09 少女の冒険
10歳になりましたアイリス・べルネリオスです。
あれから4年、すっかりべルネリオス姓にも慣れました。
身長も130程度にはなってますが、肉付きが悪い・・・。
力も無いわけじゃないんですが、筋肉もなにもついてないような細い腕なんですよね?
ご飯もしっかり食べるし、運動もしてるのになぜなのかなぁ?
そして今日は以前より考えていた冒険者ギルドの方へ行く予定です。
養父様からの許可は取った、カーラも説得した、貴族だとばれない様に平民の服も用意した。
さぁ、準備万端向かいましょう!
建物の位置は大体は聞いていたので迷わずにつけたが・・・。
なんか外からは普通の酒場って感じがするなぁ?
「ここが冒険者ギルドですか。」
「はい、おじょ・・・コホン、アイリス。」
外でお嬢様っていうの禁止してるんだけどカーラはなかなか慣れてくれない・・・。
お嬢様悲しいです・・・。
けどまぁ気にせず扉をくぐると・・・。
期待していた光景と全く違った。
なんというか荒くれものが集まっててワイワイしてる感じなのかと思ったけどなんか市役所の様な感じだ。
掲示板の前で話している人や、買い取りとかかれたカウンターの前でギルド員と交渉してる人など、特に気になるとこは無い。
お約束の新人いびりってのもなさそうだ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用でしょうか?」
「冒険者登録をしに来ました。これ親の許可証です。」
「確認します。・・・はい、確認しました。ではこちらで書類を書いてください。」
案内されたのはこれまた役所に置いてあるような筆記台だ。
ここ本当は冒険者ギルドじゃなくて役所だろ?
「アイリス。私が書きましょうか?」
微妙に背が届いてないのでカーラに代筆してもらう事にした。
おのれ低身長・・・!
「書けましたので持っていきましょうか。」
「カーラの分は書いたの?」
「あっ!すぐ書きますね。」
ん~こういうちょっとした隙があるのが可愛いなぁカーラは・・・!
カレンお姉様が居なかったらカーラに惚れてたかもしれないわ。
私は一途なので浮気はしない!
「すいませんお嬢・・・コホン、アイリス。さぁ持っていきましょう。」
先ほどの受付のお姉さんに書類を渡すと特に問題も無く、スムーズに手続きは終わった。
「それではこちらが冒険者のタグになります。」
渡されたのは前世でも見たことあるドックタグだった。
表には私の名前と冒険者になった今日の日付と冒険者登録地の名前、裏には冒険者ギルドのマークが描かれていた。
「そのタグを各街にあるギルドの機械で読み込み、依頼の実績などを見ます。依頼を受ける時と終えた後に一度預かり、魔法で記載していきます。そのタグを無くすと相当なペナルティがありますのでご注意ください。」
普通に会員証なのね。
前世であったポイントカード的なあれなのかなー?
まぁ細かい事気にする必要ないか。
「それじゃあ今ある依頼何か見てみようか。腕試しが出来そうな討伐系があると良いのだけど・・・。」
「はい、アイリス。」
依頼が貼られている掲示板の前に来ると一人の冒険者が話しかけてきた。
ナンパかな?
女二人だし片方どう見ても子供だからなぁ・・・?
「冒険者登録したばかりの新人かい?俺の名前はピート。よろしくな。」
「アイリスです。こっちはカーラ。」
「よろしく。」
「新人さんにこの掲示板の見方をレクチャーしてあげるよ。上に行くほど難しい依頼で、相当なギルドの信頼がないと受けさせてもらえないんだ。んで逆に下の方にあるのはまぁお小遣い稼ぎ程度の依頼さ。それで左側ほど新しい依頼で右にあるほど古い依頼なんだ。古い依頼は手間と報酬があって無かったりってのが多いから気を付けると良い。最初はえーっと・・・、あっこの辺の常時依頼のゴブリン討伐か薬草の採取なんかが良いよ。」
ナンパかと思ったらすごい親切な人だった。
けどそうだな、今回の目的は軽い腕試しだから、ゴブリン討伐を受けるか。
「じゃあこのゴブリン討伐を受けてみます。」
「気を付けなよ、何かあったらまた聞きにきてくれて構わない。新人が増えるのは僕もうれしいからね。」
「ありがとうございます。さぁ、行きましょうアイリス。」
「えぇ、それではピートさんまた。」
受付にタグと依頼書を渡し、手続きをしてもらうその間にゴブリン討伐部位の確認をする。
どの個体にも必ず角が一本生えてるらしく、そいつを回収すればよいと。
他に注意する点は武器を使うだけど・・・使う武器見ても原始人レベルだな。
こん棒、石斧位か、体術をきっちり修練してあるカーラや私の手間取る相手ではないな。
「カーラ。とりあえず腕試しだから武器禁止ね。」
「はい。」
「見た感じこの程度の武器ならそこまで警戒する必要もないし、カーラの腕なら手加減でも通用すると思うよ。」
四年間みっちりと一緒に鍛えたカーラの実力は高い。
体術も手裏剣術も私より上、恐ろしい逸材を育ててしまった・・・。
多少ドジっこな部分もあるけどそれもご愛敬、彼女は非常に優秀な私専用の隠密になっている。
「アイリスが言うなら大丈夫なのでしょうね。わかりました、ですが油断せずしっかりやらせてもらいます。」
「そうだね、油断は怪我の元だからそこだけ注意しようか。」
「お待たせしました。このタグと討伐した証を持っていれば、この街以外でも依頼を報告できます。ですがなるべく依頼を受けた街で報告するようにお願いします。」
つまり街同士の通信網が確立しているという事か。
こういうのは貴族社会でなかなか知る事が出来ないからなぁ、丁度いい情報収集にもなる。
出来れば他の街のギルドとやらにも行ってみたいが、養父様からは1回の外出で2~3日程度のみと言われているからちょっと難しいかなぁ・・・?
「わかりました。行きましょうカーラ。」
「えぇアイリス。」
依頼書に書かれた場所にたどりつくが・・・ん~草原のいい風、ピクニックにちょうどいい場所だなぁ。
じゃなくて一面開けた所だし、草も高いわけでなく、隠れるような場所がまったく見えない。
たまーにぽつりぽつりと木が生えてる程度で、ゴブリンの様な魔物が居る風には見えなかった。
「ゴブリンなんて見えませんねぇ・・・。」
「お嬢様、ゴブリンは道具を使い獲物を待ち伏せする生き物です。」
あぁなるほど、草原迷彩をしたりして隠れてるのか。
けどこんな草原で隠れて獲物が・・・、あっ遠くで鹿が何かに襲われてる。
「ねぇカーラあれって。」
「・・・はい、ゴブリンですね。その場で食べないようですからどこかこの近くに集落でもあるかもしれません。」
ぎりぎり判別できる・・・といっても私達の視力はかなり良い方だ。
けどこの距離だと今から飛ばしても多分見失うだろう。
「けどああやって襲うのはわかったよ。それじゃあ慎重に行こうか。」
「はい、お嬢様。」
相手の隠れ方がわからないから少し警戒しなければならないがそこは元々平民で、こういう事を知っていたカーラが居る。
すぐに隠れたゴブリンを見つけ、軽く石を投げて飛び出させたところを素早くいなしていく。
ちなみに私の役目はゴブリンの角狩りだ。
私がやりますとカーラが言っていたが、一応二人で受けた依頼なんだからぼーっと見てるのはダメでしょ。
いくら戦闘能力計測、情報収集の場としてのギルドとはいえ、最低限度の事はしなければならない。
まぁ暇を見つけては一人で出るつもりでもあるしカーラと居る時はサポートに徹しよう。
「これで終了・・・ですかね?」
「対象の倍以上余裕で狩ってますし、やりすぎちゃいましたねぇ。」
間引き程度の数だったのに、気づいたら100は狩ってました。
この草原に居たゴブリン全滅したんじゃない?
いくら狩っても問題はないとの話だし、別にいいんだけど他の人の分を奪ってしまったのがなんとなく心苦しい。
まぁ他に仕事もあるし、そこまで積極的にギルド依頼をこなす気はないのでそれで諦めてもらおう。
そう思いながら帰路につこうとしたら・・・、お約束ってあるのね?
「GAAAAAAAAAAAAAA!!!」
目の前に居たのは小型の赤いドラゴン。
小型と言っても大型犬位の大きさがあり、これよりも大型の物になると災害指定されたりするがこのサイズならそこまでではない。
けれど小型と言えどドラゴンはドラゴン。
その強さは計り知れない。
「お嬢様お下がりください。」
「いえ、下がるのはあなたですカーラ。」
確かに武芸十八般の隠型術を教え込み、その分野では自分より強くなったカーラだが、他の分野でとなるとそうではない。
全体的な強さで言えば私の方が十二分に上なのだ。
それに・・・。
「使うのは・・・これでいいですね。」
カバンから取り出したのは、この世界で一般的に普及している薬。
なぜ武器じゃないのかって?
だってこのドラゴン・・・怯えているんだもの。
よく見れば怪我もあるし、どこからか逃げてきた様子。
なんというか、本能的な部分でこの子を見捨てて置けない。
この子を見捨てると言うのは、私を見捨てる。
そんな感じがするのだ。
「怖くないよ。傷を治させて。」
ゆっくり優しく近づくと、まだ警戒しているようだけど引きもせずじっとこちらを見ていた。
手が触れるとこまで近づけたので、そっと優しく頭を撫でてやると大人しくなったので優しく傷の手当てをしてあげた。
このドラゴンの傷・・・人間にやられたものかと思ったけどそうではないらしい。
多分縄張り争いに負けて逃げてきたんだろう、ドラゴンは数は少ないが一つの山に一頭のドラゴンが住み着くと言われる程度には数が居る。
だからこうして稀に縄張り争いで追い出される個体が出ると言うのは文献で読んだことがあるが・・・。
そうした弱ったドラゴンの末路はどれも同じ、弱っている所を人間に狩られる。
確かに弱肉強食な世界ではある。
けど関わっちゃったこの子の命、見捨てるなんて事はしたくない。
「ねぇ、あなたも私のパートナーになる?」
「お嬢様!?」
傷の手当てを受けて大人しくしていたドラゴンがじっと私の目を見てくる。
金色の目をしていて、それが宝石のようでとても美しい。
「GYAA!」
どうも受け入れてくれたようだ。
私の体にすりすりとすり寄ってくる。
「信頼出来そうな良い子をパートナーに出来たわ、カーラも入れて二人目ね!」
「お嬢様・・・。」
嬉しそうな困ったような顔をカーラがしていたが気にしない。
街に戻った時に私が子ドラゴンを連れていたので一悶着あったが、危険はないとアピールするために背中に乗る事で解消出来た。
けど私がべルネリオス家の令嬢で、ギルドに登録しているのは周知の事実になってしまった。解せぬ。