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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第三章

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模擬戦 2

 私はリーラの全身鎧に身を包み、来る日も来る日も剣を振り続けた。暑かろうが雨が降ろうが、毎日欠かさずだ。でも、だんだん飽きてくるのが人の性。強くなっている実感も無いし、少し飽きたかも。


「ねえ、シュヴァルツ。私、いつまで、これ、続けないといけないの?」


 私は素振りをしつつ、一緒に素振りをするシュヴァルツへと問い掛けた。最初こそ、私の素振りを見るだけだったシュヴァルツだが、いつの間にか一緒に剣を振るようになっていた。今日も暑い中、せっせと二人で素振りに精を出している。


 最近、暑い日が続いているから、シュヴァルツは上着を脱いで素振りをしている。少しラフな格好をするシュヴァルツには、何とも言えない色香があった。薄着は止めて欲しい。ついつい、視線がシュヴァルツにいってしまう。


「飽きた、か」


「うん。まあ」


 素振りを続けながらそう問い掛けるシュヴァルツに、私も手を休めずに答える。素振りを始めたばかりの頃は、息も絶え絶えで、こうして会話する余裕なんて無かった。しかし、この一ヶ月あまりで体力と筋力がだいぶ付いたのだろう。素振りをしながらでも、普通に会話が出来るようになった。素振り千回なんて余裕だ。……これも勇者補正?


「ならば、少し手合せでもしてみるか」


「うん!」


 私はシュヴァルツの提案に一も二も無く飛びついた。退屈な素振りとはもうおさらばだ! 待ちに待った実戦訓練! シュヴァルツに契約印の恨みを晴らすチャンス到来! ワクワクする!


「やけに嬉しそうだな」


「うん! だって、やっと訓練って感じなんだもん」


「そうか」


 頷くシュヴァルツの目が細められる。いつもより少し柔らかい表情で笑うシュヴァルツ。そうして笑っていられるのも今のうちなんだから! ボコボコにしてやるから覚悟しておけよ、シュヴァルツ!


 シュヴァルツの足元に黒い魔法陣が浮かび、彼の全身が鎧に包まれた。初めて見るシュヴァルツの鎧姿だ。漆黒の鎧からは、得も言われぬ不穏なオーラが漂ってくる。私の左手中指に嵌っている契約印の魔力結晶から漂ってくる気配に近い。もしかしたら、これがシュヴァルツの魔力の気配なのかもしれない。


 私が剣を構えると、シュヴァルツも手にしていた剣を構えた。お互いに訓練用に刃を潰してある剣だし、鎧も付けている。手加減無用! 覚悟、シュヴァルツ!


 私は一直線にシュヴァルツへ向かうと、手にしている剣を振り下ろした。体重が乗った一撃だ。契約印の恨み、身をもって味わえ!


 切っ先がシュヴァルツに当たる直前、彼は一歩横へ動いた。私の剣が虚しく空を切る。あ、あれ? 次の攻撃へ移ろうとした瞬間、私の剣の腹が、シュヴァルツの剣に叩かれた。私は堪らず剣を取り落し、あっさりと勝負が付いてしまった。


「剣を取れ、アオイ」


「う、うん」


 私は剣を拾い上げると、再びシュヴァルツと対峙した。そして、一気にシュヴァルツとの間合いを詰めると、掬い上げるように剣を振るう。さっきとは違い、死角から放たれる一撃だ。避けにくいはず。と思ったけど、簡単に剣で受け止められてしまった。しかも、シュヴァルツは片手で剣を握っている。


 素振りの時、シュヴァルツは両手で剣を持っていたから、普段は両手持ちで剣を振るうのだろう。にもかかわらず、片手持ち……。私との訓練では力の差があり過ぎて、両手で持つ価値も無いって事か? むっかぁ~! 剣を引き、薙ぐように剣を振るうと、またしてもあっさりと受け止められてしまった。立て続けに剣を打ち下ろすも、全て簡単にあしらわれてしまう。く、悔しい! 剣を大きく振りかぶり、思いきり体重を乗せて打ち下ろす。鋭い金属音と飛び散る火花。片手のシュヴァルツなんかに押し負けて堪るかぁ! 私は思いきり腕に力を入れた。んぎぎぎぎ! 歯を食いしばる私を他所に、シュヴァルツは口元を笑みの形に歪めた。


 ん? 何だ? と思った瞬間、シュヴァルツの剣先がくるりと円を描くように動いた。私の剣に掛かっていた圧が消え、手から剣が離れる。な、何が起こった? カランという乾いた音を立てて地面に転がる剣を見つめ、私は呆然と立ち尽くした。どういう原理かは分からないが、シュヴァルツがちょっとした剣の動きで私の剣を絡め取ったのだろう。まさか、ここまで力量差があるとは……。恐るべし、大魔王!


 私は四つん這いになって、ガックリと項垂れた。そりゃ、シュヴァルツは大魔王だし、弱いとは思っていなかったさ。でも、少しくらいは勝機があるって、そう思っていたのに。ここまで簡単にあしらわれてしまうとは思っていなかった。契約印の恨み、晴らせる日は来るのだろうか……。しくしくしく……。


「筋は悪くない」


「ホ、ホント?」


「ああ」


 ぼろ負けしたのに褒められちゃった。へへへっ。顔を上げて笑みを浮かべると、それを見たシュヴァルツがニヤリと笑った。


「だが、攻撃が直線的で単調過ぎる。アオイの性格そのものといった太刀筋だった」


 攻撃が直線的で単調、か……。確かに、猪突猛進に突っ込んでいった気がする。読みやすい攻撃だったって事か。ふむふむ……。ん? 待てよ。私の性格、そのもの? はっ!


「ちょ、ちょっと! それ、私が単純って事?」


「どうだろうな。くくく……」


「ひ、ひどい!」


 シュヴァルツのあの笑い方、やっぱり私が単純って言いたいらしい。悔しい! 悔しい、悔しいぃぃぃ! むくれる私に、シュヴァルツが剣を拾って手渡してくれる。


「冗談だ。続きをするぞ」


「うん」


 私は頷くと、シュヴァルツから剣を受け取り、立ち上がった。そして、剣を構える。シュヴァルツのような技術は未だ無いけれど、私は私の持てる力でシュヴァルツを叩きのめす! そう心に誓い、私はシュヴァルツに向かっていった。




 この日から、私とシュヴァルツの模擬戦が始まった。初めのうちは、観客はローザさん、多くてもアイリスとラインヴァイス、ブロイエさんくらいなものだったのに、いつの間にか他の人達も見に来るようになった。


 午後は何故か城中がお祭り騒ぎだ。私がシュヴァルツに勝てるかどうか、賭けをしている不届き者もいるらしい。まあ、それは良いんだけどさ。いつの間にか城の名物イベントになったらしく、今日もかなりの人数が見に来ている。みんな、仕事しようよ……。


 大歓声を背に、私は今日も剣を構え、シュヴァルツに向かって剣を振り下ろす。私の攻撃がシュヴァルツに防がれる度に、落胆の声が上がる。みんな、何だかんだで私を応援してくれているらしい。それは素直に嬉しい。嬉しいんだけど、シュヴァルツが剣を振り下ろすと大ブーイングするの止めて! シュヴァルツ、王様のはずなんだけど。王様を応援するどころか、大ブーイングするって、この国、大丈夫か? ちょっと心配になってくる。シュヴァルツ、人望無いの?


 最近、契約印の事とかどうでも良くなるくらい、シュヴァルツが気の毒になってきた。誰か! 彼の応援してあげてッ! そう内心叫びつつ、シュヴァルツへ剣を振り下ろす。それをシュヴァルツが紙一重で躱した瞬間、方々から落胆の声が上がった。ラインヴァイスまで落胆の表情をしている。実の弟にまで応援してもらえないなんて……。どこかにシュヴァルツの味方はいませんかぁ! 誰か一人でも良いから、彼の応援、してあげてよぉ!

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