夜会で顔を合わせた程度だと思うが、直接話したことはなかった気がする…とレイブンド公爵とロイド様、そしてカナレット男爵の後ろを歩きながら考える。というか考えられるくらい全員が全員無言のまま夜会の会場から抜け、客室へつながる廊下を歩いているのだ。なんとも気まずい。気まずいにもほどがある。

 しばらく歩いて、「ここでいいだろう」と公爵が扉を開け、早足に中へ入っていった。どうやら礼儀云々の前にさっさと話しを終わらせたいらしい。私もそうだよ。


「さて、ルーシャ嬢、われらが聞きたいことはわかっておるな?」

「…推測の上でしか話すことができませんが、それでもよろしいでしょうか」

「構わぬ」

「では失礼を承知して申し上げます。わたくしには先ほどの出来事がいったいなんのことか皆目見当もつきません。ロイド様ときちんと会話した覚えも、彼に慕われれている理由もそぶりも、一切わかりかねます」


 はっきりとした口調でそう答えると、少し唖然としたような表情で公爵がこちらを見てきた。が、すぐに公爵の顔になり、険しい表情で私を睨みつけるように凝視する。

 私からしてみれば、巻き込まれ損である。いったいなんで私の名前があそこで上がったのか、はっきり言って私が知りたいくらいである。


「父上、発言をお許しください。ルーシャ嬢と私は学園では愚か、夜会ですら話したことはありません。恐らくリリー…リリアンナが言ったのは勘違いか何かでございましょう」

「……カナレット男爵殿、貴殿はどう思われる」

「……これは、婚約の契りを貴殿らと交わしたときに話すべきだったのかもしれません。リリアンナは、一種の病気であります」


 …重い雰囲気の中本当に申し訳なのだが、帰っていいだろうか。というか婚約の契りを交わしたときに言えない話をたった今巻き込まれただけの小娘がいるこの場で話していいのか。

 おいおいおいおいと思ってると話はどんどん進んでいたようだった。


「精神病と言いますでしょうか、思い込みが激しく、自分がこうと決めつけたらそれを強く信じ込んでしまうのです…。恐らく、ルーシャ嬢とロイド殿がほんの少し会話しただけでも浮気と考えてしまうのでは…」

「ロイドだって他の女性とは話すはずだ。何もルーシャ嬢だけではない。何故ルーシャ嬢だけを標的にしたのだ」

「これは私の推測ですが、リリアンナがルーシャ嬢を、「自分よりも上の人間」であることを認めたからではないかと」


 なるほど。確かに私はリリアンナ嬢よりも魔法の成績も筆記の成績も上だし、自分でも容姿は彼女よりも良いと思っている。

 だが好みは人それぞれだ。そこを比べてしまうあたりリリアンナ嬢は陽だまりのような顔をして、意外と心が狭いのかもしれない。

 そんな失礼なことを考えていると、カナレット男爵は青い顔を一層濃くさせ、うつむきがちにポツポツと話し始める。まあ、自分の家の経済がかかっているのだ、男爵は必死だろう。


「なるほど…それを直す方法はないのか」

「残念ながら、医師からは手の付けようがないと」

「…だそうだが、ロイド、どうする。それでもあの女を嫁にするか」


 とうとうリリアンナ嬢を「あの女」呼ばわりし始めた公爵に、カナレット男爵の冷や汗が止まらない。ええよくわかりますよ。私もこれから自分がどうなるかわからないのだから。


「…私は、リリアンナとは良き友人だと思っておりました」

「……え?」


 思わずぽろっと口にしてしまった。それにロイド様がこちらを一瞥する。はい、すみません。黙ります。


「だから結婚しても問題なく兄上の補佐として家を支えられると思っておりました」


 …え、あんたたちお互い一目惚れして相思相愛のままゴールインじゃなかったの?そんな思いがどうやら顔に出ていたらしく、ロイド様がこちらを見て苦笑した。


「世間では私たちを理想の恋人同士だと言っていたが、実際は違うのですよ」


 なるほどね。確かに貴族社会ではその夜行動を共にしていただけで、噂に尾びれ背びれがつきにつきまくっていろんな人のもとへ伝わっていく。だからただの友人だったにもかかわらず噂だけが独り歩きして私のもとまで届いた、というわけか。

 だが、先ほどの夜会の様子ではリリアンナ嬢のほうはそういうつもりじゃなかったようだ。あの態度や様子を見るとまるで―――


「リリアンナはロイド殿を慕っておりました…ですから私の権力を駆使して、レイブンド公爵家との縁談を」

「…なるほどな。しかし先程の騒動の様子からすると、貴殿らとの婚約は破棄ということになるが?」

「っ、申し訳ございません!まさか、あの場でリリアンナが暴走するとは…っ」

「謝って済むのなら、我々はこれからのことを考えなくて済むのだがな」

「…っ、申し訳、ございません…っ」


 ふぅ、とため息をついて、煙管を懐から取り出し、マッチを使って吸い始める公爵を前に、ただただ謝るしかできない男爵。その姿を見ているだけの私。あれ私完全アウェーじゃない?

 しばらく誰も言葉を発しない沈黙が続いたが、遠くから聞こえる夜会のメロディーが流れると、不意に公爵がこちらを見て口を開いた。


「ルーシャ嬢。申し訳ないが、ロイドとともにここにいてくれるか」

「は…?」

「少しカナレット男爵と話をしてくる。ロイド、彼女のもてなしを頼むぞ」

「はい、父上」


 え、ちょっと待ってくださいよ、なんで婚約破棄された次男と一緒に関係ない話を待たなくちゃいけないんですか。

 そう言えるほど私の家はレイブンド家に対して親しくもないので、ただ無言でうなずく。失礼だと分かっているがそれがせめてもの抵抗である。

 そうこうしているうちに公爵と男爵は客室から出ていき、当り前のことだがロイド様と二人きりになってしまった。

 遠くから華やかで美しい夜会のメロディーが聞こえる。カーテンが引かれていない窓の外は暗く、まるで黒い絵の具で塗りつぶしたかのように外が見えなかった。

 あれ、わたしなんでここにいるんだっけ…と果てしない疑問が見えてきた時、「あの、」という声が聞こえた。


「あの、ルーシャ嬢、こうなってしまったのも俺の責任です。本当に申し訳ない」

「……」


 こういった場合、どういう風に返すのが一番だろうか。

 淑女として、ここは「構いませんわ」とか言えば一番いいのかもしれないが、本音を言えばふざけんじゃねぇ謝って済む問題じゃねぇんだよと殴り掛かりたい勢いである。

 確かにこれと言って実害があるわけではないが、あとあと出てくる問題を考えればそれは絶大な損害である。


「…わたくし、当初この夜会には婚活として参加しておりましたの」

「……」

「先ほどの騒ぎでわたくしを誘ってくれる相手がいなくなったでしょう。連れだしてくれたこと、感謝いたします」

「…いえ、」

「しかし、騒ぎの原因は彼女にありますが、彼女が騒ぎを起こした理由を考えますと、わたくしはロイド様、貴方にも非があると思いますわ」


 ス、と音もなく閉じた扇子を片手に持って彼のほうへ一直線に伸ばして、彼の顔の前で止める。彼は少し驚いたような表情をして、目を見開いた。

 それに満足した私は、口元を笑みでゆがませる。


「良き友人、とさきほどおっしゃいましたわね?ならばなぜ彼女がそう言った病を患っていると気づかなかったのですか」

「……っ」

「仮にも、婚約者であったのでしょう?」

「…ええ、確かにそうです…」

「まあ、気づいたところで夜会での彼女の様子を見ますと、随分重症のように感じますから手遅れでしょうけど」


 簡潔に一言で言ってしまえば、はた迷惑である。

 全く関係ない私を指名して、関係ない話を持ち込まれ、関係ない人と二人きりにさせられる。この夜会で将来添い遂げる相手が見つかるとは限らないが、少しでも可能性を秘めているのだったら積極的に参加しようとしていた夜会も、この先2,3件はあきらめなくてはならないだろう。

 これからのことを思うと本当に憂鬱である。学園では明日、私とロイド様、そしてリリアンナ様との関係の話でもちきりになるだろう。それだけじゃない。この噂に尾びれ背びれ胸びれまでもがくっついて、もしかしたら私に関する悪いことが流れてしまうのではないのかとさえ考えてしまう。

 そんなことがあれば結婚相手も友人もいなくなってしまう。


「本当に、申し訳ない。何も関係ないあなたを巻き込んでしまった」

「そうですわね。本来ならば淑女らしく、このような状況に陥れたリリアンナ嬢を再び夜会に呼び出して、ホールの真ん中でわたくしに叩かれるのが一番でしょうけど…残念ながらできそうにありませんわね」


 というのも。

 さきほどよりも顔を真っ青にさせたカナレット男爵と、万事解決したといわんばかりの満面の笑みを隠さないレイブンド公爵家当主が、いつの間にか会場に来ていた私の父、セリオーラン侯爵を引き連れて客室に入ってきたのだから。



「これで解決であろう」



 次の日、私とロイド様の婚約が発表された。

 それは、どこまでも愛のない婚約だった。






異世界ラブファンタジーを書こうと思ってたんですけどどうしてこうなった。

最終的にふわふわっとしたカップルを書きたかったんですけどどうしてこうなった。


ただの不運話で終わりましたね(笑)


ここまで読んでくださりありがとうございます!


8/18

男爵になんらかの処罰はないのかというご指摘をいただきましたが、あくまでこの話は不運な少女のお話ですので男爵どうこうの描写は致しませんでした。一応短編ですので笑

ただなんらかの処罰はあったと思いますよ。もしなかったとしても夜会であんな騒ぎを起こしたわけですから、他の貴族からのバッシング等々あるでしょうし。


皆様の御指摘ありがとうございます_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ私完全アウェーじゃない? という記述がありますがアウェーは敵地だったかと記憶しておりますが、主人公の認識じゃ関係ない場所か場違い辺りになりませんか? [一言] 気になる所には引っ…
[一言] 読みやすいです
[良い点] 楽しく読めました。 [一言] 公爵のほうが、侯爵より身分は上ですよね? 巻き込まれた令嬢は、公爵令嬢ですよね? 侯爵のほうが、えらそーに これで、解決!みたいになってるけど。 なんだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ