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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第四章

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準備 2

 今日はシュヴァルツと一緒にお城の中を見て回っている。こうして彼と腕を組むの、ちょっと恥ずかしいな。だって、エスコートされているみたいなんだもん。ついつい、ドギマギしちゃう。願わくば、誰ともすれ違いませんように……。特に、顔見知りとは絶対にすれ違いたくない!


 お城の中には美術品がたくさんあった。それを見て、私のテンションがだんだん上がっていく。あ。あの絵! 構図が参考になる! そう思い、私は一枚の絵の前で足を止めた。怪訝そうにしているシュヴァルツはとりあえず置いておいて――。


 良い絵だな。湖と山が描かれた綺麗な風景画だな。明るい日差しを反射して、水面がキラキラ輝いている様もよく表現されている。……この風景、夜も絵になるんじゃないかな? 満天の星空と輝く二つの月に、水面に映る月の光と山の影……。うん。良い絵が描けそう!


「ねえ、シュヴァルツ? この場所、遠いの?」


「近くは無い」


「そっかぁ……」


 近かったら、この場所に連れて行ってもらいたいなぁ、なんて思ったけど、遠いんじゃ無理か。お披露目の準備もあるし。


「お前は一度、この絵の場所に行った事がある。思い出せないか」


「そうなの? いつ?」


「夫婦になった時」


 シュヴァルツに言われ、私は腕を組み、う~んと首を捻った。夫婦になった日に行った場所って――。


「離宮だよね? そう言えば、湖のほとりにあったような気がしてきた……」


「そうだ」


 離宮近くの風景を思い出す私を、シュヴァルツがジッと見つめている。かなり威圧感ある視線だけど、きっとこれは不安げに見つめているだけなんだと思う。一応、二人の思い出の場所だもんね。私がちゃんと思い出せるか心配だよね。


「確か……アイリスとラインヴァイスも一緒だったような……。ノイモーントとローザさんもいた?」


「そうだ」


「それで、ええっと……。クッキーだ! アイリスと作ったの!」


「合っている」


 確かその時、アイリスが指を火傷した気がする。それで、私がお説教したような……。その後は、みんなでお茶会をしたんだ。その時、何を話したんだっけ? 何かに驚いたような気がするけど、詳しく思い出せないな……。


「あとは……。あ。夜、シュヴァルツにクッキーご馳走したんだ……。それで、ずっと一緒にいようって誓った」


「ああ、そうだ。思い出したか」


「うん。所々はっきりしない部分もあるけど、ちゃんと思い出せてると思う」


「私が竜化した姿は思い出せるのか」


 シュヴァルツのドラゴン姿と離宮、何か関係があるのだろうか? シュヴァルツがドラゴンになる必要があったのだろうか? 全然思い出せない……。


「ごめん。それは思い出せない……。シュヴァルツのドラゴン姿、どんな感じなの?」


「そのうち見せてやる」


「うん!」


 シュヴァルツのドラゴン姿かぁ。どういう感じなのかちょっと興味がある。彼のこの顔つきがドラゴンになってマイルドになる訳が無いし、きっと、悪そうな顔のドラゴンなんだろうな。RPGのボス的な、ね。ふふふ。こうして、彼のドラゴン姿を想像するのも、なかなか楽しいかもしれない。


「行くぞ」


 シュヴァルツはどこか、私を連れて行きたいところでもあるのかな? いつもは転移魔法を使って農園に行くのに、今日は歩いて移動だし。どこかな。ワクワクしちゃう!


 暫く歩いたところで、シュヴァルツが足を止めた。目の前には白亜の扉。神話か何かをモチーフにしたような彫刻が施された、豪華な扉だ。ここは特別な場所なのかな? 何だかソワソワする。


 シュヴァルツが軽く扉を押すと、それは音も無く静かに開いた。フワリと暖かい風が私の頬を撫でる。それに乗って、薔薇の良い香りが私の鼻をくすぐった。


 一歩中に入ると、そこには広大な薔薇園が広がっていた。こんな立派な薔薇園、インターネットの画像検索でしか見た事が無い。色とりどりの薔薇が咲き乱れている。あ。青い薔薇、発見っ! 青薔薇まであるなんて! 流石は異世界!


「うわぁ! すご~い!」


 お城の中に、こんな場所があるなんて驚いた。思わず感嘆の声を漏らす私を、シュヴァルツが窺うように見つめている。


「ん? 何?」


「ここに覚えは無いのか」


 シュヴァルツに問われ、私は首を捻った。そう言われてみれば、覚えがあるような、無いような……。


「私、ここに来た事があるの?」


「ああ。アオイの気に入りの場所だった」


 私のお気に入り……。確かに、薔薇の花は好きだし、こんな場所があるって知ってたら入り浸っているだろうなぁ。あ。あそこに見えるガゼボ、覚えがあるかもしれない。確か、あそこで何か――。


「あのガゼボ、見た事ある気がする。でも……」


「詳しくは思い出せないのか」


「うん。ごめんなさい……」


「いや。謝る事ではない」


 シュヴァルツは私を気遣うように私の頭へ手を伸ばし、途中でその動きを止めた。時々、彼はこうしてフリーズする事がある。理由は分かっている。以前、私が彼を拒んだから。勘違いからだったとはいえ、私が彼を拒んだ事実も、彼がそれに傷付いた事実も無かったことにはならない。


「大丈夫。触っても平気だよ」


 私はシュヴァルツの手をそっと取った。あの夜の事は、彼の心に深い傷を作ったのかもしれない。あるいは、私との距離の取り方を測りかねているのかもしれない。どちらにせよ、こうして気にした素振りを見せる。そんな時、私に出来る事といえば、こうして自ら彼に触れる事だけ。大丈夫だよ、怖がってないよって、行動で示すしかない。


 私がシュヴァルツの手に頬を寄せると、一瞬、彼の手が緊張したようにピクリと動いた。しかし、すぐに緊張は解け、彼の手が私の髪を梳く。こうしてもらうの、結構好きかもしれない。気持ちいなぁ。


 ガゼボに到着すると、そこには先客がいた。アイリスと三人の女の子。彼女達がお茶を楽しんでいた。誰? 私はキョトンとし、隣に佇むシュヴァルツを見上げた。


「アオイの友人だ」


「友人……」


 私、この世界に友達がいたのか。そう言われてみれば、デッサンの中にこの子達の絵があったかもしれない。今日はわざわざ、私に会いに来てくれたのだろうか?


「後ほど迎えに来る」


 シュヴァルツはそう言い残し、虚空に姿を消した。女子会に乱入する趣味は無いらしい。まあ、気まずいわな。


 ガゼボの入り口で立ち尽くしていると、それに気が付いたアイリスがベンチから立ち上がった。そして、私の手を引き、空いている席に案内してくれる。誰に言われるでも無く、ちゃんと私の分のお茶を淹れてくれるんだから大したのものだ。伊達にメイド服を着ていない。慣れた手つきだし。大人になる頃には、仕事の出来る女になっているに違いない。


 それよりも、何から話し始めて良いものやら……。私は出されたお茶を飲みながら様子を窺った。アイリスと三人の女の子達も、私の様子を窺うようにこちらを見つめている。き、気まずい……!


「ええっと……。アイリスと三人はお知り合いで?」


 一生懸命話題を考えた結果がこれだった。知り合いか知り合いじゃないかと言ったら、たぶん知り合いだろう。だって、さっきまで四人で仲良く話をしていたから。分かりきっている事だけど、一応確認してみる。


「私達の事は、全く思い出せていないんだな……」


 そう言ったのは、キリッとした美人さん。男物の服を着ていて、一見、青年にしか見えない。しかし、彼女を見た瞬間から、何故かすぐに女性だと気が付いていた。全く自覚は無いけれど、もしかしたら、彼女たちの事を薄らと思い出しているのかもしれない。


「ごめんなさい……。気を悪くするかもしれないですけど、名前、教えてもらえますか?」


「フランソワーズ」


「フランソワーズ、さん……。私、貴女の事、何て呼んでたの?」


「フランソワーズ、だな」


 フランソワーズは答え、目を伏せた。少し悲しそうな顔をしている。傷つけちゃったのかな? でも、悪気はないんだよ。記憶を呼び覚ます為の、儀式みたいなものなんだよ。


「ええっと、貴女達は?」


「リリーですわ。アオイは私の事、リリーと呼んでましたのよ」


「ミーナです。私の事はミーナって呼んでました」


 線の細い美少女がリリーで、赤い三角巾の元気そうな子がミーナね。覚えたぞ。


「アイリスと私達は孤児院の仲間だ。アオイは私達の孤児院によく遊びに来ていた」


 そう教えてくれたのはフランソワーズだった。私は彼女の言葉に首を捻る。はて? 孤児院……? そう言えば、お城の近くに孤児院があったような、無かったような……。うんうん唸る私を、四対の目が見つめている。私が何か思い出すのを待ってくれているようだ。


 う~ん。何でだろう? フランソワーズの事を思い出そうとするとノイモーントが、リリーの事を思い出そうとするとフォーゲルシメーレが、ミーナの事を思い出そうとするとヴォルフが頭の中に浮かんでくる。それぞれ、何か因縁でもあるのだろうか?


「つかぬ事をお聞きしますが、ノイモーントとフォーゲルシメーレとヴォルフという名に、心当たり、無いですか?」


 私の問い掛けに、その場にいる全員がキョトンとした顔で私を見つめた。そして、堰を切ったように大笑いしだす。何だ?


「そりゃあ、心当たり、ありますよ! だって、私達にあの方達を紹介して下さったの、アオイさんですもん」


 答えたのはミーナだ。リリーとフランソワーズも、ミーナの言葉に同意を示し、こくこくと頷いている。


「ねえ? 今日はそのお話、しましょうよ!」


 リリーの提案に、私は一も二も無く飛びついた。だって、単純に気になったんだもん。何があって紹介なんてしたんだろう? どういう切欠だったんだろう? その後、どういう関係になったんだろう? 聞きたい事は山ほど浮かんできた。




「ねえねえ、ローザさん。私、友達いたんですよ!」


 私はその日の夜、寝る準備をしながらローザさんにそう報告した。彼女は私の事を気に掛けてくれ、よく話を聞いてくれる。主に、不安に思っている事は無いかとか、不便は無いかとか。いつもは不安を相談する事が多いから、たまには楽しい事を報告したいななんて、常々そう思っていたんだけど、なかなかそういう報告が出来なかった。でも、やっと楽しい報告が出来る!


「今日、久しぶりにお会いされたそうですね。どうでしたか? 楽しかったですか?」


「はい。とっても! 私の友達、フォーゲルシメーレと、ヴォルフの恋人なんですよ。私が紹介したらしいんです」


「そうでしたか。彼らの恋人達と交流があるのは存じておりましたが、アオイ様が紹介されていたのですか」


「合コンやったなんて、笑っちゃいますよね」


「ごうこん?」


「あ。ええっと……。出会いのパーティー?」


「そういう会を主催されたのですか?」


「そうみたいなんです。男性三人、女性三人を招待したみたいなんですよ。その話をしてたら、少し、彼女達の事を思い出したんです! まだ、ぼや~っとした記憶ですけど」


「あら? そう言えば、ノイモーント様の恋人は? 今日はいらしてなかったのですか?」


「ちゃ~んと来てくれました。でも、違うんですよ。あの二人、まだ恋人じゃないんです! 友達以上、恋人未満!」


「あらぁ。甘酸っぱい」


「でしょでしょ。フランソワーズってば、ノイモーントの話する度に顔赤くしてて、満更じゃないって顔に書いてあるの! でも、素直じゃないから、どうも思っていないとか何とか言っちゃってて!」


 私はフランソワーズの様子を思い出し、笑みを零した。あの顔、どう見ても恋する乙女なのに、彼女は絶対にそれを認めようとはしなかった。もにょもにょと言い訳するフランソワーズ、とっても可愛かったなぁ。あの二人、上手くいって欲しいんだけどなぁ……。


「上手くいくと良いですね」


「そうなんですよ。それでね、私、考えたんです。どうしたらあの二人の距離が縮まるか」


「何か妙案でも?」


「お披露目で、ノイモーントにエスコートさせたらどうかなって。そうしたら、パーティーの間中、ずっと一緒にいる事になるじゃないですか! 二人の距離が縮まるかなって!」


 まあ、エスコートという名の護衛なんだけど。フランソワーズやリリー、ミーナが私のお披露目に参加するには、彼女たちの安全を何が何でも守ってくれる人が必要になる。だって、万が一が無いとは言い切れないから。


 私やアイリス、ローザさんがこのお城に来てからというもの、お城に住んでいる人達の中には、女性がいるという事に慣れた人もいるらしい。ノイモーントやフォーゲルシメーレ、ヴォルフなんかがその筆頭だ。けれど、それはあくまでも、お城に住んでいるごく一部の人達だ。大半の人達は、女性がいる状況というものに慣れていない。もし、そういった人達が自身の欲望の赴くままに行動してしまったら――。お披露目で悲しい事件が起こるのは、絶対に避けたい。だから護衛が必要だし、フランソワーズとノイモーントの距離を縮めるには一石二鳥になるんだけど……。


「あら。良いですね。彼女達の招待状に、参加条件は魔人族の男性のエスコートがある事とでも入れておきます?」


「ただ、それが原因で来てくれなかったら悲しいな、なんて思ってたりもするんですよ。エスコートが必要なんて聞いていない、行かないなんて言われないかなぁって……」


 私が一番心配なのはこれだ。リリーやミーナは良いとしても、フランソワーズはどういう反応をするだろうか? ノイモーントの事、満更じゃないみたいだけど、彼女は素直じゃない。恥ずかしがって、ノイモーントのエスコートなんて絶対に嫌だの一点張りにならないだろうか?


「大丈夫ですよ。親しい者のお披露目を欠席するという事は、以後の付き合いを絶つという事ですから。嫌っている相手がエスコートする訳ではありませんし、絶交される程の事じゃないでしょう?」


 確かに、嫌いな相手がエスコートする訳じゃないし、絶交まではならないだろう。せいぜい、何でエスコートが必要なんだと怒鳴られる程度で済むはずだ。護衛も兼ねていると話せば、素直に受けてくれるかな?


「お披露目のお話はされたのですか?」


「はい。初雪が降るくらいにお披露目するからって報告しました。招待状も近くなったら届けるって伝えてあります」


「お三方は何と?」


「絶対に行くって言ってくれました」


「あら。ちゃんと言質まで取っているんじゃないですか」


「げ、言質……」


 こういう言い方をされると、私が打算づくで話していたみたいに聞こえるなぁ。別に、そんなつもりは無かった。まあ、フランソワーズは一度言った事は覆さないし、断られそうになったら「絶対に行くって言ったのに! 嘘吐き!」とでも言えば来てもらえるかなぁ、なんて思ったけど……。あれ? 何気に私、彼女の性格を思い出していたんじゃ……。それに、こういうのを言質って――。いや。細かい事は気にしない、気にしない。


 こうして、招待客のお話をしていると、着々とお披露目の準備が進んできている気がするな。あとはどんな準備があるかな? 食事の試食とかかな? 席順とかも決めるのかな? あ。立食パーティー形式の可能性もあるか。招待客、多そうだし。その辺も確認しておかないと!

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