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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
最終章

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再会 3

 その後、私達は部屋に戻り、ラインヴァイスが淹れてくれたお茶で一息ついた。今日の軽食もハムサンドだった。私はそれに手を付けず、クッキーを頬張る。


 私の隣にはシュヴァルツ。私の正面にお母さんが座り、シュヴァルツの正面にお父さんが座っている。誰も何も話さないから、部屋の中はし~んと静まり返り、私がクッキーをもしゃもしゃと食べる音だけが響いている。き、気まずい……。


「ええっと……。自己紹介でもする?」


 私は口の端をヒクつかせながらそう言った。うう……。どうしてこんな事に……。


 もとはと言えば、メーアとレイガスとガイさんをブロイエさん達に託した後、ミーちゃんがさも当然のようにお父さんとお母さんを私の部屋に招待するから……。そりゃ、話したい事はたくさんあるよ? でも、何から話し始めて良いか分からないし、心の準備だって出来てないよ……。


「葵の母の、神崎桜です」


「……父の神崎博史です」


 お母さんはにこやかに、お父さんは不貞腐れたように自己紹介をした。ほら、シュヴァルツの番だよ! 私がシュヴァルツの脇腹を肘で突っつくと、シュヴァルツがフンと鼻を鳴らす。ちょっ! 少しは愛想良くしてよ! ただでさえ、初対面の人には誤解されやすい容姿、してんだからさぁ!


「アオイの夫のシュヴァルツだ」


 シュヴァルツの自己紹介に、お父さんが動きを止めた。呆然自失とはこういう事を言うのかもしれない。私達の雰囲気とか状況とかで、恋人かな、くらいは想像してはいたんだろうけど、まさかの夫宣言だもんね。そりゃ、硬直もするよね。口から魂、出ちゃうよね。


 お父さんとは対照的に、お母さんは平然とお茶を飲んでいる。肝が据わっているのか何なのか……。良いのか、これで?


「お母さん? 何でそんな平然としてるの? 驚かないの?」


「何で? さっき、全てを知っているって言わなかった?」


「……言ったけど、その全てってのに、これも入ってるの?」


「ええ」


 お母さんはにっこりと笑う。う~む。どうなってんだろう? どこから情報を仕入れているんだろう? もしかして、行く先々で噂話の収集でもしてたのか? ご近所さんとの井戸端会議、大好きだし。


 ……あんまり追及するのは止そう。反対されないならそれで良いし。余計な詮索をして、お母さんにへそを曲げられて結婚に反対された日には、説得に何年掛かる事やらって感じだからね。


「……こんな勝手に……。結婚など、許さない……」


 お父さんは怖い顔でぼそりと呟いた。やっと動きを再開したと思ったら、開口一番にこれ? そりゃ、勝手に結婚したのは悪いと思うよ? 事後承諾だよ? でも、こうして再会出来るなんて思ってなかった訳だし、挨拶だって出来る状況じゃなかったじゃない。もし、挨拶が出来る状況だったら、ちゃんと二人で挨拶に行ったよ。そこの所、何で分かってくれないかなぁ!


「どれだけ心配したと思ってるんだ! それを……こんな、異世界で結婚だと! 許せると思ってるのか!」


「はいはい。お父さんはちょっと黙っててね。葵ちゃん、貴女、これで良いの? 元の世界に戻りたいとか思わないの?」


「それは……」


 お母さんの問いに、私は言いよどんだ。元の世界、か……。こっちの世界に来て一年弱。生まれ育った環境とは全く違うけれど、立派に生活が成り立っているし、何だかんだ幸せにやっている。それもこれも、シュヴァルツのお蔭だ。


「一時は、元の世界に戻りたいと思った。だって、お父さんもお母さんも元の世界にいると思ってたから……」


「今は?」


「戻りたくない……」


「お父さんとお母さんが元の世界に帰っちゃっても?」


「うん。私、こっちの世界でシュヴァルツと生きていく。これは、もう決めた事だから」


 私は拳を握り締め、きっぱりと言い切った。ごめんね、お父さん、お母さん。私はシュヴァルツと離れて生きていくなんてもう考えられないんだ。彼とずっと一緒にいたいの。親不孝者かもしれないけど、どうか許して下さい……。


 握り締める私の手に、シュヴァルツの手がそっと重ねられる。シュヴァルツの顔を見上げると、彼は目を細めて微笑んでいた。私もそれに答えるように微笑みを返す。


「もう良い! このバカ娘! 父さんと母さんは、元の世界に帰るからな!」


 お父さんはソファから立ち上がると、顔を真っ赤にしてそう叫んだ。お母さんは、そんなお父さんの隣で悠々とお茶を飲んでいる。きっと、お父さんのこの反応も、お母さんにしてみたら想定の範囲内なのだろう。


「母さん! メーアに交渉して元の世界に帰ろう! こんなバカ娘、心配したこっちがバカだった!」


「あら。帰るならお一人でどうぞ? 私もこっちの世界に残るから」


「なっ!」


 お母さんのシレッとした答えに、お父さんは本日二度目のフリーズを起こした。私も一瞬、フリーズしてしまう。


 まさか、お母さんが元の世界に帰る事を断るなんて……。変わり者だとは思ってたけど、ここまで変わり者だったとは……。恐るべし、お母さん。


「だって、こっちの世界の方が楽しそうじゃない? 葵ちゃんはいるし。葵ちゃんも、お母さんがこっちに残った方が嬉しいでしょ?」


「え……。あ、うん……って、違う! お母さん、仕事は? 良いの? 栄養士の仕事、大好きだったんじゃないの?」


「こっちでも同じような仕事、探すわよ」


「でも――!」


「それにね、いつか孫の顔だって見られるでしょ? それを考えるとね、やっぱりこっちの世界の方が良いかなぁって」


 お母さんが嬉しそうにうふふと笑う。私の顔に熱が集中した。


「ままま、孫って! お母さん、気が早いよ! まだ、お披露目だって終わってないんだよ! 私達、結婚したてのほやほやなんだよ!」


 そりゃ、いつかそういう日が来るのかもしれないけど、改めて言われると恥ずかしい! ああ、もう! 顔から火が出そうだよぉ! 私は真っ赤になっているだろう顔を隠すように両手で覆った。


「でもねぇ……。実は、ちょっと心配な事もあるの」


「な、何……?」


 顔を上げ、お母さんの顔色を窺う。お母さんは少し困ったような顔で、頬に手を当てていた。


 心配な事、ねぇ……。自慢じゃないが、お母さんの心配な事が全く予想出来ない。だって、生活環境がどうのこうのとか、そういう常識的な事を言う人じゃないんだもん。斜め上の心配なのは分かるんだけど、具体的に何が心配なのか、娘の私のもさっぱり見当がつかない。


「葵ちゃんもシュヴァルツさんも目つき悪いじゃない? 生まれてくる子にも遺伝するんじゃないかと思って……。お母さん、それが一番心配なの!」


 そんな心配かよッ! 確かに、私もシュヴァルツも、お母さんが言うように目つきが悪い。それは否定出来ないし、するつもりも無い。だって、シュヴァルツは悪人顔だし。私は私で、仲の良い友達にも「今、怒ってる?」と聞かれるような不機嫌顔をしているし。


 私の場合、目力がある事に加え、口角が下がり気味なのと眉がへの字につり上がっているのが不機嫌顔の原因だ。ただ、それはお父さんに似ただけであって、私が悪い訳じゃない。お母さんがお父さんと結婚したから、こんな顔の娘が生まれたんだ!


「あ。でも、美形は確定なのかしら? ああ、今から楽しみだわぁ。まずは女の子ね! それで、次に男の子! 一姫二太郎って昔から言うじゃない? 孫が生まれたら、お母さんが真心こめて離乳食作ってあげるからね! 何なら、孫の面倒だって全面的にみるわよ!」


「そ、そう……。ありがとう……」


 私は脱力気味に答えた。まあ、お母さんがこの世界に残ってくれるのは心強い。それに、シュヴァルツとの結婚に反対されないどころか、賛成に回ってくれるのは非常に有り難い。あとは、お父さんの説得なんだけど……。あ。未だフリーズしたままだ。このまま放っておいたら、お披露目の日までフリーズしてないかなぁ……。


 そんな私の思惑に反し、暫くするとお父さんは動きを再開した。ギクシャクとした動きでソファに腰を下ろす。きっと、色々葛藤があるのだろう。お父さんだって、元の世界での仕事がある訳で……。大切な教え子だっているし、教師という仕事に誇りを持っていたし……。


「あの……。お父さん?」


「……何だ」


「結婚なんて大切な事、事後承諾になってごめんなさい」


 お父さんは不機嫌そうに口をへの字に曲げ、私から目を逸らした。沈黙が場を支配する。


「……あの、ね。あと十日くらいで、私とシュヴァルツの結婚のお披露目パーティーがあるの。色々言いたい事はあるだろうし、許せないって気持ちも分かってるんだけど……」


「出席しろとでも言うのか?」


「出て、欲しい……」


 お父さんは再び沈黙した。この沈黙が答えなのだろうか? 私とシュヴァルツのお披露目には出てくれないのだろうか? やっと、こうして再会出来たのに……。まさか、ここまで結婚を反対されるなんて……。これでお別れじゃ、勘当同然だよ……。


「父上。一つ宜しいか」


「ああん?」


 お父さん。流石にその返事は大人気ない。シュヴァルツに父上って呼ばれた事とか、彼が腕を組んで踏ん反り返っている事とか、色々気に喰わなんだろうけど……。せめて、もう少し大人の対応してよ!


「アオイはこの世界で心細い思いをしていた」


「アンタはそんな葵の心に付け込んだんだろう。最低だな」


「それは否定しない。恨み言は聞く。私を殴りたいというのなら甘んじて受ける。だが、こうして再会出来た事、まずはアオイと共に喜んでやってはくれまいか。アオイはずっと、父上や母上に会いたがっていた。元の世界に戻りたがっていた。たった一目でも良いから家族に会いたいと泣いていた。アオイの心、汲んでやって欲しい」


「っ――!」


 ぐうの音も出ないとは、こういう事なのだろうか? お父さんは顔を真っ赤にして、拳を握ってプルプル震えている。しかし、シュヴァルツに何も言い返せなかった。


「滞在する部屋は用意する。ラインヴァイス」


「はっ」


「二人に部屋を。南東の塔が良いだろう」


「かしこまりました」


 ラインヴァイスはシュヴァルツに深々と頭を下げると、フッと虚空に姿を消した。南東の塔って、この部屋から近いのかな? 行き来しやすい距離だと良いな。今はお父さんも色々混乱しているだろうけど、落ち着いた頃にもう少し話したいし。


 あ~あ。せっかく、お父さんとお母さんに再会出来たのに、何でこう、上手くいかないのかなぁ……。これも全て、私達をこの世界に召喚したメーアが悪い! 絶対に許さないからな、メーア! 葵ちゃん印のハリセンも戻って来た事だし、一発ぶん殴ってやる!

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