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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第三章

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御前試合 1

 今日の模擬戦もシュヴァルツにぼろ負けしてしまった。彼には腕力では勝てないのは勿論の事、技術も遠く及ばない。だから、当たり前と言えば当たり前の結果だ。でも、だんだんと良い戦いが出来るようになってきている気がする。シュヴァルツの攻撃、受けるだけじゃなく、避けられるようになってきているし。今日の敗因は――。


「お邪魔しまーす!」


 私が今日のシュヴァルツとの模擬戦を思い出しつつ、アイリスとローザさんと共に寝る前恒例のお茶会をしていると、唐突にブロイエさんの声が響いた。後ろを振り返ると、ニコニコとご機嫌そうに笑っているブロイエさんと目が合った。私が会釈すると、ブロイエさんもぺこりと頭を下げる。


 ブロイエさんは時折、私の部屋を訪ねて来る。シュヴァルツの許可無くしては転移出来ないはずの城の中で、何故かこの人だけは自由に転移出来るらしい。よくよく考えてみると、扉から入ってきたのは挨拶の時くらいだ。いつもこうして唐突に姿を現す。初めのうちは驚いていたけど、もう慣れっこになってしまった。最近、この人が城の中で入れない所なんて無いんじゃないだろうか、なんて思い始めている。空間操作術師、侮りがたし!


「アナタ。レディのお部屋ですよ。せめて、扉から入って下さいません?」


 ローザさんが苦言を呈するも、ブロイエさんは全く意に介した様子は見せていない。思うに、ブロイエさんにとっては、気を遣うべきレディはローザさんだけなのだろう。私の事は、面白い子くらいにか思ってなさそうなんだよな、この人。


「良いですよ、ローザさん。気にしてませんから。もう慣れましたし」


 私がそう言うと、ローザさんは申し訳なさそうに頭を下げた。ブロイエさんが私を女として見ていないのと同じように、私もブロイエさんを男として見ていない。だからか、勝手に部屋に入って来るのも全く気にならない。たとえ、この人に着替えを見られてしまっても、悲鳴の一つも上げない自信がある。いや、流石にそれは言い過ぎだろうか……?


「で、ブロイエさん。今日は何の用です?」


 私がティーカップを手にしたまま問い掛けると、ブロイエさんが私の隣に腰を下ろし、一枚の紙を私達に見えるように掲げた。その顔は何故か誇らしげだ。


「今度、御前試合する事になったんだー!」


「御前試合?」


「そ。王の前で実力を披露する試合。上級騎士団員のほぼ全員が参加するんだよー!」


「ふーん」


 私は興味無さげに呟くと、飲みかけのお茶に口を付けた。今日のお茶はロイヤルミルクティーにしてもらった。はちみつをたっぷりと入れてあるから、疲れた体に染み渡る甘さに仕上がっている。はぁ、癒されるぅ。


「あ、あれぇ? アオイさん、興味無いの?」


「だって。私、どうせ出られないんでしょ?」


「え? 出たいの?」


「出たい」


 即答した私を、ブロイエさんがキョトンとして見つめている。きっと、私の答えが予想外だったのだろう。でも、こういう試合、ただ見ているだけって性に合わない。どうせなら、シュヴァルツとの訓練でどこまで強くなったか、実力を試したい。


「そ、そっかぁ。じゃあ、出る? 手配した方が良い?」


「是非」


 私は大真面目な顔で頷いた。そんな私を見て、ブロイエさんが苦笑している。ローザさんが何か言いたげに私を見つめているけど、敢えて気が付かない振りをする。だって、小言言われるの、目に見えてるんだもん。


 ローザさんは結構小言が多い。私のレディ教育ってやつらしいから、まあ、文句は言えないんだけど。でも、回避出来る小言は回避しておきたい。だから、見ない振り、見ない振り。


「あ、あの!」


 唐突に、私の正面に座っているアイリスが叫んだ。何か言いたげに、顔を真っ赤にしてもじもじしている。視線が落ち着きなく彷徨い、口を開いたり閉じたり……。何、このアイリス! 可愛い! 可愛すぎる! 鼻血、出ちゃう! この姿、ラインヴァイスにも是非見てもらいたい!


「あ、あの……その……。ラインヴァイス先生は? で、出ますか?」


 ああ、そっか。上級騎士団員がほぼ全員参加って事は、ラインヴァイスも出る可能性があるのか。アイリスとしては、確かに気になるだろう。彼が出るか出ないかで、アイリスの関心度が変わりそう……。


「ええ~? ラインヴァイス? 出ないよ」


 ブロイエさんはさも当然とばかりにそう言った。まあ、予想通りといえば予想通りの答えだ。しかし、アイリスの落胆振りといったら無かった。ショックを受けてがっくりと項垂れている。今にも泣き出しそうだ。いや、もしかしたら既に涙が出ているんじゃ……。ラインヴァイスの格好良い所、見られるチャンスだと期待していたのだろう。う~ん。残念!


「なーんだ。ラインヴァイス、出ないんだぁ。つまんなーい。ガッカリー!」


 私は叫び、お茶を一口口に含んだ。そんな私を見て、ブロイエさんがワタワタと慌てだす。きっとこの試合、企画運営がブロイエさんなのだろう。私達にも手伝ってもらおうとか、そういう魂胆があったみたいだ。しかし、予想外に私とアイリスの受けが良くないから、ちょっと慌てているのだろう。


「だって、ラインヴァイスは近衛師団長だよ? 出る必要、無いでしょ? というか、出ちゃダメでしょ!」


「えー? 何でですか?」


「だって、だって! 御前試合って、言ってみたら実力試しだよ? 序列決める意味もあるのに、ラインヴァイスが出たらダメでしょ? 万が一、トップが変わったら大混乱になるの、目に見えてるもん!」


「ふ~ん」


 私は興味無さげに返事をし、お茶を一口飲んだ。口をへの字に曲げ、不服の意を醸し出す。ブロイエさんはそんな私と、がっくりと項垂れているアイリスを交互に見やり、諦めたように小さく溜め息を吐いた。


「分かったよ。上級騎士団員、全員参加にするから。近衛師団長ラインヴァイスも例外ではない。この一文を付け加えるから……。それで良いんでしょ?」


「さっすがブロイエさん。話が分かる! カッコイイ!」


 満面の笑みを浮かべると、私の変わり身の早さにブロイエさんが苦笑を漏らした。アイリスは目を輝かせ、ブロイエさんを見つめている。ラインヴァイスが戦うところ、なかなか見られないもんね。楽しみだね、アイリス。


「んで?」


 私はティーカップをローテーブルに置くと、腕を組んでブロイエさんを見やった。


「まさか、御前試合の宣伝だけしに、わざわざ来たんじゃないですよね? 用件は? 何です?」


「ちょーっとね、お願いと相談があるんだよ」


「どうせ、何か面倒な事、押し付ける気なんじゃないですか?」


「ははは。ばれた?」


「ばればれですよ……」


 私は溜め息を吐いた。この人、本気で私が何も勘付かないと思ったのか? 私はそんなアホじゃない。失礼しちゃう。どちらかと言うと、こういう事には鋭いんだから。だって、面倒事は出来る限り回避したいから。


「で? お願いから聞きましょうか? 一応言っておきますけど、私が面倒だと思った事は、遠慮無くお断りさせて頂きますからね」


「うん。分かってる。あのねー、御前試合の実況、お願いできないかなーって。せっかくなら、可愛い子に実況してもらいたいなーなんて」


 実況って……。そんなものが必要なのか? 格闘技の試合みたいだ。


「それ、必要ですか?」


「必要だよ! 血沸き肉躍る御前試合! それを盛り上げる役がいなくてどうするの! つまんないじゃないか!」


「そ、そうですか……」


 拳を握り、力説するブロイエさんを見て、脱力感が襲った。御前試合って、つまるつまらないって問題なの? さっき、序列決めるとか何とか言ってなかった? もっと、こう、神聖な試合とかじゃないの? 異世界の御前試合、よく分からん。


「私、やりたいッ!」


 アイリスが唐突に叫び、はいと手を上げた。爛々と輝く瞳でブロイエさんを見つめている。ラインヴァイスが出る事になったから、俄然興味が湧いたみたいだ。私は面倒事は引き受けるつもりは無いし、ここはアイリスに任せよう。私が笑みを浮かべながら小さく頷くと、アイリスがニパッと満面の笑みで頷き返した。くぅ! 笑顔が眩しい!


「じゃあ、実況はアイリスに任せるからね! 当日、頑張って盛り上げてよー!」


 ブロイエさんは満足そうに頷くと、グッと親指を上げた。アイリスも笑顔で親指を上げ、それに答える。この二人、何だかんだで仲良しだよなぁ。あんまり接点は無いはずなんだけど。いつの間に仲良くなったんだろう……? 不思議だ。


「じゃあ、お願いはこれで良いとして。相談って? 何です?」


「うん。優勝者への褒美なんだけど、何が良いと思う? 案が欲しいんだー」


「褒美? そんなの、地位じゃ駄目なんですか? 序列、決めるんですよね?」


「もっと、こう、やる気が出るような褒美が無いとなぁって。盛り上がらないじゃない?」


「はあ」


「だからね、皆にやる気が出る物を聞いて回っているんだー!」


 やる気が出る物ねぇ……。優勝賞品って事かぁ。みんな、何が出たら喜ぶんだろう。全く想像がつかない。


「因みに、どんな案が出てるんですか?」


「一番多いのはー……」


 ブロイエさんがメモらしき紙切れを懐から取り出し、難しい顔でそれを眺めていた。色んな人に聞いて回って、一個一個ちゃんとメモしているのか。マメな人だ。


「奥さん、かなー?」


「は?」


 ブロイエさんの答えを聞き、私の目が点になった。奥さんが優勝賞品とか、みんなどんな感性してんのよ! おかしいでしょ! そんなの、奥さんじゃなくて奴隷だよ!


「気持ちは痛いほど分かるんだけどねー。流石にそれは無理だからさー」


「で、でしょうね……」


 苦笑しているブロイエさんに、私も苦笑を返した。この人は無難な感性をしているらしい。良かった。まあ、宰相まで感性がおかしかったら、この国がおしまいになってしまうし、普通の感性を持っているのは当たり前、か……。


「アオイさんの世界でも、きっとこういう試合あったでしょ? どういう褒美が出るのー?」


「私の世界で、ねぇ……」


 私は腕を組んで首を捻った。優勝賞品で一般的なのは金一封か? あとは――。


「そうだ! 旅行なんてどうでしょう?」


「りょこう?」


 私の答えに、ブロイエさんが不思議そうに首を傾げた。この世界では旅行は一般的ではないらしい。何でだろう? 楽しいのに。


「そうです。私の世界だと、遠くに行けるっていうの、結構多かったんですよね」


「ええっと……。旅に出されるの? どうして?」


「どうしてって……。楽しいじゃないですか」


「楽しいの? 辛いんじゃなくて?」


 ブロイエさんの言葉に、今度は私が首を傾げた。旅って辛いものなの? 楽しいものじゃないの?


「辛いって……。何でですか?」


「だってさ、転移魔術が使えなかったら隣町まで歩いて行くんだよ? 着くまでに魔物にも遭うだろうし、距離があれば野宿だし。辛くない? そういうのが逆に人気だったの?」


 ああ、そっか。この世界は魔物が出る上に、車とか電車とか飛行機とか、そういう便利な物は無いんだった。魔物が出る中、徒歩移動で時に野宿か……。確かに辛い。これでは旅行じゃなく、修行になってしまう。


「た、確かに。それは辛いですね」


 私は苦笑し、こくりと頷いた。だいぶ慣れたと思っていた異世界での生活も、こういうところで感性の違いが出てしまう。


「アオイさんの世界では楽しいものだったんだよね? 何で?」


「何でって……。歩いて長距離移動なんて、ほとんどしないですもん」


「え? 何で? 何で? アオイさんの世界って、魔術が無いんだよね? なのに、どういう事? そこの所、詳しく教えて!」


 ブロイエさんが興味津々といった様子で、私の方に身を乗り出して来た。ち、近い、近い! 私とブロイエさんを見るローザさんの眉が、ピクリと僅かに動く。ブロイエさん。ローザさんが不機嫌そうに眉を顰めているから、少し離れて下さいな。私は、ブロイエさんから身を引くように座り直した。


「詳しくって……。車とか電車とか飛行機とか、便利な乗り物がたくさんありましたから」


「乗り物? 荷馬車みたいな物?」


「まあ、そうですね」


 私はこくりと頷いた。この世界、乗り物といえば荷馬車なのか。御伽噺に出て来るような馬車ではないみたいだけど、一応馬車があるのか。この城から遠出なんてした事が無いから知らなかった。


 荷馬車って言うくらいだし、あれか! ドナドナ! 荷台を引く馬はユニコーンなのかな? ちょっと乗ってみたいかも……。藁に囲まれて荷馬車に揺られてみたい。


「そっか。荷台を豪華に、いや、いっそ空間操作して――。良いかもしれない! アオイさん、ありがとう!」


 ブロイエさんはそう言うと、満面の笑みで私の手を握った。あ! ローザさんの眉間に深い皺が! 不味い! ヒジョーに不味い!


「い、いえいえ。どう致しまして。あの、手……」


 私は引きつった笑みを浮かべながら手を引っ込めようとした。早く手を離してもらわないと! ローザさんが不機嫌そうだし! しかし、ブロイエさんは引きつり笑顔で手を引っ込めようとする私や、不機嫌そうに眉を顰めているローザさんなどどこ吹く風で、ご機嫌そうに私の手を握り締めている。


「どこが良いのかなー? やっぱり、綺麗な場所が良いのかなー? せっかく仕事休めるなら、綺麗な所で心癒されたいよねー?」


 ブロイエさんは上の空。何故、ローザさんが不機嫌な事に気が付かない! 早く手離してよ! 怒られちゃうよ! ほら! ローザさんの顔が般若みたいになってきてるよ! ひぃ~!


「アオイ」


 唐突にシュヴァルツの声が聞こえたかと思うと、私のすぐ後ろにシュヴァルツが姿を現した。んぎゃあ! 今の状況を見られて不味い人がもう一人増えちゃった! 恐る恐る彼の顔色を窺うと、私とブロイエさんを見つめ、眉間に深い皺を寄せている。わたわたと慌てる私を他所に、ブロイエさんは尚も上の空。何かを考えているのか、ブツブツと呟いている。ひぃ! シュヴァルツからどす黒い不機嫌オーラが! ど、どど、どうしよう!


 シュヴァルツは無言で私達の方へ手を伸ばしたかと思うと、ブロイエさんの手首を掴んだ。そして、私の手からブロイエさんの手をひっぺがす。


「あ、シュヴァルツ。お邪魔してるよー?」


 あ、シュヴァルツ。じゃないだろう! 何、この人! シュヴァルツがこんだけ不機嫌オーラ出してるのに、何で全く気にしてないの? ローザさんもあんなに不機嫌そうにしてるのに! ブロイエさん、危機感足りなすぎ! そんなんで、宰相として大丈夫なの?


「今ねー、アオイさんに御前試合の賞品案、貰ったんだー! 結構良い案でね――」


「そうか。用が済んだら出て行け」


「分かったー。あ! ローザさんも一緒に帰って良いかなー?」


 ブロイエさんはそう言うと、ソファから立ち上がった。何、このゴーイングマイウェイ振り。マイペースすぎるでしょ、この人! 宰相がこんなで、この国大丈夫か? ちょっと心配になってきた。


「好きにしろ」


 シュヴァルツはそう答えると、ブロイエさんと入れ替わるように私の隣に陣取った。そして、脱力したように額に手を当て、溜め息を吐く。もしかして、シュヴァルツってば、ローザさんだけじゃなく、ブロイエさんも苦手なんじゃ……。自分のペース崩されるもんね。疲れるよね。ほんのちょこっとだけ分かるよ、その気持ち。


「じゃあ、ローザさん。帰ろっか?」


 ブロイエさんが満面の笑みでローザさんに手を差し出すと、ローザさんはその手を思いきり叩き落とし、隣に座っているアイリスの手を取った。ブロイエさんは自身の手とローザさんの顔を、キョトンとした表情で交互に見比べている。何故、ローザさんがこんな行動をしたのか、全く心当たりがありませんって顔だ。本当に危機感が無い。こんなんじゃ、ローザさんに愛想尽かされちゃうよ?


「私、アイリスちゃんと一緒に帰ります! アナタはお一人で先にお帰り下さいっ!」


 まあ、そうなるわな……。鼻息荒く扉へ向かうローザさんと、彼女に連行されるアイリスを見て、私は苦笑を漏らした。あ。アイリスが私に向かって助けを求める目をしている。夫婦喧嘩に巻き込まれて災難だね、アイリスも。頑張れ、アイリス。負けるな、アイリス! 私の代わりに仲裁、お願いね~!

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