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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
最終章

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再会 2

「やめなさ~い!」


 そう叫び、フードの女が懐から取り出した武器で、メーアとレイガスを思いきり殴った。乾いた音が二度、部屋に響き渡る。殴られたメーアとレイガスは、頭を抱えてその場にうずくまった。あれは痛い。目から星が散ったはずだ。


 私は、フードの女の手にした武器に見覚えがあった。アオイちゃん印もあるし、間違い無い。あれ、私のハリセンだ……。そっか。私、あのハリセン、中央神殿に置いて来てたんだ……。


 空気が凍るとは、正にこの事だろう。この場にいる全員が戸惑った表情をしている。いきなり変な武器で味方を殴りつける場面を見せられたら、誰だってフリーズするわな……。どう反応したら良いか、分からなくもなる。


「ええと……。どうしてここにいるの?」


 私は困惑気味に問い掛けた。さっき叫んだフードの女の声、それに彼女の取った行動に、私は覚えがあった。普通だったらここにいるはずの無い人物だけど……。でも、ミーちゃんがこの世界に召喚されているくらいだし……。


 フードの女がゆっくりと、それこそもったいぶるようにフードを取る。肩口までの黒髪と、実年齢より若く見える化粧気の無い顔。穏やかに微笑む表情は、私の記憶そのままで、何も変わっていない。


「お母さん」


 脱力気味に呟いた私に、シュヴァルツ達の視線が集まる。驚愕に、あらん限り目を見開いている。ぽろりと目玉が落ちそうだ。回収するのが大変そうだから、目玉、落とさないでね?


「んも~! 葵ちゃんってば、久しぶりに会った挨拶がそれなの?」


 お母さんは満面の笑みを浮かべた。場違いな笑顔だと思う。今はもっとこう、シリアスな場面じゃないか? まあ、かく言う私も、呆れ果てた顔をしているだろうし、お互い様か……。


「じゃあ、何しに来たんだとでも聞けば良いの?」


「違う違う。何でそんな悪役みたいな台詞なの? 今は、もっとこう、おかあさ~んって涙を流しながら抱き付くような、感動の再会の場面だと思うの」


「いやいやいや。お城に力ずくで乗り込んできて、何、勝手な事言ってんの?」


「え~? だって、こうでもしなきゃ、葵ちゃんに会えなかったでしょ? 違う?」


 違うか違わないかと言われたら、違わないと思う。でも、それはそもそも、メーアとかレイガスとか、中央神殿の要人を連れて来るから大騒ぎになった訳で――。


「母さん! 何でそんな呑気にしてるんだ! やっと葵を助け出せるって時に!」


 叫んだのはフードの男。うん。この人の声にも覚えがある。というか、ミーちゃんとお母さんがこの世界に召喚されていたって事は、最後の一人はこの人しかいないだろう。これで全く知らない人だったら、逆にビックリする。


「助け出すって何? お父さん」


 呆れ気味の私に向き直ると、お父さんはフードを取った。困惑気味に私を見つめている。


「だって、葵がそいつらに攫われたって……」


「攫われてないし。そもそも、私を攫ったのは、そっちの人達だから。この竜王城の人達は、私を助けてくれた人達だから」


「ええ? じゃ、じゃあ、あれは何だ!」


「あれ? 何?」


「中央神殿の酷い有様は? そいつらが無理矢理、葵を攫ったからじゃないのか?」


 私は言葉に詰まった。確かに、はたから見たら中央神殿を壊して、私を攫った悪の軍団に見えなくもない……。そもそも、あの時、最後にラインヴァイスのブレスで中央神殿を壊す意味、あったのだろうか?


「あ、あれは……。足止め! そう! 足止めの為だよ! そうだよね、シュヴァルツ!」


「ああ」


 短く返事をしたシュヴァルツの頬に一筋の汗が流れる。……あれ? もしかしてシュヴァルツってば、あんまり深く考えず、ラインヴァイスに中央神殿破壊させた、とか……? ま、まさかね! あは、あははっ! そんな訳無い、そんな訳無い。うん。そう思っておこう。


「じゃあ、この人達の言っていた事は嘘だったのか?」


「ん? 何が?」


「魔王に囚われていた葵を助け出したは良いが、再び魔王に攫われた、と。そう聞いたんだが?」


「ふ~ん。そんな説明、されてたんだ。それ、真っ赤な嘘だよ。竜王城の人達は、この世界で途方に暮れていた私を保護してくれたの。んで、穏やかに暮らしていた私を攫って、この国に戦争を仕掛けようとしたのがそっちの――中央神殿の人達。因みに、その人達、私を都合良く操る為に、記憶を失う呪術まで掛けたんだから。どっちが悪いか、もう分かるよね?」


「……っ!」


 怒りでわなわなと震えるお父さん。顔が真っ赤だ。これ、雷が落ちるな。うちのお父さん、曲がった事が大嫌いだしなぁ。何たって、生徒指導の責任者、任せられるような人だし。私、し~らない。


「お前らぁぁぁ!」


 お父さんの叫びが城中に木霊した。ちょいと、お父さん。このお城、住んでいる人がたくさんいるんだよ。みんなに迷惑だから、少し声を押さえてくれると助かります。


 それにしても、この状況で、よく手が出ないものだ。私なら、メーアとレイガスの二人、ボコボコにしていると思う。流石は教師。怒っていても、ちゃんと理性は保っていられるのね。改めてお父さんを尊敬した。


「んで。お母さんは何でそんなに冷静なの?」


「ん~? 知ってたからよ」


「は? 何を?」


「ふふふ。全てを」


 まさかの発言に、私の目が点になる。全てを知っていた? どういう事? 流石に、この状況で冗談を言う訳無いだろうし……。


「ええっと……。メーア達が嘘を吐いていた事を知ってたの?」


「そうよ。知らないのはお父さんだけよ?」


「じゃ、じゃあ、嘘を吐いているのを分かってて、お母さんは彼女達と行動を共にしたの?」


「ええ。だって、葵ちゃんには会いたかったし、ガイさんには協力して欲しいって頼まれちゃったし。私、ノーと言えない典型的日本人だから、つい、ガイさんのお願いにオッケーしちゃったのよね」


「お願い? どんな?」


「打倒メーア」


「はあ?」


 何でガイさんが打倒メーアを掲げるの? ガイさんって、メーアの側近じゃないの? 私の頭にクエスチョンマークが飛び交う。


「ちょっと、意味が分からないんだけど……」


「ん~。ガイさん。説明、お願い」


「はい」


 ガイさんが語った内容は、平たく言うとこうだった。打倒メーアを掲げたのは、先代メーアが暗殺されたからだ、と。


 元々、ガイさんは先代メーアの側近だったらしい。実力を買われて現メーアの聖騎士を勤めているが、先代メーアが急死した際、一緒に死のうと思った程、彼女に忠義を尽くしていたとの事だった。


 そもそも、先代メーアの急死は、不可解な点がある。だって、メーア大陸には治癒術師がいるんだから。治癒術師に診てもらえないような身分の低い人ならいざ知らず、聖女メーアという高い地位にある人が、病にしろ怪我にしろ、急死するなんて事、本来ならあり得ないんじゃないだろうか? 冷静に考えれば分かる事だ。でも、先代メーアは急死した。


「先代様の死は、それを望む者によって仕組まれたと、そう考えております」


 ガイさんはそう締め括った。先代メーアの死を望む者、ねぇ……。二名を除く、この場にいる全員の視線が一点に集まる。私も彼らを見つめながら口を開いた。


「で? これからどうするつもり? まさか、私達にそいつらを殺せとでも?」


 私の問いに、ガイさんは苦虫を噛み潰したような顔をする。きっと、彼の狙いは、私達との戦いでメーアとレイガスが死ぬ事だった。もしかしたら、どさくさに紛れて彼女達を殺すつもりでいたのかもしれない。でも、私達に戦う意思は無い。勿論、メーア達が攻撃を仕掛けてきたら、こっちだって応戦するしか無い訳なんだけど……。今はお父さんが無言の圧力で彼らの動きを封じているし、まあ、大丈夫だろう。


「んも~! 葵ちゃんったら、冷たいわねぇ」


「じゃあ、お母さんは私にメーアを殺せって言うの?」


「違う違う。ただね、ちょっとくらい協力してあげても良いと思うのよ」


「お家騒動程、面倒な事は無いんですけど? そんなのに協力して、こっちにメリットはあるの?」


 私は剣を収めると、腰に手をやり、仁王立ちした。面倒事は御免被りたい。こっちにだって、色々と予定があるんだから。今日だって、謁見が中途半端に中断しちゃったし。来てくれた人達、たくさんいたのに。


「メリット、ねぇ……。何かある? ガイさん?」


「……いえ」


 ガイさんは目を伏せ、ゆっくりと首を横に振った。ガイさんには申し訳ない、とはあまり思わないけど、メリットが無いのならこちとら協力するほど暇じゃない。あと十日程でお披露目もあるし。私達だって色々忙しいんだよ!


「んじゃ、交渉決れ――」


「待て、アオイ」


 私を制止したのはシュヴァルツだった。何かを考えるように眉間に皺を寄せている。別に、考えてあげる必要なんて無いと思うんだ。だって、ガイさんは悪い人ではなさそうだけど、離宮から私を連れ去った張本人だし。今回だって、私達を利用する気満々だった訳だし。出来るなら、もう関わり合いになりたくないというのが私の本音だ。


「ガイとやら。お前は、先代メーアの側近だったと言っていたな」


「……はい」


「さすれば、お前自身は穏健派という事か」


「はい」


 ガイさんが頷くのを見て、シュヴァルツがニヤリと笑った。悪巧み、じゃなかった、良い事を思い付いたらしい。しかし、ガイさんとお父さんは、シュヴァルツの表情に警戒心を顕わにした。まあ、シュヴァルツの事を知らなければ仕方ない反応だとは思うけど、失礼だよ、それ。


「そんなに警戒されると、いくらシュヴァルツでも協力しないと思うよ?」


 私の言葉に真っ先に反応したのはお父さん。疑り深い目で、シュヴァルツと私を見比べる。


「協力? そんな悪そうな顔してか? 何か企んでいるの間違いだろう」


「この人は、こういう顔のつくりなの! それに、色々企んでたのはガイさんの方でしょ! そうやって、人を見た目で判断するから騙されるんじゃない!」


「別に、人を見た目で判断している訳じゃないぞ!」


「じゃあ、何であんなあからさまに警戒した顔してたのよ! シュヴァルツの事、何も知らないくせに!」


「いや……それは……その……」


「ほら! 見た目で判断してたんじゃない! もう良いよ。シュヴァルツ、協力してあげる必要なんて無いよ!」


 私の言葉に、シュヴァルツが首を横に振る。あれ? シュヴァルツ、協力してあげる気満々なの? 何で……?


「ガイ。お前は、先代メーアの仇を取るつもりだったのか」


「いえ。私はただ――」


「何だ」


 言いよどんだガイさんを、シュヴァルツが真っ直ぐ見つめる。そんなシュヴァルツの視線に、ガイさんは拳を固く握り締め、意を決したように口を開いた。


「私は先代様の遺志を継ぎたかった。あの方の夢を叶えて差し上げたかった!」


「先代の遺志とは」


「戦の無い世を、と。強硬派が権力握る現状では、それが叶わないと……」


「そうか。それが、メーアの死を望んだ理由か」


「……はい」


 消え入りそうな声で肯定したガイさんは、力なく項垂れた。そんな彼を、メーアとレイガスが取り殺す勢いで睨んでいる。そりゃ、謀殺されそうになれば、誰だって怒るわな……。でも、もし、先代メーアを、現メーアと彼女の後ろ盾であるレイガスが暗殺しているのならば、身から出た錆と言う。まあ、暗殺の証拠があるわけでも無いだろうし、その辺の真相は今となっては分からないだろうけど。


「メーアが死した後、お前はどうするつもりだった」


 シュヴァルツの問いに、ガイさんは答えなかった。しかし、言わなくても彼の顔を見ていれば分かる。彼は……死ぬつもりだ……。先代メーアの元に行くつもりだった。そこまでの決意をしていたんだ……。


「……良いだろう。お前の望み、この竜王が叶えてやろう」


「ちょっと! シュヴァルツ!」


 シュヴァルツの答えに、私は思わず彼の名を叫んだ。まさか、メーアをこの場で殺すつもり? こんな、あっさり決めて良いの? 人の生死って、もっと重いものじゃないの?


「駄目だよ! 絶対に駄目!」


「何故。アオイも望んでいた事であろう」


「私、そんな事、望んでない! そりゃ、メーアの事は大嫌いだけど、死んで欲しいだなんて思ってない!」


「……何を言っている」


「……へ?」


 私とシュヴァルツは顔を見合わせた。私、何か勘違いをしていた、のかな……? でも、シュヴァルツはガイさんの望みを叶えるって言ってたし……。ガイさんの望みって、メーアの死じゃないの?


「ええっと……。メーアは殺さないの?」


「アオイが殺せと言うのならば殺すが、お前はそれを望まぬだろう」


「う、うん……。でも、願いを叶えるって……。メーアを殺す事じゃないの?」


「否。戦いの無い世を作る。それを叶えてやろうと言っている。人族との和平は、アオイ、お前が強く望んだ事だ」


「あ……」


 そっちね。てっきり、この場でメーアを斬り捨てるのかと思ったよ。焦ったぁ。それにしても、シュヴァルツは、私が言った事、ちゃ~んと覚えてくれていたんだ……。こんな重大な選択を迫られる場面でも、私の望みを最優先してくれるんだぁ。ちょっと、いや、かなり嬉しいかもしれない。へへへ。


「ブロイエ。お前に任せる」


「面倒事は全部、僕に押し付けるのね……」


「その為の宰相であろう」


「はいはい。そうでした、そうでした」


 ブロイエさんは苦笑すると、メーアとレイガスへ視線をやった。その目つきはどこか値踏みするよう。どうしたら話が丸く収まるか算段しているのだろう。まあ、ブロイエさんに任せておけば安心だと思う。何たって宰相だし。こういう悪巧み、じゃなかった、謀略、でもなくて、交渉は、得意中の得意だろう。頑張れ、我らが宰相! 頼りにしてま~す!

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