贈り物 2
地底王からお祝いの品が届いてからというもの、他国の王様達からも次々とお祝いの品が届くようなった。胸鎧やら脚鎧やら籠手やら何やら。鎧一式が今日、無事に揃った。他国の王様同士で相談したのか何なのか、素材は全てアダマンティンで統一されている。
ラインヴァイスと一緒にお祝いの品のリクエストを考えている時、王様ごとに別々のパーツを頼んだ方が良い鎧が手に入るって言われたんだけど、正直、私はこうして手元に鎧が届くまでは無茶苦茶不安だった。だって、デザインや色味に統一性が無くなるんじゃないかな、なんて思っていたから。でも、私の心配は杞憂だったらしい。
私は今、届いたばかりの鎧を身に纏っている。それを色々な角度から確認するように鏡台の前でくるくる回り、乾いた笑いを漏らした。
「ははは……。凄い鎧だね、これ」
「ですね」
ラインヴァイスも、この鎧には流石に苦笑しか出来ないみたい。この鎧、一言で言うなら派手だ。アダマンティンには独特の光沢があり、ツヤツヤテカテカしている。そこに色々な魔石が嵌め込んであるものだから、ツヤツヤテカテカキラキラの、大層派手な鎧に仕上がっている。これ、いざとなったら私が戦場で着るんだよね? 派手すぎて悪目立ちしないか? 集中攻撃とかされない? ちょっと心配……。
「鎧って、こんなんで良いの? もっと、地味で無骨な物を想像してたんだけど?」
「少し派手ですかね。しかし、これはこれでありじゃないかと……」
いやいやいや。ありか無しかと言われたら、これ、無しだと思うよ? 煌びやか過ぎるでしょ? 戦場はパーティーじゃないんだから、こんな派手な鎧で着飾る必要なんて皆無でしょ? 私、戦場なんかで目立つの、絶対に嫌だよ。命が幾つあっても足りないよ!
「これ、遠くからでも目立つでしょ? ダメじゃない?」
「素材がアダマンティンですから、ちょっとやそっとの攻撃では怪我一つ負わないかと……。弓や剣ではこの鎧には傷一つ付けられないですし、魔石による魔術加護もありますし……」
「でも、集中攻撃されて魔術が雨みたいに降ってきたら、流石にこの鎧でも防ぎきれないでしょ?」
「そ、それは、竜王様に守って頂いて……」
「それ、足手まといじゃない? 役に立ってないよね?」
「……では、後方からの援護など如何ですか?」
「何で援護しろって? 光属性魔術の遠距離攻撃、ドラゴンブレスみたいに前方の味方まで巻き込むの、ラインヴァイスも知ってるよね?」
「う……。で、では、皆の応援など如何でしょう? アオイ様が戦場にいれば、皆の士気も高まるというもので……」
「私、応援係?」
「そ、そうとも言いますね。あは、あはは」
ラインヴァイスが誤魔化すように笑う。そんな彼の頬に、ツッと一筋の汗が流れたのを私は見逃さなかった。
この鎧、結婚のお祝いとして貰った物だし、あまり大っぴらに文句は言えない。でも、こんな派手な鎧着るの、絶対に嫌だ! もっと普通の鎧が良い! これじゃ、頭のおかしな子にしか見えないよ!
「もっと普通の鎧が良かったのに……」
「ま、まあ、他国の王達がアオイ様の為に一級品を用意した結果、こうなった訳ですし……」
私がラインヴァイスの言葉に溜め息を吐いた直後、すぐ後ろに人の気配が出現した。ラインヴァイスがその場で片膝を付き、胸に手を当てて頭を下げる。彼がこのポーズを向ける人物は一人しかいない。
ギギギと音が鳴りそうな動作で振り返ると、私の予想通り、シュヴァルツが腕を組んで立っていた。彼は私を真っ直ぐ見つめ、片眉を上げて口の端を持ち上げている。私の鎧姿がそんなに興味深いか。そうかそうか。でも、私的にはこんな仮装みたいな鎧姿、シュヴァルツに見られたくなかったよ! すぐに脱ぐ予定だったのに! 間が悪いよ!
「似合っているな」
いやいやいや。これ、似合いたくないんですけど。こんな派手な鎧が似合うとか、私、シュヴァルツの中でどんなキャラなの?
「似合わないよ。と言うか、こんなド派手な鎧、似合いたくないよ! 普通の鎧ならいざ知らず」
「そうか。王達が贅を凝らせて作らせた鎧、アオイは気に入らなかったのか」
「気に入る気に入らない以前に、鎧としてどうなの、これ。戦場で目立つでしょ!」
「ああ。目立つだろうな」
「それじゃあ私、集中攻撃されちゃうじゃん!」
「心配無用だ」
これは……。シュヴァルツが守ってくれると取って良いの? それは素直に嬉しいけど……。こ、こら、ラインヴァイス! 生暖かい目でこっち見るな!
「わ、私、シュヴァルツの足手まといになっちゃうじゃん!」
「アオイが戦場にいるだけで皆の士気が上がる。それで十分だ」
「私、応援係じゃないよ?」
「ならば、後方でも役立てるよう、結界術を本格的に学ぶか」
「……シュヴァルツ? もしかして、私を結界術師に転向させたいの?」
シュヴァルツは私の問いに答えなかった。ニヤリとした笑みを浮かべ、ポンポンと私の頭を軽く叩くとソファへ向かう。私はそんな彼の背を見つめ、小さく溜め息を吐くと鎧を外し始めた。
この鎧、難儀な代物だなと思う。取柄は防御力が無茶苦茶高い事だけど、欠点は派手で遠目でも目立つ事。戦場では集中攻撃を受ける恐れすらある。そうなると、私を守る為にシュヴァルツが動く訳で、そんなシュヴァルツを守る為にラインヴァイスや他の兵が動かなくてはならない。もしかしたら、そのせいで味方が怪我を、いや、命を落とす可能性だってある。
それを避けるには、私は守りが硬く、攻撃が届かない最後方で味方の応援をするしかない。もし、結界術をラインヴァイス並みに使えるのなら、後方支援でも役立てるかもしれないけど、そうなる為には結界術を本格的に学ばなくてはならないだろう。そりゃ、結界術は苦手ではないけど、一番得意なのは光属性の攻撃魔術なんだ。そんなの納得出来ないし、勉強効率だって悪い。それに、もし、ラインヴァイス並みに結界術が扱えるようになったら、私はこの仮装みたいな鎧自体、着なくなると思う。そうすると、目立たなくなる訳で、前線に出ても……。
いやいやいや。前線に出るには鎧が不可欠だ。やっぱり、この仮装鎧は着ないと駄目だな。私が前線に出るのを防ぐ足枷みたいだ。……もしかして、私が前線に出られないように、シュヴァルツが他の王様に頼んだなんて事は……。いや、流石にそれは考え過ぎ、か……。
いっその事、この鎧、絵の具で真っ黒に塗っちゃおうかなぁ。シュヴァルツに、「これでシュヴァルツとお揃いだね」とか何とか言ったら、許してくれたりなんて……。いやいや。シュヴァルツが許してくれても、ラインヴァイスとローザさんに怒られそうだな……。雷が直撃するのは御免被りたい。




