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転移先が大魔王城ってどういう事よ?  作者: ゆきんこ
第三章

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意志 2

 その夜、私はベッドに寝転がりながらボーっと天蓋を見つめていた。既にアイリスもローザさんも部屋に帰った後で、シンと静まり返った真っ暗な室内に私の溜め息が響く。


 右も左も分からない異世界で、何不自由なく生活出来ているのはシュヴァルツのお蔭だ。それに、シュヴァルツは私をとても大切にしてくれている。もし、私がシュヴァルツを殺してでも元の世界に帰りたいって言ったら、彼は本当に抵抗せずに私に殺されるだろう。今日、図書館でシュヴァルツに言われた事は、きっと彼の偽らざる本心だ。いつでも私の事を第一に考えてくれているから。私の幸せを願ってくれているから。私の幸せの為だったら、何だって――それこそ、自分の命でさえも私にくれるつもりでいるんだ……。


 でも、私にシュヴァルツは殺せない。だって、シュヴァルツが私を大切に想ってくれている事が分かっているから。それに、私だって――。いつからだろう? こんな気持ちになったの……。


――眠れないの?


 リーラの声が私の頭に響く。リーラは私の気持ち、分かるのかな?


――うん。分かるよ。私とアオイは一心同体だから。契約したばっかりの頃のアオイは、とっても寂しそうにしてたね。


 寂しい……。確かに、あの頃は寂しかった。元の世界に戻りたいって、毎日のように思っていた。でも、いつの間にか、それを考える時間が減っていった気がする。


――そうだね。色んな人と知り合ったり、シュヴァルツ兄様の事を理解したりするうちに、寂しいよりも楽しいとか嬉しいとか、そういう感情が私に流れ込んでくる事が多くなったかな? でもね、それと共にアオイの葛藤が流れ込む事も多くなった。


 私、元の世界に戻りたい。その気持ちは今も変わってないの。でもね、私が元の世界に戻ったら、寂しいって、悲しいって、そう思う人もいる。それを考えると、元の世界に戻る方法が見つかった時、どちらも選べないんじゃないかなって、そう思うんだ……。


――元の世界にアオイの居場所があるのと同じように、こっちの世界にもアオイの居場所があるからね。


 ああ~! いっその事、元の世界とこっちの世界の行き来が出来たら良いのに!


――それは無理だよ。アオイのいた世界に魔術があるならいざ知らず。無いんでしょ?


 無い。やっぱり無理かぁ。世の中そんなに甘くないってか……。はあぁぁ……。


――私としてはね、アオイにはこっちの世界を選んでもらいたいなって、そう思ってるの。


 それは、私がリーラと契約しているから? また契約者がいなくなっちゃうから?


――それもある。けど、契約者ならアオイの世話をしている赤毛の子でもなれそうだから。今すぐにって訳にはいかなそうだけど。この世界を選んでもらいたい一番の理由はね、シュヴァルツ兄様なの。


 シュヴァルツ? 何で? 私がいなくなっても、シュヴァルツには新しい人を見つけてもらって――。


――それは今更無理かなぁ。シュヴァルツ兄様、アオイの事、本気で愛しているし。


 あ、愛……。改めて言われると恥ずかしい……。それよりも、何で今更無理なの?


――魔人族の多くがね、一生に一人の人しか愛せないから。


 え? 何それ。初耳なんですが……。どういう精神構造してんのよ!


――一途な生き物なんだよねぇ。人族みたいに、他の人に目移りなんてしないの。良いなぁって思う人がいて、その人から好意が返って来たらどんどんのめり込んでいっちゃうんだよ。ごうこんの時、フォーゲルシメーレ見てて気が付かなかった?


 ああ、確かに……。リリー以外眼中にありませんって感じだったね。見てるこっちが恥ずかしくなるくらい一途だった。


――でしょ? まあ、例外の部族はいるけどね。


 ふーん。そういうものなんだ。ドラゴン族はその例外には当てはまらないって事? ずっと同じ人を愛し続けるの?


――うん。だからね、アオイが元の世界に帰っちゃったら、シュヴァルツ兄様、一生独身なんだろうなって……。アオイへの想いを一生抱えて生きていくんだろうなって……。


 そっか……。私が元の世界に戻ったら、シュヴァルツは私がいなくなった穴を一生抱えて生きていくのか……。他の人で埋める事も出来ずに……。ああ~! それ聞いたら、余計、どっちかの世界なんて選べない!


――ごめん。アオイを苦しめたい訳じゃないの。ただ、アオイもシュヴァルツ兄様の事、大切に想ってくれているから、知ってもらいたかっただけなの……。


 うん。分かってるよ、リーラ。教えてくれてありがとう。きっと、私はどっちの世界を選んでも後悔するんだと思う。だって、どっちを選んでも、大切な人に寂しい思いをさせてしまうから。やっぱり、元の世界とこっちの世界を自由に行き来したい! そしたらさ、みんな幸せになれると思わない?


――ふふふ。その発想、アオイらしいよね。確かに、行き来出来るようになれば、みんな幸せになれるのにね。


 でしょ? あ! そうだ! 空間操作術と召喚術辺りを組み合わせて、どうにか出来ないかな?


――う~ん……。異世界を繋ぐ扉を作るって事、だよね? 魔術研究としては面白いかもね。ブロイエ叔父様辺りなら、喜んで研究しそう。


 ああ。そう言えば、ブロイエさんって空間操作術師だっけ? シュヴァルツがそんな事、言ってたような……。


――そ。この国一番の空間操作術師だよ! 私達兄妹のお師匠様でもある、凄い人なんだから!


 ほぉ~! 師匠! そうだったんだ。あ。もしかして、シュヴァルツがローザさんに弱いのって、小さい頃を知られているからとか?


――違うよ。普通に苦手なんだと思う。だって、ブロイエ叔父様が奥方様と結婚したの、私が死んだ後だもん。私が生きていた頃は、叔父様、まだ独身だった。


 あ、そっか。ローザさん、まだ三十代っぽいし、長く見積もっても、結婚してから二十年くらいか……。リーラは、数代前のメーアの時に殺されたんだし、死んでから二十年じゃきかないか。


――ん? 結婚してから二十年……? その計算、何か変だよ?


 え? 何で? ローザさんの見た目年齢から結婚したくらいの年齢引いたら――。


――奥方様の年齢、見た目通りなの? アオイ、年齢聞いたの?


 へ? だって、ローザさん、人族じゃないの? どんなに若作りしても、あの見た目で四十代とか五十代とかって事は……。


――分からないよ? あの奥方様だって、契約印持ってたじゃない。叔父様の魔力貰っているって考えると、人族と同じようには年取らないんじゃないの?


 ん? 契約印って、そんな効力あるの? 知らなかった。


――え? 魔人族の魔力を貰うと、年取らなくなるの、シュヴァルツ兄様から聞いてないの?


 き、聞いてない。もしかして、私、年取らない身体になってるの……?


――うそ! ほ、本当に、何も聞いてないの?


 だ、だって! この契約印、半強制的に嵌められたし! 目印だって、そう言われただけだったし! 私の恐怖を読み取って、シュヴァルツが現れるくらいにしか思ってなかったし! 誰も、そんな、年取らなくなるなんて事、教えてくれなかったし!


――えっと……。じゃ、じゃあ、色々な意味があるのは……?


 全然知らない! 何も聞いてない!


――私、説明した方が良い、よね……?


 説明して!


――ええっと、契約印そのものの意味は、所有契約を表すのは知ってるのかな? この契約自体が呪術の一種なんだ。契約すると、感情の機微とか大まかな居場所とかが、効果範囲内でって制限はあるけど、術者に隠せなくなるの。大昔、それこそこの術が出来たばかりの頃は、奴隷契約だったんじゃないかって、そういう研究結果もあるんだ。まあ、それは良いとして、この呪術を受けると、副作用として寿命が術者の寿命に影響されるようになる事があるの。


 それは、死ぬ時が一緒になるって事? だから年取らないの?


――う~ん……。ちょっとニュアンスが違うと思う。術者と流れる時が一緒になるの。アオイの場合だったら、シュヴァルツ兄様と同じ時を生きられるようになるって事。だから、完全に年を取らない訳じゃないんだ。ゆっくり年を取っていくの。長生きの部族同士なら副作用自体が起こらないらしいんだけどね。で、術者が死んだり、契約破棄されたりすると術自体は解けるんだ。でもね、この術が解けた段階で、一気に肉体の年齢が経過するの。術をかけられてから年月が経ちすぎていると、場合によっては死んじゃう事もあるって事ね。


 ほうほう……。二十歳の私が、百年後に何かのきっかけで術が解けると、百二十歳になって老衰で死ぬって事? 合ってる?


――そういう事だね。メリットもあるしデメリットもあるから、普通は結婚初夜に一通り説明して、同意の上で契約するんだ。一生を掛けて守るので、一生側にいて下さいってね。


 ふ~ん。ロマンチックな呪術なんだね。……ん? 待てよ……。初夜?


――うん。初夜。


 初夜って、あの初夜?


――そう。その初夜。つまり、契約印を持っているって事は、実質的な夫婦関係にあるって事で、肉体関係も――。


 ちょ、ちょっと待てえぇぇぇ! って事は、私、シュヴァルツと夫婦だって、みんなにそう思われてるの?


――夫婦と言うか、何と言うか……。少なくとも、肉体関係はあるんだろうなって、そう思われていても不思議はないかなぁ? 私も、アオイと契約する時はそう思ってたし。でも。普段の二人を見ていたら、ああ、まだなんだなってすぐに分かるけど。


 何てこった……。契約印にそんな意味があったなんて……! クソッ! シュヴァルツめ! 何て物を説明無しに嵌めてくれたんだ! 明日、葵ちゃん印のハリセンで叩きのめしてやる!


――いやいやいや。普通に返り討ちに遭うだけでしょ。その憂さ、剣術稽古で晴らしたら? シュヴァルツ兄様が剣も教えてくれるんでしょ?


 うん。今日は闇属性と光属性の魔道書見たすぐ後に、シュヴァルツがブロイエさんに呼び出されたせいで、明日からになっちゃったけど……。確かに絶好のチャンスかもしれない。よし! 絶対に剣で叩きのめしてやる! 覚えてろよ、シュヴァルツ! ギタギタのボロボロにしてやるからな! そうと決まれば早く寝なければ! お休み、リーラ!


――は~い。お休み、アオイ。良い夢を。

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