表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/114

御前試合予選 4

 魔法陣の上に乗ると、転移特有の立ちくらみのような酩酊感が私を襲い、次の瞬間には別の場所に移動していた。二十人くらいの騎士服の人達が、真剣な面持ちでリンクを見つめている。見覚えのある顔が多い。毎回、私とシュヴァルツの訓練を見学していた人達だ。話をした事は一度も無いけど、見知った顔の人と戦うなんて少し気が引ける。出来ればあまり痛い思いをさせたくないなぁ。


――アオイ、優しすぎ! 真剣勝負なんだよ! 手加減無用だよ!


 でもさ、リーラ。分かっていても気が引けるんだ。痛くない方法で倒したいよ。ノイモーントみたいに。


――じゃあ、呪術使えば? まあ、アオイの呪術スキルじゃ、発動前に斬られるか魔術で攻撃されるのが落ちだけど。


 うぐぐ。確かにそうだけど。分かってるけど! でも――!


――真剣勝負が出来ないようじゃ、痛い目見る前に棄権した方が良いよ。


 う……。


――それにさ、そんな中途半端な覚悟で、本当に優勝狙えると思ってるの? アオイが本気で優勝したいって言うのなら、私、協力は惜しまないつもりだったけど、今のアオイに協力するのは嫌。だって、他の出場者に対して失礼極まりないんだもん。みんな勝つ為に必死なんだよ? それを、なるべく痛い思いさせないで勝ちたいとか、舐めてるとしか思えないよ。


 ぐぬぬ。返す言葉もございません。


――どうする? 棄権する?


 しない! だって、私、優勝したいんだもん。離宮、行きたいんだもん! 初めてあの山と湖の絵見た時から、あの場所見てみたいって、絵に描いてみたいって思ってたんだもん!


――じゃあ、甘い考えは捨てなさい。ここにいる人達は敵だよ。アオイの道を阻む敵。敵は倒さないといけない。


 敵。ここにいる人達は敵。私の敵。敵、敵……。


――そう。情けを掛けたら負ける。一瞬の隙が命取りになる。容赦なんてする必要は無い。遠慮は無用。


 ……分かった。リーラ、私、遠慮はしない。絶対に勝つ。何をしても。


――そう。その意気だよ、アオイ。じゃあ、使う魔術、考えよう。


 うん。この試合、戦闘不能か場外で負けになる。相手の攻撃より先に攻撃を仕掛けないと、負ける可能性がグッと上がってしまう。だから、ラインヴァイスもおっさんも、それだけじゃない、魔術を使えるほぼ全ての出場者が初級魔術を選んでいたんだ。


――アオイ、独りでよくそれに気が付いたね。でもね、初級魔術に拘る必要は無いんだよ? 魔法陣の展開が早いって事が重要なんだから。得意な魔術で括った方が、選択肢が広がるよ。


 得意な魔術かぁ。私の得意とするのは攻撃魔術だ。特に、光属性、水属性、風属性の魔術。あとは、結界術と浄化術、治癒術だけど、この辺は攻撃に向かないし……。うむむむむ……。あっ! 良い事、思い付いた!


「それでは、最終第十六ブロックの予選を始めます。選手の皆さんは準備をして下さい」


 アイリスのアナウンスが聞こえ、周りの出場者がぞろぞろとリンクへ移動を始めた。私も他の出場者と共にリンクへ移動する。


 リンクから見る闘技場は圧巻だった。黒山の人だかりって、こういう事を言うのだろうか? 三百六十度広がる観客席は、多くの人で埋まっている。これ、みんな竜王城に住んでんの? 凄い人数だ。


――違う違う。竜王城に住んでるのは、ここにいる人達の二十人に一人くらいだと思うよ。他の人達は、近隣の町とか村とかに住んでる人達。国中から人が集まっているんだよ。こうして見ると、やっぱり男の人ばっかりだよね。人族はアオイが招待した孤児院の子達だけだね。


 へ、へぇ……。ね、ねえ、リーラ? 私、何だか緊張してきた。脚、震えてるんだけど……。


――はいはい。深呼吸、深呼吸。


 リーラに促され、私は数回深呼吸をした。そして、ふと目をやった先には孤児院のみんなの姿。私が手を振ると、皆が手を振り返してくれる。孤児院のみんながあそこにいるって事は……。私が後ろを振り返ると、観客席の真ん中に小さな建物のようなものがデンと鎮座していた。あれが、シュヴァルツ達がいる席かな? そう思って目を凝らすと、窓辺にシュヴァルツっぽい黒ずくめの人影が見えた。私が手を振ると、シュッヴァルツが手を上げて答えてくれる。ふふふ。少し緊張が解けてきた。


 あ! 忘れるところだった! アイリスに痛い思い、させるところだった! 私は、リンクサイドで実況の準備をしているアイリスに慌てて駆け寄ると、試合開始と共にして欲しい事を告げた。アイリスはいつもの無邪気な笑みではなく、真剣そのものといった面持ちでこくりと頷く。何か、予選が始まる前よりアイリスの表情が大人びているような……。アイリスってば、予選の間に何か悟りでも開いたの?


 アイリスに別れを告げ、私はリンクの上へと戻った。リーラの紋章が淡い光を発し、鎧と魔鉱石の短剣が錬成される。


「それでは、試合、開始ぃ!」


 ブロイエさんの合図が響いたのと同時に、私は短剣に魔力を込めた。私を中心に、魔法陣が展開されていく。


 私の得意な魔術は、光、水、風属性の魔術だ。その中でも、光属性の魔術は、シュヴァルツやラインヴァイス、ブロイエさんさえもが驚くような適性があった。これも勇者補正なのだろう。今はそれに感謝している。だって、発動だけでも中級レベルの光属性魔術でも、他の属性の魔術を使うのと同じくらいのスピードで魔法陣を展開する事が出来るから。


「リヒト!」


 私の選んだのは、光を発生させるだけの、光属性の魔術では一番簡単な魔術だ。魔法陣の中に光の玉が出現するだけの魔術で、攻撃力は皆無と言って良い。本来は、掌サイズの魔法陣を展開させ、暗い所に明かりを灯す目的で使うだけの魔術だ。私はこれをリンク全体に展開させた。目を焼く閃光が瞼越しにも分かる。ちょっと目が痛い。アイリス、言いつけ通り、ちゃんと目、閉じてたかなぁ? 魔術を発動した瞬間、「ぎゃっ!」とか「ぬおっ!」とか、低い悲鳴ばかりでアイリスらしき声は聞こえてこなかったし、大丈夫かな?


 魔法陣を収め、私が目を開けると、リンクの上では他の出場者達がのた打ち回っていた。「目がー! 目がー!」と叫び、両手で目を押さえて転げまわっている。やったね! 目潰し、大成功!


「アオイ選手! 強烈な閃光で出場者の目を焼きました! ああ! 観客席にも被害が広がっているようです! 観客まで巻き添えにする攻撃! 容赦ありません!」


 え? 何だって? アイリスの実況に、私が観客席を見上げると、多くの観客が目を押さえて呻いていた。や、やば……。観客の皆さんの事、考えてなかった……。


 あ! 孤児院のみんな! そう思ってみんなの方を確認すると、みんな同じようなポーズで固まっていた。腕や手で目を庇っている。大方、独身トリオの誰かが、私のしようとしている事を察し、みんなに指示を出してくれたのだろう。よ、良かったぁ。ホッとした。


――アオイ。仕上げ、仕上げ! 止め刺すよ! ほら。グサッといっちゃって!


 え……。それはちょっと……。でも、ブロイエさんからの終了の合図も無いし、これでは決着が付いていないって事だよなぁ。でも、無抵抗の人に止めを刺すなんてなぁ……。うーむ……。あ。そうだ!


 私は手近な出場者の元へ行くと、その胸に輝いている護符を毟り取った。そして、他の出場者の護符も次々毟り取っていく。片っ端から護符を毟り取り、それらを地面に並べると、手にした短剣で護符の魔石を叩き割った。


「ああっと! アオイ選手が護符を叩き割っていきます。これは……あり、なんでしょうか?」


「は~い。ありで~す!」


 アイリスの問いに、ブロイエさんが明るい口調で答える。良かった。これで「無しでーす」だなんて言われたらどうしようかと思った。正直ホッとした。


「おおっと! 他の選手が手探りでアオイ選手を探しています。まるで墓場から這い出るゾンビの様です! 気持ち悪いッ!」


 アイリスの実況に、出場者の動きが止まった。気持ち悪いというアイリスの率直な感想が、出場者達の心を抉ったのだろう。ナイスだ、アイリス! あ。項垂れてシクシクと泣いている人が。あ。こっちの人は、地面をバシバシ叩いて号泣してる。まあ、私には全くもって関係無いんだけど。さ。作業に集中、集中!


「は~い。試合、終ー了ー! 勝者、アオイさーん!」


 護符を全て叩き割ったところで、ブロイエさんのアナウンスが響き渡る。よっしゃ! 予選突破した! これで本戦に進める!


 私がリンクの中央でぺこりと頭を下げると、まばらな拍手が起こった。よく見ると、観客の皆さんの多くが、まだ両目を押さえて呻いている。ま、まあ、時間が経てば視力も回復するだろうし、問題無い、よね……? あは、あはははは。私は逃げるようにその場を後にし、転移魔法陣の上に飛び乗った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ