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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第三章

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御前試合予選 3

 私の視線の先には臙脂色の上着のおにーさん。名前は知らない。今はそんな事はどうでも良い。臙脂色の上着の人は実力者だって話だし、私の考えが合っているのか間違っているのか、答えが出るはず。と思ったら、試合は終わっていた。おにーさんがリンクの上で頭を下げている。


「今どこまで進んだ? 次、何ブロック?」


「次は第九ブロックですね」


 ラインヴァイスの答えに、私はトーナメント表に目を落とした。第九ブロック……。もう折り返しじゃないか! 予選、半分終わっちゃったよ! 私の答えが間違っていたら、手遅れになっちゃうじゃない!


「ノイモーントが出るブロックだねー」


 ブロイエさんがニコニコと笑いながら教えてくれた。そっか。次はノイモーントの試合なのか。


「ノイモーントって、呪術師だったよね? 魔術だけで戦うの?」


「どうだろうな。あれは魔剣士だが、予選で剣を使うかどうかは分からぬ」


 私の問いに答えたのはシュヴァルツだ。険しい表情で闘技場を見つめている。その視線の先にはノイモーント。こうして上級騎士団員の中にいると、線の細さが際立っている気がする。あんな体型なのに魔剣士なのか。ちょっと意外。


「私、ノイモーントって魔術師なのかと思ってた。呪術師だって聞いてたし」


「ラインヴァイスだって、結界術師だけど魔剣士だよ~?」


 ああ、そっか。確かに、ブロイエさんの言う通り、ラインヴァイスも剣を使うし、括りでいったら魔剣士になるのか。


「そもそも、純粋な魔術師って、どういう人? ブロイエさんは魔術師?」


「うん。僕は魔術師。ラインヴァイスも小さい頃は魔術師だった。連隊長の中では、フォーゲルシメーレが魔術師だね」


「フォーゲルシメーレが? 剣、使えないんですか?」


「そうだね。彼は使わないねぇ」


「ラインヴァイスも小さい頃は魔術師だったって事は、剣、使わなかったの?」


 私が小首を傾げながらラインヴァイスに問うと、彼は困ったような曖昧な笑みを浮かべた。


「使えなかったと言うより、使わせてもらえなかったんです。私には必要無い、と」


「使わせてもらえなかった? 誰に?」


「父――先代竜王様に、です」


「お父さん?」


「ええ。ですから、私は先代竜王様に剣を教えて頂いた事がありません。何度懇願しても、必要無いと、取り合ってもらえませんでした……」


 ラインヴァイスはそう言い、悲しそうに目を伏せた。あれ? もしかして、私、地雷踏んだ? はわわっ! どうしよう!


「先代はラインヴァイスの魔術の才を買っていた。そして、前線で戦うよりも、ブロイエの跡を継ぐ事を望んでいた」


「そーそー。右腕は、前線に立つだけが能じゃないんだ。兄さんに僕がいたように、シュヴァルツにはラインヴァイスが必要だと思っていたんだよぉ!」


 シュヴァルツとブロイエさんがフォローを入れてくれる。しかし、ラインヴァイスの表情は晴れない。俯いたままだ。ラインヴァイスとお父さんって、あまり折り合いが良くなかったのだろうか? 私、余計な事、言っちゃったな……。


「ごめん、ラインヴァイス。私、余計な詮索、しちゃった……」


「いえ。アオイ様が気になさる事ではなく……。ただ、私も竜王様やリーラのように、先代竜王様に剣の稽古をして頂きたかった、と」


 そっか。兄妹がお父さんと剣術稽古をしている時、ラインヴァイスだけ蚊帳の外だったのか。もしかしたら、疎外感とかを感じて寂しかったのかもしれない。私には、兄妹がいないから分からないけど、兄妹と違う扱いをされているように思っていたのだろうか? お父さんとしてはラインヴァイスの才能を伸ばしてあげたい、そして、それがいつかシュヴァルツの、いや、この国の助けになると思っての行動だったのだろうが、それが裏目に出た感じだ。


「ま、まあ。剣はシュヴァルツが教えてくれたんだし、過ぎた事を気にしてもしょうがなーい! あはは~!」


 そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ。でも、これはブロイエさんなりのフォローなのかもしれない。なら、ここは乗るべきだ!


「そ、そっかぁ。ラインヴァイスの剣、シュヴァルツが教えたんだ! 私と一緒! あはは」


「そ、そうそう。シュヴァルツはね、兄さん以上に教えるのが上手だから、ラインヴァイス、とっても強くなったし! アオイさんも強くなれるねぇ!」


「だと良いんですけどぉ!」


 私とブロイエさんの変なテンションに、ラインヴァイスは顔を上げたかと思うと、フッと小さく笑みを見せた。


「お二人に余計な気を遣わせてしまったみたいですね。申し訳ありません。下、準備が整ったようですよ」


 ラインヴァイスに言われ、視線を闘技場へ移すと、じりじりとした様子で試合開始の合図を待つ出場者達が目に入った。ブロイエさんの合図が無いと、試合、始まらないのか。


「じゃあ、試合開始ー!」


 ブロイエさんが合図をすると、出場者達が一斉に動いた。ノイモーントも例外ではない。彼は漆黒の蝙蝠羽を出したかと思うと、腰の剣を抜きながら空へと舞い上がった。ノイモーントが剣を持つなんて意外だと思っていたけど、なかなか似合っている。彼の持っている剣が細身の剣――サーベルっぽい剣だからだろうか?


「やはり、予選は剣を使わぬか」


 シュヴァルツがポツリと呟く。彼の言葉通りだと、ノイモーントは魔術だけで戦うつもりなのか。彼は呪術師だし、使うのはやっぱり呪術かな?


 ノイモーントが剣を掲げたかと思うと、彼を中心に魔法陣が展開していく。あれは確か呪術の……エントツュッケンだ。相手を魅惑し、命令に従わせる初級魔術。やっぱり、効果より魔法陣の展開スピード重視っぽいな。


「空に舞い上がったノイモーント選手! 呪術を展開するようです! ああ! リンクの上では、空中のノイモーント選手を狙う魔法陣が展開されています」


 あっという間に完成したノイモーントの魔法陣は、リンクの大きさとほぼ同じ。下では数人の魔剣士や魔術師と思しき人達が魔法陣を展開しているけど、ノイモーントの魔法陣の完成が一番早かった。遠距離攻撃が出来る魔術の大半が中級以上だし、仕方のない結果だ。空に逃げて距離を取れるノイモーントが有利過ぎる!


「エントツュッケン!」


 ノイモーントの叫びに呼応するように、魔法陣が一瞬淡く光を発した。と思ったら、リンクの上の人達の動きが止まり、脱力したように、だらんと両手を下ろして突っ立っていた。アイリスまで動きが止まっているのはご愛嬌。ノイモーントはすとんとリンクに降りた。これは勝負ありっぽい。


 ノイモーントが明後日の方を指差して何かを言うと、リンクの上の人達がこくりと頷く。脱力した人達が一斉に同じ行動をするから不気味だ。出場者とアイリスがぞろぞろとリンクを下りていく。大方、ノイモーントが「リンクから下りろ」と命令したのだろう。まあ、呪術師らしいと言えば呪術師らしい戦い方かもしれない。


「勝者、ノイモーント」


 ブロイエさんがノイモーントの名を呼ぶと、ノイモーントが優雅に頭を下げた。そして、自身の漆黒の蝙蝠羽で、観客席の巨大てるてる坊主こと、フランソワーズ目掛けて一直線に飛んで戻る。


 ノイモーントは、二言三言、フランソワーズと何か言葉を交わしたと思ったら、徐に彼女のフードに手を伸ばした。しかし、その手はあっけなくフランソワーズによって叩き落とされる。フランソワーズが何かを怒鳴り、ノイモーントが肩を落としている。フランソワーズさん。もう少しノイモーントと仲良くしてあげて下さいな。一応、命の恩人なんでしょ?


 まあ、それは良いとして、ノイモーントの今の試合、参考にするならやはり使用魔術だろう。エントツュッケン――魅惑は初級魔術だけに、色々と制約と言うか制限がある。複雑な命令は出来ないとか、術に掛けられている人の意志に大きく反するような命令は出来ないとか。そういう命令をしたとしても、術に掛けられている人はただ立ち尽くすのみ。何もアクションを起こさないのだ。


 例えば、RPGなんかで、混乱状態の仲間から攻撃を受けたりする事があるけど、この術では、仲間とか、守るべき相手を攻撃させる事は出来ない。また、自殺しろとか、危険な所から飛び降りろとかいう、直接命に関わるような命令も出来ない。それに、負けると命が無いような試合でも、わざと負けるような命令は効かない。もし、そういう命令をしたいと思ったら、誘惑とか魅了とか、もっと上位の呪術を使わなくてはならないのだ。


 しかし、今回の試合は負けても命に関わる事は無い。だから、魅惑程度の呪術でも、しっかりと命令が効いたのだろう。ノイモーント自身、それは私以上に理解しているはずだ。何たって、その道のエキスパートなんだから。


 効率的で効果的な魔術の選択。それがこの予選において、最も重要なのだろう。簡単な魔術でも使い方次第。魔術発動までの時間がとにかく短いもので、効率的にリンクの出場者の数を減らす。これだ!


「アオイ様。そのご様子ですと、先程気になっているとおっしゃっていた事の答えが出ましたか?」


 ラインヴァイスにそう問われ、私はこくりと頷いた。これで確実に勝てるとは思っていないけど、ラインヴァイスが言っていたように、結構良い戦いが出来る気がする。あとは、どんな魔術を選ぶかだけど――。


 考え事をしている間にも、下のリンクでは着々と試合が進んでいった。準備をしている出場者の中に、見覚えのある金髪。あれはフォーゲルシメーレだな。


「竜王様! 下へ行きたいのですが! 転移の許可を!」


 ラインヴァイスが珍しく焦ったように、ガタリと椅子から立ち上がった。どうしたんだろう? シュヴァルツもブロイエさんも、ローザさんまでもが、ラインヴァイスが焦っている理由がすぐに分かったらしく、苦笑を漏らしている。私、置いてけぼり……。


「ああ。行くと良い」


「試合開始、ちゃんと待ってるからねー」


 シュヴァルツとブロイエさんがそう言うと、ラインヴァイスは二人に頭を下げて虚空に消えた。あのラインヴァイスが慌てるとか、何があったんだろう?


「ねえ、どうしたの? 何でラインヴァイス、あんなに慌ててたの?」


 私が問い掛けると、シュヴァルツが下のリンクを指差した。そこにはアイリスと――。


「ラインヴァイス?」


 見覚えのある白ずくめ。遠目でも一目で分かる。慌ててどこに行ったのかと思ったら、アイリスの所だったのね。ラインヴァイスはアイリスの腕を掴んだかと思うと、リンクから引きずり下ろした。そして、合図をするようにこちらを見上げる。


「では、試合開始ー!」


 ブロイエさんの合図で試合が開始される。フォーゲルシメーレがしゃがみ込み、リンクに手をついた。と思った次の瞬間、リンクが波打ち始めた。何、あれ……。


「フォーゲルシメーレは土の魔術師であり、水の魔術師でもある。どちらの属性を使ったとしても、あれの性格からして、アイリスへの被害を考えずに魔術を選択する。ラインヴァイスはそれを懸念した。そして、それは杞憂ではなかった」


「え?」


「見ていろ」


 シュヴァルツがそう言った瞬間、波打っていたリンクの動きが止まった。と思ったら、錐のような物体が一斉にリンクから突き出した。石の錐にぶち当たり、次々と出場者が倒れていく。同じタイミングで、錐も崩れ去り、出場者の護符が砕け散る。リンクの中は死屍累々。うわぁ……。あれ、本来は石の錐で身体を貫くものなんじゃない? いくら護符のお蔭で死なないとはいっても、あれは無いわぁ。あんな術にアイリスが巻き込まれたら……。ラインヴァイス、グッジョブ!


「勝者、フォーゲルシメーレ!」


 ブロイエさんのアナウンスに、フォーゲルシメーレがボコボコのリンクの上で一礼をする。ラインヴァイスはというと、リンクサイドでアイリスと何か言葉を交わしているようだった。こくりと頷くアイリスの頭をラインヴァイスが撫で、くるりと踵を返す。向かった先はフォーゲルシメーレの元。ボコボコのリンクを指差しながら何か言っているようだ。フォーゲルシメーレは必死にこくこく頷き、リンクにしゃがみ込むと手を付いた。再びリンクが波打つようにうねり、その動きが止まったと思ったら、ボコボコになっていたリンクが元通りになっていた。


 フォーゲルシメーレが使った魔術の正体は、ただの干渉魔術っぽい。土や一部の金属の形状を自由に変える事が出来る、土属性の初級魔術だ。本来、レンガだったりゴーレムの身体だったり、あるいは落とし穴だったりを作るものなのだが、ああいう形で広範囲展開すると、ああいう結果になるのか。参考になった。


「ラインヴァイス」


 シュヴァルツが名を呼ぶと、リンクの上のラインヴァイスがこちらを見た。と思ったら、フッと姿を消した。そして、次の瞬間には私の隣に姿を現す。シュヴァルツが名前を呼ぶ時、転移の許可を出しているっぽいんだけど、これ、どういう仕組みなんだろう? あんなに離れた場所にいたのに、声が聞こえたみたいだった。不思議だ。


「ありがとうございました。竜王様」


 ラインヴァイスはそう言い、深々と頭を下げた。シュヴァルツはそれを横目で見たと思ったら、視線をリンクに戻した。


「アイリスは」


「はい。リンクの外で実況するように言いつけました」


「そうか」


 シュヴァルツは興味無さげに返事をしているけど、一応アイリスの事を心配してくれているらしい。本当に関心のある事しか聞かない人だから、シュヴァルツは。


「それでは、第十四ブロック、予選を始めまーす!」


 なぬ? 第十四ブロック? いつの間にそんなに試合、進んだんだ! 私の試合まで、残り二試合じゃないか! どうしよう! 戦い方は分かったけど、使う魔術、まだ決めてない!


 効率的に参加者を減らせる魔術。う~む……。戦闘不能にするのなら呪術――魅惑か麻痺あたりか? でも、呪術苦手。得意な魔術と違って、魔法陣の展開に時間が掛かるしなぁ……。この際、ラインヴァイスの真似をして、防御障壁でも作るか? 結界術は得意だし、魔法陣の展開は、呪術を使うより早く出来るし。でも、二番煎じが通用するのかな? この試合の出場者はみんな上級騎士団員だ。戦いのプロだ。見切られる可能性は否定出来ない。じゃあ、第二ブロックのおっさんみたいに、火炎放射器作戦でいくか? 火なら、それに対しての本能的な恐怖の方が――。いやいやいや。それだって確実とは言えない。もし、魔力障壁や水属性の魔術が使える人がいたら防がれて反撃される。あのおっさんは、他の参加者に反撃の手段が無いって分かっていたんだろう。相手の手の内を分かっていたからこその勝利だ。私はそこまで他の参加者の事を研究していない。手の内なんて分からない。参った……。


「勝者、ウルぺス!」


 ブロイエさんのアナウンス。ああ、もう十四ブロックも終わってしまった。残り一試合で私の番。はわわわわ! どうしよう! 勝てる魔術、勝てる魔術!


「ブロイエ。アオイに控えの場へのゲートを」


「はいはい。分かってるよー」


 ブロイエさんは席から立ちあがると、部屋の真ん中で手にした杖をトンと床に打ち付けた。みるみるうちに、床に魔法陣が広がっていく。あっという間に、半径一メートル程の、薄らと輝く魔法陣が完成した。これ、RPGでよくある転移魔法陣だろうか? これに乗ると、目的地にひと飛び?


「ゲート開いたよ。一応、今日一杯開いているように設定したから。あ。ラインヴァイスも遠慮なく使って良いからねー!」


『ありがとうございます』


 期せずして、私とラインヴァイスのお礼が綺麗にハモった。お互いに顔を見合わせ、笑みを零す。


「もしかして、これに乗ると目的地まで行けちゃったりするんですか?」


 私は床の魔法陣をしげしげと観察した。複雑な魔法陣だ。内容がちんぷんかんぷん。魔術理論をかなり理解出来ている私でも、何が何だか分からない。


「うん。選手の控えの場につながっているから、順番が近くなったら移動してねー」


「あ、はい。分かりました」


 やっぱり転移魔法陣だった。一瞬で任意の場所に移動出来るなんて、便利だなぁ、異世界は。

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