表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/114

離宮 2

 みるみるうちに竜王城が遠くなっていく。かなりのスピードで飛んでいるけど、シュヴァルツがいつの間にか展開してくれた防御障壁のお蔭で快適、快適。ごろんとうつ伏せに寝っ転がって下を覗くと、竜王城近辺に小さな明かりがポツポツと見えた。


「シュヴァルツ。あの明かり、家?」


「人族の集落だな」


 あの明かり一つ一つが集落なのか。こうして見ると、結構あるものだ。点在という言葉がピッタリ。ふと、遠くの方に目をやると、集落より明らかに大きな光の塊があった。


「あっちの大きいのは?」


「魔人族の町だ」


 そう答えたシュヴァルツは、ぐんぐんと大きな光に近づいていった。


 近くで見ると、魔人族の町は人族の集落とは桁違いに規模が大きかった。山の麓に、扇状に町が広がっている。小高い山の上に砦もあるし、典型的な城下町スタイルだと思う。ただ、一つ不思議なのは、町を守る為にあるはずの、砦から伸びる城壁が、町とは関係の無い所まで続いている事だ。町を守る城壁がおまけに見える程、ずっと向うの方まで続いているみたいだ。


「ねえ、シュヴァルツ? あの城壁、何? 何で町と反対方向にも広がってるの? 普通、城壁って町を守る為のものじゃないの? あの城壁、何を守ってるの?」


「あの城壁は、人族の領域を守っている。町とは反対の、砦の裏側が人族の領域だ」


「人族の領域を守る?」


「ああ。魔人族から、な」


「ええっと……。じゃあ、あの城壁は、人族の住んでいる地域に魔人族を入れないように設置しているって事?」


「そうだ。アオイがよく足を運ぶ孤児院も、あの領域内にある」


「へ? じゃあ、あの城壁、竜王城まで続いてるの?」


「ああ」


 そうだったんだ。人族と魔人族の生活圏を、ここまで明確に分けていいたなんて知らなかった。以前、人族が手厚く保護されているって聞いた事があったけど、こういう事だったんだ。


「人族の領域に入りたいって思ったら、許可が必要になるとか?」


「ああ、そうだ。正当な理由なく立ち入った者には、それ相応の罰が下される」


 ほうほう。この国では、人族の領域への侵入は、立派な犯罪なんだね。随分徹底しているなぁ。そりゃ、魔人族の結婚事情がシビアになるわけだ。


「ヴォルフとノイモーントがさ、孤児院の近くの森に入った事があったみたいだったけど、その時は許可が下りてたの?」


「ああ。警邏の為に時折入らせている。人族の集落近辺の魔物を討伐する事も騎士の務めだ」


「そうなんだぁ。じゃあさ、逆は? 人族が魔人族の領域に入ったら? どうなるの?」


「そのような者は少ないが、人族の出入りは自由だ。余程の物好きでない限り、城壁の外に出ようなどとは思わないがな」


「ふ~ん。そっかぁ。普通はいないのかぁ」


「ああ。だが、ローザがその物好きだったと聞く」


「え? ローザさんが?」


「そうだ。壁の向こうには何があるのだろうかと、毎日のように城壁を越え、冒険と言う名の無謀を繰り返していたと聞く。若い頃は好奇心旺盛だったようだな」


「へぇ……」


 意外。ローザさんがねぇ。人は見かけによらないな。若い頃のローザさん、どんな感じだったのかな? お転婆娘って感じだったのかな? 今度、それとなく聞いてみようっと!


 後ろを振り返ると、既に魔人族の町は見えなくなっていた。本当に凄いスピードで飛んでるなぁ。飛行機――は言い過ぎにしても、ヘリコプターくらいのスピードは出ているのではないだろうか?


「どれくらいで離宮、着くの?」


「夜明け頃だ」


「そっかぁ」


 私は大きく欠伸をした。綺麗な夜景があるわけでも無く、下は山や森、平原ばかりで見所なんてそうそう見つからない。少し飽きてきた。


「疲れたのならば、寝ていて構わない」


 シュヴァルツから有り難いお言葉が! 私はいそいそと、リュックから掛け布とクッションを取り出した。このリュック、実は空間操作術で中を広げてあるから、見た目以上に容量が大きい。ノイモーントってば、ナイスな物を作ってくれた。感謝だ。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


「ほう。そのような物まで持って来ていたのか。用意が良いな」


 そう言って、シュヴァルツは低く笑った。そんな振動が伝わってくる。そりゃ、笑いたくもなるよね、普通。お休みセットを持って来ているなんて思わないもんね。きっと今頃、アイリスも私とお揃いのリュックから、お休みセットを取り出しているだろう。良い子は寝る時間だ。


「シュヴァルツ、お休み」


「ああ。良い夢を」


 私はシュヴァルツの温もりを感じながら目を閉じた。あったかい。シュヴァルツの腕の中にいるみたい。この分ならすぐに、ねむ、く…………。すぴー。




「アオイ。起きろ」


「んん~? 着いたの~?」


「見ろ。夜明けだ」


 私はむくりと起き上ると、周囲を見回した。すると、空は既にだいぶ明るくなっていた。左手側に見える山の向こうが一際明るい。


「綺麗だね」


「ああ」


 朝日がゆっくりと山の影から顔を出す。みるみるうちに周囲が明るくなり、その眩しさに私は目を細めた。


「離宮へもそろそろ着く」


「うん!」


 私はこくりと頷いた。もうすぐで絵の具が手に入り、湖の絵が描ける! ついつい顔がにやけてしまう。テンションが上がってきたぞ!


 ふと隣を見ると、白いドラゴンの姿になったラインヴァイスと、その背中の上でスヤスヤ眠るアイリスが目に入った。アイリスってば、今日も可愛いなぁ。あの、丸まって眠っている姿、なんだか猫っぽいな。


 ゆっくりと高度を落とし始めたシュヴァルツの背で、私はリュックに入れてあった焼き菓子を取り出した。本当は離宮に着いてから、ゆっくり食べようと思っていたけど、お腹が空いてしまった。腹が減っては戦は出来ぬ! 軽く腹ごしらえだ。


「シュヴァルツも食べる?」


 クッキーを頬張りながら声を掛ける。すると、シュヴァルツが後ろを振り向いた。口、開けてるって事は、食べるんだね。私はクッキーを一掴みし、シュヴァルツの口の中へ放り込んだ。再び前を向くシュヴァルツ。もぐもぐ、ごっくんという振動が伝わってくる。お、面白い!


「ねえ、もっと食べる?」


「いや」


 あら、残念……。ふと、視線を感じて横を向くと、ラインヴァイスがジッとこちらを見つめていた。良いなぁ、羨ましいなぁって、彼の顔に書いてある。そりゃ、徹夜で飛んでるんだもんね。お腹、空くよね。


 私はリュックから新たな焼き菓子を取り出した。失敗して膨らんでいないケーキみたいな、クッキーより少し重たい焼き菓子だ。これなら投げやすいし、一個でも結構お腹が膨れるはず。


「ラインヴァイス! 行くよぉ!」


 私が立ちあがると、シュヴァルツがホバリングのように前進を止めた。そして、防御障壁を解除してくれる。ラインヴァイスも前進を止め、大きく口を開けている。


「そりゃっ!」


 力一杯投げたケーキもどきは弧を描き、見事、ラインヴァイスの口の中へ。ラインヴァイスは満足そうに目を細め、もぐもぐ、ごっくんと飲み込んだ。その振動に驚いたのか、アイリスがガバッと飛び起きた。そして、何事かときょろきょろと辺りを見回している。


「アイリス、おはよー! もう少しで着くってよぉ!」


「あ。アオイ、おはよー! 分かったぁ!」


 私が手を振りながら叫ぶと、アイリスも手を振り返してくれた。今日もアイリスは元気一杯だ。ラインヴァイスの背中の上も、シュヴァルツの背中の上と同様に寝心地が良かったのだろう。


 再び高度を落としながら進み、暫くすると、進行方向の森の向こうにキラキラと輝く湖が見えた。あれか! あれが絵に描かれていた湖か! って事は、近くに離宮があるはず! 辺りを見回すと、湖の向こう側に白い建物が! あれか! あれが離宮か!


「シュヴァルツ! あれ? あれが離宮?」


「ああ」


 一直線に離宮を目指すシュヴァルツの背から、私は身を乗り出した。ぐんぐん近づく離宮にワクワクが最高潮! ああ、早く、早くっ!


 離宮の庭先に、ローザさんと思しき青い人影が見える。初めは点くらいだった人影が、近づくにつれ、手を振っているのが分かる。


 ゆっくりと離宮の庭先に降り立ったシュヴァルツは、防御障壁を解除し、私に尻尾を差し出してくれた。私はそれに横座りし、彼の背から下ろしてもらう。


「お疲れさまでした」


 ローザさんが私達に優雅な仕草で頭を下げた。つられてぺこりと頭を下げた私とアイリスの横では、シュヴァルツとラインヴァイスが、いつの間にか人の姿に戻っていた。


「竜王様。少しお休みになられますか?」


「いや、先に朝食を。その後で休ませてもらう」


「かしこまりました」


 シュヴァルツの返事に、ローザさんは微笑みながら頷いた。そして、「どうぞ」と言うように手で方向を示し、歩き出す。私達四人もその後に続いた。


 案内された離宮の食堂には、大きな長い長い、長~いテーブルが。椅子もたくさんある。いったい、何人座れるんだろう? 二、四、六、八――。


「アオイ様?」


 食堂の入り口で足を止め、密かに椅子の数を数える私を、ローザさんが訝しげに見つめている。いつの間にか、みんな席についてるし。私は慌てて、ローザさんが引いてくれた椅子、シュヴァルツの隣の席に腰を下ろした。テーブルの短辺に私とシュヴァルツが隣同士に座り、長辺にラインヴァイスとアイリスが向かい合って座っている。こうして四人で揃ってご飯を食べるの、何だかんだで初めてだ。いつもは、ラインヴァイスとアイリスは給仕だから。


「失礼致します」


 一礼をして入って来たのは、どこか見覚えのある、細身のおにーさん。輝くような金髪と長い耳……。う~ん……。誰だっけ? ジーっとおにーさんを見つめていると、不意に目が合い、ギロリと睨まれた。この睨み、いつかどこかで……。


 あぁ! 思い出した! この人、バルトだ! 御前試合の時より激痩せしたみたいだし、深緑色のジャケットと黒のズボンという出で立ちだから御前試合の時の騎士服姿とは雰囲気が違うし、一瞬、誰だか分からなかった!


 バルトは愛想の欠片も無い、むっつりとした表情で料理を配ってくれた。そして、入って来た時と同じように一礼をし、食堂を出て行く。何か、嫌な感じッ!


「あの人、本当に愛想無いよね!」


 私がそう言い、口をへの字に曲げると、ラインヴァイスが苦笑を漏らした。


「エルフ族は人族嫌いですからね。アオイ様とアイリスも例外ではないのでしょう」


「知ってる! 御前試合の時もあんなだった!」


「次の食事は、別の者に給仕させましょう。それよりも、彼、御前試合の時にアオイ様へ暴言など吐いていないですよね?」


 ラインヴァイスが小首を傾げ、にこりと笑みを浮かべた。全く邪気の感じられない、純真無垢の可愛らしい笑みだ。しかし、私が正直にバルトとの試合直前の事を言えば、この笑みは真っ黒いものに豹変するだろう。「バルトがアイリスのパンツ、見てたんだよ」と報告した時のラインヴァイスの表情を思い出し、私の背に嫌な汗が流れた。ここは、てきとーに誤魔化しといてあげよう。うん、そうしよう。こ~んなに心が広くて優しい葵ちゃんに感謝しなさいよ、バルト。


「別に? 何も言われてないよ?」


「本当ですか? 嫌みも?」


「うん。な~んにも言われてない」


「そう、ですか? 珍しい事もあったものですね」


 ラインヴァイスが顎に手を当て、釈然としない様子で呟く。私は苦笑を漏らした。バルトの行動、ラインヴァイスにはバレバレらしい。バルトってば、よっぽど自分に嘘を吐けない、素直で裏表の無い性格なのだろう。こういう言い方をすると、嫌なヤツでも良い人に聞こえる不思議。


「それにさ、もしも私が嫌みを言われていたとしても、私は試合で彼をこてんぱんにしたんだし。それでおあいこって事で良いんじゃないの?」


「ああ。あの試合が原因で、あれも暫く寝込んだとの事だからな」


 そう答えたのはシュヴァルツだ。シュヴァルツが私の意見に同意してくれるのは心強い。ラインヴァイスはそれ以上何も言う気は無いらしく、「確かに」とでも言うように苦笑しながら頷いた。それにしても、バルトが寝込んだというのは初耳だ。何でだろう?


「ねえ? 寝込んだって? 何で? 棄権したんだし、護符だってあったんだから、怪我なんてしてないよね?」


「高熱を出した」


「……は?」


 シュヴァルツの答えに、私の目が点になった。まさかまさかの風邪、ですか……。まあ、全身霜塗れになったんだもんね。風邪くらいひくか。


「そうだったんだ」


「ああ。一時は自力で薬湯も飲めぬほど衰弱したと聞く」


「え……」


「生死の境を彷徨い、短期間でよくここまで回復したものだ」


 ええっと……。シュヴァルツの話からして、バルトってば、肺炎になって死ぬところだった、とか……? あ、危なぁ~! 私、知らず知らずのうちに、バルトの事、殺すところだった!


「そ、そっかぁ! それは大事に至らなくて何より、何より! あは。あはははは!」


 私は乾いた笑い声を上げた。魔術を使う時は節度を持って。この世界での教訓が増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ