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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
最終章

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贈り物 1

 最近、めっきり冷え込むようになり、朝晩は部屋の暖炉に火を入れないと凍えるようになってきた。暖炉の前は、いつの間にかミーちゃんの指定席となった。彼女は今日もそこで丸まって寝いている。白い毛玉が転がっているみたいだ。


 あと一月程でお披露目だ。着々とパーティーの準備も整ってきているらしい。私は、新たに部屋に運び込まれた小さめのクローゼットを開いた。そこには、真っ白いドレスが飾られるようにして掛けられている。


 薔薇っぽい花のコサージュを、大きく開いた胸元にこれでもかと言う程ふんだんに使った、ノースリーブの純白のドレス。二の腕辺りまで隠れる長い手袋の縁にも、これでもかと、小さい薔薇の花っぽいコサージュが付いている。このドレスがサムシングニュー。


 その上から、お披露目の当日は寒いだろうからって、シュヴァルツから貰ったという、雪狼の毛皮を使った真っ白いマントを羽織る予定になっている。これがサムシングオールド。


 当日付けるアクセサリー類も一緒に飾られている。光沢のある真っ白い石をたくさん使い、花のモチーフが連なるように編であるネックレスをローザさんに借りた。快く貸してくれたけど、絶対高いよ、これ。普段使いじゃないからとか何とか言ってたし。これがサムシングボロウ。


 頭の飾りのヴェールは短くしてもらい、顔は隠れないようにしてもらっている。だって、お披露目のそもそもの目的って、シュヴァルツの妻になった私の披露だし。顔、隠れていたら意味が無いから。そして、頭のコサージュはドレスと色違い。青で作ってもらった。これがサムシングブルー。一生懸命考えてサムシングフォーまで揃えた。なのに――。


 私はドレスに手を伸ばし、溜め息を吐いた。実は、まだ一度もこのドレスの衣装合わせをしていない。だって、そんな気分になれなかったから。このドレスを見る度、憂鬱な気分になる。別に、お披露目が嫌な訳でも、シュヴァルツが嫌な訳でも無い。ただ、私、ここでこうしていて良いのかなって、私だけ幸せになっても良いのかなって、そう思ってしまうんだ。


 こんな風に考えてしまう原因に心当たりはある。私が中央神殿に攫われたせいで消えてしまったかもしれない、シュヴァルツの妹の魂である精霊リーラちゃん。彼女が本当に消えてしまったのか、それとも、未だ中央神殿に取り残されているのかは分からない。でも、彼女の事を考えると、言い様の無い悲しみが私の心を支配するようになった。


 ただ、リーラちゃんの無事を確かめる為に、中央神殿に殴り込みを掛けようとか、そんな事は一切考えていない。だって、多かれ少なかれシュヴァルツも、そしてこの国、いや、この世界も巻き込む事になるから。それこそ、戦争になってしまうかもしれないから。だから、私に出来る事なんて何も無い。そんな事、重々承知している。こうしてウジウジしていても仕方ないんだ。前向きにならないと……。


 何度目になるか分からない溜め息を吐いた直後、部屋の扉がノックされた。慌ててクローゼットの扉を閉め、どうぞと返事をする。部屋を訪ねて来たのはラインヴァイスだった。手に、大きな包みを持っている。


「何? その包み……」


「祝いの品です」


 祝いの品……。そう言えば、前、他国の王様や偉い人にそんなのをリクエストしたな。剣とか防具とか魔道書とか……。早速届いたんだ。思っていたよりずっと早い。てっきり、お披露目の当日にでも手渡されるものかと思ってた。


「随分早いのね。これ、誰から?」


「ええと……」


 ラインヴァイスは包みに付いていた手紙の差出人を確認した。そして、可愛らしい笑みを零す。


「地底王様からです」


「地底王……。確か、魔剣頼んだ王様だっけ?」


「ええ。これで再び、魔術を使えるようになりますね」


 実を言うと、私は今、魔術が使えない。魔法陣の勉強は捗っているが、肝心な物を持っていないから。リーラちゃんと一緒に失ってしまったから。――魔力媒介。これが無いと、この世界では魔術が使えない。


「開けても良いのかな? シュヴァルツ、呼んだ方が良い?」


「ええ、そうですね。こういった品を一緒に見るのも楽しいかと思いますよ」


 ラインヴァイスの言葉に、私は口の中で小さくシュヴァルツの名を呼んだ。直後、すぐ後ろに人の気配が出現する。振り返ると、シュヴァルツが腕を組み、私を見下ろしていた。何故か、ブロイエさんも一緒にいる。


「どうした」


 シュヴァルツが硬い声でそう言う。どことなく、彼から緊張感が漂っているのは、私の気のせい……じゃないな。何かあったと思ったのだろう。余計な心配をさせてしまったかもしれない。ラインヴァイスに呼んで来てもらえば良かったな。


「あの、ごめん。緊急事態じゃないんだけど……」


「用があったのだろう」


「あ、うん。お祝いの品が届いたから、シュヴァルツと一緒に見ようと思って……」


「そうか」


 シュヴァルツはホッとしたように少しだけ表情を和らげると、ソファへと向かった。私もその後に続く。ブロイエさんも当たり前のようにソファへと移動した。仕事、しなくて良いのかな? 後でローザさんに怒られても、私、知らないよ? 私が誘ったのは、シュヴァルツだけだからね?


「アオイ。誰からだ」


「地底王さんだって」


「ほう。では、魔剣か」


「うん。これで私も魔術、使えるようになるね」


「ああ、そうだな」


 頷いたシュヴァルツの表情が険しくなった。やっぱり、私が魔術を使えるようになる事、手放しには喜べないらしい。でも、私だって戦う術が欲しい。いざという時、大切な人を守れる力が欲しい。だから、シュヴァルツの表情の変化に、敢えて気が付かないフリをする。私は何も見ていない。何も気が付いていない……。


「じゃあ、開けるね」


 私は、ラインヴァイスがローテーブルの上に置いてくれた包みに手を伸ばした。飾り気も何も無い、シンプルな包みに、地底王の人柄が感じられる。外見より中身勝負の人なのだろう。私、そういう人嫌いじゃない。


 丁寧に包みを解く。すると、一振りの長剣が姿を現した。私が剣の稽古で使っている剣や、シュヴァルツやラインヴァイスの腰の剣と長さは大体同じ。この世界では、これくらいが一般的な剣の長さなのだろう。飾り気の無い包みとは対照的に、剣の柄には煌びやかな装飾が施されていた。ド派手な剣だな……。私は鞘から剣を引き抜くと、ローテーブルの上に戻した。


 刀身には不思議な光沢のある金属が使われていた。この光沢、アイリスの持っている杖と同じだ。きっと、素材が一緒なのだろう。柄は刀身とは素材が違うらしく、光沢の少ない、銀色の金属で出来ていた。そこに、護符で使うような魔術的な模様が彫り込まれている。目を見張るのは、柄のそこかしこに嵌められている、大小さまざまな石だ。一番大きな石は、ラインヴァイスの剣の柄やアイリスの杖に嵌っているのと同じ、透明な石。ラインヴァイスの剣の石と同じくらいの大きさだろうか? その周辺に、色とりどりの石が嵌め込まれている。これ、全部魔石? まさかとは思うけど、魔石、全部の種類が嵌めてあるなんて事、無いよね……?


「これは何とも……」


 ラインヴァイスが呆れたように呟いた。思わず彼の顔を見ると、呆れたように笑っていた。ふとブロイエさんを見ると、彼もラインヴァイスと同じような笑みを浮かべている。この二人が呆れて思わず笑っちゃう剣って……。これ、実はとんでもない代物なんじゃ……。私の口の端がヒクヒクする。そんな私達をしり目に、シュヴァルツだけは表情を変えていない。冷静に剣を観察していた。


「ラインヴァイス。地底王からの手紙があっただろう」


「あ、はい」


 ラインヴァイスはシュヴァルツに手紙とペーパーナイフを差し出した。シュヴァルツは慣れた手つきで封を切り、手紙を広げて読み始める。私もシュヴァルツと一緒になって手紙を覗き込んだ。


 手紙には、お祝いの言葉に続いて魔剣の説明が書かれていた。どれだけこだわって作らせたか、長々と、何枚にも渡って書かれている。中身勝負の人だから、説明にも力が入っている。物の価値に疎そうな私にも、ちゃんと価値を理解させたかったのだろう。


「刀身はアダマンティンかなぁ?」


「ああ」


 ブロイエさんの問いに、シュヴァルツが手紙を読みながら短く答える。この光沢、やっぱりアイリスの杖と同じ素材――アダマンティンだった。この世界で一番硬い鉱物。それで剣を作るとか、無茶苦茶大変だったんじゃないだろうか?


「柄は何使ってるって?」


「ミスリル銀」


「へえ! 流石、地底王! やるねぇ!」


 ミスリルって、あれか。RPGなんかでよく出てくる、希少価値の高い金属。この光沢の少ない、銀色の金属がミスリルなのかぁ。ほ~!


「これは破魔剣らしい」


 シュヴァルツはそう言い、一通り目を通し終わった手紙を私に差し出した。私が持っていて良いのだろうか? ……私宛に書かれた手紙だし、良いのか。


「刀身のアダマンティンと強力な魔術加護。申し分無い逸品だ。地底王曰く、この剣に切れないものは無いらしい」


 切れないものが無い剣って……。恐ろしいな、これ。こんなの、私なんかが貰って良いのだろうか? 色々な意味で。


「この魔剣、シュヴァルツのより高いんじゃないの?」


 ブロイエさんがそう言いながら、興味津々といった様子で剣に手を伸ばした。その手をラインヴァイスが無言でぴしゃりと叩く。ブロイエさんは叩かれた手を擦りながら、ぷーっと頬を膨らませた。今の、つまみ食いしようとした子どもと、それを見咎めたお母さんみたいだったな……。年齢的には逆のはずなのに……。この二人の力関係、よく分からない。


「比べるまでも無いな。アオイ、大切にしろ」


 シュヴァルツの言葉に、私は深く、深~く頷いた。一国の王であるシュヴァルツの剣よりお高い剣。失くしたらシャレにならない。それこそ、クローゼットの肥し並みに、大切に大切にしまっておこう。あれ? でも、それじゃ私の魔力媒介が……。うむむむむ……。仕方ない。肌身離さず持つようにしよう。ドレスに剣とかアンバランスだけど、失くすよりかは幾分マシだ!

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