UFOなんて見えない
その後も馬場は色々と弁明をしたものの、ドローンと発信機は覆し難く、そのまま警察に連れて行かれることとなった。
馬場がパトカーに乗せられていく様子を、ユリナはランサとともに見送る。
「これで事件解決ってことでいいのかしら?」
口を開いたのはユリナだ。
原田たちとともに駆けつけた後、パトカーで待機していたユリナは直接その逮捕劇を見たわけでもないため、いまいち実感がないままなのである。
「まあ、そういうことになりますね。馬場がどれほど悪あがきをするかはわかりませんが、あとは警察の仕事です。今回の調査依頼権はこれにて完了ということでOKですか?」
「そういうことになるわね」
微笑むランサに、ユリナは呆れたようにそう答えた。まあ、あの始まりから考えれば随分と派手になった事件であった。
「そういえば原田さん、ここに来るパトカーの中で愚痴っていたわよ。今回も結局ランサに手柄を持って行かれたって。……この犯行、最初からわかっていたの?」
ユリナが思い出したのは、ランサが最初に現場を見た時、この犯行を『UFO』と断言したことだ。そして結局、最初から最後までUFO絡みの事件であった。
「事実上の凶器が未確認飛行物体ってのは、まあ、それなりに。倒れていた時の宇野の首の向きは、上を向いている時に殴られたものでしたから。でもさすがに誰が犯人なのかまではわかりませんよ。その時にはまだ会ったこともない人物ですしね」
ランサはそう言って苦笑いするが、はたしてどの程度まで見抜いていたことだろうか。
ユリナには、いまもこの探偵の底が見えない。
「しかし、殺したいほど憎いんでいた相手が用意した道具を使っての犯行とは、殺した側にも殺された側にも皮肉としか言いようが無いですね」
「なにがそこまで彼を駆り立てたのかしらね……」
ユリナのつぶやきに、ランサはふと小さなため息をつき、不思議な言葉を口にした。
「正直な話、お嬢様は、UFOとかってどこまで信じてますか?」
「なによ突然あらたまって……。まあ、それなりには信じている、といったところかしら。どこかにはいると思いたいわね」
わけがわからないままそう答えると、ランサはぼんやりと空を見上げ、それから、ゆっくりと語り出した。
「それくらいのほうがいいってことですよ。それが今回の教訓。宇野はUFOの存在を盲信して、それが原因で殺されたようなものですからね」
「あれ、サークル内での勢力争いじゃなかったの?」
少なくとも自分の集めた情報やランサなどからは聞いた話ではそう認識していたし、この作戦の前のランサの報告もそうだったはずだ。
そうして馬場を動揺させ、釣るのだと。
「ええ、それであっています。その原因がUFOへの盲信度合いというわけですよ。宇野は、完全にUFOを信じていましたから」
「でも、周りはそうではなかったわけね」
「まあ、仮にもUFO観察サークルですから、私みたいにハナからまったく信じていないなんてことはないでしょうが、物事には程度があります。宇野はそれを無視して、サークルを乗っ取るほど突き進んだんでしょう。そりゃ元からいたメンバーには面白いはずがない」
「それで、殺したいほどまでいくの?」
その言葉に、ランサは無言で懐から一枚のチラシを出した。
「なにこれ。怪文書かなにか?」
「まあ見てみてください」
懐中電灯を点け、渡されたチラシに目を通す。
それはユリナの考えていたような犯行予告や恨みつらみなどではなく、いかにも素人がパソコンの基本ソフトを使って作ったような、特にセンスも見どころも感じない平凡なUFO研のチラシあった。
デザインも文章も素人丸出しで、ユリナから見てもとても人を呼べるようなシロモノではない。
「なにこれ」
あらためてそう聞き直す。
「まあ、そういう団体だったんですよ、馬場の考えていたUFO研は」
その問いに対し、ランサは少し寂しそうにそうつぶやいた。
「でも、お嬢様も知っての通り、UFO研は変わってしまった。宇野が変えてしまった。居場所がなくなるっていうのは、とてもとても辛いことですからね。ましてやUFO研は、馬場にとっても唯一の心の拠り所だった。それをあとから来た人間に土足で踏みにじられ、自分が追い出されそうになるんだから、そいつにいなくなって欲しいと思ってもなんら不思議じゃない……」
ユリナはもうなにも答えない。
その空気を察して、ランサは少し冗談めかして軽く口を開く。
「それに、UFOが宇野を殺したっていうことの意味は、実はもう一つあります」
「どういう意味よ」
「あの石が落ちてくるのは、夜の闇の中とはいえさすがに気が付く可能性があります。ちゃんと注意していれば避けることだってできるかもしれません。でも宇野がそれに気が付かないほど集中するのも、馬場の計算の中にあったんでしょう。お嬢様に行ってもらったのも馬場に対して宇野と同じような情熱を見せられると思ったからですし」
「なによそれ……」
聞いてユリナは色々な意味で呆れ返る。
自分をそんな理由で向かわせたこともだが、それよりも、宇野の宇宙への傾倒具合ががなんとも恐ろしかった。
この世界は、自分の想像を遥かに超えるような物が多すぎる。
ではそれを見抜いたランサは、いったいどこまで想像しているのだろうか。
ユリナには、今はまだなんの想像もつかない。
「……なるほど。あの宇野って爺さんは結局空を見ているつもりで、なにも見えてなかったということね」
「そういうことです、UFOの事以外いっさい興味がなかったんでしょうね。横も、足元も、空さえも」
ランサの言葉の先には、空虚ななにかが見える気がして、ユリナはゾッとする。
宇野はいったいなにを見ていたのだろうか。なにも映らないのに、UFOもどこにもいない。
「……考えてみれば恐ろしい話ね。UFOや宇宙人なんかよりもよっぽど」
そうぼやき、ユリナはあらためて空を見る。
星空の中で、なにか光が蠢いた気がしたが、いまはもうそれを無視した。




