05 幼女の謁見
「そなたが我が息子に暴行を働いた小娘か・・・?」
現在私は国王の目の前にお父様と共にいます。
理由?カレンお姉様のパーティーで王子様に関節技をかけたからだよ?
「はい、間違いありません。」
「理由を聞かせてもらおうか。」
「簡単です、先に罪を犯したのが王子だからです。」
睨むように言ってくるのではっきりと述べてやる。
お父様が顔を青くしてるけど知った事ではない!この件についてこちらに落ち度はない!
「まず第一、あの日はカレン・ウィレナー嬢の誕生パーティーであるにも関わらずその主役に対して無礼を働いた。第二、罪も無い女性に手を上げるなど男として最底辺です。」
「そうか・・・。その時お主は忠誠について語ったそうだが・・・今ここでどう動くのだ?」
ここでお姉様に掲げる忠義?そんなものただ一つ。
「そうですね。誕生パーティーで暴行を働くような息子で申し訳ないとウィレナー卿に対する謝罪を求めます。」
そう、謝罪を請求する事だ。
主の正しい利益になる事をしなければならない。
「はぁーっはっはっはっはっ!良い!よくぞ言い切った!この件についてこちらからの処罰は無い!それどころかお主の言うようにパーティーを邪魔した謝罪をウィレナー家に送ろう!」
「ありがとうございます国王陛下。」
優雅に一礼して感謝を表す。
普段ただのお転婆娘ですがね?こういう時キチンと淑女の対応しますよ?
だってお母様がうるさいのですから・・・。
「そうだ。主は確か武術にも関心があったのだな?どうだ?我が城の兵達の訓練を見てくるがよい。ベルーナ卿も一緒にな。近衛兵!丁重に案内してさしあげろ。」
「ありがとうございます陛下。お父様、行きましょう。」
「あ、あぁ・・・。失礼します陛下。」
そうやって笑顔でお父様の手を引いていく。
きちんとお姉様の騎士として正しい行動とれたかな?
「どう思う宰相。」
「本当にあれが五歳ですか?魔法で肉体を変化する術があるのではないでしょうか?」
「いやそれは疑ってはおらん。しかしあれほどの忠義と話に聞く武術・・・。胆力もなかなかにある、もしや知略もあるのでは?」
「わかりませぬ・・・。けれどそこまでとなるとなんとしても我が国に縛りたいところですな。」
「下手にあの娘に構うよりも、ウィレナーの娘を我が国で丁寧に扱えばあの娘は従うだろう。」
「報告でも確かにそうですね。誕生パーティーでもカレン嬢にぴったりと張り付き言葉に従っていたとの話です。まるで姫と騎士の様だと。」
「うむ。素性をもう一度調べ、カレン嬢については我が国で確実に確保する。他国には嫁に取られるなよ?あの娘、必ず付いていくぞ。」
近衛兵の案内で訓練場につくとそこでは鎧を着た騎士達が戦っていた。
その中に自分と同じ位の身長の人間が居るのに気づいたけど・・・、あれ第一王子じゃん?
「皆の者!今日は可愛いお嬢様が見学に来た!だからと言って口説くんじゃないぞ?まだ5歳だからな!」
大きな笑い声が聞こえるが馬鹿にした感じではない。
ダメなんですか~っとか兵士長じゃないし~だの冗談まじりの声も聞こえる。
気のいい人が多いんだなっというのがわかる。
「お前!!」
「あらエドワード王子。お久しぶりですわ。」
第一王子がこちらに気づき、人を指さしてなんか言いながら近づいて来ている。
けどね?淑女として一つだけさせてもらうわ?
「人をそのように指さしてはいけません。それに何よりまず挨拶をするのが先でしょう?」
また前回と同じように関節技をかける。
けど今日はスカートだ。地面に叩きつけては出来ないので上半身が動かない様に固定してやればいい。
「貴様また・・・!!っ痛い!!」
「貴様じゃありません。自己紹介はしていますよね?名前をお忘れになったのですか?そんなすぐ忘れる様な頭脳じゃ立派な王になどなれませんよ?」
全く口が悪いし知性も礼儀も無い・・・。
これが第一王位継承者ってんだから先行き不安だ。
「き、きちんと剣で勝負しろこの男女!痛い!!」
「男女ではありません。アイリス・ベルーナです。しかしそうですね、良いでしょう。お相手して差し上げます。」
ぱっと手を離して解放してやる。
何やら睨んでいるが気にしない。
その場にどさりと倒れた王子など無視して周囲の兵士に話しかける。
「申し訳ありません。どなたか私に運動しても問題ない服をお貸しください。それと王子が持つのと同じ剣をお願いいたします。」
言ってる事は物騒だがそれでも淑女らしい動作でお願いをする。
ここまでの流れを楽しそうにみていたこの兵士たちの長らしき人が前に出てきた。
「初めましてアイリス嬢。私は兵士長をやっているデュッケンバルド・べルネリオスと申します。すぐ部下に準備させるので少々お話しでもどうでしょうか?」
「ありがとうございます、デュッケンバルド様。兵士長なんて偉い方とお話し出来るなんてとてもうれしいですわ。」
兵士長か・・・。
ちなみにこの世界の兵士の階級は総統・司令官・団長・兵士長・分隊長・班長・兵士の順だ。
兵士長以上は貴族出身じゃないとなれない。
近衛兵になると99%が貴族だけどね?
よほどの武功を上げないと平民は近衛になれない。
まぁつまりこのデュッケンバルドは貴族という事だ。
けどかなりごつい顔・・・というか切り傷や火傷のような痕のせいで子供にはトラウマ級に怖い顔だろう。
私はそういう人も居るんだなー程度でその事はスルー。
だって一番トラウマ級にやばいの私だろうしね?
本性だしたら多分隔離指定される自信はある。
今は淑女らしく優雅たれでお姉様を怖がらせないようにしっかりしようとしてるだけです!
「アイリス嬢は私の顔が怖くないので?自分で言うのもなんですが女子供に好かれる顔ではないと考えております。」
「何がどう怖いのですか?その顔はあなたが今まで戦ってきた証でしょ?それだけ傷つきながらも国の為、部下の為。戦い、生き延びた男の勇ましい顔です。尊敬こそすれ怖がる道理はありません。」
まぁ傷つくのは未熟とかいうのもあるけどさ?
未熟じゃない人間なんて居ないし、傷つくのは当然じゃん。
けどそうやって傷つきながらも前に進み戦い、今こうやって兵士長なんて偉い立場で兵士達に信頼されている。
今ここにきたばかりの私でもわかるんだ・・・。
本当に心から尊敬出来る人だよ。
「はっはっはっ!あーくそ!アイリス嬢が5歳なのが悔やまれる!同年代であれば即座に求婚したものを!」
「ご冗談を。私のような事を言う方なんていくらでもいるでしょうに。」
「いやいや、そこまでしっかり見てくれたのはアイリス嬢が初めてだ!本当に親子ほど年が離れているのが悔しい!」
とても悔しそうにしている。
たぶんこの顔で本当にモテないんだろうなぁ・・・。可愛そうに。
ちなみに学園卒業までは結婚しないのも暗黙のルール。
歳の差婚もあんまりないんだよこの世界。
「そういえばアイリス嬢。先ほど王子を倒した動き、あれはどこで?」
「我流ですわ。と言っても流れは単純な話ですのよ?兵士長、小指を出していただける?」
「ほう、面白そうだ。」
すっと差し出してきた兵士長の小指を掴みぐいっと関節に無理な動きをさせる。
「ぐっ!?」
兵士長の体が痛みでふわっと浮いたのを見逃さず足払いをかけてそのまま倒す。
まっすぐ立ってる兵士長ほどの存在なら体格的に不可能だが、そのようにバランスを崩しているなら簡単に倒す事が出来る。
「この様に人体の曲げるとこには連動しているのです。そしてこの状態であれば私のような体躯でも動きを固める事も可能です。」
そういって倒れた兵士長の上に乗り関節を固めて動けないようにする。
「これが私の我流の技ですわ。」
本当は古武術なんだけどね?
けどまぁこれで納得してもらえるだろうとぱっと手を放し兵士長から降りる。
「つつ・・・!まさか抵抗していなかったとは言え大人である私が身動き一つ取れないとは恐れ入る。」
「今回のはデュッケンバルド様が受け入れたから出来た事、本来なら私のような体躯では不可能ですわ。」
「本当に惜しい!なんなら我がべルネリオス家の養女になりませんか?」
ん~兵士長の家の養女かぁ~。
貴族社会じゃよくある話だし別に断る義務はないんだよねぇ?
べルネリオス家の方が多分上だろうし。
私はお姉様が守れればそれでいい。
「兵士長!アイリス嬢の着替えの用意が出来ました。控室に侍女もおります!」
「ご苦労!まぁ今の返答はアイリス嬢のお父上にしてもらおう!あっはっはっはっはっ!」
そうして呼びにきた兵士に従って歩き控室につくと、なんかどこかで見た事あるようなメイドさんが居た・・・。
どこで見たんだっけ?
まぁそこで特に会話もせず着替えをして、訓練場につくとさっきまで見守っていた兵士達が左右に分かれ真ん中に王子と兵士長が立っていた。
「準備は出来ましたかな?ではこちらの剣をどうぞ。」
そういって渡されたのは一般的な片手剣。
けれど子供用で形はなんとなく日本刀の小太刀のようだ。
これなら武芸十八般の剣術でも居合術でも可能そうだが・・・。
文句を言われない様に今回は剣術でノシてやろう。
「では・・・はじめ!」
子供用の片手剣と言えど両手でもてるようになってはいる。
気迫と今まで研鑽した構えでどっしりと待ってやろう。
「ぐ、くそ・・・!!」
へぇ?面白い。
王子程度なら気づかず闇雲にかかってくるだろうな?位で考えてたのにそんな事は無く普通に隙を伺っている。
「ベルーナ卿。お嬢さんはどこかで剣術を習っているのですか?」
「いや、私も息子も教えたことはない。あれは剣を手に取った初めからどう動けばいいのかわかっていたようだ。」
「それにしては無駄のない動き、天性の才ですか・・・、女子でなければ近衛兵団団長程度になら問題なくなれるでしょうに・・・。」
そんなものに興味はない・・・。
私が目指すのはカレンお姉様の近衛兵のみ!
「今だ!!」
私がそんな事考えて隙を見せてあげたらまんまと引っかかった。
まっすぐ振り下ろしてくる王子の剣を体の軸を少しずらして避けて、カウンターで思いっきり胴を薙ぎ払う。
「弱すぎです、なんですかその無駄な動き。良いでしょう立ちなさい。マシな剣術になるようにみっちり矯正して差し上げましょう。」
ここまで弱いとは思わなかった・・・。
あぁダメだこんなに弱いなんて許されない・・・。
相手の隙を伺う事出来るのになんでここまでの弱さなんだ・・・!
にっこり微笑みながら家に帰る時間になるまでみっちりと第一王子に剣術の基礎である足捌きを叩き込んでやった。